花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

レオノール・フィニ展

2005-06-19 22:38:15 | 展覧会
昔『レオノール・フィニーの仮面』という本をちょっと眺めたことがある。不思議でデコラティヴな仮面が気になり、その作者の名前をずっと記憶していた。そのレオノール・フィニ(1907-1996)の作品展を渋谷東急Bunkamuraで観てきた。

フィニはアルゼンチン生れだが、1歳のころ、横暴な(?)父親から逃げるように母親がフィニを連れて故郷のトリエステに戻った。『母性』という過保護ママ的作品があるから、きっと一人娘のフィニは猫可愛がりされたのではないかと思われる。本当に小猫のようにキュートな美少女で、学校を放校されるほどやんちゃな性格だったようだ。しかし、当時、父親がさらいに来るという不安を抱えていたと本人は語っている。

さて、フィニには美術の才能があったようで、ミラノに出て肖像画家として身を立てる。そのころのお得意様は上流社会のマダムたちだったようで、意外に写実的でエレガントな肖像画を描いている。フィニの作品を観ているとイタリア・ルネサンスの優雅な色彩やフォルムをしっかり吸収しているような気がする。特に魅力的なのは彼女の絵の中で変容する色彩とも言うべき薔薇色の階調!
そうだ、薔薇色と言えばジャン・ジュネの肖像まで展示されていた。ジュネの目は哀しいくらい澄んでいる。

さて、猫好きのフィニは猫の目のように気分も変わる。ミラノではキリコやカルロ・カッラ等と知り合いになり、シュルレアリスムに走る。1930年代にはパリに行き、マンディアルグやエルンスト、アンドレ・ブルトン、アンリ・カルティエ・ブレッソン等と親しく交流するも、その性的自由奔放さからブルトンの怒りを買う事にもなったと云う。多分、当時の社会の中で女性として、画家としてのアイデンティティーを追求するのは並大抵のことではなかっただろうし、結局はナルシズムとう猫的な自己決着に辿り着いたのではないかなぁ、というのが私的感想だった。もちろん、これは一般的公式見解ではないのでお断りしておく。

私がフィニの一番魅力的だと思った作品は、逆毛を立てた自画像であり、『守護者スフィンクス』だったり、彼女自身或いは自己投影した作品だ。なんだか不安な自分をナルシズムに落とし込んでいるのではないか…などと感じてしまう。画面は写実的であり幻想的である。晩年に至るほど、内面的なものが孵化された象徴的作品となって現れている。

戦争後は鉱物の時代と呼ばれる抽象的画風に変わったり、また象徴主義的画風に変わったりと、めまぐるしい。その中で、舞台衣装のデザインや仮面を創作するなど、やはり彼女のセンスは並々ならぬものがあるし、パリ社交界でもカリスマ扱いされるほどアーティストとして素晴らしい働きをしたと思う。しかし思うに、彼女の創った一番素晴らしい作品は、結局レオノール・フィニという仮面を被った芸術家だったのではないか…と思ってしまった。