遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ブラタモリ 11 成田山 目黒 浦安 水戸 香川(さぬきうどん・こんぴらさん)』角川書店

2021-05-15 15:26:27 | レビュー
 はるか昔に一度金比羅宮を訪れた。なぜか石段の方が記憶に残る。東京ディズニーランドも一度だけ。リピーターにはならなかった・・・・。ちょっと覗いた箇所が出てくるのでこのシリーズ第11弾を読み継いでみた。
 成田山は「ブラタモリ×鶴瓶の家族に乾杯」というコラボ実現というお正月スペシャルとして2017年1月2日放送のもの。目黒は2016年12月17日放送。浦安は2017年1月7日放送。水戸は2017年1月28日放送。香川の2つは、番組としてはそれぞれ独立した放送だったようである。さぬきうどんは2017年1月14日放送で、こんぴらさんは2017年1月21日放送。それぞれ単発番組として、テーマがぐっと絞り込まれている読後印象をもった。
 1月の放送内容が中心だが、本書は2017年12月の初版発行。監修はNHK「ブラタモリ」班である。映像番組を本の形式に構成し直すには、やはりそれなりに時間が必要なのだろう。

 本書の基本構成コンセプトは繰り返しになるがまずご紹介しておこう。
  *ブラタモリの番組放映のテーマについて、番組の流れに沿って論点を説明。
  *番組では語り尽くせなかった部分の補足説明(番組出演した研究者等のVOICE)
  *番組で採り上げた地域の観光スポットのガイド
  *同行アナウンサーの番組裏話 本書は近江友里恵さんのトーク
である。
 
 番組放送でのナレーション口調を感じさせる本文の流れ、タモリさんの番組での会話を感じさせる会話文の挿入などが、本書の読みやすさにつながっている。
 今回この第11弾から私が学んだことの大凡を覚書を兼ねてまとめてみた。ご紹介しよう。これらの内容が、写真やイラスト、地図を多用し、タモリさんの疑問を引き出しつつどのようなアプローチと展開で、ナットク!というエンディングに繋がるかが、やはり読ませどころといえる。

<成田山> テーマ なぜ成田山新勝寺は初詣客日本一の寺?
*成田山新勝寺は平安時代に平将門の乱を鎮めるための祈願を行ったことが起源。
 天慶3(940)年開山と伝わる。護摩祈祷はそれ以来1000年以上毎日続く行事という。
*新勝寺のかつての本堂は今は境内のお堂に。光明堂(1701年建立時点の本堂)、釈迦堂(1858年建立時点の本堂)。光明堂落成時の借金返済目的で江戸に「出開帳」。初代市川團十郎が出開帳に合わせて、お不動様を演じた歌舞伎を披露し新勝寺のご利益を宣伝。新勝寺で市川團十郎が跡継ぎ誕生を祈願し、成就した御礼。「出開帳」は大成功。
 最初の出開帳は元禄16(1703)年。深川永代寺境内にて。最後の出開帳は明治31(1898)年。現在、本尊の御開帳は10年に一度。直近は平成30(2018)年だった。
*新勝寺の参道は、台地が一旦谷に下り、先の台地の高い場所に位置する。「下がって上がる」そこに心理的効果が生まれる。
*明治時代に新勝寺が鉄道誘致の戦略をとり、2本の鉄道が開通した。初詣客数日本一に。
 成田鉄道が路線延伸、1898年に開通⇒1920年国有化、現JR。1926年に京成電鉄開通。
 かつては、成宗電車という路面電車が運行されていた。

