谷 コク・ヨク・たに・や・きわまる 谷部
解字 甲骨文字第1字はハ、第2字は Λ を重ねた形。[甲骨文字辞典]は「両側に山が分かれた場所を抽象的に表している」とする。私は以前からハを二つ重ねた字形に違和感を感じていた。「ハを二つ重ねれば谷でなく尾根だろう」と。しかし、漢字は甲骨文字の時代からタテ書きである。「本当はハをもうひとつ横に書きたかったのだが、やむをえず下に重ねたのではないか」と考え、実際にハ・Λ を横に並べて描いてみたのが下図である。第3図の口がつく谷はハとハの真ん中に描いてみた。すると少しは谷らしくなった。口はおそらく谷によく見られる滝つぼであろう。
さらに実際の谷の写真と、谷を Λ 線で描いてみたのが下図である。
この谷の写真と Λ 線の図形により、Λ がタテに重なった部分は尾根であり、横に並んだ場合に谷を表すことが分る。したがってハや Λ を重ねた形は、横にならべたと思えばよいのだろう。金文第1字は「ハハ口」、第2字は「ハハ V」で下に V がつく。「ハハ口」の形は篆文で少し変形したが隷書(漢代)までつづき、現代字は「ハ+𠆢+口」の谷になった。なお、谷は同音の穀コクに通じて穀物の意味があり、中国では谷の意味でも使うが、多くは穀物の意味で使われている。
意味 (1)たに(谷)。や(谷)。「渓谷ケイコク」「谷風コクフウ・たにかぜ」「谷間たにま」 (2)みち。通路。 (3)低いところ。くぼみ。「気圧の谷」 (4)きわまる(谷まる)。 (5)こくもつ(穀物)。同音の穀コクに当てた用法。「陸谷リクコク」(=陸穀。トウモロコシ)
参考 谷は部首「谷たに」になる。漢字の左右に付いて谷の意味を表す。この部首は非常に少なく、常用漢字は部首の谷のみ。その他の主な字に
谿ケイ・たにがわ(谷+音符「奚ケイ」)
谺カ・こだま(谷+音符「牙ガ」)
豁カツ(谷+音符「害ガイ」)がある。
イメージ
「たに」(谷・硲・峪・俗)
同音の穀コクに通じ「穀物」(裕・欲・慾)
「形声字」(浴)
音の変化 コク:谷 ゾク:俗 ユウ:裕 ヨク:峪・浴・欲・慾 はざま:硲
たに
硲 <国字> はざま 石部
解字 「石(いし)+谷(たに)」の会意。石のごろごろしている谷あい。
意味 はざま(硲)。谷あい。谷間。「硲はざまの路」
峪 ヨク・たに 山部
解字 「山(やま)+谷(たに)」の会意形声。山あいの谷。発音はヨクが使われている。
意味 (1)たに(峪)。山あいの谷。(2)地名。「嘉峪関カヨクカン」(甘粛省嘉峪関市にあった関所。万里の長城の西端にあり、古くから中央アジアに通じる要所であった。
俗 ゾク 人部
解字 「イ(ひと)+谷(たに)」の会意形声。谷の流域にすむ人々の意。同じ流域に住む人の習わしや習慣をいう。のち、ひろく世の中・世間の意となった。
意味 (1)ならわし。「風俗フウゾク」「習俗シュウゾク」 (2)世の中・世間。「俗世ゾクセイ」「俗説ゾクセツ」 (3)ありきたり。ありふれた。「通俗ツウゾク」 (4)いやしい。ひくい。「俗悪ゾクアク」「卑俗ヒゾク」(低俗。下品)
穀物
裕 ユウ・ゆたか 衤部
解字 「衤(ころも)+谷(穀物)」の形声。裕は、衣服と食べ物(穀物)があり、ゆたかなこと。発音は、コク⇒ユウに変化。
意味 (1)ゆとりがある。ゆたか(裕か)。「裕福ユウフク」「富裕フユウ」 (2)ひろい。心がひろい。「寛裕カンユウ」
欲 ヨク・ほっする・ほしい 欠部
解字 「欠ケン(口をあけている人)+谷(穀物)」の形声。欲は、人が口をあけて食べ物(穀物)を欲しがること。発音は、コク⇒ヨクに変化。
意味 (1)ほしい(欲しい)。ほっする(欲する)。ほしがる。のぞむ。「欲求ヨッキュウ」「欲望ヨクボウ」 (2)物をほしがる気持ち。「意欲イヨク」「食欲ショクヨク」
慾 ヨク 心部
解字 「心(こころ)+欲(ほしい)」の会意形声。欲しいと思う心。人間の慾望をいう。常用漢字でないため、欲に書き換えることが多い。
意味 (1)ほしいと思う心。「慾情ヨクジョウ」(=欲情) (2)むさぼる。「貪慾ドンヨク」(=貪欲)
形声字
浴 ヨク・あびる・あびせる 氵部
解字 金文は人が水のほとりで水浴している形で谷ヨクは発音を表している。戦国期から「氵(みず)+谷(ヨク)」の形声字となり現代字の浴になった。水をあびる、湯あみする意のほか、うける・こうむる意ともなる。
意味 (1)あびる(浴びる)。あびせる(浴びせる)。水をかぶる。湯あみする。身体を洗う。「入浴ニュウヨク」「浴室ヨクシツ」(2)うける。こうむる。「日光を浴びる」「放射線を浴びる」「浴恩ヨクオン」(うけた恩)
<紫色は常用漢字>
バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。
