花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

ピエロ・デッラ・フランチェスカ《シジスモンド・マラテスタと守護聖人》

2020-09-10 23:45:33 | 西洋絵画

最近、宮城県でコロナ感染者がじわっと増えている。仕方なしの引き籠りがちも悔しく、この際ブログで中途半端に途切れていた旅行記の続き書こうかなぁと、以前撮った写真を色々チェックしていたら、知らずにいた意外な発見(?)があった。

2015年にリミニからマルケ地方を巡った旅だが、当時のブログでもリミニの「テンピオ・マラテスティアーノ」のフレスコ画、ピエロ・デッラ・フランチェスカの《シジスモンド・マラテスタと守護聖人》について書いた。

https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/d459bd4ca034f38a19e8738c8bdca555

ピエロ・デッラ・フランチェスカ《シジスモンド・マラテスタと守護聖人》(1451年)テンピオ・マラテスティアーノ

この作品はシジスモンドが守護聖人シジスモンド(ブルグンド=ブルゴーニュの♪)に祈っている場面を描いているが、実は神聖ローマ皇帝シギスムントの騎士位となったことを祝うフレスコ画 だったようなのだ!!

ルクセンブルクの皇帝ジギスムント(Sigismund, 1368 – 1437)は1433年にローマで教皇エウゲニウス4世により神聖ローマ皇帝として戴冠するが、ローマへの道すがらリミニを通過し、その機会にシジスモンド・パンドルフォ・マラテスタ(Sigismondo Pandolfo Malatesta ,1417 –1468)を騎士に叙任している。

で、面白いのは、描かれた聖人シジスモンドが実は皇帝ジギスムントであることで、改めてこの作品を眺めると、なるほど!なのだ。ちょっと拡大してみると....

で、下記↓の作品をご覧あれ...

ピサネッロに帰属《神聖ローマ皇帝ジギスムントの肖像》(1433年)美術史美術館

なんと!美術史美術館のクンストカンマーで観た皇帝ジギスムントにそっくりなのだよ~

ピエロ・デッラ・フランチェスカ(Piero della Francesca, 1412 – 1492)は皇帝を見たことがあったのか??それとも皇帝の肖像画を見たことがあったのか?? もしかして、シジスモンド・マラテスタが肖像画(或いは模写作品)を持っていたとか?? だって、ピサネッロはシジスモンドやイゾッタのメダルも作っているし...。

ということで、色々と私の妄想は膨らむのであった



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6 コメント

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ピエロ・デッラ・フランチェスカとピサネッロ (むろさん)
2020-09-11 23:05:49
ピエロ・デッラ・フランチェスカは特に好きというわけではないのですが、今回の記事が気になったので、手持ち資料を確認してみました。(専門的に勉強する気はないので、フォションも石鍋先生の本も持っていません。)

集英社世界美術全集3(マザッチオ/マゾリーノ/ピエロ~ 1979年 佐々木英也 他)のリミニの絵の解説では「聖人の顔については、ピサネㇽロの作とされるウィーン美術史美術館の肖像と似ていることが指摘されている」とあり、また、中央公論社カンヴァス世界の大画家3(ピエロ・デㇽラ・フランチェスカ 1985年 若山映子)のリミニの絵の解説では「聖人はここで(中略)ハンガリー王シギスムントその人として描かれている」として、参考図にウィーンの肖像を掲載しています。
東京書籍イタリアルネサンスの巨匠たち16(SCALA 1985年の翻訳版1993年)では、ウィーンのピサネッロ作の肖像との関係には触れていませんが、ルーブルにあるピエロ作のシジスモンド・マラテスタの肖像がピサネッロ鋳造のメダルの模写とされているので、ピエロ・デッラ・フランチェスカとピサネッロ作品に関係があるのは確かなようです。
また、RizzoliのComplete Paintingsシリーズのピエロ・デッラ・フランチェスカ(私のはPenguin Bookの英語版)ではリミニの絵の聖人について、アレッツォの聖十字伝のソロモン王とシバの女王の会見中のソロモン王に酷似している(King Solomon’s head shows a close resemblance to that of St Sigismund.)とあります。似ていると言えば似ていますが、ピエロの絵のひげ面の老人の顔は皆似ているようにも思えます。まあ、こういうモデル探しはそれだけで美術史家の興味を引くテーマであり、読者もその結果を楽しむような(ヴァザーリ以来注目されてきた)お話ですが、決定的な証拠はないので、我々素人愛好家もそれを楽しめばいいのだろうと思います。

