当社は今までに「風通しの良い職場の作り方」というタイトルの講演や研修を何度か行っています。一番参加者が多かったのは、ある企業の社内講演会で約400名の管理職が対象でした。事前のアンケート調査では「積極的に部下の話を聞いている」と答えた人が7割以上いたのですが、部下のアンケート結果では「話をきちんと聞いてくれる上司」は3割弱でした。この結果を会場のスライドに映したときに、ため息とも笑い声ともとれるような声が聞こえてきました。
さて、ごく一般的な日本の大企業の会議で見かける風景です。「みんな、言いたいことがあったら何でも言ってくれ。」「もっと自由に発言して職場の風通しを良くしようじゃないか。」会議の場を仕切る上司が発言します。しかしほとんどの部下は目をそらして何も言いません。上司からすれば「積極的に部下の話を聞いている」のに部下からの反応がない、というわけです。
当社が行う管理職研修では、こうした状況はどの会社でも同じであり、部下から積極的な意見が出てくるまでには時間がかかるものです、と伝えています。これに対して研修受講者(主に課長クラス)の反応は大体次の3つに分かれます。
(1)そうか、もっとこちらから話しかける回数を増やさなきゃいけないな。
(2)面倒くさいな。でも、仕事だというなら仕方ないから少しだけやるか。
(3)冗談じゃない。なんで部下にそこまで気を遣わなきゃならないんだ。
長年研修講師を務めてきた私の感覚としては、研修中のしぐさや表情から判断する限り(1)10%(2)50%(3)40%といったところでしょうか。
ご存知のように、対人コミュニケーションは言葉だけではなく「表情や態度」「声の調子」といった非言語的な要素に強く影響を受けます。「言いたいことがあれば言ってくれ」という言葉も、上記の(2)や(3)の上司が発すれば伝わってくるメッセージが大きく異なってきます。
冒頭の企業での講演では、こうしたことを説明しながら「とにかく義務的にでも良いですから、積極的に部下と話す回数を増やしてください」と伝えました。それでも「7割対3割」の比率はそう簡単には変わらないでしょう。
では「風通しの良い職場」は蜃気楼のようなものなのでしょうか。
それはわかりません。しかし「風通しの良い職場」という理想は社内にしっかりと掲げておくべきです。
たとえば、品質管理の「常識」のひとつに「グッドニュースよりバッドニュースを優先せよ」という言葉があります。クレームやトラブルといったバッドニュース(悪い報告)を最優先で伝え、早急に処理しないと大きな損害が生じてしまうからです。
品質部門に限らず営業も開発もスタッフも、バッドニュース(悪い報告)をためらわず伝えることをひとつの「作業」として定義してみてはいかがでしょうか。作業は義務ですからしないわけにはいきません。また、作業ですから「表情や態度」「声の調子」はどうでもいいことになります。
こうした強制的な手段は、強力な「情報の送風機」のような働きをします。管理職はこの送風機のスイッチを切らないよう常に意識しなければなりません。
「え?!なんでそんなミスをするんだ!」と思わず口にしそうになった上司の皆さん、あなた今スイッチを切ろうとしましたよ。ご注意を!