最近読み始めた(汗)『西洋美術の歴史-ルネサンスⅡ-北方の覚醒、自意識と自然表現』(中央公論新社)もようやく後半へと読み進んでいる。
その中で、ヒエロニムス・ボスに関する興味深い説(L.J.Slatkes,"Hieronymus Bosch and Italy",The Art Blletin,57,1975,pp335-345)が紹介されていた。ボスが1499~1503年の間にイタリアに旅し、ヴェネツィアでレオナルド・ダ・ヴィンチに会った(?!)説である
確かに魅力的な説だが(まるで小説のよう)、この本の北澤洋子先生は否定的見解である。例えば、《十字架を担うキリスト》(ヘント美術館)や《ピラトの前のキリスト》(プリンストン大学美術館)はレオナルドのグロテスク顔素描を想起させるが、グロテスク顔は16世紀の10~20年代には模写や版画によってネーデルラントに流通していたらしいし...。
ということで...グロテスク顔を観ていたよなぁ...と
《十字架を担うキリスト》は当時ヘント市立美術館が休館中だったので、シント・バーフ教会地下での引っ越し展示で...。
ボス(追随者?)《十字架を担うキリスト》(1515-20年頃)ヘント市立美術館
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jheronimus_Bosch_or_follower_001.jpg
そして、プリンストンで撮った写真もあったはずだと探したら...出てきた。
懐かしや...「プリンストン大学美術館」
ボス(追随者)《ピラトの前のキリスト》(1520年頃)プリンストン大学美術館
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bosch_follower_Christ_Before_Pilate_(Princeton).jpg
で、今回改めて写真を見て気が付いた。ロヒール・ファン・デル・ウェイデン《十字架降下》と同じように唐草模様額縁(?)があることと、やはり窮屈な空間表現が見られることだ。ロヒールの場合はロベルト・カンピン工房で木彫刻の彩色を経験しているだろうから了解できるのだが、もしかしてこのボス(追随者)も木彫刻彩色の仕事をしていたのだろうか?? ボス真筆では無いとしても、初期ネーデルラント絵画の余韻を感じさせる面白い作品だと思うのだ。
プリンストンの絵も実はかなり良いものなんですが、ゲントの絵と人間のとらえかた考え方が全く違うと観じました。プリンストンの絵は類型的なんですね。それゆえに理解可能であり、浅い。一方、ゲントの絵は深淵を覗き込むような不気味さ、底知れない恐ろしさがあります。これは、実物でみると一段と実感できるでしょう。
プリンストンの絵やヴァレンシアの絵、エスコリアルの絵をまとめて、ゲントの絵と同一視するみかたは、カラー図版だけみていると、そういう誘惑にかられるかもしれませんね。
ゲント美術館での討論については、URLのものよりも、更に詳しい翻訳を今、用意している最中です。
ちなみに、美術ド素人なもので、ヘントで観た時はボス真作だと思っていました(^^;;
で、ゲント美術館での討論、山科さんの更に詳しい翻訳を期待しております(^^ゞ
なお プリンストンの絵については、実見したとき、
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原作は存在しないが、コピーと考えられるものに、プリンストン大学美術館の[ピラトの前のキリスト]がある。これは部分的には、実に生彩があり、ゲント市立美術館の傑作「十字架を運ぶキリスト」にも近いのだが、ところどころ妙なところがあり、ボスのアトリエの周囲のレプリカじゃないかと思う。まずキリストの右の不可思議な楕円形が2つある。穴の修理痕かもしれない。ガンの作品にもみえる先のとがった三角錘の虹色の帽子の色が稚拙、キリストの表情がややふてたような感じでちょっとボス的な精神の探求が感じられない。
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と感じました。
で、ゲント(ヘント)作品はプリンストン作品より質的に勝るのは素人目にもわかるのですが、恥ずかしながら「精神性」洞察までは及びませんでしたです(^^;;
ちなみに、プリンストン作品はキリストが地味なので私的にはピラトが主役のような気がするのですよ(^^;
で、プリンストン作品の原作がボスだとしたら、あのゴシック唐草(?)はボスが描いていた通りなのか、追随者が描き加えたものなのか、とても興味があります。それから、あの二つの楕円形(?)は私も謎です('_')
ゴシック風唐草模様は一種のトロンプルイユでしょう。現在は一枚のパネルとして切り離された絵画も制作時には、大き
な祭壇がの一部であったかもしれず、大きな家具の一部だったかもしれません。 バヤドリッド祭壇画(URL)をみてもわかるように、浮き彫りすかし彫りの唐草模様が絵にかぶさっているような構成だったのではないかと思います。周りの飾りや枠がなくなってしまっているから、現在は妙にみえるだけでしょう。
ゲント美術館での討論については、更に臨場感のある/再構成を今、用意している最中です。
で、バヤドリッド祭壇画のスケールも凄いですね!おかげさまで当時の祭壇画のスタイル・構成も勉強になりました。
それにしても、スペインにはネーデルラント美術がまだまだ眠っているのでしょうねぇ...。
で、楽しみにしております!!>更に臨場感のある/再構成
ゲント側の言い分(怒ってますよね(^^;)も分かるし、「ボス」表記継続はプラドの例もありますしね(^^;
レンブラントの《黄金の兜の男》も帰属は外れても優れた作品であることに変わりありませんし、帰属問題は美術ド素人の私には何とも言い難いものがあります(^^;;