なお、ウィーン美術史美術館のピサネッロ作の肖像については、3,4年前に初めてウィーンに行った時に、事前準備で私が持っている唯一のピサネッロの本(SADEA/SANSONIのDIAMANTI DELL’ ARTEシリーズの小さなもの)に絵が出ていたので、美術館に行ったら見ようと思っていました。絵画のギャラリーではなく、チェリーニの有名な塩入れなど工芸品がある部屋の近くにあり、思っていたよりも小さな作品だったことをよく覚えています。
また、リミニへは行ったことがありません。このフレスコ画だけなら今後行くこともないと思いますが、ジヨットの十字架像もあるのでどうしようかと思うところです。ジヨットの絵をご覧になってのご感想はいかがでしょうか? 下記URLの文章を読むとロンギも真筆と判定しているようなので、それなりに良い作品だと思いますが。(フィレンツェ・オニサンティのジヨット派の十字架像も最近修復されて綺麗になったようなので、再度オニサンティに行きたいとも思います。芸術新潮2018年1月号に写真)
https://www.musey.net/4334

ついでに近況を少し。2月以来コロナ騒動で電車に乗らずに過ごしていて、上野へは5月頃から何度か行きましたが、全てスクーター利用です。そして来週にいよいよLNG展に行くことになり予約を取りました。その際はビニール手袋着用で電車に乗るつもりです。これから数日間でクリヴェッリ、ボッティチェリ、ウッチェルロ、ヴェロッキョの出品作について資料の準備をします。それ以外の作品はさらっと見る程度で終わらせます。先日から始まった中世写本展示のⅢや平常陳列も見る予定です。

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むろさんさん (花耀亭)
2020-09-13 00:51:28
お調べいただき、ありがとうございました!! やはりピサネッロ帰属作品との関連ありのようですね。私的にはソロモン王よりも(被り物を含め)皇帝ジギスムントに似ていると思います。で、モデル探しは楽しいですよね(笑)
実は、リミニを訪ねる前年にピエロ・デッラ・フランチェスカ追っかけ旅行(ウンブリア、トスカーナ)をしたのですが、石鍋先生の本で予習して行ったのですよ(^^ゞ
で、むろさんさんもご覧になったクンストカンマーには、意外な作品が多く展示されていて面白いですよね!!

さて、リミニのジョットの十字架ですが、がらんとした祭壇正面に飾られ、さすがジョットらしく自然な身体表現を目指していたのがよくわかります。リミニではベッリーニ作品もある市立美術館も見所のひとつなので、マルケの旅をする時はついでに、ぜひ♪

で、で、いよいよいらっしゃるのですね!!いいなぁ~!!>LNG展&中世写本展示
電車も空いている時間帯を選べば大丈夫かもしれませんし、しっかりと楽しんできてくださいね。ご感想&レポートも楽しみにしておりますよ~(^^)/
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LNG展に行ってきました (むろさん)
2020-09-19 22:18:20
リミニのジヨット作十字架像とジョヴァンニ・ベッリーニのピエタの件、ありがとうございます。ジヨットの十字架板絵はRizzoliのカタログでは6点取り上げられていて、ジヨットに関する本を見るとリミニの絵はSMノヴェラの絵に次いで重要な絵のようですから、いつかは見たいと思っています。ベッリーニのピエタも塚本博の「水脈」で詳しく論じられていて、いい絵だと思います。イタリア旅行協会ガイドブックでリミニを調べたら、市立絵画館にはこの他にギルランダイオの諸聖人の絵があると出ていました。手持ちのギルランダイオの本には全く載っていなかったので、インターネットで確認したら画像がありましたが、これはギルランダイオらしくない作品という気がします。出来がよくない工房作でしょうか。結局リミニで見たい絵は3点だけなので、旅行の優先順位としては、ウルビーノやアスコリ・ピチェーノ、アンコーナ、ロレートなどを優先し、その後再度アドリア海沿岸へ行く機会があればラヴェンナと合わせて行くようになるかと思います。

