東アジア歴史文化研究会

日本人の素晴らしい伝統と文化を再発見しよう
歴史の書き換えはすでに始まっている

『米中ソに翻弄されたアジア史 カンボジアで考えた日本の対アジア戦略』江崎道朗、福島香織、宮脇淳子(扶桑社) カンボジアを旅行した三人が別々の角度から分析 タイ、ミャンマー、ベトナムで何が

2020-09-30 | おすすめの本・映画

気鋭の三人に版元の女性編集者とフリーライター、合計五人のカンボジア珍道中。だが、歴史と政治的考察が前面出でて観光気分は本書には殆どない。

カンボジア観光の定番はアンコールワット、「東洋のモナリザ」、そしてキリングフィールドの現場跡だが、このチームは魔可不可思議なスポットにも足をのばした。団員は女性が三名だから料理への気配りもあり、珍しい写真が多数あるのだが、撮影者の明示がないのも、チームワークの良さからか。

カンボジア、ラオス、ベトナムはフランスの植民地として搾取され続けた。ところが旧宗主国への恨みより、カンボジアはベトナムを憎み、ベトナムはカンボジアやラオスを侮蔑し、そして大国間のご都合主義から緩衝地帯として辛うじて独立を保ったと自慢するタイの、その面妖な心情の裏側を観察する。

いま、この三ヶ国へ忍び寄り、いつの間にか政治的影響力を構築して、共産主義の浸透工作を展開するのが中国である。

なにしろ千年も前から華僑の先祖らは東南アジア各地に深く根を下ろし、子孫を増やし、金融と物流を握ってきたのだ。

その華僑は「どこまで中国人か」という設問も、現代的である。

アセアン十ヶ国と未加盟の東チモールを加えての東南アジアで、何が起こっているのか。日本の大手メディアが表層の動きしか伝えないため、読者はもっと深層に存在する真実を知りたいと思うだろう。

三人はそれぞれ問題意識が異なり、それゆえにものの見方、観察の角度がことなる。

受け持った分野は宮脇女史がアジア歴史全般をダイナミックは筆致で活写し、福島さんは当該国の中国との関係(とくに各地に古くから根付いた華僑の経済支配の実態)、そして江崎さんがカンボジア独立戦争と日本の関わりを振り返るという構成になっている。

シアヌークは戦後、なぜ日本に戦後賠償を請求しなかったのか。それは日本軍人に親切にされた恩だったと江崎氏は秘話を挿入する。

最終章では三人の鼎談が展開され、現在進行中のアジアの政治劇などが闊達に語られる。

本書を通読しながら評者(宮崎)は敢えて、この本がカバーしなかった土地や事柄の補完をするとすれば、まずはカンボジアのシアヌークビルのことである。

美しい海、しずかなリゾートとして、バックパッカーや西洋人に人気のあったシアヌークビルは、いつしか中国資本に経済的に「侵略」されていた。

カジノホテルが50軒、高層マンションがニョキニョキと林立し、あちこちが普請中だから道路がぬかるみ、埃だらけで不潔な町になった。とりわけ重慶マフィアが入り込んで、治安が悪化し、さらにはハッカー拠点、オレオレ詐欺の電話基地にも化け、おそらく三十万人の中国人が棲み着いている。

評者がとまった波止場に近いホテルは、英語名だったのでうっかり予約したが、100%華僑資本、宿泊客は全員が中国人だった。


▼カンボジア周辺の国々でもチャイナ異変

ラオスの中国との国境は新幹線工事中だが、ここもカジノホテル、そして高層マンションの広告を見ると売値が人民元。ラオスの中に中国がある。

ラオスの外貨準備は僅か10億ドル。三年以内に償還期限の来る債務は50億ドル。債務全体は中国の立てたダムや、新幹線プロジェクトなどで合計100億ドル。国の破産は目に見えているが、中国との交渉は担保をめぐる話し合いであり、電力ならびに送電企業をラオスは中国企業の売却せざるを得なくなった。

典型の「債務の罠」である。

ベトナムとて中国と戦争をやって、アンチチャイナ感情が根強い筈なのだが、いまでは中国資本を歓迎し、観光客をもてなし、考えてみればベトナムは一党独裁、執権党のトップは共産主義に染まっている。

ベトナムにはクチというベトコンの地下要塞があって、いまや観光地となっているが、監獄島として悪名高いコンダオ島すらが監獄跡も観光資源に化けた。そしてかの拷問の地が、ベトナム「最後の楽園」を謳うリゾート地となっている。数年前、高山正之氏らと、この島を訪れたが、海水浴客で一杯だった。

激戦地ディエンビエンフーにも行ったことがあるが、戦争博物館を訪れる人は稀で、あの独立戦争は風化していた。

ミャンマーでも、スーチーが西側に制裁され孤立している隙に、やっぱり中国はぬけぬけと入り込んできた。西海岸のチャウピューに大工業団地をつくり、港を近代化すると宣言しているが、評者が取材したときは工事はまだ始まってもいなかった。大看板だけが立っていたが、ここはロヒンギャ居住区だったのだ。 

そうこう考えながら本書を読み終えた。

 

(著者)

江崎道朗(えざき・みちお)

評論家。1962(昭和37)年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフを務めたのち、安全保障、インテリジェンス、近現代史などに幅広い知見を有する。論壇誌への寄稿多数。2019年第20回正論新風賞受賞。著書に、『インテリジェンスと保守自由主義 新型コロナに見る日本の動向』(青林堂)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』(以上PHP新書)、『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ、第1回アパ日本再興大賞受賞)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』(育鵬社)、『言ってはいけない!? 国家論』(渡部悦和氏との共著、扶桑社)など多数。

福島香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト。1967(昭和42)年奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、1991年、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降は月刊誌、週刊誌に寄稿。ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。主な著書に『ウイグル人に何が起きているのか』『中国絶望工場の若者たち』(ともにPHP)、『潜入ルポ 中国の女』(文藝春秋)、『中国複合汚染の正体』(扶桑社) 、『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)、『孔子を捨てた国』(飛鳥新社)、『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス)、『コロナ大戦争でついに自滅する習近平』(徳間書店)、訳書『中国の大プロパガンダ』(何清漣、扶桑社)など多数。月刊誌『Hanada』、WEBニュース『JBプレス』で連載中。ウェブマガジン「福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップス)」毎週月曜発行。Twitter: @kaori0516kaori

宮脇淳子 (みやわき・じゅんこ)

東洋史家。1952(昭和27)年、和歌山県生まれ。京都大学文学部卒、大阪大学大学院博士課程満期退学。博士(学術)。専攻は東洋史。故・岡田英弘(東京外国語大学名誉教授)からモンゴル語・満洲語・シナ史を、山口瑞鳳(東京大学名誉教授)からチベット語・チベット史を学ぶ。東京外国語大学、常磐大学、国士館大学、東京大学などの非常勤講師を歴任。著書に『真実の中国史[1840-1949]』『真実の満洲史[1894-1956]』(ビジネス社)、『モンゴルの歴史』(刀水書房)、『最後の遊牧帝国』(講談社選書メチエ)、『世界史のなかの満洲帝国と日本』『中国・韓国の正体』(ともにWAC)、『満洲国から見た近現代史の真実』『皇帝たちの中国史』(ともに徳間書店)、『世界史のなかの蒙古襲来』(扶桑社)、『日本人が知らない満洲国の真実』『朝鮮半島をめぐる歴史歪曲の舞台裏』(ともに扶桑社新書)、共著に『清朝とは何か』(藤原書店)、『中央ユーラシアの世界』(山川出版社)などがある。


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