遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ブラタモリ 10 富士の樹海 富士山麓 大阪 大坂城 知床』  角川書店

2021-01-12 14:19:48 | レビュー
 「ブラタモリ」はNHKの定番番組になっている。数年前にあるところで雑談していてこの番組のことを聞き、それ以来興味を持ち、土曜日の放映を見始めた。その番組の内容が本にまとめられている。本の出版について知ったのは遅ればせながらつい先日だ。手に取った最初の本がこれ。シリーズの第10弾である。標題の一行が長くなるので省略したが、本書はNHK「ブラタモリ」制作班の監修による出版である。
 インターネットで調べてみると、現時点(2021.1)で第18弾まで出版されていて、一番最初が2016年7月、本書が2017年9月。最新の第18弾は2019年3月の発行のようだ。

 番組放送の内容を視聴すると、探訪先の現場レポートが臨場感に溢れているし、現地の風景に見とれたり、画面の特定の対象に目が行ったりして、その場面での説明を聞き逃したり、即座に理解できなかったりすることがしばしばある。番組放送は流れていくので、後戻りできない。
 勿論、その気なら自分で録画もできる。インターネットで調べると、ブラタモリの動画を有料のオンデマンドでも見られるシステムがある。後で動画を見ることもできるようになっているので、その気であれば動画次元での再確認の手段はある。

 だけど、である。音声と画面に表示される文字だけで視聴するのと、本として活字化され、写真やイラストなどが掲載されたものとの違いがやはりある。本では番組放送視聴の臨場感には欠けるが、その内容をじっくりと理解するのには便利である。なにせ番組意図の要点、エッセンスが編集されて簡潔な文章で説明されているので、理解が促進される。本の利点は一部文字入り・音声付き映像と違って、時間に沿って流れないことにある。ページの説明文の途中で立ち止まり考えたり、関連個所に後戻りしたりすることが手軽にできる。マイペースで読み進めることができる。読み過ごしてもすぐに立ち戻ってすばやく確認できる。
 この本で言えば、5つの番組分のエッセンスが135ページの中にコンパクトに収録されている。人名や専門用語とそれらの補足説明などが確実に読める点、並びに掲載された地図をじっくりマイペースで見ることができる点が長所である。
 本に所収の説明入り地図と、インターネットで地図を検索して、詳細地図と対比しながら現場付近の情報を読み進めるとおもしろさが加わる。

 さて、この第10弾では、富士山周辺と大阪と知床がまとめられている。ブラタモリ番組を本として読み、再確認・再認識した大凡の要点を箇条書きでご紹介しておきたい。後は、本を開いてご理解を深めていただくか、改めて動画をご覧いただければ、番組内容を二度楽しめることだろう。
 以下のまとめは、私自身のための覚書でもある。

<富士の樹海>
*富士北西麓には緑の森が広がるが、「青木ヶ原樹海」はその内の一部でしかない。
*青木ヶ原樹海は富士山の北西麓、大室山に近い面積にして30㎢のエリア部分をさす。
*樹海でも方位磁石は有効。磁石が狂うのは磁鉄鉱を含む強い磁気を帯びた石のそばだけ。
*溶岩でできた樹海は高低差がほとんどなく傾斜がわからないのが方角を見失う原因。
*青木ヶ原樹海は「貞観」の大噴火(1100年前)で流出した溶岩上にできた針葉樹林域。
*赤色立体地図が貞観噴火の実像を解明した。溶岩量は史上最大。地図の発明者は千葉達朗氏。

*風穴は溶岩流がつくった天然の保冷施設。富士風穴約200mは蚕卵の貯蔵施設に利用。

<富士山麓>
*山梨県富士吉田市の「吉田ルート」を富士登山者の6割が利用。原点は江戸時代の「富士講」
*金鳥居が入口の上吉田は御師が暮らし、富士講の登山者に対応。食事・宿の提供と神事。
*上吉田は雪代対策として、古吉田の町割をそのまま大胆に90度、町を回転させて移転。
*上吉田は吉田大沢から雪代でできた2本の谷がのびるその間に元亀3年(1572)に移転。
*上吉田は忍野村との境、桂川から溶岩の下を堀り用水路を築くことで町が繁栄した。
*江戸時代の富士講は、戦国時代の修験者・角行⇒月行⇒身録の系譜により推奨された。
*身録の説いた江戸時代の富士講は四民平等と男女平等を説いた庶民のための教えだった。

<大阪>
*上町台地が大阪発展の基盤。その北端寄りに大坂城が位置した。信長がその立地を見抜く。
*古代、台地の周囲は一面の海。土砂が堆積し湿地が出来る。大阪の拡大は埋立開発が主体。
*秀吉は地形に沿い直線的な町割りで両側町を形成。東から西への太閤下水を整備した。
*豊臣政権の公共事業・町づくりはかつての西横堀川まで。その以西の町づくりは民間事業。
*大川にある中之島を中心に、江戸時代には全国各地の130藩余の蔵屋敷が存在。物資が集積。
*船は主要な交通手段だった。大阪は水運の要衝地。渡辺津、難波津、八軒家浜。

<大坂城>
*今の大坂城の城郭は徳川家康の城。秀吉の大坂城はその土の下に埋もれている。
*秀吉時代の大坂城は地形を巧みに利用した難攻不落の惣構の城だった。三方水堀。南は空堀。
*天守前の本丸広場に深さ7mの空井戸が存在。その底に焼け焦げた秀吉の城の石垣が実在。
*真田丸こそが秀吉の城の南の防御のカナメだった。心眼寺坂付近に空堀の痕跡がわずかに残る。
*徳川幕府の大名たちですら家康の再興大坂城を秀吉の城だと誤解して伝えた記録が残る。

<知床>
*知床半島は世界自然遺産に登録された。この自然環境が残るのは火山活動の賜物である。
*港町ウトロの語源はアイヌ語「ウトゥルチクシ」(間を通るところ)といわれる。
*生物多様性が維持され、海と陸の生物が密接につながる食物連鎖の生態系が維持されている。
*知床半島の断崖絶壁は火山から流れた分厚い溶岩による。海面付近に柱状節理が見られる。
*知床は、海底の地層が押し上げられ海底火山により生まれた火山の半島。
*知床半島の地形が南下する流氷を堰き止め、流氷の含む豊かな栄養素が知床の生態系に寄与。
*半島東側の急峻な水深2000m以上となる海底地形が多種多様な魚を育む。羅臼は魚の城下町。
*世界遺産の内側と外側では地質が違う。幌別橋が世界遺産の区域に架かる橋。
 内側は陸上火山のマグマによる台地。外側は海底火山の活動でできた水冷破砕岩が土壌化した。

 注釈の記された地図がやはり、ブラリと現地を探訪する気になれば大いに役立つことと思う。観光にも役立つ情報が各地域の末尾に簡単に紹介されている。富士の樹海なら「青木ヶ原ネイチャーガイドツアー」、富士山麓なら見どころ個所の紹介。大阪はハルカス300とやはり大阪の食べ物。大坂城は現在の大阪城の見どころ個所。最後の知床は、見どころ個所と2つのクルーズ(知床半島クルーズ、野性動物クルーズ)。
 これらは、本という別媒体により「ブラタモリ」の二度目を楽しむという主旨だからできることだろう。

 ご一読ありがとうございます。


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