道東アイヌの伝承者・故山本多助エカシ(アイヌ語で「尊敬される年配の男性」という意)によると、
アイヌ語で10月は「シニ・オラッ・チュプ」(落葉月)=草木の葉が紅葉して多く落ちる月
11月は「ウレポッ・チュプ」(足元に冷気を感じる月)=日増しに寒気が加わり、足底に冷たさを感じる月
と、表現したそうです。
「チュッ・チュプ」(秋の月)もいよいよ大詰め。
雪が降る前に、準備をしておかなければならないことがたくさんあります。
シケレペ採取もその一つ。
(アイヌ語をカタカナで表記すると、この単語の“レ”は小さい文字になります)
命名由来にもなっている、樹皮の内皮が鮮やかな黄色を見せてくれるキハダ。
北海道ではシコロとも呼ばれる木です。
その木になる実のことを、
アイヌ語で「シケレペ」といいます。
熟して黒くなった実は、乾燥させて保存します。
アイヌの人たちにとっては、とても貴重なモノで、
食糧にも薬にもなります。
−ということは、なんとなく想像できるかもしれませんが、
味はというと…
この木は、ミカン科なんですよね。
確かに、苦みの強いミカンの皮をかじったような感覚…といったところでしょうか。
結構、長い時間、口の中に苦みが残ります。
食糧にする場合は、これだけで食べるわけではなく、
乾燥させた実を一晩水につけてもどしてから、
カボチャや鮭などと一緒に煮込みます。
つまり、スパイス的な役割を果たすのです。
祭事のお供えものとしても欠かせない、
大切なごちそうになります。
薬としては、煮詰めたものを咳止めとして使ったり、
胃腸の調子が悪いときには粒ごと飲みました。
フチ(アイヌ語で「尊敬されるおばあさん」の意)からは、
「3年(実が)付いたら3年とまる」というコワ~い言い伝えが残っています。
確かに、「昨年は実が付いていたのに今年は付いていないなあ」とか、
「昨年は付いていなかったのに、今年はいっぱい付いてる!」ということがよくあります。
実の付いている木を探すのもたいへん。
おまけに、高い木の枝先になる大豆ほどの実ですから、
採るのにもなかなか苦労します。
現在でも、
アイヌの人たちは採取したシケレペを一粒たりともムダにすることなく、
来年の秋まで、大切に大切に使わせてもらうのです。
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