花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

国立西洋美術館「カラヴァッジョ展」感想(8)

2016-03-25 02:36:19 | 展覧会

なにかと色々あり、「カラヴァッジョ展」感想文が途切れがちになってしまった。さぁ、気を取り直して続きをがんばらなくては! 

Ⅱ)風俗画:五感 (続き)

【視覚】

・カラヴァッジョ《ナルキッソス》

カラヴァッジョ《ナルキッソス》(1599年)パラッツォ・バルベリーニ

オウィディウス「変身物語」のあまりにも有名な挿話だ。ナルキッソスは水面に映る自らの姿に恋し、今、口づけをしようと身を乗り出している。この後、自ら水中に沈んでしまうことも知らず...。

カラヴァッジョは両腕(水面も)の描く円環と突出した膝株という、実に印象的な構図で描いている。しみじみ観れば、栗色の髪が若者の持つ甘やかさを醸し出しているようにも見え、ナルキッソスの恋い焦がれる様が、抒情的に描かれているようにも思える。しかし、描いたのは一筋縄ではいかないカラヴァッジョだ。深読みしようとすれば色々想像もできそうな、そんな気がする作品だ。ちなみに、以前の拙ブログでも書いたが、この膝株がキモなのだよね(^^; 

【味覚】

・バルトロメオ・マンフレーディの追随者《ブドウを食べるファウヌス》(1610年代)パラッツォ・バルベリーニ

展示作品の画像が無いので、ネタ元と思しきマンフレーディ《バッカスと酒飲み》の画像を出しておく。ところで、この「五感」展示にバルベリーニ古典絵画館がらみの作品が集中しているのは何故なのだろう??

バルトロメオ・マンフレーディ《バッカスと酒飲み》(1600-10年頃)パラッツォ・バルベリーニ 

【聴覚】

・ヘンドリック・テル・ブリュッヘン《合奏(聴覚の寓意)》

ヘンドリック・テル・ブリュッヘン《合奏(聴覚の寓意)》(1629年)パラッツォ・バルベリーニ

私はカラヴァッジェスキの中でテル・ブリュッヘンが一番好きだ。特に彼が描く女性の生き生きとした表情とその肌艶は、観る者を思わず笑みさせる力を持つ。ユトレヒト派ならではの宗教画も風俗画も、彼の血の中にあるネーデルラント絵画の伝統と、ローマで衝撃を受けたカラヴァッジョ的なものが見事に融和し、より親しみのある暖かさを内包した作品となっている。例え、ゴシック的と見紛う作品においてさえ、なお息づく「生」が感じられるのだ。その筆力はルーベンスさえ認めるほどであり、美術ド素人的な暴言かもしれないが、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールもフェルメールも彼に負うところがあると思う。 

さて、今回の《合奏》は「聴覚の寓意」とされているが、ユトレヒト派で多く見られる「音楽主題」の作品との違いがよくわからなかった。図録を見ると、ヘンドリク・ホルツィウス原画の「五感」連作に基づいた作品と見なされているから、ということらしい。しかし、「CARAVAGGIO IN HOLLAND」展を観てしまった先入観が多分にあるのかもしれないが、基本的には「音楽」(感想6)で紹介したホントホルスト作品とテーマ的には同じなのではないだろうか?? 「リュートとバイオリン」の隠喩は触れないでおくけど、危うさがバルコニーに集約されているでしょ?? 

そんな疑問はともかく、観ればこの作品の素晴らしさがよくわかる。左斜め前方からの光が女性の肌を、纏う衣装のたわわなドレープを、白く優美に輝かせる。彼女はリズムを取りながら歌っているのだろうか?光源の方には誰かいるのだろうか? リュートはバルコニーと思しき欄干に、持ち手を前に向けて置かれている。後ろのバイオリンを弾く男性は影に沈んでいるが、こちらも肩にかかる朱赤ガウンの衣紋襞の、闇のなかから光に浮かぶ明暗の色調が美しい。この表現描写を観ているとラ・トゥールもフェルメールもすぐ傍に感じられるのだ。

女性の白い肌と白い衣装、手すりを覆う金襴朱の布地の美しさ、男性のガウンの朱、まさに光と影に彩られた色彩のハーモニーであり、質感の描写力。なんと見事な作品なのだろう!この作品が来日してくれて本当に嬉しかった!!

【臭覚】

・《羊飼いのお告げ》の画家(ジョヴァンニ・ドー?)《バラの花を持つ少女》(1640年代)ヴァリア、デ・ヴィート財団

画像は無いけど、こちらもホルツィウス「五感」に基づく作品との扱いのようだ。バラの花の香りを楽しむ女性の質素な衣服描写に、リベーラみたい、と思ったのだが、図録を読むとなんとやはりリベーラの影響を受けた画家らしい。陰影の濃さがスペイン領ナポリらしい。 



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