「すぐに使えることを教えていただきたいのです」
今までに幾度となく、研修のご担当者から依頼された言葉です。
また、研修実施前の打ち合わせのときや、研修当日の開始前に担当者よりも上の役職の方が挨拶にいらして下さったときなどにも、おっしゃることがある言葉でもあります。
即戦力、即効性が求められる現代、研修を行う企画する側からすれば、せっかく研修を行うのだから受講者から「出席した甲斐があった」、「この知識やスキルはすぐに使える」という声が欲しいということです。
「研修の成果や効果を測りにくい」ということは、古くて新しい議論です。だからこそ、「即、研修の成果が欲しい」ということになるのでしょう。
限られた人材育成の予算の中で行う研修だからこそ、費用対効果がはっきり欲しいというふうになることは当然のことです。
しかし、「すぐに使える」ことを否定するものではないのですが、一方であまりにもその点だけを追求してしまうことにも少々違和感があります。
このようなときに思い出すのが、「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」という言葉です。
この言葉は、戦前から戦後すぐまで慶応大学の塾長を務めた経済学者の小泉信三氏が著書の「読書論」の中で、工学博士だった谷村豊太郎氏が「直ぐ役に立つ人間は、直ぐ役に立たなくなる人間だ」と言って性急な人材育成を戒めたという逸話を紹介したものです。
そこから、様々な人がこの言葉を引用することによって、世間で広く使われるようになりなったそうです。
現代は、以前にも増して高い効率や生産性が求められる時代であり、「目の前」のことももちろん大切です。しかし、そういう時代だからこそ大事になってくるのは、部分だけでなく全体をとらえる視点だと思うのです。
自分が担当する仕事だけでなく、組織全体をイメージし職場全体の問題をとらえる広い視点で考えたり、さらに解決したりするためには少々エネルギーを必要とするような問題にも果敢にチャレンジして、周囲を巻き込んで解決しようとする力も必要になってきます。
こうした力は一朝一夕には身につきません。自ら時間をかけて学び、様々な経験を経ることで、徐々に身についてくるものです。
そして、こうした力を身に着けないと、これからの時代、少し状況が変化しただけで的確な対応ができないことになってしまいかねませんから、まさに必須のものと言えます。
「すぐに使えること」が重宝される時代だからこそ、「すぐには身につかないけれど、時代が変化しても対応出来得る力、人生の糧になる力」を大切にしていかなければならないと考えています。