文庫本の奥書を読むと、本作品は1990年5月に『犬神族の拳』というタイトルでの刊行本を改題出版したものである。
邀撃(ようげき)という言葉を辞書で引くと、「来襲してくる敵を待ち受けて攻撃すること。迎撃」(『現代国語例解辞典 第二版』小学館)と説明されている。ということからすると、来襲してくる敵を待ち受けて、捜査し、その攻撃を防御し敵を排除するという意味になる。
敵は誰か? 成田空港に着き、米国大使館の車での迎えを受けた人物。ベトナム戦争時代のグリーンベレー少佐であり、殺しのプロで、ゲリラ教育の専門家。テロリストなのだ。名前はジョン・カミングス。彼が入国する前に既に2人のプロフェッショナルが日本に潜入している。マーヴィン・スコットとシド・フォスターである。
目的は? アメリカ(CIA)の意を受けて、日本でテロを引き起こすこと。表面的には日米の友好関係が保たれている。しかし、日本人という黄色人種がアメリカ合衆国を経済的に苦しめている。この目障りな日本を内側から滅ぼすことを狙っているのだ。
ジョン・カミングスは、米国大使館の車で千葉市に向かう途中で、密かに尾行する警察車両5台を、持ち込んできた手榴弾を爆発させることで攪乱させて難なく行方をくらましてしまう。そして、都内に潜入してホルスト・マイヤーという老人の姿に変装して行動する。そして、マービン・スコットとシド・フォスターに接触し、テロ活動への連携を始めていく。
敵を待ち受けるのはだれか? 日本の警察機構という事になるが、直接には内閣情報調査室の次長である陣内平吉がキーパーソンである。外務官僚である室長・石倉良一の指示を受けながらも、実際は陣内が実権を握り、テロの阻止のために、危機管理対策室長の下条泰彦と情報交換を密にしながら、捜査の指揮を執る。
攻撃に対応するのは誰か? 陣内平吉の巧みな根回し・要請を受け、3人のテロリストに対決していく場に導かれていく人物が結果的に3人登場する。その3人は不思議な縁で結ばれていたというのが、おもしろいところ。
一人は、歴史民族研究所の研究員、秋山隆幸。民族学を専攻し、日本の民族の変遷をテーマとする学者である。
2人目は、沖縄出身の武術家、屋部長篤。自分の武術家としての腕を磨くために日本本土を遍歴している人物。
3人目は、陳果永という中国人。
全く立場の違う3人がなぜ関連していくのか? その連結ピンになるのが武術だった。 どうして3人の連鎖ができていくかのストーリー展開が一つの流れ、読み物となる。里見八犬伝の発想を連想してしまう。
一方で、同時併行してテロリスト3人の暗躍、テロ準備が着々と進行しているという次第。
池袋駅前の交番を六尺棒を持って通り過ぎようとした屋部が巡査に見とがめられるところから話が展開する。警棒を抜いて対応しようとした巡査に屋部が六尺棒で対応する。それを陳果永が目撃する。陳は、巡査を片付けた屋部の後を追い、屋部が実戦派フルコンタクト空手道場に入るのを見守ることから、二人のつながりができていく。そして共通項が武術であり、「犬拳」がキーワードになる。屋部は巡査に抵抗したことで警察に追われる立場になる。陳は不法入国者であり、やはり警察からは身を隠す立場にいる。この2人、陣内の網にかかっっていかないはずがない。
石倉室長の発案で、発信源を曖昧にして「日本が他国の侵略にあったとき、どういう方法で安全に切り抜けるべきか、それぞれの立場で考察してくれ」という書類が石坂教授の許にも送達されてくる。同じ書類が政府と関係のある学者に絨毯爆撃的に配布されているようなのだ。それで、歴史学や民族学の分野の学者にも送られてきたという。
石坂教授の指示で、秋山隆幸は大学院生の熱田澪と協力して、「見当外れの要請には見当外れの回答」をまとめる羽目になる。それが「犬神伝説を持つ伝統武術と、国家救済の言い伝え」という論文にまとめ上げられる。
陣内にすべてのレポートが回付される。陣内はこの論文に注目するということになる。そして、秋山も陣内の網に絡められていく。
著者の武闘もの作品に一貫してみられる特徴だが、本書でも『後漢書』『旧唐書』や『日本書紀』などに記載の武術関連事項から始めて武術の伝播が不思議な縁の因として織り込まれ、秋山、屋部、陳に結びついていくというおもしろさがある。歴史書を武術の記録という観点から読んだことがないので、これが結構おもしろい。武闘ものに奥行きを与えているといえる。著者の蘊蓄が発揮されている局面である。
