漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「堯ギョウ」<たかい> と 「暁ギョウ」「焼ショウ」「饒ジョウ」「繞ニョウ」

2023年02月17日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
堯[尭] ギョウ・たかい  土部

解字 甲骨文は、ひざまずいた人の上に土のかたまりが二つある形。この字形は[甲骨文字辞典]に掲載されていない。拓本以外の出典かもしれない。金文は立ち姿の人の上に土が乗っている形。この字も土に関係する字と思われるが意味は不明。楚簡は人の上に土を描いた二人を繋いだ形。郭店楚簡という戦国中期(BC300年頃)の竹簡では、中国神話に登場する君主である「堯ギョウ」の意味で用いている。篆文は土が三つになった堯になり、現在に続いている。この字形について[説文解字]は、「高也。垚が兀の上に在る。高遠なり」とする。つまり土が三つ重なった下に兀コツ(高く上が平ら)が付いた形から字義を説いている。なお、この字が神話の王である堯に用いられたのは、堯が陶唐という姓で陶器作りの祖であるという伝説と結びついているためと思われる。
堯(資料図)
尭は略体の字で人名用漢字になっており、堯の新字体に準じて用いられることもある。また新字体の焼ショウ・暁ギョウで用いられている。
意味 (1)たかい(堯い)。気高い。「堯堯ギョウギョウ」(山などの高いさま) (2)中国古代伝説上の王の名。治水に舜シュンを起用しのちに彼に位を譲った。「堯舜ギョウシュン」(堯と舜は古代の聖王で、徳をもって天下を治めた古代の理想的帝王として並び称される)「堯典ギョウテン」(書経の編の名。堯の言行を記している)「堯風舜雨ギョウフウ シュンウ」(風雨の恵みを堯舜の仁徳に例えた言葉)

イメージ  
 「たかい」(堯・嶢・焼・蕘・澆・翹)
 土がかさなる様から「おおきい・ゆたか」(饒・驍)
 「形声字」(僥・暁・橈・撓・繞・遶・蟯・僥)
音の変化  ギョウ:堯・嶢・僥・暁・澆・翹・驍・蟯  ショウ:焼  ジョウ:遶・蕘・繞・饒  トウ:橈・撓 
 
たかい
 ギョウ・けわしい  山部
解字 「山(やま)+堯(たかい)」の会意形声。高い山で、山がけわしい意となる。
意味 (1)けわしい(嶢しい)。たかい。高くそびえたつさま。「嶢闕ギョウケツ」(高い宮城の門)(2)山の名。「嶢山ギョウザン」(陝西省西安市藍田県にある山)。「嶢関ギョウカン」(藍田県にある関所の名) 
 ショウ・やく・やける  火部
解字 旧字は燒で「火(ひ)+堯(たかい)」の会意形声。火の炎が高くあがる様子で、もえる・やける意。新字体は、焼に変化。
意味 (1)やく(焼く)。やける。もえる。「燃焼ネンショウ」「焼香ショウコウ」(香をたくこと)「焼却ショウキャク」(焼いて処分する) (2)[国]あれこれと手を尽くす。「世話を焼く」
 ジョウ・たきぎ  艸部
解字 「艸(くさき)+堯(=焼の略体)」の会意形成。焼く木の材料となる草木の意で、たきぎ・かり草をいう。また、きこり・くさかりの意となる。
意味 (1)たきぎ(蕘)。しば。細いたきぎ。 (2)きこり。くさかり。「芻蕘スウジョウ」(草かりと、きこり。賤しい者)「芻蕘に詢(はか)る」(草刈りや木こりのような身分の低い者にも広く意見を聞く)
 ギョウ・キョウ・そそぐ・うすい  氵部
解字 「氵(水)+堯(たかい)」の会意形声。高いところから水をそそぐこと。水をそそぐと濃い水が薄まることから転じて、味が薄い。人情がうすい意ともなる。
意味 (1)そそぐ(澆ぐ)。そそぎめぐらす。「澆花ギョウカ」(花に水をやる)「澆漑ギョウガイ」(田に水をそそぐ) (2)うすい(澆い)。味がうすい。人情がうすい。「澆薄ギョウハク」(人情がうすい) (3)かるがるしい。「澆風ギョウフウ」(かるがるしいさま)「澆競ギョウキョウ」(軽薄に競う)
 ギョウ・キョウ  羽部
解字 「羽(はね)+堯(たかい)」の会意形声。鳥が羽をたかくあげ、つまだてること。
意味 (1)あげる(翹げる)。「翹首ギョウシュ」(首をあげて望み待つ。=翹望ギョウボウ) (2)つまだてる(翹てる)。「翹企ギョウキ」(つまだつ。待ち望む)「翹然ギョウゼン」(つまだつさま) (3)すぐれる。「翹秀ギョウシュウ」(すぐれる)「翹翹ギョウギョウ」(①才能などがすぐれるさま。②高いさま。)

おおきい・ゆたか
 ジョウ・ゆたか  食部
解字 「食の旧字(たべる)+堯(ゆたか)」の会意形声。食べ物が豊かにあること。転じて、ゆたか・おおい意となる。
意味 ゆたか(饒か)。おおい。充分にある。「豊饒ホウジョウ」(ゆたか。豊も饒も、ゆたかの意)「饒舌ジョウゼツ」(ゆたかな舌で、おしゃべりの意)
 ギョウ・キョウ・たけし  馬部
解字 「馬(うま)+堯(ゆたか)」の会意形声。体格の豊かな強い馬。人に移して言う。
意味 たけし(驍し)。つよい。いさましい。「驍将ギョウショウ」(強く勇ましい大将)「驍名ギョウメイ」(強いという評判)「驍雄ギョウユウ」(勇ましく強いこと。また、その人)

