本書は朝日新聞に連載報道された記事をまとめたものである。副題は「電力をめぐるカネと権力の構造」である。
東京地検特捜部が原発利権の構造解明を目指して、2つの事件を摘発した。
2006年 水谷建設の脱税事件
2008~2009年 西松建設の裏金事件
だが、これらは徹底的な解明がなされずに、最後はさじが投げられた事案にとどまる。
朝日新聞の報道部において、2003年の名古屋国税局での課税処分事案を契機に報道チームが組まれて、原発利権問題が追跡されたという。そして2011年3月11日の福島第一原発事故の後、関係者の証言が世に出てきた。その事実を受け止め、それまでの記者活動の情報・資料をベースにさらに事実究明のための特別斑による記者活動が展開されることになる。その結果が、新聞連載「原発利権を追う」(2013年7月スタート)である。
この連載の集大成がこの本のようだ。
本書では次の章立てで再構成されている。
第1章 九電王国・支配の構造
第2章 立地のまちへ
第3章 東電OBの告白
第4章 ゼネコンの内幕
第5章 東電総務部の実態
第6章 中電の裏金システム
第7章 「関電の裏面史」独白
特別報道斑は、関係者から事情聴取し、入手できた事実資料と発言内容を克明に時系列で整理し、諸関係を論理たてて整理し、原発利権構造の事実に迫って行く。
利益を供与する側の関係者が実際に行った事実を話したとしても、その金を受け取った側への記者インタビューあるいは回答要求から戻って来る回答は「そういう事実はない」「知らない」「記録がない」「お答えしない」・・・・にほぼ終始するというパターンである。ほんの一部の事実が認められているにすぎない。犯罪行為になるこの種の問題として、当然のやりとりが結果として記録されたにとどまるといえよう。
だが、こういう利権構造が大義名分の裏に、ぴったりと張り合わされて現実が動いていたのだろうという事実を認識することが、今こそ重要なのではないか。
原発利権の構造が生み出される背景には、次の連環があるのだ。
「世の中は業者、官僚、政治家の三角関係で成り立っている。電力会社は許認可を握る官僚に弱い。官僚は大臣を務める政治家に弱い。政治家は献金と票を集める電力会社に弱い。だから、電力会社は日頃から政治家と仲良くしておく。政治献金はフレンドリーな関係をじわじわとつくる漢方薬。権力への立ち居振る舞いや、即効性のある頓服薬では(贈収賄で警察や検察に)やられる危険が大きい。政治家がもらったと意識しない程度に時間をかけて渡す漢方薬が大事。これは民間が長い間に学びとった知識なの」(p234)
その漢方薬が、数百万単位、あるいは千万単位の裏金なのだから、ビックリする。
原発建設は巨大なプロジェクトである。施設建設は長期間に及ぶ。一度その建設に参画できると会社として安定的な収入源となる。建設の発注元は地域独占体制を保証された巨大電力会社である。そこから受注するために各建設会社はしのぎを削る。安定的収入源となる受注を得るためには、電力会社の意向に協力する。それが裏金づくりのカラクリを受発注の取引の中に潜ませていくことになる。ごく僅かの関係者にしか知られない仕組みが動いていく。裏金の額は廻り廻って、本源は電力会社からの受注金額の中にひっそりと組み込まれているという連鎖である。
そして、電力会社が発注する金額はすべて、電気料金という収入に由来するのだ。電力を生産し、その販売で電気料金を得て、利益を得るのが電力会社なのだから。さらに言えば、原子力発電は電源三法並びに総原価主義という計算法のもとに、税金が費消されている側面が加わる。
本書に結論はない。報道斑の追跡した観点からの「事実」「情報」「資料」の提示である。カネを受け取った側はその事実を否定しているか、回答していない。
本書から、「電力をめぐるカネと権力の構造」が浮かびあがってくる。
大義名分で語られる原発推進の裏側に、原発利権に伴う様々な次元での欲望がどろどろと蠢いているのだ。その蠢きのなかでほんの一握りの連中が甘みを享受しているのだろう。そのカネの原資は電気料金であり、国民の税金に帰着するのだ。
我々一般庶民は、大義名分と風潮に惑わされやすい。事実は何か。それを考え直すことから出発しなければならないのではないか。
原発利権は原発問題を考える一つの欠かせぬ観点だろう。この書は、考える材料として、一石を投じたことになる。実名で登場する証言者の発言内容は、原発推進が生み出した裏面史の記録として貴重な資料でもある。
原発利権の存在を断固容認すべきではないと思う。原発利権のために電気料金が上乗せされ、税金が徴収されては、たまったものではない。馬鹿げている。
ご一読ありがとうございます。
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本書に関連する事項やそこからの波紋による関心事項をネット検索してみた。
一覧にしておきたい。
水谷建設 :ウィキペディア
水谷建設 会社更生手続開始の申立てにに関するお知らせ
西松建設 ホームページ
「CSRトップメッセージ」は「2009年の不祥事について」一応ふれてはいます。
西松建設事件 :ウィキペディア