そして、都内で工作するテロリスト3人に、犬神伝説を持つ伝統武術で結ばれた3人が、ついに邀撃していくという展開となる。舞台は新宿・歌舞伎町。その地に進出をもくろむ台湾マフィアがテロリストに目をつけられる。どんな謀略工作が開始され、それがどのように阻止されるかは、本書を楽しんでみてほしい。
ご一読ありがとうございます。
本書に著者が蘊蓄を述べている局面の語句を少しネット検索してみた。一覧にしておきたい。
地術拳(狗拳)→ Dishuquan (Dog Boxing) [地术拳/狗拳] :YouTube
那覇手 :ウィキペディア
那覇手系 :「沖縄伝統空手総合案内ビューロー」
Okinawa Goju-ryu Karate-do 三十六手(サンセールー)
沖縄剛柔流空手道 無心舘 :YouTube
上地流 :ウィキペディア
上地流空手道 :YouTube
相撲 :ウィキペディア
隼人 :ウィキペディア
犬戎 世界大百科事典 第2版の解説 :「コトバンク」
犬戎国1 :「どんでん返しの卑弥呼の墓・邪馬台国」
吐蕃 :ウィキペディア
槃瓠伝説 世界大百科事典内の槃瓠伝説の言及 :「コトバンク」
『後漢書』槃瓠伝説 :「民族学伝承ひろいあげ辞典」
犬封国 :「中国神話伝説ミニ事典/地名編」
加計呂麻島(西方:旧実久村)―奄美大島瀬戸内町―
:「今帰仁村歴史文化センター(沖縄県)」
加計呂麻島(東方:旧鎮西村):「今帰仁村歴史文化センター(沖縄県)」
人体図(筋肉)の図 :「GOO ヘルスケア」
ポーランド Wz63 :「MEDIAGUN DATABASE」
S&W社・M5906 → スミス&ウェッソン M39 / S&W Model 39 :「MEDIAGUN DATABASE」
MDMA → メチレンジオキシメタンフェタミン :ウィキペディア
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『アクティブメジャーズ』 文藝春秋
『晩夏 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
『欠落』 講談社
『化合』 講談社
『逆風の街 横浜みなとみらい署暴力犯係』 徳間書店
『終極 潜入捜査』 実業之日本社
『最後の封印』 徳間文庫
『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新1版
邀撃(ようげき)という言葉を辞書で引くと、「来襲してくる敵を待ち受けて攻撃すること。迎撃」(『現代国語例解辞典 第二版』小学館)と説明されている。ということからすると、来襲してくる敵を待ち受けて、捜査し、その攻撃を防御し敵を排除するという意味になる。
敵は誰か? 成田空港に着き、米国大使館の車での迎えを受けた人物。ベトナム戦争時代のグリーンベレー少佐であり、殺しのプロで、ゲリラ教育の専門家。テロリストなのだ。名前はジョン・カミングス。彼が入国する前に既に2人のプロフェッショナルが日本に潜入している。マーヴィン・スコットとシド・フォスターである。
目的は? アメリカ(CIA)の意を受けて、日本でテロを引き起こすこと。表面的には日米の友好関係が保たれている。しかし、日本人という黄色人種がアメリカ合衆国を経済的に苦しめている。この目障りな日本を内側から滅ぼすことを狙っているのだ。
ジョン・カミングスは、米国大使館の車で千葉市に向かう途中で、密かに尾行する警察車両5台を、持ち込んできた手榴弾を爆発させることで攪乱させて難なく行方をくらましてしまう。そして、都内に潜入してホルスト・マイヤーという老人の姿に変装して行動する。そして、マービン・スコットとシド・フォスターに接触し、テロ活動への連携を始めていく。
敵を待ち受けるのはだれか? 日本の警察機構という事になるが、直接には内閣情報調査室の次長である陣内平吉がキーパーソンである。外務官僚である室長・石倉良一の指示を受けながらも、実際は陣内が実権を握り、テロの阻止のために、危機管理対策室長の下条泰彦と情報交換を密にしながら、捜査の指揮を執る。
攻撃に対応するのは誰か? 陣内平吉の巧みな根回し・要請を受け、3人のテロリストに対決していく場に導かれていく人物が結果的に3人登場する。その3人は不思議な縁で結ばれていたというのが、おもしろいところ。
一人は、歴史民族研究所の研究員、秋山隆幸。民族学を専攻し、日本の民族の変遷をテーマとする学者である。
2人目は、沖縄出身の武術家、屋部長篤。自分の武術家としての腕を磨くために日本本土を遍歴している人物。
3人目は、陳果永という中国人。
