漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「夬ケツ・カイ」 <ゆがけ・えぐりとる> と 「決ケツ」「欠(缺)ケツ」 「快カイ」

2022年02月14日 | 漢字の音符
   夬ケツ・カイの解字を改めました。ゆがけ(夬)の写真を追加しました。
 ケツ・カイ  大部
最初は弓のつるを引く「ゆがけ」

ゆがけ(夬)。右手の親指にはめている。[北京の弓箭師・楊福喜氏]

 解字 甲骨文字は三本指の手の先に〇を描き、指輪状のものをはめていることを表している。春秋戦国期の簡帛は、手のひとつの指に〇をはめている形を表す。これは弓を射るとき弦をひっぱるための「ゆがけ」と考えられている。「ゆがけ」は角や玉製の短円筒で、これを右手の親指にはめて、円筒の端に弓弦をひっかけ人差し指で押さえながら弓を引く(現在の「ゆがけ」は手袋の中に仕込まれている)。
 篆文になると、第1字は指の先に中の字が付いた形になり、第2字の[説文解字]で、コの形にタテ線になった。説文著者の許慎は夬を「分決するなり」として、切り分ける意に解釈した。これは篆文のコ形を刀と解釈し、これを手に持つ形としたためである。許慎にいたり夬の字は、字形と意味に大幅な変更がともなった。これ以降の夬は、刃物を手に持って物に切りこみを入れる意味が主流となり、音符として「えぐり取る」等のイメージで用いられる。(字形の変遷は中国の「字源」を参考にした)
意味 (1)ゆがけ(夬)。弓の弦を引く道具。弓懸とも書く。 (2)わける。 (3)きめる(=決)

イメージ  
 「えぐり取る」
(夬・抉・刔・決・快)
 「切り込みを入れる」(袂・玦・欠) 
 「切って分ける」(訣)
 「形声字」(鴃)
音の変化  ケツ:抉・刔・決・訣・玦・欠(缺)  カイ:夬・快  ゲキ:鴃  ベイ:袂

えぐりとる
 ケツ・えぐる  扌部
解字 「扌(手)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。手で刃物を使ってえぐること。夬には篆文でもわかるように手(又)が描かれており、それにまた手を加えている。これは、もともと夬でえぐりとる意を表していたが、後にさらに手を加えて意味を確認した形である。
意味 えぐる(抉る)。こじる(抉じる)。ほじくり出す。「抉出ケッシュツ」「抉剔ケッテキ」(抉も剔も、えぐる意。えぐりだす)
 ケツ・えぐる  刂部
解字 「刂(かたな)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。夬ケツは、えぐり取る意であり、それに刀(刂)を加えて意味を確認した字。
意味 えぐる(刔る)。くじる。ほじくりだす。抉と同じ。
 ケツ・きめる・きまる  氵部
解字 「氵(水)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。洪水のとき堤防の一部をえぐり取って水を流し、下流の町が氾濫で水に浸かるのを防ぐこと。また、堤防を切ることは決断を要することなので、決める意となる。
意味 (1)きれる。さける。堤防などが切れて水があふれ出る。「決壊ケッカイ」 (2)きめる(決める)。きまる(決まる)。「決定ケッテイ」「決断ケツダン」「決勝ケッショウ」 (3)思いきって。勢いがよい。「決起ケッキ」 (4)かならず。けっして(決して)。
 カイ・こころよい  忄部
解字 「忄(心)+夬(えぐり取る)」 の会意形声。心のしこりを抉りとった後の心地よい感じ。
意味 (1)こころよい(快い)。「痛快ツウカイ」「快適カイテキ」「快晴カイセイ」 (2)はやい。「快速カイソク」 (3)病気が治る。「快気祝カイキいわい」 (4)するどい。「快刀乱麻カイトウランマ」(するどい刀で乱れもつれた麻を切る)

切り込みをいれる
 ベイ・たもと  衤部
解字 「衤(衣)+夬(切り込みをいれる)」 の会意。衣服の腕を出す部分に切り込みを入れて作る袖そで。本来は着物の袖の切り込みの意だが、袖やたもとの意となる。
意味 たもと(袂)。そで。筒袖の肘から肩までの間。また、袖の下の袋状の部分。「袂別ベイベツ」(袂を別つ)「分袂ブンベイ
 ケツ  玉部
 西周の玉玦
解字 「王(玉)+夬(切り込みをいれる)」 の会意形声。一方に切り込みの入った輪の形の玉。
意味 古代の装飾品。環状で一部が欠けている玉。小型の物は耳飾り(ピアス)として、比較的大きいものは装身具として用いられた。「玉玦ギョクケツ
[缺] ケツ  欠部(旧字は缶部)
解字 旧字は缺で「缶(ほとぎ)+夬(切り込みが入る)」 の会意形声。缶は土のうつわのこと。これに切り込みが入ってしまうこと。すなわち割れたり欠けたりすること。新字体で「欠」の字に置き換えられた。この結果、これまで「あくび」の意味だった欠ケンという字が、かける(欠ける)という意味と、ケツという発音を獲得した。
意味 (1)かける(欠ける)。かく(欠く)。割れる。「欠損ケッソン」 (2)たりない。不足する。「欠点ケッテン」 (2)やすむ。とりやめる。「欠席ケッセキ

切って分ける
 ケツ・わかれる  言部
解字 「言(いう)+夬(切って分ける)」 の会意形声。言葉で相手との関係を切って別れること。また、別れ(死)に際して家の秘伝を子孫に伝える(言)こと。
意味 (1)わかれる(訣れる)。いとまごい。「訣別ケツベツ」(=決別) (2)奥の手。おくぎ。「秘訣ヒケツ」「訣要ケツヨウ」(奥の手)

形声字
鴃[鴂] ゲキ・ケツ・もず  鳥部

鴃(もず)(「ウィクショナリー 鴃」より)
解字 「鳥(とり)+夬(ケツ)」 の形声。ケツが転音したケキ・ゲキの発音で、同音のケキ・ゲキ(もず)を表す。
意味 もず(鴃)。スズメ目モズ科の鳥。他の種類の鳥や動物の鳴き声をよくまねる。秋から11月頃にかけて縄張りを作り、高い梢などで鋭い声で鳴く。百舌鳥・ケキ・ゲキとも書く。「鴃舌ゲキゼツ」(モズの鳴き声から、ただやかましく聞こえる外国の言葉)「南蛮鴃舌ナンバンゲキゼツ」(南蛮は中国で南方の人をさげすんだことば。蛮人が話すわけのわからない言葉の意)
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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