<目黒> テーマ 目黒は江戸のリゾート!?
*江戸時代、目黒は江戸の範囲外だったが、中目黒村・下目黒村は例外的に町奉行所の管轄範囲だった。目黒不動尊の存在。目黒は目黒不動尊の門前町だった。3代将軍家光からのち徳川将軍家も深く信仰した。
*目黒不動尊の正式名称は瀧泉寺。大同3(808)年の開基。諸願成就の寺として人気あり
*江戸から日帰りで参拝できる観光名所、つまりリゾート地だった。
 江戸と同様の町並みが参道沿いに続いていた。
*目黒川に石橋の太鼓橋が架けられ、参道と行人坂を結んでいた。目黒川の東岸(行人坂)は目黒不動尊のある西岸の高台より約10m高く、行人坂上からの眺望が魅力的だった。
 目黒川東岸の傾斜地は、有力大名の別荘地が建ち並ぶリゾート地。富士山の眺望地。
 ⇒目黒雅叙園(現・ホテル雅叙園東京)の敷地は、熊本藩主細川氏の別荘地を継承。
*寬文4年(1664)に三田用水が整備された。生活用水であり、大名家別荘の庭園の水に利用された。庭園の滝やせせらぎの演出。
 ⇒目黒の高台に建つ防衛装備庁艦艇装備研究所内の実験用大水槽の水として三田用水の水の痕跡が残る。水道橋の一部遺構も残存する。この敷地は、幕府の火薬製造所の跡地。
*目黒は将軍の鷹狩りの狩場でもあった。当時、目黒界隈は「不動の森」と呼ばれていた
<浦安> テーマ なぜ浦安は”夢と魔法の町”になった?
*浦安は千葉県北西部、旧江戸川の河口に位置する漁師町だった。魚介類の産地。
 江戸時代、旧江戸川から運河の新川、小名木川をたどり日本橋の魚河岸と繋がっていた
 豊富な貝類の貝漁が浦安を富ませた。明治40(1907)年頃から貝の養殖がスタートした
  ⇒10万坪に及ぶ貝の養殖場、明治末年以降、空前の貝漁で賑わう
 明治19(1886)年に深川・越中島先で大塚亮平と田中徳治郎が海苔養殖をスタートさせ
 明治31(1898)年には、浦安地先の海での養殖許可を取得。海苔も浦安の名産品に。
*製紙工場からの排水「黒い水」事件で漁業は壊滅。昭和46(1971)年に漁業権放棄。
  ⇒遠浅の海(干潟)が2回に渡って埋め立てられ、多くは住宅地として開発。
   東京への通勤、マイホームブームに対応して発展。「浦安富士」は一つのシンボル
  ⇒旧江戸川河口の三角州に東京ディズニーリゾートが造られた。
   園内から外が見えないという環境が造れるエリア:夢と魔法の王国の形成が可能

<水戸> テーマ 水戸黄門はなぜ人気があるのか?
*水戸藩の「節約」精神 ⇒水戸藩は大赤字藩。水戸城は石垣がなく、土塁と堀の城。
 あるものを最大限活用する精神
  ⇒佐竹氏時代の水戸城をそのまま継承。谷の地形を活用し西側に2つの掘を掘削。
*城の東側の低湿地の埋め立てで城下町を拡大。光圀は笠原水道を1年半で完成させた。
 城下町から南へ3km、台地のキワに笠原水源。約10kmの暗渠、石の水道管でつなぐ。
 笠原水道は昭和7(1932)年まで、約270年間水戸城下を潤し続けた。
*光圀は『大日本史』編纂に着手。約250年後に完成。全402巻。全国の藩校の教材に。
*9代藩主斉昭が光圀の遺志を継ぎ藩校「弘道館」を造る。
 偕楽園も造った。もとは弘道館で学ぶ藩士のための教育施設。竹林(陰)と梅林(陽)
  ⇒偕楽園の竹林と梅林で陰陽の世界観を順序立てて体感。「一張一弛緩」の教育方針
*光圀は日本で最初に発掘調査(栃木県大田原市の侍塚古墳)をした。遺物は埋め戻す。
<香川> 
テーマ1 なぜ”さぬきうどん”は名物になった。
*コシ⇒表面の口当たりはやさしく、噛むと歯に吸い付くような弾力と粘性のある感じ
 丸亀市を含む讃岐の”中讃”はコシが売りの有名店が集中。地形と地質に理由あり。
*花崗岩質の四国山地と中央構造線の断層活動でできた讃岐山脈が香川を少雨の県に。
 土器川が作った扇状地は、米栽培には不適だが、上質の小麦が育つ地域として有名に
 讃岐の塩田の存在。塩は弾力性のあるタンパク質「グルテン」の形成を助ける。
  ⇒さぬきうどんでは小麦粉の量に対して3%以上の塩を使用。茹でるときに塩は溶出
*かつて宇多津は入浜式塩田で日本一の塩の町。塩田の石垣が製塩の痕跡として残る。
*さぬきうどんの発祥地は綾川町の滝宮地区。平安時代は讃岐の中心地。国府は滝宮の北に。
  ⇒綾川は水量が多く、製粉用の水路が川に造られた。平安時代前期には水車が存在
   滝宮の地形は綾川の渓谷の入り口。河床が花崗岩の地質で水が浸透しない。
*滝宮天満宮の横にはかつて寺・龍頭院があり、初代住職は智泉。空海の甥。唐から戻った空海が智泉に小麦粉を練って茹でた食べ物の作り方を教えたという伝承がある。
*滝宮は金比羅参詣の最後の宿場で門前町で交通の要衝地。江戸時代末期には宿屋6軒に対しうどん屋11軒があったという。さぬきうどんがみやげ話として全国に伝わる。

