レスラー / The Wrestler

2009-06-14 | 映画
今回は、2009年のゴールデン・グローブ賞をはじめ多くの賞を獲得して、ハリウッドの表舞台に戻ってきたミッキー・ロークの「The Wrestler レスラー





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人気レスラーだったランディ(ミッキー・ローク)は、スーパーでアルバイトをしながら、かろうじてプロレスを続けていたが、ある日長年のステロイド使用が祟り、心臓発作を起こしてしまう。
病院のベッドで目覚めたランディは、医者にリングに立つことを禁じられる。妻とは離婚し、一人娘のステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)とも疎遠で、ひとりになってしまったランディ。
せめて娘との関係だけは修復しようとするが、冷たくあしらわれ、さらに好意をもっていた顔なじみのストリッパー・キャシディ(マリサ・トメイ)にも振られてしまう...(CinemaCafe.netより)

     
     ドキュメント風にしてリアリティーが出ている映像

     
     トップレスのダンサーに体当たりのマリサ・トメイ

     
     何度も裏切られた父親を憎しみながらも、その愛に飢えるティーン・エージを演じたエヴァン・レイチェル・ウッド


あのミッキー・ロークが主演の映画?なにか胡散臭そう、というのが最初にこの作品のことを知った時の、正直な感想だ。

一番最近、彼が出演している作品を観たのは、2004年のデンゼル・ワシントン主演の「マイ・ボディガード」だった。
強面の悪徳弁護士役だった。
それと、自分は見逃してしまったが「シン・シティ」に出てたくらいで、その他はB級作品への脇役だ。
それも年に2本くらいのスローペース。
ハッキリ言って仕事がなかったのだろう。

それがいきなりこの作品だ。前言撤回。
制作費はそれほどかかっているとは思えないが、まさにミッキーの為に作られた脚本で、老いたプロレスラーを本当に、本当に自然な演技で好演している。
デビューした頃も、そのセクシーな容姿もさることながら、演技力も定評だったので、やはり実力のある人なのだろう。
ただ、今の顔になってからその演技力を出すだけの役が来なかっただけだったのかも。

共演のマリサ・トメイは、トップレスのダンサー役もすごい。
ある意味女優をすててる感あり。
とても自然な演技で、お店で陽気に振舞うダンサーと、1人で子供を育てる強い母親、そして老いて孤独なレスラーに惹かれていく女を上手く演じている。
彼女は、「NY式ハッピー・セラピー」で、ジャック・ニコルソンに虐めぬかれるアダム・サンドラーの健気な婚約者役と、「WILD HOGS/団塊ボーイズ」の、おバカな中年男4人のヒロイン役が、印象に残っている。


     
     このシーンで涙しなかった人は、友達になれない

     
     この親子の会話のシーンで涙しなかった人も、絶対に友達になれない


自分がここ1年間で観た作品の中で、「スラムドック ミリオネア」とベストを争う作品だ。

両方とも低予算で創られている。
片方は、地獄のような少年時代を過ごした青年の純愛物語。
苦難を乗り越え、自分の愛と富を勝ち取る、勇気を与える物語。

そして、この作品は、昔一世を風靡した孤独な老いたレスラーが、世間に適応出来ず、自分の唯一存在できるリングで、その命を燃やす物語。
この物語に、ミッキー・ロークが完璧に同化している。
この、キャスティングをした監督でプロデューサーの、ダーレン・アロノフスキーという人は、天才だ。

そして、荒い映像でドキュメントのように撮影しているのも、リアルな臨場感を出し成功している。
あと忘れてならないのは、ブルース・スプリングスティーンの音楽。

誰もが知っている、プロレス特有の、ショーとしての演出を打ち合わせする舞台裏を描いたのは、ある意味タブーに挑戦してるといえる。

最近、自分が大ファンの町山智浩氏が言っていた。
プロレスの試合は演技だ。
ただし、プロレスラーは相手からの攻撃を直接受けて、初めてプロレスが成立する。そしてどれだけの攻撃を受けられるかが、プロレスラーの強さを示す。愚かにも、勇敢にも。


     
     怖いが、優しい笑顔のミッキー

     
     ちょっとマイケル・ジャクソンが入った衣装だ

     
     マット・ディロンって老けたな

     
     なんか、怖くなっちゃったブルック・シールズ


そういう、レスラーの現実を忠実に描いている。
ミッキー演じるランディは、全身傷だらけだ。関節、内臓、心臓、長年ダメージを受け続けボロボロになっている。
痛み止めの薬や、ステロイドをうつ場面もリアルに出てくる。
住んでいるのは、トレーラーハウス。
アメリカならではの、プレハブの家をトラックのコンテナの形にしてトラックで移動可能な小さくて安い簡易住宅だ。
ランディは、その家賃さえも、まともに払えていない。
生計は、スーパーのアルバイトで立てている。

それでもプロレスにしがみついている。
だが、ある試合後、心臓発作でバイパスの手術を受けて、2度とレスリングが出来ないと医師から宣告される。
生き甲斐を失ったランディが求めたのは、過去に自分のわがままから不幸にした、娘からの許しだった。

彼が娘に言った言葉は、
「俺はお前を捨てた。
お前は何にも悪くなかった。
以前はお前の事を忘れようとした、でも出来なかった。
お前は俺の娘だ。お前は俺のかわいい娘だ。
俺は老いぼれでボロボロの屑だ...1人ぼっちだ。
でも、それは全部俺のせいだ。
ただ、お前に嫌われたくないんだ。」
涙をボロボロ流しながら、不器用な男が娘に許しを請う。
これも演技に見えないんだよな。

しかし懲りずに酒で失敗し、また娘を裏切ってしまい、決定的な親子断絶を迎える。
スーパーでのバイトも、客の態度と場違いなところにいる自分への苛立ちから、放り出してしまう。
結局、彼が戻れるところはリングしかなかった。
そして、最後の試合に挑む。
最後を見ている時、矢吹ジョーが頭の中に浮かんできた。

このレビューを書く前日に、2代目タイガーマスクの三沢光晴が試合中に頭を強打し亡くなるというニュースが流れてきた。
享年46歳。まだプロレスをしていることに先ず驚いた。
彼も、プロレスに魅せられて命を捧げた男なのだろう。


     
     あの頃のミッキー その1

     
     あの頃のミッキー その2


トリビア
35日間の予定で、実際には40日で撮影された。

監督は、はじめからミッキーの主役に決めていたが、フォックス・サーチライト側は、ニコラス・ケイジを押していた。
結局監督の主張が通った。

ミッキー・ロークは、真実味を出すために、本当に額に剃刀で切り傷をつけた。


かっこよくて、渋かったよ