「たとえ発注条件が無理難題だったとしても、お客様にこちらの要望を伝えるなんてことはできません。ましてや、お断りするなんてもっての外です。お客様は神様ですから・・」「お客様の方からも、そのことを言われたことがありますし」
営業のコンサルティングや研修を行っている中で、度々この言葉を聞きます。
「お客様は神様だから、たとえ無理なことであったとしても、受け入れざるを得ないこと」なのだそうです。
この「お客様は神様です」とおっしゃったのは、歌手の三波春夫さんです。
2001年に77歳で亡くなられていらっしゃいますので、若い方の中には生前の三波春夫さんを知らない方もたくさんいらっしゃるのではないかと思います。一方で三波春夫さんがおっしゃったこの言葉そのものは、本来の意味とは違った形で広く一人歩きをしてしまっているようです。
前述のように、「お客様は神様です」を「お客様は神様のように有難い存在だから、お客様の言うことは絶対である」というように理解している人が多いのですが、実はもともと別の意味あいで使われた言葉だったのです。
三波春夫さんのご令嬢の株式会社三波クリエイツ代表取締役 三波美夕紀さんは三波春夫さんのオフィシャルサイト(http://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html)で次のようにおっしゃっています。
「歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。だからお客様は絶対者、神様なのです」
「お客様は神様です」は、本当はこうした意味だったのです。弊社が行うコンサルティングや研修の中では、微力ながら三波春夫さんが伝えようとした真意をお話させていただいているのですが、冒頭のように違った意味で捉えている人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。特に、営業の現場での誤解は深刻な状態で、この誤解が日本の企業をとりまく様々な問題の原因の一つになっているのではないかと感じています。
本日の国会審議の中で、長時間労働の削減を目的に国として残業時間の上限を設けるという話が議題になったようですが、これは決して簡単な話ではないと感じます。
しかし、過労死の問題をきっかけに長時間労働の問題に強く関心が向かっている今だからこそ、この問題の解決に向けて積極的に取り組んでいかなければなりません。
その取り組みの一つとして、時に過剰なまでの要求をする顧客とそれに無理をしてでも応えようとする販売側の双方が、「お客様は神様です」の意味の誤解を解いて、本来の意味を踏まえた双方にとってより良い関係を作っていくことが、この問題の解決の一端につながるのではないかと思っています。
さらには、最近これまで以上にワークライフバランスのとれた働き方の重要性が叫ばれています。ワークライフバランスの行動指針で掲げられている「健康で豊かな生活のための時間の確保」の具体的な取り組みとして、「取引先への計画的な発注や納期設定」があります。ワークライフバランス実現のためにも、「お客様は神様です」の本当の意味を認識することが、その第一歩になるのではないでしょうか。
(冒頭の写真は三波春夫さんのオフィシャルサイトより)
(人材育成社)