2017.03.22
左派親北政権の誕生が現実味を帯びる韓国で、再び「核武装論」が勢いを増している。反米・対北融和派の韓国最大野党「共に民主党」の前代表・文在寅(ムンジェイン)氏が新たな韓国大統領になれば、「(北の同胞は)同じ民族としてよく頑張っている」として、大胆に北朝鮮に接近するのは間違いない。
そして文在寅氏と金正恩委員長が手を握り、平和的な南北統一、「統一コリア」への流れができる。その時、韓国は核を放棄するのか。答えは否だ。拓殖大学大学院特任教授の武貞秀士氏がレポートする。
**************************************************************************
国際社会にはひた隠しにしてきたが、核保有は紛れもなく韓国の悲願である。これまでの経緯を見れば、韓国人の胸の内は明らかだ。
1969年に就任した米国のニクソン大統領は、トランプ大統領と同様に東アジアからの撤退方針を打ち出した。突然の“ニクソン・ドクトリン”に震えた朴槿恵氏の父・朴正煕大統領は自主防衛の道を探り、1972年に核開発の検討を指示。
米国は不穏な動きを見せる韓国に圧力をかけ、1975年に核拡散防止条約(NPT)を批准させたが、朴正煕氏の暗殺後、後継の全斗煥大統領も秘密裏に核開発を推進。1982年にプルトニウムを抽出している。この情報を得たレーガン大統領は訪韓時、全大統領にプルトニウム抽出の中止を求めた。
また、2004年のIAEA(国際原子力機関)調査では、韓国が2000年にウラン濃縮実験を進めていたことが発覚。2017年までIAEAの監視下に置かれることとなった。当時、金泳三元大統領は毎日新聞の取材に「時の大統領が(核関連)実験の事実を知らないはずがない」と発言している。
韓国は最近もSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載する3000t級の潜水艦製造に意欲を見せている。SLBMは核弾頭を搭載しなければ意味がない。
一連の動きは、韓国が国家戦略として一貫して核兵器の開発を目指してきたことを示す。韓国は実は粛々と国家目標を立て、戦略的に外交を行う国だ。世界は彼らの核武装への願望を過小評価している。では、なぜ韓国は執拗に核を求めるのか。主な要因は地政学的な条件だ。
国境を接する北朝鮮の核の脅威、“歴史を反省せず虎視眈々と韓国の再侵略を目指す”敵国・日本、今なお不気味な存在のロシア、そして核超大国の中国……。こうした周辺の大国と対峙するには自前の核を持つしかないと彼らは考える。そして、イージス艦や潜水艦などの技術供与を拒み、在韓米軍の削減すらチラつかせる米国は、同盟国でありながらも決して信頼できるパートナーではない。
これが韓国の基本的な考え方だからだ。この国防上の戦略に加え、“究極の武器”を持ちたいという韓国の自負心も核開発構想を後押している。では、実際に韓国が核を入手すると何が起こるのか。
米国は猛反発し、経済制裁などあらゆる脅しで核保有断念を迫るだろうが、赤く染まった統一コリアが中国に接近することは明白だ。大きな後ろ盾を得た文在寅氏と金正恩委員長は米国の干渉を撥ねつけ、決して核を手放さないだろう。
統一コリア内で南北のどちらが主導権を握るかは統一までの過程にもよるが、北朝鮮主導で統一が成されれば、外資などを誘致するために米国や日本との関係改善を重視する可能性がある。一方、慰安婦像の増設をしてきた韓国が統一すれば、日本の歴史認識をただすことに熱心な国家になる可能性が高い。
いずれにせよ、核付きの朝鮮半島と中国が手を組めば、日本にとって相当な脅威となることは間違いない。
そのとき、日本はまず、価値観をともにする米国との関係強化が必須である。その上で「国益を主張する日本」を鮮明にした外交が必要となる。
たとえば、「非核三原則の遵守」を前面に押し出す必要はない。実際に核開発をせずとも、非核三原則を口にしなくなるだけで国際社会は「日本が核武装するかもしれない」と疑心暗鬼になり、抑止力になる。軍事費は不要だ。
実現に長い時間がかかる核開発は現実的な選択肢ではない。むしろ通常兵器を強化すべきだ。空対地ミサイルや巡航ミサイル、弾道ミサイルの新規開発、空中給油機、情報収集衛星の増強など、使える兵器の強化を図るべきだ。
朝鮮半島の核保有という「悪夢」の到来を前に、日本がなすべきことは多い。
●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。
■取材・構成/池田道大(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年4月号
左派親北政権の誕生が現実味を帯びる韓国で、再び「核武装論」が勢いを増している。反米・対北融和派の韓国最大野党「共に民主党」の前代表・文在寅(ムンジェイン)氏が新たな韓国大統領になれば、「(北の同胞は)同じ民族としてよく頑張っている」として、大胆に北朝鮮に接近するのは間違いない。
