遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『おんなの日本史修学旅行』 花房観音  KKベストセラーズ

2013-08-15 10:30:28 | レビュー
 著者は女流作家兼現役バスガイドだとプロフィールに書いている。
 女流作家の方は、2010年『花祀り』にて第1回団鬼六賞を受賞して、作家デビューしたそうだ。団鬼六は何となくイメージがある。本著者のデビュー作は未読だ。近いうちに読んでみたい。奥書のプロフィールによると、「現在もバスガイドを務めながら、小説からエッセイ、AVレビューまで執筆をする」とのこと。
 「はじめましてのご挨拶」つまり、まえがきによれば、京都市在住で普段は作家活動との二足の草鞋で数年前からバスガイド業を行い、主に修学旅行生に京都・奈良を中心に案内しているそうである。
 著者は日本史が好きでバスガイドの勉強をしていて、観光客にバスガイドとしては公式に話せない類のことをいろいろ発見したという。「おもしろいのに、エロいから話せないあんな話やこんな話。喋ったらクレームが来てしまうであろう、先生に怒られちゃうであろう『エロ日本史』。そういった話を自分の中だけでとっておくのは非常にもったいないな」という思いからできたのがこの本だと記している。本職バスガイドではいたって真面目に案内しているそうだ。「修学旅行生には話せない、日本史エロ案内」とおっしゃっている。これだけで、読んで見ようかという気になるのではなかろうか。本書タイトルはバスガイド業の表向き表題である。ただし、表紙イラストのバスガイド嬢の姿態がちょっと暗示的である。表題の続きに「エロ案内」の四文字をつけると、この本らしくなる。
 しかし、単にエロ・グロに堕しないところが「日本史修学」という言葉を冠している由縁だろう。エロっぽい発見がふんだんに蘊蓄を傾けて語られているが、ちゃんとバスガイドとして日本史の史実は押さえて説明を行っている。表の側面もちゃんと部分「修学」できる配慮がなされている。意外とこんな切り口から、日本史への関心が高まるのかもしれない。歴史事実をどう読み込むか、まさに興味の尽きない知的(痴的)好奇心の源泉だ。

 まず、目次構成の柱をご案内しよう。
  花房流・京都案内
  花房流・妄想対談 「光源氏のセックスを斬る!」
     出演 源典待、紫の上、六条御息所、女三ノ宮
  閑話休題 (付記:ここはバスガイドさんのお仕事関連裏話)
  花房流・奈良案内
  花房流・そこかしこ案内
  花房流・妄想対談 「戦国武将、お好きなAV(アダルトビデオ)を語る」
     出演 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康
という風に、京都・奈良を中心に少し周辺もご案内の対象になっている。

 「花房流・京都案内」の冒頭は、京都観光に来た人なら絶対に目にする京都駅前の「京都タワー」。それ自体に1ページがあてられている。最初に公式のバスガイド流説明がちゃんと記されている。高さ(131m)、何時つくられたか(昭和39)、もともとは「灯台」をイメージして作られていて、東本願寺に近いので「お東さんのろうそく」とも呼ばれているという事実説明。そこから、著者の妄想がはじまる。ところで、ホントは何に見える?って、エロっぽい話になっていく。何事にも表には裏がある。これでオトナとしてはバランスがとれるねって、とこだろうか。
 いや、やはりそう言われてみれば、そうだよなぁ・・・・と、なる下ネタのオチがついている説明がおもしろい。聖人君子はこの本を手にしない方がよろしかろう。妄想の迷路に迷い込まないために。と言えば、逆に読みたくなるのが人の性・・・・。

 言葉は記号であり、その記号に意味づけして解釈するのが人間だ。言葉を抽象的、神秘的に受け止め解釈論を展開することもできれば、人間の卑近な営み、行動に惹きつけて等身大ベースで解釈が可能な場合も多い。古事記におけるイザナギとイザナミの出会い、国造りもまさにそうである。
 著者はまあ自らを基準に普通の人間の具体的な思いや妄想を膨らましていく。常識的な解釈・理解を試みれば、結構下ネタにむすびつくね、ということを、日本史修学の一方で、おもしろく忘れないように旅行案内してみのだ。

 京都案内を例に、案内場所・項目の正式な名称を列挙してみよう。
 上賀茂神社・下鴨神社、三条河原、京菓子(おまんじゅう)、七味とうがらし、法金剛院、女坂、清水寺随求堂(胎内めぐり)、江文神社、随心院、五条大橋、新熊野神社、東福寺の東司、太秦映画村、円町、チンチン電車、貴船神社、酬恩庵(一休和尚晩年の寺)
 これらの名所ほかが、著者の妄想、いや具体的事実の語られざる側面を著者流に追及して、語ってみればエロい話、下ネタに結びつくのである。よくご存じの一例だけ挙げれば、随心院ー小野小町-穴なし伝説、という世間の裏話風に。もちろん、これも話材の一つである。それをまああっさりと表に出してきた。勿論、そこに著者の解釈・妄想、語りがおもしろくトッピングされているという次第。

