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社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

ネグリの来日中止、その他

2008年03月29日 | 社会問題
 アントニオ・ネグリの来日はどうやら中止になったよう。

 詳しい情報は、→こちら

 前に、ネグリはアメリカ入国ができない身らしいことは、このblogでも触れたが、日本政府もそれにならったということか。上のリンク先にある情報によると、「1年以上の懲役もしくは禁固またはこれらに相当する刑に処せられたことのある者」は「本邦に上陸することができない」のだが、但し書きで「政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りではない」とあるよう。日本政府は、この「特別上陸許可」を認めるために、政治犯であるがゆえに投獄されたことを証明する書類を要求したとか。

 ちなみに、この手の書類を要求することこと自体、この種の問題の事情を理解していないことの証と言えると思う――無論、ネグリの場合は事情が特殊であり、あからさまに入国をさせたくなかった意図があるのだろうが。

 企画されていた講演や討論は、内容を変更して行う模様。ネグリの講演原稿の日本語訳が代読され、本人は電話等で討論に参加するという形のよう。個人的には、インターネットを使って、映像&音声のやりとりをしてしまえば良いと思うのだけれど(日仏学院では以前、そうした形式でネグリのインターネットを用いた講演をしていた)。

 こういうところに、「国境」や「国家権力」が物理的に(強制力を持って)行使されることを痛感する。

 が、他方で、「国境を無化する運動」を展開するなら、ビザなしで、何食わぬ顔で入国を試みるとか(ネグリぐらいであれば、普通の観光客に紛れて入管を通過することはそれほど難しいことではないと思う)、あるいは、非合法移民のような形で入国してみる手もあると思う。それこそ、「国境」を無視する運動を体現していると言えると思う。(というのは、いささか皮肉を込めた冗談だが)

 ただし、それこそ、先日、在留特別許可がおりたトルコ国籍のクルド人一家の場合のように。あるいは、同じような状況にある人々は少なくないのだから、そうした問題にも、今回は目を向ける機会になるといいように思う。

 ちなみに、この川口市に住むトルコ国籍のクルド人、タスクンさん(32)は、以前NHKで政治難民に関する日本の政策に関するドキュメンタリー番組でも取り上げられていたのだが、その番組に出演していた緒方貞子氏は、「政治避難民であることを証明するよう要求する」日本政府の立場を批判していた(そのときの、私のエントリーはこちら)。

 そもそも、難民は、着の身着のままで出身国を後にすることさえあるが、そうした人々に証明書類を提出しろと言うのはあまりに現実を知らなさすぎる。あるいは、難民申請をしている人が逃げてきた国に、その人間が本当に政治難民かどうかを問い合わせるなどということまで、日本政府はしていたのだとか(ちょっと非常識:ただし、今回のネグリの件は、事情が異なっており、おそらくは意図的に入国を拒否したのだと思うが)。

 なお、タスクンさんの記事は、こちら

 一部の報道では、「異例の在留許可」と報道されていたが、個人的には申請者がクルド系であることを考えると、「『異例の在留許可』とされる方が異例」と言うべきだと思う。

 この問題については、まだいろいろ言及したいことがあるのだが、それは別の機会に。


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