西美のLNG展へは17日の午前中に行きました。予約時間帯は30分毎ですが、前半15分ぐらいは入場の行列で待たされるので、後半の15分に並んだ方が時間の無駄がありません。特設ショップや売店、通常展示(中世写本内藤コレクションも)などで時間調整するといいでしょう。展示室内の混雑はたいしたことありません。普通の展覧会程度です。

展示作品では特に興味のあるクリヴェッリ、ボッティチェリ、ウッチェルロ、ギルランダイオの絵だけ感想を書きます。その他の絵は事前の予習として芸術新潮4月号とBS日テレぶら美(3/31,4/7放送)の川瀬氏解説を見直した程度です。(その他、同朋舎出版LNGガイドブック日本語版1996年の出品作解説ページをコピーして持参。)ですからコメントするようなことはほとんどありません。新収蔵作品として、スルバランの聖ドミニクスが通常展示に出ているので、LNG展会場に入る前後に見て聖マルガリータと比較できました。大きさや暗い背景、後ろに恐ろしい動物がいることなど、とてもよく似た絵ですね。時代も近いようです。また、クリヴェッリの聖アウグスティヌス?も通常展示に出ていました。

クリヴェッリの受胎告知については、昔見た記憶は全く残っていなくて、今回その大きさに驚きました。絵の意味については、ここで以前ご紹介したと思う上原真依の論文(愛媛大学教育学部紀要vol.60)を前日に読み直したので、よく理解できました。なお、読売新聞7/22の記事に同じ上原氏の簡単な紹介文も載っています。
http://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2013/pdf/30.pdf
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20200721-OYT8T50080/

今回手持ち資料に一通り目を通してから臨みましたが、特に気にしていたのが受胎告知の構図の元ネタ探しで類似作品と比べることです。トレヴィルの吉澤京子著クリヴェッリ画集で取り上げているャコポ・ベッリーニの素描2点、オーナメント&イリュージョン展図録の解説(ボストンISガードナー2015年)に載っているジョヴァンニ・ディ・アンジェロの絵(カメリーノ絵画館、下記URL)、そしてフィリッポ・リッピのスポレート・ドゥオモにあるフレスコ画などです。これらのうち、リッピの絵が最も影響を受けた可能性が高いと思います。窓を通って光が入ってくる構図だけでなく、オーナメント&イリュージョン展図録解説に書かれている「アスコリ・ピチェーノとスポレートの距離は69キロで、スポレートはアスコリからローマへ向かうメインのルートに位置している」ということには説得力を感じます。このリッピ最晩年の絵の10数年後がクリヴェッリの受胎告知であり、クリヴェッリはスポレートでフィリッポ・リッピのフレスコ画を見ているのではないかと思います。
http://sirpac.cultura.marche.it/SirpacIntraWeb/storage/Label/0285/384/S%2013.jpg

ウッチェルロについては、日本語で読めるファブリ画集64(辻佐保子1972年)、東京書籍イタリアルネサンスの巨匠たち11(SCALA 1991年の翻訳版1995年)、フィレンツェ・ルネサンス3(NHK1991年)の他、Rizzoliのカタログ(伊語版)とLNG発行の15世紀イタリア絵画第1巻(英語版)を準備し、特にLNG発行の本は聖ゲオルギウスについての詳しい解説や王女様のX線画像も出ていて役に立ちました。この王女様の顔とNY・MetやボストンISガードナーの横顔の女性像、プラート大聖堂フレスコ画の聖母誕生に出てくる横顔の女性たちを比べたり、また、パリ・ジャクマール・アンドレの聖ゲオルギウスの絵との違いなどを中心に出品作を眺めていました。ジャクマール・アンドレの絵との比較では、上記東京書籍の本だけが「様式からロンドン作品の方が古い」としていますが、私はこれは逆で、通説通りロンドン作品はパリ作品の発展版だと思います(パリ作品は画家の通称の「鳥」の目線から俯瞰したような絵ですが、ゲオルギウスと竜を真横から描いていて、両者には遠近法を使っていないのもロンドン作品以前である根拠と思います)。ウッチェルロの1枚の絵をこれだけ長時間眺めていたのも初めてであり、よく理解できたと思っています。