形声字
 ギョウ・キョウ・もとめる  イ部    
解字 「イ(ひと)+堯(ギョウ・キョウ)」の形声。ギョウ・キョウは徼ギョウ・キョウ(得られそうもないことを得たいと願う)に通じ、人が滅多に実現できないようなことを願う意となる。
意味 (1)もとめる(僥める)。ねがう。「僥冀ギョウキ」(こい願う。僥も冀も、ねがう意。=徼冀キョウキ・ギョウキ) (2)「僥倖ギョウコウ」とは、倖コウ(思いがけない幸せ)を願うこと。=徼幸キョウコウ・ギョウコウ。また、実現した思いがけない幸せをいう。
「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」藤井聡太17歳の豊富すぎるボキャブラリー
文春オンライン2019/07/19
 ギョウ・キョウ・あかつき  日部
解字 旧字は曉で「日(ひ)+堯(ギョウ)」の形声。ギョウは異体字のギョウにしたがう。は「白(しろ)+堯(ギョウ)」の形声で、天が白くなってきた夜明けをいう。曉は日(太陽)の光が白くなる夜明けの意味となる。また、夜明けの明るいさまから転じて、物事にあかるい⇒さとる意になる。新字体は暁に変化。
意味 (1)あかつき(暁)。夜明け。「暁天ギョウテン」(夜明けの空)「早暁ソウギョウ」「払暁フツギョウ」(あけがた)「暁星ギョウセイ」(夜明けの星) (2)さとる(暁る)。よく知っている。「通暁ツウギョウ」(すみずみまで知っている) (3)[国]あかつき(暁)。物事が実現したその時。「完成の暁あかつきには」
 トウ・ドウ・たわむ  木部
解字 「木(き)+堯(ギョウ⇒トウ・ドウ)」の形声。[説文解字]及び「同注」は、「木を曲げる也。引伸し凡そ曲る之(の)偁ショウ(呼び名)と爲す」とし、木を曲げる・たわめる意。
   橈骨トウコツ
意味 (1)たわむ(橈む)。たわめる。まげる。「橈橈ドウドウ」(まがりたわむさま)「橈骨トウコツ」(手首の関節から肘の関節まで伸びている、ゆるやかにたわんだ骨。二本の骨で構成され、一本を橈骨、他方を尺骨という)(2)しなやか。「柔橈ジュウドウ」(しなやか。たわむ) (3)船のかじ。かい。
 トウ・ドウ・たわむ  扌部
解字 「扌(て)+堯(=橈。たわむ)」の会意形声。ここで堯は橈(たわむ)の略体。扌(て)のついた撓は、手でたわめること。たわむ・たわめる意となる。
意味 (1)たわむ(撓む)。たわめる(撓める)。「撓屈トウクツ」(身体をたわめて屈する)「不撓不屈フトウフクツ」(困難にあっても、ひるまずくじけない) (2)しなう(撓う)。(3)みだれる。みだす。「撓乱ドウラン」(みだす)「撓滑ドウカツ」(かきみだす)「撓擾ドウジョウ」(みだしさわがす) (4)[国]たわわ(撓わ)。枝などがしなうさま。「枝も撓わに実る」
 ジョウ・ニョウ・まとう・めぐる  糸部
解字 「糸(いと)+堯(ギョウ⇒ジョウ・ニョウ)」の形声。[説文解字]は「纏(まと)う也。糸に从(したが)い堯の聲(声)。発音はジョウ(而沼切)」とする。糸がまつわること。
意味 (1)まとう(繞う)。まつわる。「繞繞ジョウジョウ」(まつわりめぐる。まつわりみだれる) (2)めぐる(繞る)。「囲繞イジョウ」(囲みめぐる)「繞襲ジョウシュウ」(まわりこんで襲う) (3)[国]にょう(繞)。漢字の部首のひとつ。漢字の左側から下を占める部分。「之繞しんにょう」(辶・辶。(シニョウの変化した音。左側から下部へめぐる形が「之」の字に似ていることから「之繞」(シニョウ)の名がつき、なまって「シンニョウ」、さらになまって「シンニュウ」ともいう。)「延繞えんにょう」(廴)「走繞ソウニョウ」(超・赴・起などの走)「鬼繞キニョウ」(魅・魃などの鬼)
 ジョウ・ニョウ・めぐる  辶部しんにょう
解字 「辶(ゆく)+堯(=繞。めぐる)」の会意形声。めぐってゆくこと。意味は繞と同じ。
意味 めぐる(遶る)。めぐらす。かこむ。「纏遶テンジョウ」(まといめぐる)「遶弄ジョウロウ」(とりまいて戯れる)「遶囲ジョウイ」(めぐる)
 ギョウ・ジョウ  虫部  
解字 「虫(むし)+堯(=遶。めぐる)」の形声。お腹のなかをめぐる寄生虫。[説文解字]は「腹中の短い蟲(むし)也。虫に从(したが)い堯の聲(声)。発音はジョウ(如招切)とするが、ギョウの音もある。
意味 人の腸に寄生する虫。長さ1センチほどの白く細長い虫。「蟯虫ギョウチュウ」「蟯虫検査ギョウチュウケンサ
<紫色は常用漢字>

中国簡体字はなぜ堯[尭]ギョウyáo と書くのか。
 その理由は堯[尭]の草書体にヒントを得ての字を考案したからとされる。
下図は「書道三体字典」(本橋亀石書)の尭字欄で、左の草書体が簡体字のとよく似ている。

左から、草書・行書・楷書の尭。

 中国簡体字は堯[尭]だけでなく、堯[尭]を含む音符字もすべてに統一している。

「日中対照 早わかり簡体字字典」(石沢書店)の堯[尭]

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※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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