遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『禁断の魔術』  東野圭吾  文春文庫

2021-01-11 20:23:33 | レビュー
 文庫本の奥書を読み、ネット検索でウィキペディアの情報を得て、出版の流れが理解できた。2012年10月に『禁断の魔術』が書き下ろしの連作推理小説集として刊行された。そして、その「第一章・透視す(みとおす)」「第二章・曲球る(まがる)」「第三章・念波る(おくる)」は、文庫本化される際、『虚像の道化師』の短編連作集の中に編集構成して加えられた。こちらは先般文庫本を読んだあと、その印象記をご紹介している。
 そして、単行本には「第四章・猛射つ(うつ)」として収録されていた短編が、大幅に加筆・改稿されてこの『禁断の魔術』と題する推理小説になり、2015年6月に発行されたという経緯になる。

 ストーリーは、午後11時過ぎに、東京のシティホテルのスィートルームでの1泊を予約していた山本春子と称する女性がチェックインする場面から始まる。その時フロントオフィスを担当していた吉岡は以前に対応したことがあり、宿泊カードに記された名前が偽名だと気づいた。翌朝、チェックアウト時刻をはるかに過ぎているのを不審に思い、フロントがベルボーイに確認に行かせると、ベッドカバーが真っ赤に染まり、夥しい血が女性の下半身を中心に広がっていた。発見者のベルボーイは動顛していてフロントに客が殺されていると連絡を取った。

 シーンは一転する。脈絡が不明な事象場面が次々に描き込まれていく。
 1つめは、帝都大学理学部の湯川凖教授の研究室に古芝伸吾が挨拶に訪れるシーンである。古芝は帝都大学の工学部機械工学科に合格し、湯川に挨拶に来た。古芝は高校で物理研究会に属していたがそのサークルの存続が危機的状況になっていた。母校であり研究会のOBである湯川は古芝が新入生を勧誘するプレゼンに使う実験道具の制作に協力するという形で、一年前に古芝の指導を行っていたのだった。
 2つめは、政治家・大賀の秘書鵜飼和郎が光原町でのある会合に出席する場面である。大賀の出身地である光原町では、スーパー・テクノポリス計画が進行していた。大賀の主導で建設が始まっていたが、環境保護の立場から反対運動が活発化していた。鵜飼が出たのは推進派の会合だった。
 3つめは、従業員20名規模のクラサカ工機という金属部品製造会社での場面になる。この中小企業の社長の娘・倉坂由里奈が5月末に5月に入った高卒の男子従業員に気づいた。そこから由里奈は伸吾と称する従業員に数学を教えてもらう関係ができる。社長の倉坂達夫は、伸吾の優秀さを評価していた。伸吾が勤務後に工場に残り、機械操作や金属加工の練習をしたいというのを認めていた。由里奈が父親から古芝伸吾と会っているそうだなと確認された数日後一人で事務所の電話番をしている時に、背が高く、眼鏡をかけた男が古芝を訪ねてきた。由里奈は伸吾がユカワ先生と呼んでいるのを耳にした。
 4つめは、ある職場の新年会が隅田川を進む屋形船で行われていた。突然に屋形船の操舵室で何かが激しく破裂するような音がして、煙に包まれるという事態が発生した。
 5つめは、向島の古いマンションで絞殺死体が発見された。2日前から連絡がなかったので、交際していた女性がマンションを訪ねて行き、合鍵で部屋に入り発見したという。特捜本部が向島署に開設され、草薙と内海の所属する係がこの特捜本部に加わることになった。初動捜査が進むにつれ被害者の周辺事実が明らかになっていく。被害者は長岡修でフリーライター。スーパー・テクノポリス計画を調べていたが、その後反対運動の立場に加わり、中心的に活動する一人であった。一方で、長岡は大賀代議士個人をも追っていた、つまり私生活を探っていたことがわかってくる。また、被害者の部屋(殺人現場)にはパソコンの横にメモリーカードが置かれていた。鑑識がその中身を確認したところ、2月21日午前1時すぎ、突然、画面の中心が白くなり、煙が舞った後、建物の壁に穴が開いていた。そんな現象の動画が記録されていた。
 
 初動捜査から引きつづき、被害者長岡に関わる周辺捜査が進展していく。交際していた女性からの更に聞き取り捜査を行うことは勿論、スーパー・テクノポリス計画反対運動をする主要メンバーからの聞き取り捜査や大賀代議士事務所への聞き取り捜査なども行われる。
 そんな最中に、荒川沿いにある工場の敷地内に止めてあったバイクが突然炎上するという不可解な事件が発生していた。ガソリンタンクに直経3cmほどの穴が開いていたが弾丸は見つからず、また銃器で撃たれたようには思えないという。
 被害者が加入していた携帯電話会社に捜査協力を依頼したところ、クラサカ工機の電話番号があることから、聞き込みをすると、1週間前から古芝伸吾が姿を消しているという事実が出て来た。古芝伸吾の卒業した高校名を聞き、草薙は心に何かがひかかかった。
 さらに、古芝の姉が「明星新聞」に勤務し、政治部で大賀代議士の担当だったことがわかってくる。

 このストーリー、バラバラで繋がりが無さそうな個別事象が、徐々に水面下で複雑に連関しているという形に転じて行き、真実が明らかになっていく。何と何がどのように繋がっているのか・・・・。読み解かれていくプロセスそのものが興味深い。
 そして、ガリレオ先生、湯川自身が今までの諸事件の解決に第三者的に協力者として関わっていくという立場ではなくなる。結果的に、間接的ながら事件に巻き込まれていく形になり、事件解決へのクライマックスに湯川自身が関与していくことになる。
 「科学を制する者は世界を制す」 このフレーズが重要なキーとなっていく。

 トリッキーな設定と構想が実に巧みに織り込まれている。
 ガリレオ先生のシリーズでは、一味違った作品となっていておもしろい。
 
 ご一読ありがとうございます。


本書に関連して、いくつか関心事項を検索してみた。一覧にしておいたい。
武器等製造法  :「e-GOV法令検索」
銃に関する規制 :「静岡県警察」
フレミング左手の法則~使い方、実験、問題の解き方~  :「TryIT」
フレミングの左手の法則  なぜ? なに? サイエンス  :「関西電力」
レールガン  :ウィキペディア
「レールガン」とは一体どのような兵器なのか  :「東洋経済 ONLINE」
米海軍の新世代兵器「レールガン」の驚異 :「THE WALL STREET JOURNAL」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


ふと手に取った作品から私の読書領域の対象、愛読作家の一人に加わりました。
次の本を読み継いできています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『虚像の道化師』  文春文庫
『真夏の方程式』  文春文庫
『聖女の救済』  文春文庫
『ガリレオの苦悩』  文春文庫
『容疑者Xの献身』  文春文庫
『予知夢』  文春文庫
『探偵ガリレオ』  文春文庫
『マスカレード・イブ』  集英社文庫
『夢幻花』  PHP文芸文庫
『祈りの幕が下りる時』  講談社文庫
『赤い指』 講談社文庫
『嘘をもうひとつだけ』 講談社文庫
『私が彼を殺した』  講談社文庫
『悪意』  講談社文庫
『どちらかが彼女を殺した』  講談社文庫
『眠りの森』  講談社文庫
『卒業』 講談社文庫
『新参者』  講談社
『麒麟の翼』 講談社
『プラチナデータ』  幻冬舎
『マスカレード・ホテル』 集英社