ホタルの独り言 Part 2

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カラカネトンボ

2017-05-21 21:00:15 | トンボ/エゾトンボ科

 カラカネトンボ Cordulia aenea amurensis Selys, 1887 は、エゾトンボ科(Family Corduliidae)カラカネトンボ属(Genus Cordulia)のトンボで、タカネトンボやエゾトンボ等のエゾトンボ属に似ているが、カラカネトンボ属として分類されている。オスは、尾部下付属器が上付属器よりわずかに短いだけなので、エゾトンボ属の種との区別は難しくはない。ちなみに、日本に分布するエゾトンボ科は以下の3属13種である。

  1. ミナミトンボ属(Genus Hemicordulia
    • ミナミトンボ Hemicordulia mindana nipponica Asahina, 1980
    • オガサワラトンボ Hemicordulia ogasawarensis. Oguma, 1913
    • リュウキュウトンボ Hemicordulia okinawensis Asahina, 1947
  2. カラカネトンボ属(Genus Cordulia
    • カラカネトンボ Cordulia aenea amurensis Selys, 1887
  3. トラフトンボ属(Genus Epitheca
    • オオトラフトンボ Epitheca bimaculata sibirica Selys, 1887
    • トラフトンボ Epitheca marginata (Selys, 1883)
  4. エゾトンボ属(Genus Somatochlora
    • クモマエゾトンボ Somatochlora alpestris (Selys, 1840)
    • ホソミモリトンボ Somatochlora arctica (Zetterstedt, 1840)
    • ハネビロエゾトンボ Somatochlora clavata Oguma, 1913
    • コエゾトンボ Somatochlora japonica Matsumura, 1911
    • モリトンボ Somatochlora graeseri Selys, 1887
    • キバネモリトンボ Somatochlora graeseri aureola Oguma, 1913 (モリトンボの黄斑翅タイプで同種)
    • タカネトンボ Somatochlora uchidai Forster, 1909
    • エゾトンボ Somatochlora viridiaenea (Uhler, 1858)

 カラカネトンボは、北海道と東北、上信越と北陸の山岳地帯に分布し、福井県大野市が西限で岐阜県白鳥町が南限とされ、 抽水植物や浮葉植物が適当に生え、開水面がある樹林に囲まれた沼や湿原の池に生息している。5月中旬頃から8月頃まで見られ、羽化した未熟個体は水域を離れ、かなり遠くまで分散して生活をする。成熟した個体は池沼に戻り、オスは岸に沿って時々停飛しつつ占有飛翔を行う。メスは、岸近い水面上を低く飛びつつ、単独で打水産卵する。
 環境省RDBに記載はないが、栃木県、富山県で絶滅危惧Ⅱ類、石川県、福井県、岐阜県で準絶滅危惧種として選定している。

 カラカネトンボは、2011年に尾瀬で飛翔を撮影して以来の出会いである。今回訪れた池では早朝から多数のオスが占有飛翔を行っていた。池を一周してみると、どの場所でもオスが飛んでおり、個体数がとても多いのに驚いた。カラカネトンボのオスは、岸辺近くの水面上を2秒ほどのホバリングをしながら、忙しなく移動し、他のオスとの縄張り争いを繰り返しながら探雌を行い、メスを見つけるとすぐに周囲の林内に連れ去っていった。
 オスの飛翔撮影は、トンボ撮影の醍醐味の一つではないだろうか。ホバリングが短時間のため簡単ではないが、チャンスはいくらでもあるので、楽しい一時を過ごせる。私の場合は、300mmレンズでマニュアル・フォーカス。ストロボも使わない。置きピンではなく、空中静止したトンボに素早くピントを合わせてシャッターを切る。カラカネトンボは岸と平行ではなく、岸に対して若干斜めにホバリングするので、全身にピントを併せることはできなかった。
 メスは植物が茂った岸辺で打水産卵しており、その様子をしばしば観察できたが、植物が邪魔で撮影までには至らなかった。また産卵を繰り返し行っていたメスが、疲れたためか、岸の 広葉の上に止まったことが一度だけあった。しかしながら、ピント合わせが間に合わず、撮影前に飛んでしまったので、本記事では、オスの飛翔のみの掲載である。

 今回訪れた池の標高は270mほどしかないが、岸辺の多くは泥炭層になっており、池の規模は大きいが高層湿原の池塘にも似た環境で、周囲周辺の自然環境も大変豊かである。また、池内にはブラックバス等の外来生物もいない。「幼虫期における主な死亡要因は被食である(*1)」と推定されていることからも、この池がカラカネトンボの生息に最適であると言えるだろう。ただし、近くにあるもう1つの池は、湿原化が進んでおりハンノキの侵入も著しい。将来的には、湿性遷移により池はなくなってしまうと考えられる。カラカネトンボの生息する池も数十年先には、湿原化している可能性もある。

 余談であるが、早朝から池畔でじっと動かずにカラカネトンボの飛翔を撮っていると、気が付けば、手はブヨに何か所も刺されて腫れ上がる始末。朝夕は、ブヨの活動時間なので、今後は対策をして臨みたい。

参考文献(*1)
生方 秀紀
カラカネトンボの生存曲線と羽化個体数の年次変動
日本生態学会誌 Vol. 31 (1981) No. 4 p. 335-346

以下の掲載写真は、1920×1080ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/600秒 ISO 250(撮影日 2017.05.20 7:02)
カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 800(撮影日 2017.05.20 6:11)
カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.36 1/400秒 ISO 600(撮影日 2017.05.20 6:11)
カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 1600(撮影日 2017.05.20 6:14)
カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 320(撮影日 2017.05.20 7:00)
カラカネトンボの写真
カラカネトンボ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 800(撮影日 2017.05.20 7:01)
カラカネトンボの羽化殻写真
カラカネトンボの羽化殻
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F5.6 1/400秒 ISO 320 +2/3EV(撮影日 2017.05.20 10:50)
カラカネトンボの生息環境写真
カラカネトンボの生息環境
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE

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