ギルランダイオ(前コメントでヴェロッキョと書いたのは間違いでした)の出品作の聖母子については、手持ちのどのギルランダイオの本にも出ていなかったので、作品自体についての情報はほとんどない状態で臨みましたが、この絵は予想していたよりもいい絵だと感じました(保存状態もとてもいいそうです)。聖母の顔はフィレンツェのサンタ・トリニタやオスペダーレ・デリ・イノチェンティにある東方三博士の礼拝などの聖母の表情とほぼ同じ、典型的なギルランダイオの描く顔です。拡大鏡で眺めていて感じたのは、透き通ったベールや聖母の髪の毛の表現がボッティチェリの描く表現と比べ、遜色がないぐらいに上手である(ベールはボッティチェリよりわずかに劣る程度)と思いました。聖母の顔だけが典型的なギルランダイオなので、ここにボッティチェリの描く顔が乗っていたらもっと良かったのに!と思ってしまったぐらいです。初期のギルランダイオ作品であるワシントンNGの聖母子の写真も準備していきましたが、背景や表情が時代によってどのように変化したかもよく分かりました。

長くなったのでボッティチェリについては改めて投稿します。

中世写本の内藤コレクション第3回目の展示ですが、絵の色彩の鮮やかさとともに、そのコレクションにまつわる話に興味を引かれました。本から分離された1枚ものの絵なので、30数年前ぐらいにセーヌ川沿いの古書販売屋台で比較的安価に購入できたという話や欧米の大富豪の寄贈とは違うささやかなコレクションの寄贈であっても、海外の中世美術の専門家から所蔵品についての問い合わせが来るほど重要なコレクションに成長したといった話にも驚きました。

10月以降西美は長期休館となってしまうので、もし今可能ならば、通常展示、内藤コレクションも含めLNG展をご覧になることをお勧めします。(都内の電車内ではほとんど全ての人がマスクをかけていました。問題は新幹線で長距離移動をする気になるかということだと思います。私も今は京都や大阪などへ旅行しようという気にはなりませんので。)

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むろさんさん (花耀亭)
2020-09-21 03:23:32
早速のLNG展ご感想&レポートをありがとうございました!! さすが研究熱心なむろさんさんの事前準備は怠りなかったですね(^^)
で、クリヴェッリ《受胎告知》ですが、スポレートのフィリッポ・リッピ作品を観ているのではないかとのご指摘、なるほどと頷けます。本当に似ていますよね!!
ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》ですが、ジャクマール=アンドレ作品の表示は1440年頃、LNG作品は1470年頃で、実際に私も見比べておりますが、前者の硬く古風な趣きから、むろさんさんのおっしゃる「通説通り」のような気がします。
で、ギルランダイオ作品ですが、なんとベールまでしっかりご観察とは!!
>ここにボッティチェリの描く顔が乗っていたらもっと良かったのに!
むろさんさんらしいご感想に、思わず笑ってしまいました(^^ゞ
今回はボッティチェッリ作品も来日してますし、むろさんさんの更なるご感想が楽しみです(^_-)-☆

内藤コレクションは第一回目の展示しか観ていませんが、今回も充実の展示だったようですね。日本では珍しい中世写本を集めるコレクターの存在が嬉しく、その寄贈過程にも頭が下がりました。

私もできることなら西美に行きたいのですが、現状では東京に行くこと自体が怖いし(地方なので)周りに対しても憚られます。LNG展は楽しみにしていただけに諦めるのが残念過ぎて...(涙)
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ウッチェロ作聖ゲオルギウス2枚の作成年代 (むろさん)
2020-09-21 23:07:48
ジャクマール・アンドレの聖ゲオルギウス、美術館の展示解説は1440年頃となっているのですか? 少し古く見積もり過ぎているような気がします。芸術新潮4月号(LNG展特集)で前橋重二氏が2点の聖ゲオルギウスについて詳細に書いていますが、これによるとパリ作品は「1465年の文献との関連」から1458~60年の作、それに連動してロンドン作品は1470年頃としています。その文献は、上記コメントで書いたLNG発行「15世紀イタリア絵画vol.1」によると、J.H.Beckという人が1979年にフランスのGBA誌に発表した研究(フィレンツェ商人が1465年の記録に書いたウッチェロ作の聖ゲオルギウス板絵の寸法などの件)であり、さらにLNGの本にはウフィツィにあるウッチェロ作「馬上の騎士の素描」図版も掲載し、この3者の馬と騎士の表現の違いからもパリ作品とロンドン作品の年代を検討しています(パリ作品→ウフィツィ素描→ロンドン作品の順)。ロンドン作品の修復とX線撮影等の調査以前に出た本であるRizzoliのカタログでは、ロンドン作品を1456年頃、パリ作品を1456~60年としていて、ここでも通説とは逆の判定ですが、修復・調査以降ではロンドン作品をパリ作品以降にする本が多いようです。

