a journal of sociology

社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

ETV特集『難民をどう受け入れるか?』

2006年07月16日 | 社会問題
 NHK教育チャンネルの番組、ETV特集で、「難民をどう受け入れるか?」を主題にしていたのをたまたま見た。元難民高等弁務官の緒方貞子さんが出演していて、日本の難民受け入れの現状を批判していた。

 この手の話題になると、私はいつも自分の仏滞在を思い出す。在籍した大学で、常に孤独だった私に声をかけ、初めて友人になってくれたトルコ出身の友人、彼がまさに政治的難民だった。私がであった時、彼は滞仏歴10年ほどだったと思う。たどたどしい仏語しか話せなかった私を、彼は折に触れ心配してくれていた。

 番組では、日本で難民認可の申請をする人々が、自らが難民であることを証明することが大変だということが焦点のひとつになっていた。そしてその証明を難民に求める日本政府の非合理さが批判の対象になっていたが(そもそも難民は、着の身着のままで出身国を後にすることさえあるが、そうした人々に証明書類を提出しろと言うのはあまりに現実を知らなさすぎる)、番組に出ていた難民としての認可を申請中の外国人は、その生活状態からして、仏の(あるいは欧の)規準に照らして考えれば難民であることは確かであった。
 番組に出ていた一人は、トルコのクルド人のようなのだが、難民申請による仮滞在という身で日本に10数年留まっていたのだが[その間何回も入管の施設に収容されたのだが]、そうした不安定な身分においてさえ日本に留まり続けることを選んでいること自体、彼が難民を偽装した就労目的の者でないことは明らかだった(にもかかわらず、日本政府は彼を難民として認めなかった)。
 仏時代の私の友人もそうで、彼は出身国の恋人を仏に呼び寄せそこで結婚、子供もできて家族として生活していたのだが、バカンスの際、彼以外の家族はトルコに一時帰国したりするのだが、彼一人は決してトルコには戻らなかった(戻れば迫害の危険があったから)。

 あるいは、難民として認められても、日本で生活することの難しさも説明されていた。とりわけ日本語の難しさ、また、難民支援の脆弱さ(数ヶ月の日本語教育だけで、すぐ実社会へと放り出されてしまう)も問題だった。

 この点は、自分の仏語のたどたどしさのことを思い出した。無論、ほとんどが日本に来てから日本語を学び始める難民達と、私の状況は比較すべくもないのだが……。
 しかし、私が落ち込んでいると、よく「仏に来てまだ時間が経っていないのだから……」という慰めの言葉を書けてくれた友人もいたが、しかしおかれた情況によっては「満たしていてしかりべきレベル」があり、そのレベルと自分の現状の落差に直面すると、そうした慰めなど無力だった。そしてこの点は、数ヶ月の研修のみで日本社会に放り出される難民達の抱える語学の問題と同じだと痛感したのだった。実際に職場で働かねばならない彼らにとって、「日本に来てまだ××年だから」という言い訳は通用しない。その職に「必要とされる言語のレベル」を満たしていなければ、失敗を繰り返すだけの話である。

 この番組を見ながら、前回のエントリーで説明したような、仏人の友人に関して、「自分の考えるような語学の向上については、残念だがあきらめるようにとアドバイスするだろう」と考えていた自分の配慮のなさを反省した。無論、彼女はすでに仏に帰国しており今回は一時的な滞在なのだが、それにしても、そうしたことを言い放つあるいは考えていること自体、外国人の人にとっては配慮の欠いた考え・言動と映るだろう。
 私の言いたかったのは、「高い目標を設定してしまうと逆に落ち込むことになるから、着実な目標設定を」ということなのだったが、しかし、実際に「落ち込まざるを得ない状況」にいる人にとっては、そうした考え自体が無配慮に映るに違いない。
たとえ難しいことであっても、それに向かって頑張っている人の支援をこそすべきなのだから。

 この番組を見ていて、そうした考えを持っていた自分に罪悪感を感じてしまった。

追記
 この番組を見ていた方も多かったようで、普段よりもアクセスが多かった。が、この番組名や緒方さんの名で検索をかけて見ると、意外にも「難民排斥」の観点からこの番組のないように批判的なブログがあったことに「驚いた」(実際のところはあまり驚いていないが)。曰く、「欧ではすでに失敗したではないか」と。
 ただ、こういっている方の多くは、政治難民と移民を区別できていないことを指摘しておきます。欧州で問題になっているのは移民の受け入れであって、政治難民とは別問題ですので、そのことを注記させていただきます(まったくの無関係の問題ではないでしょうが)。


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