遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『デッドエンド ボディーガード工藤兵悟』  今野 敏  角川春樹事務所

2012-10-11 01:26:18 | レビュー
 私にとっては、今野作品でまた新たなキャラクターを見つけたなという感じである。フランス外人部隊を除隊して日本に帰国し、警備保障会社から仕事を回してもらうボディーガードの工藤兵悟。これが第一作なのかどうか、調べていないので定かではない。私にはこれが工藤兵悟との出会いだ。
 武闘ものエンターテインメントとしては楽しめる作品に仕上がっている。

 大きくとらえると、二部構成の作品。その前半から後半へのつながり方がおもしろい。それをつないでいくのがロシアの組織とテロ組織。前半は日本が舞台で、後半はロシアが舞台という設定である。フランス外人部隊、KGB、FSB、GRU、SVRなど既存の組織をうまく背景に取り込み、フィクションが紡がれていく。こんな設定、ありそうな・・・・という気にさせる。

 工藤の携帯電話が鳴る。マキシム・ミハイロフから聞いたとして工藤にかかってきた電話だ。マキシムは紛争が泥沼化していたチェチェンで工藤が知り合った人物。ロシア軍除隊後は工藤同様バディーガードなどをしていた。マキシムをボディーガードとして雇っていたと称する人物が、日本滞在中は工藤にボディーガードを依頼したいという。命を狙われているのだという。ボディーガード料として一日百万円払うと約束する。マキシムは日本で信頼できるのは工藤だけだと言っていたからだとか。
 依頼人のコンスタンチン・カジンスキーは、ロシアのマフィアに狙われているのだという。そして、ウラジオストクの自宅でボディーガードとして雇っていたマキシムが刺客に殺されたというのだ。それも昼間に。その刺客、暗殺者の名前はわかっている。ヴィクトル・タケオビッチ・オキタ。父親が日本人だったので、日本人に近い顔立ちをしているそうだ。
 カジンスキーの依頼を一旦保留し、傭兵時代の仲間のネットワークで調べた後、工藤はカジンスキーのボディーガードを引き受ける。最大限7日間の日本滞在中のボディーガードが工藤の任務になる。工藤は米軍関係者である知人から拳銃を借用する。そして、ホテルでのカジンスキー24時間警備が始まる。

 本書の前半の読みどころは、工藤がボディーガードとしてどういう警備をするか、その用意周到な行動、細心の注意力と欠かさぬ手順、警備への緻密さを描いていくところだろう。そしてカジンスキーの日本滞在の目的には関知せずの方針をとりながら、徐々にその目的を知っていくプロセスである。
 ボディーガード任務の途中で、工藤はヴィクトルと遭遇する。そのヴィクトルはなぜか工藤に敵意を示さない。逆に、マキシムはボディーガードの任務の後、雇い主のカジンスキーその人に殺されたのだぞ、と工藤に伝える。これは工藤に対するヴィクトルの心理作戦なのか・・・・・。ヴィクトルとの遭遇を境に、工藤の意識も変化していく。雇い主カジンスキーと暗殺者ヴィクトルに対する工藤の心理的対応が複雑になっていく。
 カジンスキーが日本で最後に会うのが、ロシアの駐在武官として日本に滞在するレオニード・シモノフだった。カジンスキーはシモノフのことを、敵じゃなく悪友だという。二人の会食の席で任務につく工藤は店でヴィクトルを再び見出す。二人の眼が合った。店から出るヴィクトルを工藤は追う。
 カジンスキーと工藤のボディーガード契約がどう終結するか、ここがおもしろいところ。

 後半は、シモノフが大きく関わって来る。ヴィクトルが工藤に協力を依頼し、工藤を雇う立場になる。ヴィクトルの相棒の女性エレーナの救出作戦が課題となる。モスクワ近郊の別荘地にあるダーチャに軟禁されているという。それはシモノフのダーチャなのだ。それを警備するのは、ザスローン部隊の隊員なのだとか。
 ヴィクトルはアフガン戦争後、陸軍に入隊。すぐにKGBにスカウトされ、グループ・ヴィンペルに所属していた経歴の持ち主。ザスローン部隊はグループ・ヴィンペルの後継部隊といわれているのだ。
 工藤はまず短時間でロシアの交通事情をマスターすることから始めなければならなかった。
 この後半の結末もちょっと意外性を持っている。こんな結末もあり、なのか。

 KGB、FSB、SVR、グループ・ヴィンペルなどの組織と登場人物との関連づけは浅いものだが、この作品の雰囲気づくりとしては程よく取り込まれているように感じた。副次的に拳銃の手入れとはこういうもので、こんな手順でやるものなのかということがわかり興味深い。著者はこういう部分を、どういう資料、情報、資源を使い文章として描き込んでいくのだろうか・・・・どこかで体験してみるのだろうか。知りたいものだ。


ご一読、ありがとうございます。

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 本書に出てくる語句で、気になるものの事実情報を検索してみた。リストにまとめておきたい。

フランス外人部隊 :ウィキペディア
  新たな人生のための新たなチャンス :「外人・求人」
  French Foreign Legion FIGHTING & TRAINING [Eng sub](10-10)
外人部隊入隊マニュアル :「外人部隊へ行こう!」
  フランス外人部隊従軍記 :同上
第2外人落下傘連隊 :ウィキペディア
銃砲刀剣類所持等取締法 (昭和三十三年三月十日法律第六号)
KGB ← ソ連国家保安委員会 :ウィキペディア
FSB ← ロシア連邦保安庁  :ウィキペディア
GRU ← ロシア連邦軍参謀本部情報総局:ウィキペディア
SVR ← ロシア対外情報庁  :ウィキペディア
ヴィンペル部隊 :ウィキペディア
ザスローン部隊 :ウィキペディア
9x19mmパラベラム弾  :ウィキペディア
H&K USP :ウィキペディア
 ヘッケラー・アンド・コック公式サイト
Nシステム ← 自動車ナンバー自動読取装置 :ウィキペディア
ブラックジャック (武器) :ウィキペディア
 Baton (law enforcement) :From Wikipedia, the free encyclopedia
ISS ← 国際宇宙ステーション :ウィキペディア
ソユーズ :ウィキペディア
キリル文字 :ウィキペディア
  キリル文字一覧 :ウィキペディア
サリャンカ ← ソリャンカ:ウィキペディア
  サリャンカのレシピ(ロシアスープ) :「Kanon's Bar」
マカロフ PM    :ウィキペディア
9x18mmマカロフ弾 :ウィキペディア
ワルサーPP :ウィキペディア
アサルトライフル :ウィキペディア
自動小銃     :ウィキペディア
マズルフラッシュ(発火炎) → フラッシュサプレッサー :ウィキペディア
ショットガン → 散弾銃 :ウィキペディア
コンポジション 4 ← C-4 (爆薬) :ウィキペディア
ブッシュミルズ :KIRIN


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 本書の前に、以下の作品の読後印象も載せています。
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『隠蔽捜査4 転迷』
読書記録索引 -3  フィクション:今野 敏、堂島瞬一
 索引-5 の下の方にこのリストが載っています。



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