眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

クリスマスピッツ

2014-12-10 00:22:53 | クリスマスの折句
 夕暮れの並木道を歩いていると見知らぬ犬が近づいてきて私を引っ張り始めました。ぐいぐいと引っ張る途中で、時々私の方を振り返ってはちゃんとついてきているかどうかを確かめました。どこか行きたいところがあるのかと訊いても、犬は黙って一瞬顔を向けるだけでした。
「私は雰囲気で引っ張るタイプだから」
 そのように言いたげな顔でした。
 空き地に着くと老若男女に動物たちが集まって草野球をしていました。満塁のチャンスで、左打ちのおじいさんがバットを一振りすると打球は兎が守るライトを高々と越えてホームランになりました。猫やカンガルーやおばあさんが次々とホームに帰ってきてお祭り騒ぎとなりました。夕日の中から巨人の監督が現れてピッチャーの交代を告げると、少年は悔しそうにグローブを地面に叩きつけました。ゆっくりとリリーフの亀がマウンドに向かいます。その間に町内会の人たちが火を起こして、野戦に備えました。食欲をそそる豚汁のよい匂いが風に乗って私たちのいるベンチにまで漂ってきました。
 どうすればこの者たちの輪の中に入ることができるのでしょうか。私はどうにかして温かい豚汁を体の中に取り入れたいと願いながら、亀の歩みを見つめていました。
 ありったけの土を集めて盛り上げられたマウンドの上に、リリーフ亀は登ろうとしましたが、あまりの険しさに何度もひっくり返ってしまいます。その度に自力で反転して起き上がることを繰り返した後、とうとうこちらに向かってやってきました。
「最近めっきり体力が落ちてねえ……」
 リリーフ亀は言いました。
「若い頃は富士山にも登ったもんさ」
 と言って首を伸ばしました。
「そうですか」
 頂上に立つ亀の姿を思い浮かべました。それは私たちが生まれるよりもずっと昔のことかもしれませんでした。犬は、黙って立ち上がると、救援を待つマウンドの方へ向かって歩き出しました。静かな闘志が秘められた後姿を見つめていると、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。

黒帯の
リストを抱いて
スピッツは
マッターホルンの
裾野におりる

 マウンドの炎に包まれて、間もなく歌は燃え尽きてしまいました。
コメント
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