羽田空港の衝突事故はJALの乗客乗員全員が奇跡的に助かったが、海上保安庁の飛行機は五人の痛ましい犠牲者をだす惨事となった。
この不慮の飛行機事故で不思議に思ったのは、海保がなぜ羽田空港を利用しているのか、海保専用の飛行場はないのかという初歩的な疑問だった。
海上保安庁って、何故、海上自衛隊と共同して中国の不法船排撃作戦を展開しないのかと不満を抱く国民が多い。というよりは、このお役所に対して、国民の基礎的な知識に乏しい。
本来、海保の役割は海難事故の救援、救助と密輸の取り締まりだった。不審船の監視、排撃(典型は2002年の九州南西海域工作船事件)では、北朝鮮の密輸船(武装していた)を追跡し、警告後、遂に銃撃となって北の船は自爆沈没した。
直後の小泉訪朝で、北の独裁者は、日本に抗議どころか謝罪に近い言葉を注いだ。金正日は一切抗議しなかった。彼も一応「国際法」を知っていたのである。
尖閣周辺に毎日のように現れる中国海警は大型化したうえ、76ミリ機関砲で武装しており、わが海保は40ミリ機関砲だから、もはや太刀打ちできないとされるが、果たしてそうか。
海保とは法の執行機関であり、非軍事組織であり、国境警備が主任務である。
自衛隊装備と互換性がない。「有事には軍事力にならないのは国防上ふさわしくない」との批判が多い。
自衛艦船はガスタービンで駆動する。海保はディーゼルである。
それなりに理由があってそれぞれの仕様に基づく。海難救助では故障船を曳航するし、任務中はスピードをたびたび変速しなければならない。したがって高速、高出力が必要な海上自衛隊の艦船はガスタービン駆動だが、海保は目的がことなるから燃料も違う。そんなこと、評者(宮崎)も知りませんでした。
「中国は、急速な船艇の増強を図り、2014年には82隻まで数を増やして海上保安庁の62隻を逆転。2022年末時点では、日本の巡視船71隻に対して海警局所属の船舶は157隻」と陣容を整えた上、海警、海監、漁政、海関、海巡の五つの組織を、海巡をのぞき新しく「海警局」とした。
さらに国務院隷下から2018年7月に中央軍事委員会所属の武警の隷下に転属させた。これは「政府配下の組織から軍配下の組織」と変質させたことを意味している。 まして中国海警局の規定は国際法に基づかず武器の使用規定を勝手に定めるなど、警戒すべき変化が多いとする。
かくして中国海警はここ数年で操船の腕を格段に上げた。これは尖閣を巡って、先方が日本の海保の操船技術を見習ってのことで、時化になるとさっさと引き上げていた中国がこのところは嵐の日でも尖閣海域に残っているようになった。
だが、「まだまだ海保の力のほうが強い」と著者の元海上保安庁長官は言う。
中国海警はベトナムやフィリピンの沿岸警備隊をおちょくるが、決して日本の海保に手を出さないのは実力を知っているからだと筆者は力説する。
本書には一色正春氏の勇敢な愛国行為について一行の言及もないのが気になった。
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