遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ブラタモリ 14 箱根 箱根関所 鹿児島 弘前 十和田湖・奥入瀬』 角川書店

2021-05-19 10:40:49 | レビュー
 鹿児島県内は毎年数回仕事で出張した時代があった。その頃、仙厳園や桜島を一度訪ねた記憶がなつかしい。鹿児島の番組は当日放送を見ていたので、今回良い復習にもなった。やはり本の良さは、行きつ戻りつしながら、マイペースで緩急自在に読めることである。今回も知らない土地について興味深く読み進めることができた。
 「箱根」は2017年4月22日放送のもの。「箱根関所」は2017年5月13日放送。「鹿児島」は2017年3月10・17日と2週にわたる放送。「弘前」は2017年7月8日放送。「十和田湖・奥入瀬」は2017年9月2日放送である。1冊に載るテーマの本数としてはいつもと同じだが、放送された期間でみるとほぼ半年分をカバーしている。
 本書の監修はNHK「ブラタモリ」制作班で、2018年9月に出版された。

 本書の基本構成コンセプトは繰り返しになるがまずご紹介しておこう。
  *ブラタモリの番組放映のテーマについて、番組の流れに沿って論点を説明。
  *番組では語り尽くせなかった部分の補足説明(番組出演した研究者等のVOICE)
  *番組で採り上げた地域の観光スポットのガイド
  *同行アナウンサーの番組裏話 本書は近江友里恵さんのトーク
である。

 例によって、本書から私が学んだ要点を覚書としてまとめてみたい。それが本書を開いてみようという誘いになれば幸いである。

<箱根> テーマ 箱根の地獄が極楽を生んだ!?
*箱根という山はない。冠ヶ岳・台ヶ岳・金時山など複数の山の集合体が「箱根火山」
 複合カルデラ(少なくとも4つ)として形成された外輪山。東西約11kn、南北約11km。
 カルデラは岩などの礫で埋まり。地下水が溜まりやすく、貯水タンクの役割を果たす
*宮ノ下は箱根火山の噴火でできたカルデラのへりにあり、高温湯量1日約1000t、食塩泉
*長尾峠は山体崩壊(=恐ろしい災害をもたらす地獄)で誕生した扇形の地形
 一方、山体崩壊が早川をせきとめ、広大な芦ノ湖を形成。箱根観光の人気スポット(極楽)に
*芦ノ湖で外輪山の地滑りが起こり巨木が湖底に滑落。湖底に約2100年前の木の存在。
 芦ノ湖に棲む毒龍が暴れたという伝説の因。万巻上人が九頭龍大神として神社に祀る。
 神社本殿の猪目懸魚の形がハートマークに見えることから縁結びの神様として人気(極楽)
*湖底から掘り出された巨大な木「神代木」の天然の濃い黒色が寄木細工に使われた。
 ⇒名産品の誕生
*強羅の白濁湯は仙石原の湧き水を高低差約350mの大涌谷に汲み上げた蒸気井温泉
 ⇒噴気が上がる場所に温泉造成塔を立て、湧き水を吹きかけることで噴気が混合する
  箱根の地獄(大湧谷)は温泉(極楽)を創り出す現場!
*箱根温泉郷は自然湧出と造成温泉が共存し発展。江戸時代「箱根七湯」、今「箱根二十湯」
 湧出する源泉数は350前後、箱根全体での湧出量は1分間で約2万リットルという。

<箱根関所> テーマ 鉄壁!箱根の関所はなぜ破れない!?
*箱根八里の中間で、芦ノ湖畔に建つ。江戸時代前期、元和5(1619)年頃に設置された
 250年間機能し史料によれば関所破りは5件だけ。平成19(2007)年にほぼ完全に復元
 関所の山側には、山頂までの211間、約400mすべて柵を設置。湖側にも柵が延びていた
*箱根関所は箱根町断層に位置する。伊豆半島を走る丹那断層の北側延長線上にある。
 丹那断層と平行に走る平山断層があり2つの横ずれ断層が動いて崖が生じた箇所になる
 ⇒プルアパート構造と呼ばれる現象。箱根の芦ノ湖は落ちくぼんだ穴にあたる地形
*幕府の高札には江戸からの出女の厳しい改めが表記された。謀反予防策だったという
 ⇒大名の妻子は人質として江戸住まい。人質が無断で国元に帰らない爲の取り締り
*箱根の山越えの休憩所として元湿地帯に箱根宿(5町)を整備。地名等に痕跡が残る
*箱根越えの東海道は意図的に谷道の難所が選ばれた。尾根道を敵に使わせない爲に。
 旧街道の石畳には排水をよくする工夫と排水溝の役割を果たす部分も設けられた
 ⇒”箱根の関所=難所”というイメージの形成と心理的効果をねらう
*街道沿いの村には、「関所守り村」として不審者監視の役割を担わせた。4村設置
 箱根全体に裏関所を5ヵ所設置。周辺の山には立入禁止の「要害山」が決められた。

