車の運転をしていてふと思い出す人がいる。
そして秋のこの時期になると思い出す人がいる。
忘れられない人ではない、ふと思い出す人。
二人とも名古屋時代に会った人。
10数年前の新婚時代。
新婚早々、私が通い始めたのは自動車学校でした。
なんせ昼間の時間がたっぷりあるのです。
免許も欲しいなぁと思っていたので、最寄の自動車学校へ入校することに。
私はそこに通っていた期間中、見事に話し相手がいませんでした。
こんな経験はあまりしたことがなく、
私はいつも一人ポツンと授業を受けたり、
空き時間をぼけーっと過ごしていました。
私はかなりの時間とかなりのお金をかけて
やっと仕上げに近い高速道路講習までこぎつけました。
高速道路講習は先生一人に生徒が二人。
三人で車に乗り込みます。
一緒に組んだ生徒さんは当時の私にとってもかなり若そうな
男子学生でした。
自動車学校で何度かすれ違ったことはあるだろうけど、初対面の気持ち。
その時の私は高速道路で運転するというだけで、けっこう緊張していたのだと思います。
彼はそんな私に
「大丈夫ですよ」と声をかけてくれました。
高速道路の行きと帰りを彼と分担して運転したと思うのです。
折り返し地点のサービスエリアで、先生が買ってくれた缶コーヒーを飲みながら、
彼はそう言いました。
その一言でどれだけ、私が救われたか。
今、その彼とどこかですれ違ったとしても全く分らないだろうし、
探し出して会いたいという気持ちはないけれど、
でも、運転しているときにふと思い出す人です。
あの時はありがとうって。
もう一人は
運転免許を取得した私がアルバイトを始めることになり、
その先で出会った年配の女性です。
とても可愛がっていただきました。
その女性の姉にあたる方が華道の先生で、
そこに通った時期もありました。
一年後には定年退職で職場を去られたのですが、
退職時に職場のお仲間にあるプレゼントをくださったのです。
それが栗の皮むき鋏。
「年に一回は、私のことを思い出してもらえるでしょ」
彼女はそう言いながら、手渡してくれました。
あれからもう10数年経つのに
私はまんまと彼女の予言どおりに(!!)
秋になると彼女を思い出しながら
栗ご飯を作るのでした。
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蔦の葉に覆われた門をくぐると…