遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 今野 敏  徳間書店

2013-02-24 11:26:03 | レビュー
 私はこの横浜みなとみらい署シリーズを直近の2011年出版『防波堤』から読み始めた。これが第3作だったようだ。本書『禁断』は2010年6月出版の第2作になる。
 舞台は横浜。神奈川県警の54番目の新設署、みなとみらい署刑事課暴力団対策係・係長、諸橋夏男が主人公である。横浜の暴力団からは通称「ハマの用心棒」と呼ばれている。暴力団の撲滅をに邁進する気力・迫力の背景には悲しい記憶が秘められているのだ。それは本書においおいふれられていく。この諸橋の相棒が係長補佐・城島勇一。彼は普段、係長席の脇の来客用ソファを占領している飄々とした警部補であり、諸橋とは初任科の同期でもある。諸橋係長、城島係長補佐という役職にもちょっとした背景がある。
 諸橋の下で、他に4人の部下が活躍する。個性豊かな組み合わせだ。
 浜崎吾郎: 40歳のベテラン部長刑事。主任、暴力団と見分けがつかないような恰好
       パンチパーマ、黒いスーツ、腕にはロレックスのレプリカ品
 倉持 忠: 35歳の部長刑事。主任。気弱な町役場職員風。頼りなく見える。
       逮捕術にかけては署ナンバーワン。
 八雲立夫: 倉持の相棒。密室型の人間。見かけは物事を全て他人事と考えている風
       パソコンの活用に長けている。
 日下部 : 浜崎の相棒。

 さてこの第2作、野毛町三丁目のスナック「緑」で、暴力団らしきグループが店で嫌がらせをしている現場シーンから始まる。この店を訪れた諸橋が途中で、静かにして欲しいと声をかけるとそれに絡んでくるというおきまりの展開。だがそのワルたちはハマの暴力団ではない。町田から流れてきた板東連合系の人間で、半ゲソ(准構成員)のようだった。横浜によそ者暴力団が入り込んできているところから、どこかきな臭さいという感じで始まる。一方、元町5丁目のマンションで遺体が発見される。母親が発見するのだが、死亡したのは20歳の私立大学に通う大学2年生の井上祥一。死因は薬物の大量投与、ヘロインを打った結果だと判明。犯罪組織とは無関係の学生だったのだ。このところ、一般市民の薬物使用や所持の検挙数が増加傾向にあるという。薬物の新たな供給源ができたのか。
 諸橋は城島と共に、常盤町の仁風会組長神野義治の家を訪れる。今では組員は代貸の岩倉真吾ただ一人というヤクザなのだが、横浜のマルB世界の事情通である。ハマで起こっていることはほとんど神野が知らないことはないと思われている。勿論、知っていても知らないととぼけるのが、歴戦のヤクザ・神野である。諸橋の質問をうまくはぐらかす。だが、後日、神野は諸橋に電話してくるのだ。「いや、私は何もしらないんですよ。私なんかじゃなくって、もっと事情をよくご存じの方がおられると思いましてね・・・・・・何やら、田家川(たけがわ)のやつが、最近、妙に忙しそうにしているようでして・・・・」。神野はヤクザと暴力団を峻別する。田家川竜彦は表面的には、T2エージェンシーという会社の経営者であるが、マルBの一人。ハマで勢力を伸ばそうとしている人物。勿論、諸橋は部下に調べるように命じる。

 たまに顔を出す焼鳥屋に夕食に行った諸橋・城島コンビは、そこで夜回りをしている中央新聞記者宮本拓也に声をかけられる。会話の途中で、店の近くで怒号が聞こえる。二人が様子を見に行くとチンピラ同士の殴り合い騒ぎ。だが地元のヤクザではない。二人は力でその場をまず抑え込む。それを見ていた宮本が「驚きましたね。でも、僕は、そのやり方、支持しますよ」と言う。その宮本が再び焼鳥屋に戻った後の会話で、気になっていることだとして、「横浜には、指定団体すら一目置く連中がいます。・・・その人々は、かつて、イギリスのせいで阿片が蔓延した歴史を経験しているはずです」。そんなことを言った宮本が本牧埠頭のC突堤で死体で発見されるのだ。

 横浜にヘロインが大量に出回り始めている。地元暴力団が縄張りを延ばそうとする中で、よそ者の暴力団がハマに入り込んできている。新聞記者はヘロインにチャイニーズ系の動きがあるのではないかと匂わしたままで殺されてしまう。その矢先、中国の人民武装警察部隊の将校が、日本に来日しているという。神奈川県警がその将校の研修を受け入れたというのだ。

 話は思わぬ方向に広がっていく。ジグソーパズルのピースのような断片的情報が、徐々に繋がっていく。だが、そこに浮かび上がってくる図柄は予想外の展開に発展していくというおもしろさがある。
 横浜を起点に新規麻薬販路のルート拡大をねらう動きとハマの縄張り争い、それを解明し未然に撲滅しようとする諸橋チームの活動。本人のきらう「ハマの用心棒」という通称は伊達じゃない。
 ヤクザと暴力団は同類だと一切その存在を認めない立場の諸橋が、一方で神風会の神野に陰で支援されているという一局面を著者が織り込んでいるところがおもしろい。
 もう一つ、県警察本部警務部観察室所属のキャリア組、三十代前半の笹本康平監察官が、諸橋の行動を常に監視し、その行動を牽制する立場で関わっている。だが、本書では諸橋がその笹本監察官をすら巻き込んで、事件解決をめざすという側面のストーリー展開も楽しいところだ。

事件がほぼ解決した段階で、みなとみらい署の刑事課を笹本監察官が訪れる。
「今回の捜査に関しては、いろいろ聞きたいことがある」
「おい、田家川の弁護士の言うことは無視するんじゃなかったのか?」
「それはそれ、これはこれだ。あんたの捜査が適正なものだったかについては、大いに疑問がある」
「俺はやるべきことをやった」
「だから、その方法が正しかったかどうか、詳しく話を聞く必要があると言ってるんだ」
 実に愉快なエンディングだった。  (さて、第1作に戻ってみようか・・・・。)


ご一読ありがとうございます。

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 本書を読みながら、関連語句の確かめを兼ね、ネット検索した結果の一覧をまとめておきたい。

暴力団 :「はてなキーワード」

博徒  :ウィキペディア

テキヤ → 的屋 :ウィキペディア

神農 :ウィキペディア

神農 :「はてなキーワード」

中国人民武装警察部隊 :ウィキペディア

日中刑事共助条約

実効性が問われる日中間の刑事共助  :国立国会図書館デジタル化資料
~日・中刑事共助条約~

刑事共助条約締結 日中協議再開へ 2007.1.22:「Wlcome to My Web Site」

黄金の三角地帯 :ウィキペディア

ヘロイン :ウィキペディア

チャイニーズマフィア 丹下直子氏

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

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