解字 甲骨文字第1字はハ、第2字は Λ を重ねた形。[甲骨文字辞典]は「両側に山が分かれた場所を抽象的に表している」とする。私は以前からハを二つ重ねた字形に違和感を感じていた。「ハを二つ重ねれば谷でなく尾根だろう」と。しかし、漢字は甲骨文字の時代からタテ書きである。「本当はハをもうひとつ横に書きたかったのだが、やむをえず下に重ねたのではないか」と考え、実際にハ・Λ を横に並べて描いてみたのが下図である。第3図の口がつく谷はハとハの真ん中に描いてみた。すると少しは谷らしくなった。口はおそらく谷によく見られる滝つぼであろう。
さらに実際の谷の写真と、谷を Λ 線で描いてみたのが下図である。
この谷の写真と Λ 線の図形により、Λ がタテに重なった部分は尾根であり、横に並んだ場合に谷を表すことが分る。したがってハや Λ を重ねた形は、横にならべたと思えばよいのだろう。金文第1字は「ハハ口」、第2字は「ハハ V」で下に V がつく。「ハハ口」の形は篆文で少し変形したが隷書(漢代)までつづき、現代字は「ハ+𠆢+口」の谷になった。なお、谷は同音の穀コクに通じて穀物の意味があり、中国では谷の意味でも使うが、多くは穀物の意味で使われている。
意味 (1)たに(谷)。や(谷)。「渓谷ケイコク」「谷風コクフウ・たにかぜ」「谷間たにま」 (2)みち。通路。 (3)低いところ。くぼみ。「気圧の谷」 (4)きわまる(谷まる)。 (5)こくもつ(穀物)。同音の穀コクに当てた用法。「陸谷リクコク」(=陸穀。トウモロコシ)
参考 谷は部首「谷たに」になる。漢字の左右に付いて谷の意味を表す。この部首は非常に少なく、常用漢字は部首の谷のみ。その他の主な字に
谿ケイ・たにがわ(谷+音符「奚ケイ」)
谺カ・こだま(谷+音符「牙ガ」)
豁カツ(谷+音符「害ガイ」)がある。
イメージ
「たに」(谷・硲・峪・俗)
同音の穀コクに通じ「穀物」(裕・欲・慾)
「形声字」(浴)
音の変化 コク:谷 ゾク:俗 ユウ:裕 ヨク:峪・浴・欲・慾 はざま:硲
たに
硲 <国字> はざま 石部
解字 「石(いし)+谷(たに)」の会意。石のごろごろしている谷あい。
意味 はざま(硲)。谷あい。谷間。「硲はざまの路」
峪 ヨク・たに 山部
解字 「山(やま)+谷(たに)」の会意形声。山あいの谷。発音はヨクが使われている。
意味 (1)たに(峪)。山あいの谷。(2)地名。「嘉峪関カヨクカン」(甘粛省嘉峪関市にあった関所。万里の長城の西端にあり、古くから中央アジアに通じる要所であった。
俗 ゾク 人部
解字 「イ(ひと)+谷(たに)」の会意形声。谷の流域にすむ人々の意。同じ流域に住む人の習わしや習慣をいう。のち、ひろく世の中・世間の意となった。
意味 (1)ならわし。「風俗フウゾク」「習俗シュウゾク」 (2)世の中・世間。「俗世ゾクセイ」「俗説ゾクセツ」 (3)ありきたり。ありふれた。「通俗ツウゾク」 (4)いやしい。ひくい。「俗悪ゾクアク」「卑俗ヒゾク」(低俗。下品)
穀物
裕 ユウ・ゆたか 衤部
解字 「衤(ころも)+谷(穀物)」の形声。裕は、衣服と食べ物(穀物)があり、ゆたかなこと。発音は、コク⇒ユウに変化。
意味 (1)ゆとりがある。ゆたか(裕か)。「裕福ユウフク」「富裕フユウ」 (2)ひろい。心がひろい。「寛裕カンユウ」
欲 ヨク・ほっする・ほしい 欠部
解字 「欠ケン(口をあけている人)+谷(穀物)」の形声。欲は、人が口をあけて食べ物(穀物)を欲しがること。発音は、コク⇒ヨクに変化。
意味 (1)ほしい(欲しい)。ほっする(欲する)。ほしがる。のぞむ。「欲求ヨッキュウ」「欲望ヨクボウ」 (2)物をほしがる気持ち。「意欲イヨク」「食欲ショクヨク」
慾 ヨク 心部
解字 「心(こころ)+欲(ほしい)」の会意形声。欲しいと思う心。人間の慾望をいう。常用漢字でないため、欲に書き換えることが多い。
意味 (1)ほしいと思う心。「慾情ヨクジョウ」(=欲情) (2)むさぼる。「貪慾ドンヨク」(=貪欲)
形声字
浴 ヨク・あびる・あびせる 氵部
解字 金文は人が水のほとりで水浴している形で谷ヨクは発音を表している。戦国期から「氵(みず)+谷(ヨク)」の形声字となり現代字の浴になった。水をあびる、湯あみする意のほか、うける・こうむる意ともなる。
意味 (1)あびる(浴びる)。あびせる(浴びせる)。水をかぶる。湯あみする。身体を洗う。「入浴ニュウヨク」「浴室ヨクシツ」(2)うける。こうむる。「日光を浴びる」「放射線を浴びる」「浴恩ヨクオン」(うけた恩)
<紫色は常用漢字>
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