花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

「カジノ・ルドヴィーシ」天井画

2010-05-23 05:02:11 | 美術館
カラヴァッジョ作品を追いかけて、かれこれ10年以上に渡り様々な国や都市を訪ねた。カラヴァッジョ真作とされる作品中、未見で残るのは一般公開されていない個人蔵の4点、《サウロの回心》、カジノ・ルドヴィーシ天井画《ジュピター・ネプチューン&プルート》、《マッフェオ・バルベリーニの肖像》、《ジョヴァンニ・バティスタ・マリーノの肖像》というところまできていた。私にとって今回のローマ没後400年記念展のハイライトは、何と言ってもそのうちの2作品である《サウロの回心》と「ルドヴィーシ天井画」だった。

以前、カジノ・ルドヴィーシ天井画を観たくてヴェネト通り付近をウロウロしたことが何度かある(参照:以前書いたサイトの記事)。鉄柵門の前で、中の人影に向かい「中に入れてもれえませんか」と頼んだこともある。この鉄柵門が開かれ、自分が入る日をずっと待ち焦がれていた。


ヴィッラ・ボンコパーニ・ルドヴィーシ鉄柵門

今回はガイドさんの引率で開いた鉄柵門から堂々と入り、カジノに向かい上り坂を歩いて行く。道なりにグロッタのような岩肌がそそり立ち、突き当たりで左折すると視界が開けた。こじんまりとした建物が見えてきた。多分、あれがカジノ・ルドヴィーシ!

建物は修理中のようで工事道具が散らばっていたり、作業の合間にお屋敷拝見といった雰囲気だった。

  
カジノ・ルドヴィーシ(横から)          カジノ・ルドヴィーシ(正面から)

「カジノ・ルドヴィーシ」は「カジノ・オーロラ」とも呼ばれる。建物の玄関を入ってすぐの広間天井に、グエルチーノによる《オーロラ》(1621-23)が描かれているのだ。(グイド・レーニの《オーロラ》をかなり意識した作品だとか(^^;))

このカジノを含むヴィッラは、カラヴァッジョのパトロンであるフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿(1549-1627)が1596年に購入し、一時期住んでいたらしい。しかし、1621年にはルドヴィコ・ルドヴィーシ枢機卿に売却される。後にルドヴィーシ家がボンコパーニ家との婚姻を結ぶことにより、正式には「カジノ・ボンコパーニ・ルドヴィーシ」となる。


玄関脇には紋章が...。

かなり広大なヴィッラだったものの、今世紀になって区画整理とともに大部分が国に売却されてしまったようだ。残ったのは現在のカジノを含む小さな区画だけだが、丘から臨む一帯から当時の面影がそこはかとなく偲ばれる。


カジノの建つ小高い丘から臨む

カラヴァッジョのパトロンであったデル・モンテ枢機卿は科学にも興味を持ちガリレオとも親交のあった教養人である。当時の科学=錬金術の実験室として使っていた2階の小部屋の天井画をカラヴァッジョに描かせた(1597-98)。まぁ、普通はフレスコ画となるところだが、生憎カラヴァッジョはフレスコ画が描けなかったから、天井画は油彩である。観たところ色彩も鮮明に残っていて、グエルチーノの《オーロラ》よりも保存状態が良いように思われた。画像では灰色に見えるが、碧青色の空が印象的だった。もしかして修復したのかもしれない。

  
カラヴァッジョ《ジュピター・ネプチューン&プルート》     カラヴァッジョに似ている!

さて、見上げればクロノス3兄弟がむくつけき姿で描かれている(^_^;)。それにプルートはカラヴァッジョの自画像じゃないのか?よく似ているのだ。

その向かい合う3人の間には青い空と太陽。太陽には月が重なり、よく観ると春の星座が描かれていた。当時は占星術も天文学なのかな?とにかく、様々な象徴がこの絵の中に塗り込められているようだ。

・プルート(ハーデス)     アトリビュート:三頭犬(ケルベロス)  
                 宇宙の要素:土  固定 塩
・ネプチュウーン(ポセイドン) アトリビュート:三叉矛  
                 宇宙の要素:水  流動 水銀
・ジュピター(ゼウス)     アトリビュート:鷲    
                 宇宙の要素:空気 揮発 略硫黄

う~む、やはり下から眺めるとお下品かも(^^;;、なぁんて思いながら観ていたのだが、ガイドさんの説明によると、どうやらカラヴァッジョはジュリオ・ロマーノを参考にしたらしい。ミラノからローマに向かう途中、マントヴァに立ち寄ったのだろうね。

ということで、「レンピッカ展」でやや強引気味にジュリオ・ロマーノを登場させてしまったのだった(^^;;;

マントヴァ公フェデリーコ2世・ゴンザーガは愛人イザベッラ・ボスケッティ(ラ・ボスケッタ)のために離宮を建てた。このパラッツォ・デル・テの建築設計をジュリオ・ロマーノが担当している。特に内装のフレスコ画はマニエリスムの綺相的壁画として有名だ。ちなみに、「プシュケの間」ができる頃にはファデリーコがマルゲリータ・パレオローガと結婚、ラ・ボスケッタは追い出されてしまった(^^;
私はまだマントヴァに行ったことが無いので、ぜひ観たいと思っているのだが...。

  
ジュリオ・ロマーノ「太陽の間」天井画   「プシュケの間」天井画  Palazzo del Te(1526-1535年)

やはり、「カジノ・ルドヴィーシ」天井画の構図着想はジュリオ・ロマーノから得ているような気がする。似ているよね(^^;;;