(DIC)川村記念美術館でバーネット・ニューマン《アンナの光》に出合ったのは、2009年春(良く晴れた日)「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」展を観に行った折だった。
https://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition-past/2009/rothko/
現代美術苦手の私にはロスコの《シーグラム壁画》は薄暗いし、殆ど「よくわからない」状態だったが(近年、窓説になるほど)、ニューマン・ルームに足を踏み入れた瞬間、《アンナの光》が発する赤く暖かな光に包まれたような気がした。アンナは画家の母の名だと後から知り、ああ、あれは「母の光」だったのだ!と了解した。幅7.1m、高さ2.3mという、ニューマン作品の中で最も大きなものであり、母の包み込む愛情の大きさを表現するために必要な大きさだったのかもしれない。
(ネットより画像拝借)
バーネット・ニューマン《アンナの光》(1968年)
ご参考:https://www.youtube.com/watch?v=tRwKwxLOJ9M
残念ながら、2013年に《アンナの光》は売却され、もはや「ニューマン・ルーム」で観ることはできない。
当時の川村記念美術館「ニューマン・ルーム」は自然光を取り入れた、《アンナの光》のためのオーダーメイドの展示空間だった。だからこそ、美術ど素人且つ現代美術苦手の私さえ、その作品の持つ魅力を身体全体で感じることができたのだと思う。ある意味、平面絵画が主役のインスタレーション空間だったとも言えるかもしれない。(現代美術音痴が恥ずかし気もなく言ってるかも)
先に書いたオランジュリー美術館のモネ「睡蓮」連作展示室もオーダーメイドの展示空間だと思う。作品にとって、魅力を最大限に引き出してくれる展示空間に置かれることは幸せなことだと思うし、鑑賞者にとっても、嬉しくもその魅力を大いに堪能できる空間である。
一方、「唐招提寺御影堂」の東山魁夷の障壁画は、与えられた空間に合わせたオーダーメイドの作品を描いている。東西を問わず宗教画の場合はこのケースが多いように思える。例えば、ジョットのスクロヴェーニ礼拝堂も、ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂も、そして、カラヴァッジョ《マタイの召命》のコンタレッリ礼拝堂も...。その場所でしか味わえない作品と空間のコラボとも言える。
しかし、美術館に所蔵されている作品の多くは、オーダーメイドの空間に展示されることは難しいかもしれない。せめて、作品の意味と作品自体の魅力をしっかりと伝えられる展示であれば良いなぁと思う。