<鹿児島> テーマ なぜ鹿児島は明治維新の主役となれた?
*鹿児島県の50%以上がシラス台地。2万9000年前の姶良火山の噴火で姶良カルデラを形成
 その時の火砕流堆積物でできた地層。厚さ100mを超えるところもある。
 これが天然の要害となり、薩摩藩は独自の防衛ネットワーク「外城制」を築く。
 ⇒鶴丸城は天守を持たない屋形造りの城。ほぼ無防備。背後の城山の曲輪が天守代わり  
城山のシラス層の下は「城山層」(泥岩層)で湧水地が背後にあり、城づくりに最適
*薩摩藩は海岸を埋め立て城下町を拡大し、海運業・貿易に携わる商人等の居住地に。
 ⇒いづろ通交差点の石灯籠は南林寺(現松原神社)の参道に。以前は灯台の役割を担う
 ⇒琉球を通じた中国との交易(中継貿易)で多大の利益を得るのが島津藩の成長戦略
*天文館界隈は甲突川が付け替えられ、中・下級武士の居住地に。そこに「鍛冶屋町」
 薩摩藩独特の「郷中教育」:強い精神力と団結力を形成 ⇒幕末に逸材を輩出した
 下鍛冶屋町:西郷隆盛、大久保利通、大山巌、東郷平八郎、篠原国幹、村田新八、吉井友実
*仙厳園(磯公園)にある鶴灯籠(石灯籠)で、1857年島津斉彬はガス灯実験をした。
*溶結凝灰岩は20種類。薩摩では用途に応じて使い分ける石の文化があった。
 ・加工しやすい「たんたど石」(約54万年前の吉野火砕流でできた溶結凝灰岩)
  ⇒列強からの脅威への防備のため「新波止」のお台場の石垣に利用
   大砲を製造する「反射炉」の基礎部分にたんたど石を利用。炉の耐火レンガを支持
 ・「尚古集成館」はもとは幕末に築かれた機械工場。この外壁に「小野石」を利用
  ⇒小野石は加久藤カルデラから生まれた溶結凝灰岩。断熱性に優れた石。
 ・「山川石」は温度変化の影響が少なく風化しにくいので、墓石には最高の石材
*仙厳園の裏山は吉野台地のへり部分。裏山に水路を張り巡らせ近代化事業に水力を利用
 ⇒稲荷川の上流に設けられた「関吉の疎水溝」(灌漑用水路)を工業用水に転用
  ここだけが溶結凝灰岩に囲まれた場所だった。地形・地質を熟知活用の伝統が存在
*薩摩の気風の根底にある逆境を生き抜く力。薩摩の武士の人口比率は25%相当と異常
 ⇒約1割は城下に。9割は「外城制」で外域に分散居住し半農半士の生活(一日兵児)
  シラス台地の特徴を生かしサツマイモ(唐芋)の栽培が奨励された。飢饉対策にも。
<弘前> テーマ サムライが作った弘前の宝とは!?
*弘前城は「現存天守」12のうちの1つ。正面は天守の風格。裏面は経費節約で櫓風。
 ⇒津軽人の特徴『えふりこぎ』の現れ? あと2つの特徴は「もっけ」「じょっぱり」
*弘前城には江戸時代の城の全形が残る。平山城で本丸の北側は台地の突端。
*弘前城の南西約1kmのところに戦国期享禄元(1528)年創建の曹洞宗長勝寺が所在
 長勝寺の門前に、杉並木(かつては桜並木)が500m延びる。ここは禅林街(33の禅寺)
 その先に枡形がある。禅林街は弘前城の出城機能を担った。すべてが曹洞宗の寺。
*弘前にはサムライが作った町名がそのまま40以上。町には城下町の風情が残る。
 ⇒代官町・徒町・百石町・親方町・白銀町・馬喰町・在府町・五十石町・鷹匠町・駒越町
*江戸時代から継承される刀鍛冶の伝統:鍛冶屋が作る剪定バサミが有名
*弘前のリンゴ 出荷量は市町村別で全国1位。収穫量は約6億個。「芯止め」法の利用
 弘前藩士菊池楯衛(1846~1918)が「リンゴの開祖」。1875年に苗木を継ぎ木で増やす方法を確立した。リンゴの栽培を弘前一円に広めた。当時は士族の失業対策にもなった。
*弘前城の桜 明治15年(1882)に菊地楯衛が私財をはたき1000本の桜の木を植樹。
*弘前城には樹齢135年以上の桜がある。樹齢100年を超える桜が400本以上存在。
 ⇒桜の木に芯止を施しリンゴの剪定技術を参考に管理。弘前公園に約2600本の桜の木。  毎年5月下旬に桜の木に行う「お礼肥(れいごえ)」。リンゴの栽培からのヒント。

