山浦清美のお気楽トーク

省エネ、農業、飛行機、ボウリングのことなどテーマ限定なしのお気楽トークができればと思っております。

井出上げ(農業用水取水口整備作業)

2022-06-06 | 農業
 水田の水の需要期になるこの時期、毎年恒例の「井出上げ」が行われます。今年も6/5の午前6時から実施されました。当地区の生産組合の担当の取水口は2か所あり、農地所有者は各戸一人の出役が課されております。
 水田の水が不要になった秋口以降は無管理状態ですので、河岸は草茫々になっておりますし、取水口付近にクレソンなどの水草が大繁殖しております。また、大雨が降った後は石や砂で取水口や導水路を塞いでしまいますので、これらの除去作業が必要になります。河川から農業用水を確保するこれら全般の管理作業を当地では「井出上げ」と言っております。





 井出上げは何事もなければ年に1回で済みますが、大雨などで取水口が塞がってしまい取水が出来なくなる都度臨時に井出上げが実施されます。大抵は人力で行われますが、巨岩が流れてきて閉塞してしまった場合などには重機を借りて行うこともあります。
 このような管理作業によって川から取水した用水は、複雑な水路を経由して水田まで導かれます。これらのこれらの水路も草が繁茂したり、土砂で埋まったりしますので維持管理が必要になります。これは井出上げの前に全用水路に渡って行う大掛かりなものが年1回、自分の水田廻りの水路に関しては年4~5回の除草作業や土砂の除去作業が必要になります。
 山麓部に当たる当地では、これほどにしてまで稲作にとっての命である農業用水を確保する必要があるのです。そのほとんどが人力で行っております。しかし、その人が段々先細って行きます。当日集まった中で私はもう直ぐ65歳になりますが下から2番目の若さです。十年後を考えると思いやられます。十年後にこの作業に耐えられる人が何人いるか?
 当地の稲作は風前の灯です。いくら大規模集積した農地が出来ても農業用水が無ければ稲作ができるはずもありません。

 話は変わりますが、私が生まれ育った筑後地方は矢部川と筑後川に挟まれた平野部です。矢部川水系の川から取水した用水は張り巡らされた掘割(クリーク)を通して水田に行き渡ります。灌水設備が整備されていれば水栓を開ければ良いのですが、整備されていない場合にはクリークから水田へはポンプで汲み上げる必要があります。私が生まれる前は水車を踏んで水を汲み上げていたそうです。これ位に水の豊富な所の水田は恵まれていると言えるでしょう。逆にクリークの水位と水田の高さの差がほとんどないことからチョットした雨でも冠水してしまうことになります。一旦冠水してしまうと水が引くまで数日かかってしまうこともざらでした。
 また、クリークは水の流れがほとんどありませんので、ホテイアオイなどの浮草が水面を覆いつくします。また葦などの草も繁茂します。ですからこれらを除去する作業が頻繁に行われておりました。記憶が正しければ「藻上げ」と言っていたと思います。それからクリークは細かい泥やヘドロが溜まって浅くなってしまいます。ですから定期的に浚渫する必要があります。これを「泥上げ」とか「堀干し」とか言っていたと思います。堀干しは楽しみでもありました。水量が少なくなる冬季に各所に設けられた関を締め切り、ポンプで水を汲み上げていきます。そうすると鯉、鮒、鯰、鰻など大量の川魚を捕獲することが出来ます。昔はこれを甘露煮にしたり、長期保存のため燻煙したりして食して貴重な蛋白源になっていたものと思います。
 また水を抜いたクリークから泥上げ機(ベルトコンベアみたいなもの)を用いてヘドロなどを水田に持ち上げておりました。ヘドロには有機物が多く含まれておりますので、肥料として有効活用していたということでしょう。
 しかし、40年くらい前だったでしょうか、農業基盤整備事業という国家プロジェクトが始まり、旧来のクリークは埋められ大きな幹線水路となり、点在していた田畑は一ヶ所にまとめられた農地とされました。農業用水は幹線水路から汲み上げ水田へはパイプで導水されるようになり、水栓を開ければ用水が給されるようになっております。事業が実施された時期には既に郷里を離れており、久しぶりに帰郷すると田園風景が大きく変貌してしまったことに驚きを憶えたものです。

 このように農業用水一つをとっても山間部、山麓部、平野部、干拓地などなどそれぞれに特徴があり、それぞれの歴史背景を有しております。ですから当地では基盤整備をしようにもできないといった方が適切であると思われます。そりゃ土木工事ですから無理してやれないことはないでしょうが、おそらく無理したところから破綻してしまうでしょう。国家百年の大計とはよく言ったもので、補助金があるからこの際やってしまおうと安直に飛びつくのではなく、何事もよくよく考えたうえで実行に移す必要があります。さもなくば、それこそ孫子の代に負の遺産を残してしまうことになってしまいます。
 ですから、このような地方の稲作は何も対策を講じなければ自然消滅してしまうでしょう。対策したはしたで禍根を残すことにもなりかねません。正に八方塞がりです。どうすれば良いのですかね~!?


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