遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『最後の戦慄』    今野 敏   徳間文庫 

2014-01-10 09:27:13 | レビュー
 この作品は1989年7月に『ガイア戦記』として刊行され、文庫本化にあたり改題されたものだ。ガイアはギリシャ神話に登場する女神、地母神であり大地の象徴だが、ガイアは天をも内包した世界そのものをも意味するという(資料1)。著者は本書の冒頭ページで、大地の女神であることを述べたうえで、「イギリスの科学者J・ラブロックがこの名を『生きる地球』という意味に使い、環境用語として定着し始めている」と付言している。
 日経スペシャル「ガイアの夜明け」というシリーズで、ガイアという言葉が使われている。この2013年11月19日で第591回だそうである。2002年4月から番組がスタートしたようだ。全く次元は違うが、ここらあたりから「ガイア」という言葉をよく目にし始めたのではないだろうか。「ノーベル賞作家のウイリアム・ゴールディングが地球を指してガイアと呼んだことから『ガイア=地球』という解釈が定着している」とされる(資料2)。
 冒頭から余談話に入ってしまったようだが、著者は一歩先んじてガイアという言葉を利用していたのではないかと推測されるのだ。最初の作品タイトルと改題後のタイトルを結びつけるとこの作品のテーマ、スケールを暗示している。つまり、日本を軸に、地球規模での捜索と闘いが始まり、話が宇宙に及ぶSF要素をブレンドした作品だ。

 ストーリーは、レッドアメリカ地区(キューバ、ニカラグア地域)のジャングルで完全に子律している米陸軍特殊部隊に対する援軍および救出部隊が派遣される。だがそこでウェーバー大佐が発見したのは敵味方の区別のない死体の山だったというシーン描写から始まる。だが、場面は一転、中近東に飛び、世界中の主要紛争地域のテロ・ネットワークを掌握しているアブドル・カッシマーの住む「カッシマーの城」が襲われる話に展開する。のっけから地球規模のスケールの話となる。

 本作品の主人公はシド・アキヤマである。国籍不明の日系人であり、彼は世界最強の戦士の一人、テロリストと目されている。極限状態を耐え抜ける戦士である。テヘランでアブドル・カッシマーの死の報道を聴くが、彼は連絡役を通じてアブドル・カッシマーと接触する予定だったのだ。だが連絡役と会った後、彼に別のスポンサーの話に乗らないかと説かれる。そして日本に向かうことになる。スポンサーは日本政府。直接の窓口は内閣官房情報室の黒崎高真佐である。

 シド・アキヤマは黒崎から、レッド・アメリカの死体の山、カッシマーの城での惨劇の映像を見せられる。映像にはこれらの惨劇を引き起こした犯人の姿が映っていた。アラン・メイソン、ジョナリー・リー、トニー・ルッソ、ホーリィ・ワンの4人。きわめつけの優秀な傭兵であり、A級のテロリストだったが、死亡したとされていた連中だった。その連中が、彼らを捨て駒として扱ったアブドル・カッシマーを殺害したと言うのだ。
 黒崎はこの4人が宇宙、ラグランジュ点のひとつにあるスペースコロニーへ半死半生の状態で連れて行かれ、ゲンロク社によってサイボーク人間として生き返らせられたのだと推測している。ゲンロク社は人体のサイボーグ化において、人体にウェポン・システムを埋め込むことを実行できる最新鋭の科学力を有し、かなり有効な有機体コントロール・システムを完成している組織である。世界のテロ・ネットワークを掌握し、世界のテロリズムを独占しようとしていると図っているという。サイボーグ化された4人は、ゲンロク社のサバー・アーミーなのだ。
 黒崎はシド・アキヤマにこのサイボーク化した4人の戦闘能力を解析し説明する。その上で、黒崎はこの4人を狩ることをシド・アキヤマに依頼する。アキヤマは自分も命が惜しいとこの依頼を拒否するが、「失いたくないのはジョナ・リーの命ではないのですか?」と黒崎から質問される。そして黒崎からこの依頼を引き受ける代わりの交換条件を提示される。アキヤマは遂にこのミッションを引き受けることになる。

 日本政府は国際軍事力への配慮と役割分担として、情報戦と直接の犯人4人を狩ることでゲンロク社をターゲットにする陰の戦争を請け負うという立場なのだ。そこにシド・アキヤマが巻き込まれていくというストーリー展開である。アキヤマは黒崎と交渉の結果、15億の報酬とジャック・バリーと連絡が取れることで合意する。

 ジャック・バリーと連絡を取れることから、アキヤマによる4人狩りの戦略が始まって行く。アキヤマはまずチームを作ることからスタートする。
 ストーリーの舞台は、日本→アフガニスタン→ロサンゼルス→チベット→ベルフアスト→中国チベット自治区の首都ラサへと変転していく。そして、最後はスペース・コロニーにまで至るというスケールである。まさにガイアにおける戦闘ストーリーとなる。
 サイボーグ化され特殊な戦闘能力をもって蘇ったテロリストとシド・アキヤマが集めたチームとの闘いが、エンターテインとして一気に読ませるストーリーになっている。
 最後に、アキヤマが選び抜いたチーム・メンバーの氏名に触れておこう。ジャック・バリー、白石達雄、陳隆王、ギャルク・ランパである。
 これから先は、この作品のストーリー展開を読みながら楽しんでいただくとよいだろう。作品末尾の二文を記しておこう。

 シド・アキヤマの窓から太陽の光を受けて青く輝く地球が見えた。
 アキヤマはその美しい惑星をじっと見つめていた。
 

  ご一読ありがとうございます。


参照資料
1) ガイア :ウィキペディア
2) 日経スペシャル ガイアの夜明け :ウィキペディア
 日経スペシャル ガイアの夜明け :「TV TOKYO 50」
   メニューバーにある「バックナンバー」から過去の掲載をご覧ください。
 


人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)




徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』  集英社

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新2版




最新の画像もっと見る

コメントを投稿