<十和田湖・奥入瀬> テーマ 十和田湖はなぜ”神秘の湖”に!?
*十和田湖は青森県と秋田県の県境に存在。湖水は奥入瀬渓流から銚子大滝を経て流出
 紫明亭展望台が十和田湖の神秘さを感じる絶好ビューポイントである。
*十和田湖は日本唯一の二重カルデラ湖。湖底に堆積する白い軽石が火山噴火の証拠。
 十和田湖の最後の噴火は915年。約1100年前。
*中湖は十和田湖の原形ができたあとに新しい火山活動で生まれたカルデラ。
 2つの半島の中湖側はほぼ垂直の崖。御倉半島の五色岩が特に目を引く。
 中山半島と御倉半島に囲まれた中湖の深度は326.8m。”十和田ブルー”と呼ばれる。
 山上カルデラ湖なので流入する川がなく、湖水の透明度が高い。
*御倉半島の突端の小山は溶岩ドームの典型的な形である。
*明治17年(1884)和井内貞行が十和田湖で養殖事業に着手。明治36年(1903)最後にヒメマスで成功。ヒメマスが孵化場にはじめて回帰したのが明治38年(1905)だという。
 ⇒深い水深により、ヒメマスにとって最適な水温の場所を年間確保できる環境
  貧栄養湖ゆえに、湖底まで酸素が届く環境があった。二重カルデラの地形も貢献。
*多くの滝-段差がある地形-があることが奥入瀬の特徴。別名「瀑布街道」という。
*十和田湖の原形ができ、カルデラに水が溜まりつづけた後、巨大洪水が発生し、U次形の谷が形成された。縦方向の割れ目が目立つ柱状節理が垂直の崖に目立つ。
 十和田市内に広がる台地は巨大洪水が削り取った堆積物により形成された。
*奥入瀬渓流には300種以上のコケが生育する。コケ-保水力と抗菌性-が森を育んだ。
*十和田湖は古くから修験道の霊場として信仰されてきた。

 学んだ知識の大凡はこんなところ。この情報・知識が現地においてわかりやすく解説されていくプロセスが読ませどころである。写真やイラスト図があるかないかで大きな違いがあることは、本書を開けていただくと一目瞭然である。わかりやすい、読みやすいがこのシリーズの特徴である。

 ご一読ありがとうございます。

 本書に関連し、関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
東海道五拾三次之内 箱根 湖水図  歌川広重  :「東京富士美術館」
大涌谷の魅力  :「箱根ロープウエイ」
箱根の宿    :「ゆこゆこ」
箱根関所  ホームページ
芦ノ湖・芦之湯エリア   :「箱根全山」
芦ノ湖   :ウィキペディア
箱根代表伝統工芸の里 寄木細工発祥の地 畑宿 :「箱根湯本観光協会」
伝統の寄木細工  :「畑宿ネット」
現代の「寄木細工」に魅せられる!若手職人集団「雑木囃子」のつくる箱根・小田原の木工細工  :「花ぐるたび」
旧街道石畳 箱根の見どころ  :「箱根全山」
鶴丸城(鹿児島城)  :「JAPAN WEB MAGAZINE」
鹿児島(鶴丸)城跡  :「鹿児島県」
仙厳園  ホームページ
  尚古集成館
関吉の疎水溝   :「九州の世界遺産」
薩州鹿児島見取絵図  :「文化遺産オンライン」
弘前公園  ホームページ
禅林街   :「ANA」
青森リンゴの先駆者/菊地楯衛  :「JA青森中央会」
弘前ねぷたまつり :「弘前観光コンベンション協会」
十和田湖国立公園協会 ホームページ
和井内貞行  :ウィキペディア

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『ブラタモリ 1 長崎 金沢 鎌倉』 角川書店
『ブラタモリ 3 函館 川越 奈良 仙台』 角川書店
『ブラタモリ 4 松江 出雲 軽井沢 博多・福岡』 角川書店
『ブラタモリ 6 松山・道後温泉 沖縄 熊本』 角川書店
『ブラタモリ 7 京都(嵐山・伏見)志摩 伊勢(伊勢神宮・お伊勢参り)』 角川書店
『ブラタモリ 8 横浜 横須賀 会津 会津磐梯山 高尾山』  角川書店
『ブラタモリ 10 富士の樹海 富士山麓 大阪 大坂城 知床』  角川書店
『ブラタモリ 11 成田山 目黒 浦安 水戸 香川(さぬきうどん・こんぴらさん)』 角川書店
『ブラタモリ 13 京都(清水寺・祇園) 黒部ダム 立山』  角川書店
『ブラタモリ 15 名古屋 岐阜 彦根』  角川書店
『ブラタモリ 16 富士山・三保松原 高野山 宝塚 有馬温泉』  角川書店



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