西松建設 関連キーワード :「朝日新聞DIGITAL」
政治資金収支報告書 :ウィキペディア
政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書 :「総務省」
政治資金規正法のあらまし 総務省 pdfファイル
九電やらせメール問題 :ウィキペディア
九州電力の「やらせメール」をどう考えるか 山崎元のマルチスコープ
九州電力やらせメール問題検証サイト ホームページ
サガハイマット (九州国際重粒子線がん治療センター) ホームページ
資金調達難航、不安な船出 サガハイマット :「佐賀新聞」
第5部(7)九電の「寄付」は悪なのか がん治療最新施設も標的 :「産経ニュース」
「九州パワーアカデミー」の設立について :「九州電力」
平成21年5月27日のプレスリリース
委員会の構成 pdfファイル
川内原子力総合事務所の設置他について :「九州電力」
平成21年2月17日 プレスリリース
川内原子力総合事務所からのお知らせ :「九州電力」
政治資金パーティー :ウィキペディア
政治資金パーティとはなんだろう 池上彰の「政治」のキホン:「YAHOO!みんなの政治」
政治資金パーティー pdfファイル :「東京都選挙管理委員会」
パーティ券購入は寄付か交際費か? :「東京地方税理士会」
国民政治協会 自民党 ホームページ
こんな説明をしています。
個人寄付
法人寄付
連載「原発利権を追う」 :「朝日新聞DIGITAL」
【九州から原発が消えてよいのか】のニュース :「msn 産経ニュース」
2012.9.24から始まっているシリーズ。2013.12.16時点で第6部(2)まで掲載確認。
東電の汚れ役は見返りと共に 水谷建設元会長が爆弾発言 :「WEB新書」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』 小出裕章 幻冬舎
『福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと』 山本義隆 みすず書房
『対話型講義 原発と正義』 小林正弥 光文社新書
『原発メルトダウンへの道』 NHK ETV特集取材班 新潮社
『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』 東浩紀編 genron
『原発ホワイトアウト』 若杉 洌 講談社 ←付記:小説・フィクション
『原発クライシス』 高嶋哲夫 集英社文庫 ←付記:小説・フィクション
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新2版)
東京地検特捜部が原発利権の構造解明を目指して、2つの事件を摘発した。
2006年 水谷建設の脱税事件
2008~2009年 西松建設の裏金事件
だが、これらは徹底的な解明がなされずに、最後はさじが投げられた事案にとどまる。
朝日新聞の報道部において、2003年の名古屋国税局での課税処分事案を契機に報道チームが組まれて、原発利権問題が追跡されたという。そして2011年3月11日の福島第一原発事故の後、関係者の証言が世に出てきた。その事実を受け止め、それまでの記者活動の情報・資料をベースにさらに事実究明のための特別斑による記者活動が展開されることになる。その結果が、新聞連載「原発利権を追う」(2013年7月スタート)である。
この連載の集大成がこの本のようだ。
本書では次の章立てで再構成されている。
第1章 九電王国・支配の構造
第2章 立地のまちへ
第3章 東電OBの告白
第4章 ゼネコンの内幕
第5章 東電総務部の実態
第6章 中電の裏金システム
第7章 「関電の裏面史」独白
特別報道斑は、関係者から事情聴取し、入手できた事実資料と発言内容を克明に時系列で整理し、諸関係を論理たてて整理し、原発利権構造の事実に迫って行く。
利益を供与する側の関係者が実際に行った事実を話したとしても、その金を受け取った側への記者インタビューあるいは回答要求から戻って来る回答は「そういう事実はない」「知らない」「記録がない」「お答えしない」・・・・にほぼ終始するというパターンである。ほんの一部の事実が認められているにすぎない。犯罪行為になるこの種の問題として、当然のやりとりが結果として記録されたにとどまるといえよう。
だが、こういう利権構造が大義名分の裏に、ぴったりと張り合わされて現実が動いていたのだろうという事実を認識することが、今こそ重要なのではないか。
原発利権の構造が生み出される背景には、次の連環があるのだ。
「世の中は業者、官僚、政治家の三角関係で成り立っている。電力会社は許認可を握る官僚に弱い。官僚は大臣を務める政治家に弱い。政治家は献金と票を集める電力会社に弱い。だから、電力会社は日頃から政治家と仲良くしておく。政治献金はフレンドリーな関係をじわじわとつくる漢方薬。権力への立ち居振る舞いや、即効性のある頓服薬では(贈収賄で警察や検察に)やられる危険が大きい。政治家がもらったと意識しない程度に時間をかけて渡す漢方薬が大事。これは民間が長い間に学びとった知識なの」(p234)
