広島の路面電車、広電の江波線の終点、「江波」から歩いてすぐのトコロに江波皿山公園ある。
この公園がある皿山は、昔、江波山とつながった江波島と呼ばれる島だったそうだ。
この江波の皿山に、年老いた孤がいて、夜ごと一軒茶屋あたりに現れては、美人や若衆、役者や馬方に化けて、道行く人を、たぶらかして遊んだという。
人をからかっても、決して苦しめたり、傷つけるようなコトはなかったため、人々は、その”おふざけ”を面白がり、老孤に「おさん」という、おどけた愛称をつけた。
それがおさんぎつねである。
人に化けてイタズラしようとするトコロなのか、口に葉っぱをくわえ、二本足で立っているおさんぎつねの像が、電停前の交差点のトコロに立っている。
昔、能役者がこのあたりを夜、1人で歩いていると、おさんが現れ、いろいろな人に化けて驚かしてきた。
そこで、能役者は持っていた衣装道具を詰めた袋から、能面を出し、それをかぶって応戦。
おさんは驚き、「その袋の中を見せてくれ」とせがんだ。
「仕方がない。じゃあ、中に入ってよう見い」と、能役者は、袋の口を開いた。
おさんが喜んで袋の中に飛び込むと、途端に口を締められ、振り回されて、痛い目にあった・・という話が伝わっている。
これは、「おさんぎつねと能役者」という話だそうだが、他にも、いろいろな化かし合いの話が伝わっているとか。
地元から愛されるキャラクターらしく、おさんの像がある通りにも「おさん通り」という名がつけられている。
目の前には「おさんいなりずし」が売られているお弁当屋さんも・・。
今日も江波に出入りする路面電車を見送っているおさんぎつね。
像の近くにある碑文は、こんな文章で締めくくられている。
「オサンは今どこにいるのか。―オサンはもういたずらは忘れ、かつての活躍の舞台だったこの、ここの路上に立って、なつかしげに皆にあいさつを送っている」