怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

今野 敏「天を測る」

2022-03-18 22:40:14 | 
警察ものとか格闘系ものが多い今野敏さんですが、今回の「天を測る」は異色の歴史もの。

時代は江戸末期、主人公は小野友五郎。
と言われても私は初めて聞く名前。
笠間牧野家と言う小藩の家臣だったのですが、算術の才能を認められて抜擢され、そこから長崎海軍伝習所の一期生となり、咸臨丸の測量方兼運用方として米国迄航海する。一緒に乗り組んだアメリカ海軍士官との測量の比較では正確さで優っていた。
咸臨丸の艦長は勝麟太郎で通辞として福沢諭吉も乗り組んでいるのだが、勝は船酔いで部屋に閉じこもったきりで、福沢は英会話は心もとなく、まともな通訳もできずに自分の本を買い漁っているだけ。二人ともこの物語の中では酷評されていて小野の引き立て役として描写されていて形無しです。
対する小野は実務官僚の典型。その才能は測量術ではアメリカ人を驚かせるほどなのだが、そこから数学の才能の延長線での理系分野で西洋技術を吸収して測量だけでなく造船、砲台建設と八面六臂の活躍をする。
西洋の新しい文化・技術を日本に移転させるには、実務として根付かせる才能が必要だ。江戸末期から明治初期の日本人は言葉を選び適切に翻訳して理解できるようにしたが、そこには素晴らしい知性があった。進んだ西洋の知識を自己のものとして取りこむ知性が近代日本の発展の礎となっている。。日本の翻訳語を中国が使っている例も多いと言うことでもわかる。
物語は明治維新を前にした京都の政争とは無縁で、江戸にいて、ひたすら実務をこなしていく小野の姿を描いている。実務をこなせる有意な官僚が少ない中、小野はどんどん出世し、旗本に取り立てられ海防の実務責任者になり、さらには勘定奉行組勝手方になっていく。さらには公儀の会計事務全般の改革まで担うようになる。他に誰もいないのかいと突っ込みたくなるのですが、いないのでしょう。
政治の世界では大言壮語してはったりと恫喝で回していかなければならないことも多いが、その大言壮語を実行するには淡々とこなしていく実務官僚が必要。
武力行使を行うにしても、動員計画と武器弾薬、兵糧の滞りない補給が必要であり、実際、長州征伐に際しては、小野がロジスティックを担うべき毛利征伐御用を任されている。
でも私が初めて名前を聞いたように歴史の表舞台ではほとんど注目されてこなかった。
最後まで幕府側で働いた小野は明治維新によって逼塞謹慎入牢させられるのだが、その才能をほかっておく訳がなく、後年民部省に出資し、鉄道建設の測量の職に就き、技師長になっている。
幕府の実務官僚から見た明治維新の裏側と言うか、勝者の歴史ではない歴史がある。
維新の英傑が闊歩し、権謀術策の限りを尽くして政治を転換していく暗闘場面や血しぶき飛び散る戦闘場面もないのだが、実業を民の世界に根付かせた渋沢栄一とか五代友厚と並んで小野のような実務家が明治を作っていったと考えさせられます。もう一つの幕末維新史と言ったところで興味深く読み進められました。
一緒に写っているのは東海林さだおの丸かじりシリーズの最新刊。心ざわついている時には東海林さんの世界に浸るとどことなく癒され「ふ~」とため息ついて落ち着きます。
東海林さんは学童疎開で茨城県に行っていたこともあり、干し芋愛は半端ない。そのスイート界での立ち位置にも深い共感があり、本の題名になる訳です。
この本でビールのCМは難しいという文を読むとタレントが実際にそのビールを飲んでいるかどうかはのどのごくごく飲む動きでわかると書いてありますが、それ以来ビールのCМを見ると実際にのどが動いているか気になって仕方ありません。

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