そして文在寅氏と金正恩委員長が手を握り、平和的な南北統一、「統一コリア」への流れができる。その時、韓国は核を放棄するのか。答えは否だ。拓殖大学大学院特任教授の武貞秀士氏がレポートする。
**************************************************************************
国際社会にはひた隠しにしてきたが、核保有は紛れもなく韓国の悲願である。これまでの経緯を見れば、韓国人の胸の内は明らかだ。
1969年に就任した米国のニクソン大統領は、トランプ大統領と同様に東アジアからの撤退方針を打ち出した。突然の“ニクソン・ドクトリン”に震えた朴槿恵氏の父・朴正煕大統領は自主防衛の道を探り、1972年に核開発の検討を指示。
米国は不穏な動きを見せる韓国に圧力をかけ、1975年に核拡散防止条約(NPT)を批准させたが、朴正煕氏の暗殺後、後継の全斗煥大統領も秘密裏に核開発を推進。1982年にプルトニウムを抽出している。この情報を得たレーガン大統領は訪韓時、全大統領にプルトニウム抽出の中止を求めた。
また、2004年のIAEA(国際原子力機関)調査では、韓国が2000年にウラン濃縮実験を進めていたことが発覚。2017年までIAEAの監視下に置かれることとなった。当時、金泳三元大統領は毎日新聞の取材に「時の大統領が(核関連)実験の事実を知らないはずがない」と発言している。
韓国は最近もSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載する3000t級の潜水艦製造に意欲を見せている。SLBMは核弾頭を搭載しなければ意味がない。
一連の動きは、韓国が国家戦略として一貫して核兵器の開発を目指してきたことを示す。韓国は実は粛々と国家目標を立て、戦略的に外交を行う国だ。世界は彼らの核武装への願望を過小評価している。では、なぜ韓国は執拗に核を求めるのか。主な要因は地政学的な条件だ。
国境を接する北朝鮮の核の脅威、“歴史を反省せず虎視眈々と韓国の再侵略を目指す”敵国・日本、今なお不気味な存在のロシア、そして核超大国の中国……。こうした周辺の大国と対峙するには自前の核を持つしかないと彼らは考える。そして、イージス艦や潜水艦などの技術供与を拒み、在韓米軍の削減すらチラつかせる米国は、同盟国でありながらも決して信頼できるパートナーではない。
これが韓国の基本的な考え方だからだ。この国防上の戦略に加え、“究極の武器”を持ちたいという韓国の自負心も核開発構想を後押している。では、実際に韓国が核を入手すると何が起こるのか。
米国は猛反発し、経済制裁などあらゆる脅しで核保有断念を迫るだろうが、赤く染まった統一コリアが中国に接近することは明白だ。大きな後ろ盾を得た文在寅氏と金正恩委員長は米国の干渉を撥ねつけ、決して核を手放さないだろう。
統一コリア内で南北のどちらが主導権を握るかは統一までの過程にもよるが、北朝鮮主導で統一が成されれば、外資などを誘致するために米国や日本との関係改善を重視する可能性がある。一方、慰安婦像の増設をしてきた韓国が統一すれば、日本の歴史認識をただすことに熱心な国家になる可能性が高い。
いずれにせよ、核付きの朝鮮半島と中国が手を組めば、日本にとって相当な脅威となることは間違いない。
そのとき、日本はまず、価値観をともにする米国との関係強化が必須である。その上で「国益を主張する日本」を鮮明にした外交が必要となる。
たとえば、「非核三原則の遵守」を前面に押し出す必要はない。実際に核開発をせずとも、非核三原則を口にしなくなるだけで国際社会は「日本が核武装するかもしれない」と疑心暗鬼になり、抑止力になる。軍事費は不要だ。
実現に長い時間がかかる核開発は現実的な選択肢ではない。むしろ通常兵器を強化すべきだ。空対地ミサイルや巡航ミサイル、弾道ミサイルの新規開発、空中給油機、情報収集衛星の増強など、使える兵器の強化を図るべきだ。
朝鮮半島の核保有という「悪夢」の到来を前に、日本がなすべきことは多い。
●たけさだ・ひでし/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所(旧・防衛庁防衛研修所)に教官として36年間勤務。その間、韓国延世大学に語学留学。米・スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学国際関係学部客員教授を歴任。2011年、防衛研究所統括研究官を最後に防衛省を退職。その後、韓国延世大学国際学部教授等を経て現職。主著に『東アジア動乱』(角川学芸出版刊)、『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所刊)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP研究所刊)などがある。
■取材・構成/池田道大(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年4月号
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます