身体の意味を表す「身シン」と、弓で射る意の「射シャ」。両者には同じ形の「身」が含まれるが、この二つの音符の関係は?
身 シン <腹部がふくれた人>
身 シン・み 身部
解字 甲骨文第一字は、腹部にふくらみをつけて強調した形。第二字はふくらみの中に点を入れた形。甲骨文では、腹部をさす[甲骨文字小事典]。金文は甲骨文の第二字を引き継ぐかたちだが、腹部の点を子とみなして妊娠する意ともなり、また、身体の意味でも使われた。現代は身体の意でつかわれる。
意味 (1)み(身)。からだ。「身体シンタイ」 (2)おのれ。みずから。自分。「自身ジシン」「身近みじか」 (3)なかみ。本体。「刀身トウシン」「黄身きみ」(卵黄)
参考 身は部首「身み・みへん」になる。漢字の左辺(偏)に付いて、人間の体の意を表す。常用漢字は身一字のみ。その他の主な字は以下のとおり。
躯ク・むくろ(身+音符「区ク」)、躰タイ・からだ(身+音符「体タイ」)、躬キュウ・み・みずから(身+音符「弓キュウ」)、躾しつけ(身+美の会意)
射 シャ <弓で矢をはなつ>
射 シャ・いる 寸部
解字 甲骨文は弓に矢の形。金文は弓に矢を手でつがえて放つ形で、「矢を射る」意味を表わす。篆文から、弓の部分が身と誤って書かれ[字統]、手⇒寸になった射となり現在の字に続いている。
意味 (1)いる(射る)。弓で矢をいる。「射撃シャゲキ」「射程シャテイ」(矢などが届く距離) (2)あてる。的にあてる。「照射ショウシャ」(光や放射線などを当てる)「射幸心シャコウシン」(偶然に当てようとする心)
イメージ
弓で矢を「はなつ」(射・麝) 「形声字」(謝)
音の変化 シャ:射・謝 ジャ:麝
はなつ
麝 ジャ・シャ 鹿部
解字 「鹿(しか)+射(はなつ)」 の会意形声。においを放つ鹿の意。
麝香鹿(「明治薬科大学資料館」の展示より)右がオス、左がメス
意味 じゃこうじか(麝香鹿)。シカ科の動物で、鹿よりも小さく角がない。雄は上の犬歯が大きく発達して牙となる。腹部から香料の麝香がとれる。「麝香ジャコウ」(麝香鹿の香嚢から製した黒褐色の粉末で、芳香が強く薫物(たきもの)に用い、薬用にもなる)「蘭麝ランジャ」(蘭ランの花と麝香の香り。よい香りのこと)「蘭麝待ランジャタイ」(正倉院に収蔵されている香木。天下第一の名香と謳われる)
形声字 謝 シャ・あやまる 言部 xiè
解字 「言(ことば)+射(シャ)」 の形声。別れを言って去ることを謝シャという。[説文解字]は「辞去(別れを告げて去る)也(なり)。言に従い射シャの聲(声)」とする。派生して、別れに際し、謝(あやま)り、お礼を言う意がある。また、去ることによって、かわる意ともなる。
意味 (1)あやまる(謝る)。「謝罪シャザイ」「陳謝チンシャ」(事情を陳べてあやまる) (2)お礼をいう。「感謝カンシャ」「謝意シャイ」(感謝の気持ち) (3)うつりかわる。「代謝タイシャ」(古いものと新しいものが入れかわる)「新陳代謝シンチンタイシャ」(4)ことわる。「謝絶シャゼツ」 <紫色は常用漢字>
お知らせ
本ブログ掲載の漢字を選りすぐった『音符順 精選漢字学習字典』発売中!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます