遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『利休にたずねよ』 山本兼一 PHP文芸文庫

2020-05-06 11:15:20 | レビュー
「利休にたずねよ」に対して、
利休は、結局
秀吉に答えなかった。

利休の侘び茶は枯れることなく、その底に熱を秘め、艶がある。
その真因を突き止めたい秀吉のあくなき欲望に対し、
利休は怒りとともに切腹を受入れた。

天正19年2月の「死を賜る」日を起点に、物語は過去へ過去へと遡っていく。

遡及していくタイム・ポイントで焦点をあてられた人物が、
利休の茶の美の追究あるいはその考え・行動に関わっていく。
それらのエピソードが描かれ、積み重ねられていく。

それは、あたかも点描派画家の描く一点一点が、
独立していながら
絵を構成する必須の要素としてつながっていくようである。

そこに、利休の茶を究明する広がりと奥行きが生まれている。

時は、与四郎(利休)19歳の「恋」にまで遡る。
その恋の結果が
「利休の茶の道が、寂とした異界に通じてしまった」
という発想と展開はユニークで新鮮だった。

利休秘蔵の小さな緑釉の香合がストーリーを貫く黒子。
しかしその香合は、
切腹の当日に時が戻る物語の最終章で、
利休の妻・宗恩が擲ち砕いてしまう。

そこには宗恩の女の想いが凝縮されている。

緑釉の香合に仮託した千利休への著者のロマンを感じる。


[付記] 
グーブログで読後印象記を書き始める前に、一時期アマゾンに読後印象記を投稿していた。その当時投稿した記録から、本の幾つかをチェックしてみると、今も掲載されているものがある。上記の読後印象記をチェックしてみたが、こちらは削除されたようだ。その時の原稿(2008/12時点)を保管していたので、再録しておきたい。(表示スタイルを変更、一部語句修正のみ)
千利休関連小説の読後印象記を残した手始めだった思い出と、茶の世界関連での読書印象記をここに一元化したいために・・・・・。

これまでに、茶の世界に関連した本を断続的に読み継いできています。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。

=== 小説 ===
『利休の闇』 加藤 廣  文藝春秋
『天下人の茶』  伊東 潤  文藝春秋
『宗旦狐 茶湯にかかわる十二の短編』 澤田ふじ子  徳間書店
『古田織部』 土岐信吉 河出書房新社 
『幻にて候 古田織部』 黒部 享  講談社
『小堀遠州』 中尾實信  鳥影社
『孤蓬のひと』  葉室 麟  角川書店
『山月庵茶会記』  葉室 麟  講談社
『橘花抄』 葉室 麟  新潮社

=== エッセイなど ===
『千利休 無言の前衛』  赤瀬川原平  岩波新書
『藤森照信の茶室学 日本の極小空間の謎』 藤森照信 六耀社
『利休の風景』  山本兼一  淡交社
『いちばんおいしい日本茶のいれかた』  柳本あかね  朝日新聞出版
『名碗を観る』 林屋晴三 小堀宗実 千宗屋  世界文化社
『売茶翁の生涯 The Life of Baisao』 ノーマン・ワデル 思文閣出版

「遊心逍遙記」として読後印象を掲載し始めた以降に、今は亡き山本兼一さんのこんな作品を読み継いできます。こちらもご一読いただけるとうれしいです。
『利休の風景』 淡交社
『花鳥の夢』 文藝春秋
『命もいらず名もいらず』(上/幕末篇、下/明治篇)  NHK出版
『いっしん虎徹』 文藝春秋
『雷神の筒』  集英社
『おれは清麿』 祥伝社
『黄金の太刀 刀剣商ちょうじ屋光三郎』 講談社
『まりしてん誾千代姫』 PHP
『信長死すべし』 角川書店
『銀の島』   朝日新聞出版
『役小角絵巻 神変』  中央公論社
『弾正の鷹』   祥伝社


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