テーマ2 人はなぜ”こんぴらさん”を目指す?
*金比羅宮は象頭山(琴平山)中腹に本宮が建つ。表参道から本宮までの高低差約150m。
 海上安全交通の守り神。五人百姓のみが売ってよい扇形の「加美代飴」で有名。
 象頭山は不完全なメサ地形(花崗岩の上に安山岩が重なる)で、本宮は2種類の地質の境目の中腹に位置する。それより上は地面が硬く崖も急で大きな建物は建てられない。
*こんぴらさんが特に賑わったのは江戸時代から。瀬戸内海の船乗りが信仰を広めた。
 江戸時代、多いときで年間500万人の参拝者。現在は年間300万人の観光客。
 全国からの奉納品(玉垣)で直線だった参道をクランク状の参道に変えさせる事態に。
 船から海にながされた奉納の酒樽「流し樽」。かつては「こんぴら狗」の代参も。
*門前町に「俗」の楽しみ:芝居小屋「金丸座」の歌舞伎とここでの月2回の富くじ。
*かつて琴平には4本の鉄道ルートがあった。今は2つ(JRと琴電)に。

 全く知らなかったことがたくさんあり、興味深く読めた。知識ゼロだった事項の例を列挙してみよう。光明堂・釈迦堂の建物のこと、行人坂、三田用水、黒い水事件、段差道路、水戸城、笠原水道、さぬきうどんの発祥地、「浜飼い」作業、流し樽、こんぴら狗、・・・・・あげて行けばきりがない。今回も楽しく学べた。

 ご一読ありがとうございます。

本書からの波紋で、関心事項を少しネット検索してみた。一覧にしておきたい。
本山成田山新勝寺  ホームページ  
  成田山のお不動さまとは
  市川團十郎と成田山のお不動さま
泰叡山護國院 瀧泉寺(通称:目黒不動尊) :「天台宗東京教区」
目黒不動堂 <3巻7冊59>   :「江戸名所図会を読む」
太鼓橋   <3巻7冊52>   :「江戸名所図会を読む」
徳川十三代将軍御鷹野之図  :「板橋区立郷土資料館」
江戸自慢三十六興(目黒行人坂富士) :「国立国会図書館デジタルコレクション」
三田用水  :ウィキペディア
ブラタモリ 浦安ロケ地マップ :「浦安サンポ」
本州製紙工場事件  :「浦安市」
本州製紙江戸川工場汚水放流事件 浦安の歴史 :「浦安サンポ」
浦安富士 浦安遺産  :「浦安サンポ」
偕楽園 ホームページ
水戸城跡  :「水戸観光コンベンション協会」
笠原水道  :ウィキペディア
笠原水道  :「まいぷれ Mito」
侍塚古墳(さむらいづかこふん) 国指定史跡 :「大田原市」
滝宮天満宮  ホームページ
龍燈院跡  :「グルコミ」
エブリバディ、コンピラサン。  讃岐金比羅宮ウエブサイト
旧金毘羅大芝居「金丸座」  :「琴平町観光協会」
こんぴらさん~流し樽  みちしる  :「NHK」
JMTES練習船日本丸で「金比羅宮流し樽奉納式」を挙行! 2017.10.27:「海技教育機構」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『ブラタモリ 1 長崎 金沢 鎌倉』 角川書店
『ブラタモリ 3 函館 川越 奈良 仙台』 角川書店
『ブラタモリ 4 松江 出雲 軽井沢 博多・福岡』 角川書店
『ブラタモリ 6 松山・道後温泉 沖縄 熊本』 角川書店
『ブラタモリ 7 京都(嵐山・伏見)志摩 伊勢(伊勢神宮・お伊勢参り)』 角川書店
『ブラタモリ 8 横浜 横須賀 会津 会津磐梯山 高尾山』  角川書店
『ブラタモリ 10 富士の樹海 富士山麓 大阪 大坂城 知床』  角川書店
『ブラタモリ 13 京都(清水寺・祇園) 黒部ダム 立山』  角川書店
『ブラタモリ 15 名古屋 岐阜 彦根』  角川書店
『ブラタモリ 16 富士山・三保松原 高野山 宝塚 有馬温泉』  角川書店



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