中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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言うことをためらう上司と、声をかけることを遠慮する部下

2016年06月22日 | コンサルティング

 「監督者として、どこまで部下に言ってよいものか」

さらに、「部下のほうからも声をかけやすくするためには、監督者としてどうすればよいのか」

これは監督者研修の事前打ち合わせのときに、研修の担当者から監督者が抱えている悩みとして伺った内容です。

部下にどこまで言ってよいのかわからず、言うこと自体をためらってしまう理由は、「部下にパワーハラスメント(以下パワハラ)と受け取られたらどうしよう」と監督者が心配してしまうからとのことでした。

実際、この組織にはパワハラを扱う専門部署が設置されているとのことで、部下にここに駆け込まれることを心配している監督者がいるようです。

この話しを伺っていて、改めて大変な時代になったものだと思いました。

確かに、明らかにパワハラに該当する行為をして部下の士気を低下させたり、パフォーマンスを悪化させたり、メンタルヘルスの不調に追い込んでしまう上司がいるのも事実ですが、そういう人は一部の人であって、大半の上司はそういう行為は行っていないはずです。

実際、厚労省のデータを見ると、都道府県労働局の労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は年々増加しているそうですが、パワハラに関する相談を1件以上受けたことがある企業は回答企業全体の45.2%で、実際にパワハラに該当する事案のあった企業は回答企業全体の32.0%とのことです。

この数字一見すると、多いと感じられる方が多いと思いますが、2010年から2012年の3年間で1件以上の相談があった件数ですので、驚くほど多いとは言えないと思います。

しかし、パワハラに関わる問題は以前よりも顕在化してきているわけですが、それでもパワハラを受けている人の数で言えば、上記のように受けていない人よりも圧倒的に少ないのです。それにもかかわらず、パワハラを気にして部下に声をかけることをためらう上司いることこそが問題だと感じます。(もちろん、数が多くないからと言ってパワハラが許されるわけでないのは当然です。)

この話を聞いていて思ったのは、今でもパワハラの定義をきちんと認識していない人が多いということです。

パワハラの定義については、厚労省では「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。

必要な指導を適切に部下に行うのであれば、それはパワハラではないことは言うまでもありませんし、逆に必要な指導を部下に行わないのは上司として部下の育成を放棄していることになりますから、それこそ問題です。

このように、上司、部下それぞれがパワハラの定義を今一度確認する必要があります。

一方で、部下の方も上司が忙しそうにしていると、質問をしたくても声をかけるのを遠慮してしまうことが多いのだそうです。上司がひと段落したら質問できるように、先に一声をかけておけばよいのではないかと思いますが、こちらも必要に以上に遠慮してしまって、それができないのだそうです。

上司が忙しそうに見えるからと言って、質問すべきことや報告・連絡すべきことをしないことも仕事のルールから言えば問題です。

これらのことから、上司も部下も本来自分がするべきことを行わない理由を、パワハラや忙しそうだからといった別の問題にすり替えているのではないかと感じます。

パワハラを起こさない職場環境に必要なことは当たり前のことではありますが、職場内のコミュニケーションが有効であることをきちんと理解し、遠慮する前に上司は部下に言うべきことは言うこと、部下も上司に質問すべきことはすること、まずはそこから始めるしかないのだと思います。

私自身は引き続き、研修やコンサルティングをご依頼くださっている企業等にはしっかりそのことを伝えていきます。

(人材育成社)