全く立場の違う3人がなぜ関連していくのか? その連結ピンになるのが武術だった。 どうして3人の連鎖ができていくかのストーリー展開が一つの流れ、読み物となる。里見八犬伝の発想を連想してしまう。
一方で、同時併行してテロリスト3人の暗躍、テロ準備が着々と進行しているという次第。
池袋駅前の交番を六尺棒を持って通り過ぎようとした屋部が巡査に見とがめられるところから話が展開する。警棒を抜いて対応しようとした巡査に屋部が六尺棒で対応する。それを陳果永が目撃する。陳は、巡査を片付けた屋部の後を追い、屋部が実戦派フルコンタクト空手道場に入るのを見守ることから、二人のつながりができていく。そして共通項が武術であり、「犬拳」がキーワードになる。屋部は巡査に抵抗したことで警察に追われる立場になる。陳は不法入国者であり、やはり警察からは身を隠す立場にいる。この2人、陣内の網にかかっっていかないはずがない。
石倉室長の発案で、発信源を曖昧にして「日本が他国の侵略にあったとき、どういう方法で安全に切り抜けるべきか、それぞれの立場で考察してくれ」という書類が石坂教授の許にも送達されてくる。同じ書類が政府と関係のある学者に絨毯爆撃的に配布されているようなのだ。それで、歴史学や民族学の分野の学者にも送られてきたという。
石坂教授の指示で、秋山隆幸は大学院生の熱田澪と協力して、「見当外れの要請には見当外れの回答」をまとめる羽目になる。それが「犬神伝説を持つ伝統武術と、国家救済の言い伝え」という論文にまとめ上げられる。
陣内にすべてのレポートが回付される。陣内はこの論文に注目するということになる。そして、秋山も陣内の網に絡められていく。
著者の武闘もの作品に一貫してみられる特徴だが、本書でも『後漢書』『旧唐書』や『日本書紀』などに記載の武術関連事項から始めて武術の伝播が不思議な縁の因として織り込まれ、秋山、屋部、陳に結びついていくというおもしろさがある。歴史書を武術の記録という観点から読んだことがないので、これが結構おもしろい。武闘ものに奥行きを与えているといえる。著者の蘊蓄が発揮されている局面である。
そして、都内で工作するテロリスト3人に、犬神伝説を持つ伝統武術で結ばれた3人が、ついに邀撃していくという展開となる。舞台は新宿・歌舞伎町。その地に進出をもくろむ台湾マフィアがテロリストに目をつけられる。どんな謀略工作が開始され、それがどのように阻止されるかは、本書を楽しんでみてほしい。
ご一読ありがとうございます。
本書に著者が蘊蓄を述べている局面の語句を少しネット検索してみた。一覧にしておきたい。
地術拳(狗拳)→ Dishuquan (Dog Boxing) [地术拳/狗拳] :YouTube
那覇手 :ウィキペディア
那覇手系 :「沖縄伝統空手総合案内ビューロー」
Okinawa Goju-ryu Karate-do 三十六手(サンセールー)
沖縄剛柔流空手道 無心舘 :YouTube
上地流 :ウィキペディア
上地流空手道 :YouTube
相撲 :ウィキペディア
隼人 :ウィキペディア
犬戎 世界大百科事典 第2版の解説 :「コトバンク」
犬戎国1 :「どんでん返しの卑弥呼の墓・邪馬台国」
吐蕃 :ウィキペディア
槃瓠伝説 世界大百科事典内の槃瓠伝説の言及 :「コトバンク」
『後漢書』槃瓠伝説 :「民族学伝承ひろいあげ辞典」
犬封国 :「中国神話伝説ミニ事典/地名編」
加計呂麻島(西方:旧実久村)―奄美大島瀬戸内町―
:「今帰仁村歴史文化センター(沖縄県)」
加計呂麻島(東方:旧鎮西村):「今帰仁村歴史文化センター(沖縄県)」
人体図(筋肉)の図 :「GOO ヘルスケア」
ポーランド Wz63 :「MEDIAGUN DATABASE」
S&W社・M5906 → スミス&ウェッソン M39 / S&W Model 39 :「MEDIAGUN DATABASE」
MDMA → メチレンジオキシメタンフェタミン :ウィキペディア
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『アクティブメジャーズ』 文藝春秋
『晩夏 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
『欠落』 講談社
『化合』 講談社
『逆風の街 横浜みなとみらい署暴力犯係』 徳間書店
『終極 潜入捜査』 実業之日本社
『最後の封印』 徳間文庫
『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新1版