宮城県美術館「東日本大震災復興祈念 東山魁夷 唐招提寺御影堂障壁画展」を観た感想をサクッと
https://www.pref.miyagi.jp/site/mmoa/exhibition-20200919-s01-01.html
唐招提寺の《鑑真和上座像》は、以前、展覧会で観たことがあるものの、座像が安置されている「御影堂」自体は観たことが無い。今回の展覧会は《鑑真和上座像》抜きではあるが、東山魁夷による御影堂障壁画(全作)を中心とし、併せて、展示の後半部分は創作準備過程の様子を見せてくれるものだった。
展覧会前半は御影堂の障壁構成に倣った展示で、実際の障壁部と空間を効果的に絵画構成に取り込もうとした画家の意図は観る者にも伝わってくるものだった。画家が鑑真和上へのオマージュとして構成したのは、渡航の海を表現した《濤声》、日本の風景を象徴する《山雲》、中国の山々を描く《桂林月宵》《黄山暁雲》、鑑真の故郷揚州を描く《揚州薫風》だ。
私的に特に目を惹かれたのは青色の諧調の美しい《濤声》であり、画面いっぱいに海の広がるスケール感が心地良い。大海が波濤を生み、岩礁にぶつかり、乗り越え、さざ波となり浜辺に打ち寄せるまでの時の流れを、眼は追い、耳には濤声が聞こえるかようだった。画面の浜辺付近は障壁の角で折れるのだが、画家はそれを逆手に取り、寄せる波を浜辺へと誘う自然な展開として確かな効果を生んでいる。それは、東山魁夷の入念な取材と観察に支えられた画家としての確かな技量に裏打ちされたものだと思う。
東山魁夷《濤声》(1980年)唐招提寺御影堂(ネットから画像拝借)
今回興味深かったのは、日本の風景を描く《濤声》や《山雲》は東山魁夷らしい色彩画なのだが、中国の風景は珍しくも水墨画で描いていることで、鑑真和上の望郷の想いだろうか、より幻想的な趣が滲んでいるように思われた。
東山魁夷《揚州薫風》(1980年)唐招提寺御影堂(ネットから画像拝借)
実は、会場空間に身を置きながらふと想ったのは、オランジュリー美術館のモネ晩年の連作《睡蓮》展示室だった。モネは《睡蓮》の連作を効果的に(瞑想とやすらぎの場として)展示するために特別の展示空間を構想していた。
クロード・モネ《朝の柳》オランジェリー美術館
《鑑真和上座像》が安置されている御影堂空間も、ある意味で和上のための瞑想とやすらぎの場なのかもしれない...と思ったのだった。