令和三年三月十七日、札幌地裁は、男と男、或いは女と女の「結婚」を、両性の結婚と同様に扱う訳にはいかないして、その申請を受理しないという「我が国の公序」は「憲法違反」だと、普通の人ならひっくりかえるような、歴史否定の判決を出した。
裁判官らの考え方は欧米を蔽う面妖な思想に汚染されていることは明瞭であり、欧米に蔓延るLGBTQへの阿諛追従である。
GHQが残置していった占領憲法の狭窄的解釈にねじ曲げ、「日本の伝統破壊」という台本が、いまも機能していることを示した。
何が何でも「人権」という美名の下、人間の根源にある価値は棄損された。カルトのような少数者の意見が、多数の伝統的価値観を阻害し、秩序が破壊されている。このままでは日本はトンデモナイ国になりさがってしまうのではないか。
そこで著者の小川栄太郎氏は「全世界の保守主義者よ、団結せよ」と、「思想の力」を問い直すのだ。
「日本のオピニオン・リ─ダーたちは、中間共同体を保持するといふ常識的な知恵を、まるで時代錯誤であるかのように否定し続けた。一方で、財政出動による止めどない福祉国家化が、この共同体殺しに拍車をかけた。その挙句、国債乱発が慢性化し続けている。間もなく人口激減のなかで、税収が怖しい速度で減少し始めれば、わが国に何がおきるか。共同体が荒れ尽くされたあとに、国が個人を救済する余裕を失えば、わが国の個人は、かつてない脆弱さの只中に放置されるに至るであろう」(19p)。
そうした認識は、毎日目撃する現実によってますます深まる一方である。
ならば世界と日本を守る保守主義の思想とは何か?
日本史が明示しているのは、「自民族による適度の保守と変革によるなだらかな展開を示してきたために、あへて保守主義を奉じて防御戦に挑む局面は存在しなかった」と分析する小川は、強い保守の思想が出現するのは外敵に対しての反応だったとして、激烈なナショナリズムが甦生する経緯を考えつつ、次のように言う。
「本質的な意味での保守思想の出現は、西郷隆盛にその嚆矢を見るべきだろう。維新政府が急進的な近代化の路線を選択したとき、最大の功臣であった西郷隆盛はこれに強い懸念を示し、政府から離脱した。西郷の思想は、武士が体現していた同義性への強い愛着と近代功利主義への根深い懐疑と要約できる」(43p)。
西南戦争は、近代化の行き過ぎに対する保守の挑戦でもあったが、西郷軍が敗れたことによって日本の近代化は逆に推進され、保守主義の本義性は、行方不明となったことになる。
ならば保守の基盤とは何か?
それは「広義の文学伝統にある。民族の連綿たる記憶が基になければ、そもそも国民、民族の単位で何かを守る意味がない(中略)。日本では、記紀萬葉以来の文学伝統と天皇伝統が、保守主義の基盤となる」(82p)。
この文学性は特攻隊の遺書にも如実にあらわれているように、現代日本人の多くが、いまも和歌を愛する伝統に繋がっていることを強調している。重厚な思想の産物が本書である。
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私の執筆動機は、危機に瀕する日本を現実にどう救うかに関する、実行可能なヴィジョンとプランを打ち出す事にある。保守主義の概念を思想史上から丹念に跡付ける包括的な研究書はいまだ書かれておらず、それは必須の仕事だが、本書はそれを目的とはしていない。その事を示す為に表題を『「保守主義者」宣言』とし、かつてカール・マルクスによって書かれた『共産党宣言』と、あえて意図して、対に出た。(まえがきより)
【目次】
序 平成日本「失敗の本質」
第一部 「保守主義者」宣言
一 「保守主義者」宣言
二 「保守主義」とは何か
三 戦後日本の保守主義はいかに戦つたか
四 日本の保守主義はいかにして崩壊したか
第二部 国家の危機にどう立ち向かうか――イデオロギー戦から逃げるな
一 安倍政権――その漸進主義の勝利と限界
二 自由の為の国家百年戦争を準備せよ
三 「働き方改革」を廃し、地方創生・デジタル革命・人口政策に集中せよ
四 愛子天皇論といふ「無血革命」
第三部 文化の危機にどう立ち向かふか――保守主義の血脈を継ぐ
一 三島由紀夫 没後五十年の宿題
二 福田恆存の戯曲――政治的言語空間の創造
三 追悼 岡崎久彦――昭和史を「物」にするとは
四 追悼 岡田英弘――歴史は文化である
五 対談 小林秀雄、宣長、源氏、古今…… 石村利勝×小川榮太郎
[付録]日本の保守主義の為の読書案内
小川榮太郎(おがわ・えいたろう)
文藝評論家、一般社団法人日本平和学研究所理事長。昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修了。フジサンケイグループ主催第十八回正論新風賞、アパ財団主催第一回日本再興大賞特別賞受賞。著書に『約束の日 安倍晋三試論』『小林秀雄の後の二十一章』(以上、幻冬舎)、『天皇の平和 九条の平和 安倍時代の論点』(産経新聞出版)、『徹底検証「森友・加計事件」 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)、『一気に読める「戦争」の昭和史』(扶桑社新書)、『平成記』(青林堂)、『新型コロナ』(上久保靖彦京都大学大学院特定教授との対談本、WAC BUNKO)ほか多数。
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