その漢方薬が、数百万単位、あるいは千万単位の裏金なのだから、ビックリする。
原発建設は巨大なプロジェクトである。施設建設は長期間に及ぶ。一度その建設に参画できると会社として安定的な収入源となる。建設の発注元は地域独占体制を保証された巨大電力会社である。そこから受注するために各建設会社はしのぎを削る。安定的収入源となる受注を得るためには、電力会社の意向に協力する。それが裏金づくりのカラクリを受発注の取引の中に潜ませていくことになる。ごく僅かの関係者にしか知られない仕組みが動いていく。裏金の額は廻り廻って、本源は電力会社からの受注金額の中にひっそりと組み込まれているという連鎖である。
そして、電力会社が発注する金額はすべて、電気料金という収入に由来するのだ。電力を生産し、その販売で電気料金を得て、利益を得るのが電力会社なのだから。さらに言えば、原子力発電は電源三法並びに総原価主義という計算法のもとに、税金が費消されている側面が加わる。
本書に結論はない。報道斑の追跡した観点からの「事実」「情報」「資料」の提示である。カネを受け取った側はその事実を否定しているか、回答していない。
本書から、「電力をめぐるカネと権力の構造」が浮かびあがってくる。
大義名分で語られる原発推進の裏側に、原発利権に伴う様々な次元での欲望がどろどろと蠢いているのだ。その蠢きのなかでほんの一握りの連中が甘みを享受しているのだろう。そのカネの原資は電気料金であり、国民の税金に帰着するのだ。
我々一般庶民は、大義名分と風潮に惑わされやすい。事実は何か。それを考え直すことから出発しなければならないのではないか。
原発利権は原発問題を考える一つの欠かせぬ観点だろう。この書は、考える材料として、一石を投じたことになる。実名で登場する証言者の発言内容は、原発推進が生み出した裏面史の記録として貴重な資料でもある。
原発利権の存在を断固容認すべきではないと思う。原発利権のために電気料金が上乗せされ、税金が徴収されては、たまったものではない。馬鹿げている。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
本書に関連する事項やそこからの波紋による関心事項をネット検索してみた。
一覧にしておきたい。
水谷建設 :ウィキペディア
水谷建設 会社更生手続開始の申立てにに関するお知らせ
西松建設 ホームページ
「CSRトップメッセージ」は「2009年の不祥事について」一応ふれてはいます。
西松建設事件 :ウィキペディア
西松建設 関連キーワード :「朝日新聞DIGITAL」
政治資金収支報告書 :ウィキペディア
政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書 :「総務省」
政治資金規正法のあらまし 総務省 pdfファイル
九電やらせメール問題 :ウィキペディア
九州電力の「やらせメール」をどう考えるか 山崎元のマルチスコープ
九州電力やらせメール問題検証サイト ホームページ
サガハイマット (九州国際重粒子線がん治療センター) ホームページ
資金調達難航、不安な船出 サガハイマット :「佐賀新聞」
第5部(7)九電の「寄付」は悪なのか がん治療最新施設も標的 :「産経ニュース」
「九州パワーアカデミー」の設立について :「九州電力」
平成21年5月27日のプレスリリース
委員会の構成 pdfファイル
川内原子力総合事務所の設置他について :「九州電力」
平成21年2月17日 プレスリリース
川内原子力総合事務所からのお知らせ :「九州電力」
政治資金パーティー :ウィキペディア
政治資金パーティとはなんだろう 池上彰の「政治」のキホン:「YAHOO!みんなの政治」
政治資金パーティー pdfファイル :「東京都選挙管理委員会」
パーティ券購入は寄付か交際費か? :「東京地方税理士会」
国民政治協会 自民党 ホームページ
こんな説明をしています。
個人寄付
法人寄付
連載「原発利権を追う」 :「朝日新聞DIGITAL」
【九州から原発が消えてよいのか】のニュース :「msn 産経ニュース」
2012.9.24から始まっているシリーズ。2013.12.16時点で第6部(2)まで掲載確認。
東電の汚れ役は見返りと共に 水谷建設元会長が爆弾発言 :「WEB新書」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』 小出裕章 幻冬舎
『福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと』 山本義隆 みすず書房
『対話型講義 原発と正義』 小林正弥 光文社新書
『原発メルトダウンへの道』 NHK ETV特集取材班 新潮社
『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』 東浩紀編 genron
『原発ホワイトアウト』 若杉 洌 講談社 ←付記:小説・フィクション
『原発クライシス』 高嶋哲夫 集英社文庫 ←付記:小説・フィクション
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新2版)