ロンドン作品とパリ作品の遠近法の扱いの違いを上記コメントに書きましたが、一見同じように見える左側の王女様も、よく見ると両作品とも靴は同じように前後に出して奥行があるように描かれていますが、パリ作品では手と胸が真横から見た平面的な表現になっているという違いがあり、ここでもロンドン作品の方が発展形と思えます。また、材質の違いとして、パリ作品はテンペラ・板絵、ロンドン作品は油彩・カンヴァスという大きな差があり、これはロンドン作品の年代判定に大きく影響する問題です。現存するウッチェロ作品の年代は、SMノヴェラ・キオストロ・ヴェルデ、ホークウッド騎馬像、プラート大聖堂のフレスコ画など、1430~40年代の絵とサンロマーノの戦いやアシュモレアンの鹿狩りなど1450~60年代の絵に分けられるようですが、油彩・カンヴァスはロンドンの聖ゲオルギウス以外ないようです。このロンドン作品が1470年頃だとすると、ウッチェロ作で現存する最後の作品になり、最晩年に油彩・カンヴァスに挑戦したということになりますが、一つ気になるのが1469年カタスト申告書の記載内容です。そこには「(70歳を超えて)生活の手立ても仕事もなく、妻も病気がち」と書かれているそうです。税金の徴収額に影響するので、資産や収入を低く申告するのは当然ですが、その6年後に78歳で亡くなるので、全てが嘘の申告だとも思えません。このような状況でロンドンの聖ゲオルギウスのような絵がはたして描けたのだろうかという気がするので、1470年よりももう少し前、例えばパリ作品に関する記録のある1465年頃かその直後ぐらい(アシュモレアンの鹿狩りより後)ならばどうかと考えたりしています。但し、この頃にフィレンツェを離れていた期間もあるようで、そう単純ではないかもしれません。(なお、晩年作と芸術的衰退の問題についてはボッティチェリの聖ゼノビウスの奇跡の感想で後日書きます。)

ウッチェロの絵についてここまで深く調べて考えたり、1つの作品をじっくり見たのは初めてで、とても勉強になり、また、楽しくもありました。前コメントで書いたファブリ画集日本語版について、なぜ中世ロマネスク美術の研究者である辻佐保子さんがルネサンス期のウッチェロを執筆しているのかと以前から思っていましたが、今回よく読んでみたら辻さんのウッチェロ愛やウッチェロ作品の魅力もよく分かりました。辻氏によると、「ウッチェロの作品は一度その魅力に呪縛されると容易に逃れようのない魔力をそなえている」そうです。これを読んで石鍋先生がカラヴァッジョについて「カラヴァッジョに噛みつかれた者はカラヴァッジョの真実への旅を永遠に続けなければならない」と書いていることを思い出しました。追いかけてみたい画家がまた一つ増えた気がします。コロナ騒動の外出自粛で自宅にいると、手持ち資料の整理・見直しが進みます。数年後の海外旅行解除を目指して、今は充電期間です。

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むろさんさん (花耀亭)
2020-09-22 22:02:56
2枚の《聖ゲオルギウスと竜》の制作年についてのご考察、およびご教授、ありがとうございました!! つい、なるほど!と、コメントへのレスより先にブログの方を書いてしまい、すみませんでした(^^ゞ
むろさんさんのウッチェロヘ寄せる深い関心が伝わってきましたです。追いかけたくなる画家が出来るって嬉しいですよね(^^)
私的にはLNG《サン・ロマーノの戦い》が好きで、画面は痛んでいてますが、遠近法よりその色彩造形感覚が独特だと思うのです。なんと言うか...ピサネッロに共通する装飾的幻想性を持っているのですよね。
で、辻佐保子先生がウッチェロをお好きだったとは初めて知りました。「ファブリ画集」を見つけて読みたくなりましたです。むろさんさんのウッチェロ愛も深まりそうですね(^_-)-☆
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