 「光源氏のセックスを斬る!」という花房流・妄想対談。未だ源氏物語を読了せず、解説本などで大凡の内容を知っているにしかすぎない者の印象なのだが、出演者、源典待、紫の上、六条御息所、女三ノ宮の話す内容は、ちゃんと源氏物語の本文の裏がとれていると思う。勝手なでたらめ話の妄想ではなさそう。テーマのような切り込みで、下世話に話せばこうなるよね・・・・そんな対談に仕上がっている。実におもしろい。
 「戦国武将、お好きなAV(アダルトビデオ)を語る」は、もし、今信長・秀吉・家康が生きていたらどんなAVが好きかという戯れ話。だけどこの三人の性格、特質がでていておもしろい対談妄想になっている。

 奈良案内と周辺案内の項は割愛しよう。話せば長くなる。本書を開いて楽しんでいただければよい。

 「あとがきにかえて」というところ。見出しの最初の言葉が「勝絵」である。「勝絵~あとがきにかえて~」となっている。私は本書でこの「勝絵」という言葉を初めて知った。
 この勝絵という単語、手許にある日本語大辞典(講談社)、大辞林(三省堂)には載っていない。広辞苑・初版(岩波書店)には、「勝負事を描いた絵で、鳥羽僧正の作と伝える戯画の絵巻物が有名」という一面の語義だけが載っている。勝絵をちゃんと理解できた人はかなりエロい人かも・・・・。ネット検索すると、ちゃんと語義の一つとして説明しているのがあった。ご存じでない人は、妄想を働かすか、ちゃんと推測するか、ネット検索するか、本書を開くか、ご自由に。ネタばらしは回避しておこう。楽しみが減るだろうから。

 最後に、このあとがきに記載の著者の文をご紹介しておこう。ここにまあ、著者の見方が凝縮されていると思えるので・・・・。あとがきには、著者のこれまでの人生体験記が簡略に記されてもいる。

 ”そしてバスガイドの仕事の上で日本史を学んで、様々な歴史上の人物達の、「エロこぼれ話」を発見すると、嬉しくなりました。なんや、みんな同じやんか、豊臣秀吉も徳川家康も、『古事記』に登場する神様も、初代内閣総理大臣の伊藤博文も、みんな同じ、スケベな人間やんけって。人間って、スケベでアホで、どうしようもないやん。みんな、同じ、ちんこまんこなんだよって。
 だから裸の自分を許しなさい、と。そのまんまの自分を許したれよ、と。”(p252)

 もう一つ、本文中でのこの記述も著者の考え方を的確に表現していると思う。
 「・・・・だけど事実だから・・・・歴史に目を背けないでっ!!
  歴史って、本当はエロくってグロいのっ!!
  でもだからおもしろいの!!」(p180、付記:欽明天皇を中心とした人間関係から)

 史実知識の表向きでは語られないに下ネタ話の側面について既知のものがいくつかあったが、それすら著者独特の語りくちに引きこまれて面白く楽しく読了した。


 ご一読ありがとうございます。

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京都案内の冒頭に載っている場所の表の説明をいくつかネットで拾ってみた。

京都タワー :ウィキペディア
たわわちゃん:「ご当地キャラカタログ」

神話・伝承 :「下鴨神社」
 「次を玉依日賣と曰ふ。玉依日賣、石川の瀬見の小川に川遊びせし時、丹塗矢、川上より流れ下りき。乃(すなは)ち取りて、床の邊に插し置き、遂に孕みて男子を生みき。」 この引用箇所はサイトのページの内容の最後に近い辺りに載っている。

三条河原 :「実は恐い怖い京都の裏観光情報!」
秀吉 豊臣秀次の女子供39名を処刑 京都・瑞泉寺.wmv :YouTube

京都和菓子 :「コトログ京都-和菓子-」
清浄歓喜団 :「亀屋清永」


著者のブログ: 花房観音 「歌餓鬼抄」


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1 コメント

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今後がたのしみ! ()
2013-09-01 17:00:01
新作「おんなの日本史修学旅行」はついつい読んでしまいました。
上品ではないですが、面白かったです!

birthday-energy.co.jp/
ってサイトは花房さんの本質にまで踏み込んでましたよ。才能が生かされているところに良さが出てるんだとか。今後に期待です!
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