私達は来月、結婚●0周年を迎える。昨今は「スウィート・テン・ダイヤモンド」などという男子にははた迷惑なCMも流れなくなったが、その前のディケイド記念の際には彼女のお気に入りの赤箱ブランドでリングを購入した。私の私的な備蓄ではなく我が家の公的資金から支出されているから、別にプレゼントしたわけではない。ちなみに私向けには何を購入したわけでもない。あれからもう10年か・・・今年は年齢としても節目にあたるから、何か記念品を買おうということになったが、二人でペアになるような宝飾品類などには興味がないので、全額アクセサリーにつぎ込め!ということにした。私は(父がそうだったのか)身の回りの物について割と機能主義だ。時計は「時を刻むモノ」、バッグは「物を運ぶモノ」、「靴は外を歩く時履くモノ」、「車は移動するためのモノ」・・・そこそこ見栄えをさせる以上に金をかける必要を感じない。唯一、身に着けるアクセサリー類は「結婚指輪」だと思ったから、これだけは少し金をかけ赤箱ブランドとした。(波乗り最中に落とすと困るから普段も着けなくなってしまったが)
その点、「女性のアクセサリー」というのは「周囲に光をもたらす」「そう思うことで自分も磨く」という立派な機能があるため、その購入に関してはかなり肯定的だが、その価値について自分の判断基準に照らすとどう考えても値段が付かないものが多い。材料科学専攻の私はたぶん全然次元が違うのだが「自分で作れるかどうか」が価値基準となっているからである。貴金属はむろん合成できないから高価値、宝石類で言うとサファイアとルビーは同じ酸化アルミニウムの単結晶(コランダム)にそれぞれチタン、クロムあたりが不純物として混じったもの、エメラルドは知らないが色からしてベリリウムがドーパントにあると思う。ダイヤモンドが炭素の結晶なのは有名で、5万気圧1500度の超高温高圧下で合成できるが、不純物のない無色透明の大きな宝石を作ることは難しい。ってなぜこんなに詳しいかというと研究室でそういう研究を行っていたからである。私は直接携わっていたわけではないが、衝撃波で超高温高圧状態を瞬間的に作り出しダイヤモンドの粉末を合成するとか、化学気相蒸着(CVD)と言って気体からダイヤモンド結晶を作るとか1000トンプレス機を使用して静的に合成可能状態を作り出す研究が行なわれていた。もう時効だが実際に作ってみたこともあるのだ。(ちなみにむろん石としても何の価値もない)
今回のリクエストは「炭素」だった。そう言えば給料●ヶ月分という例のセレモニーは婚約当時の生活苦のため行っていなかった。誕生石や新婚旅行先で気に入った石などだったら、「アルミニウムやケイ素の酸化物なんか・・・」とついブツブツ言うところだが、先も述べたようにこちらは結晶構造に欠陥がなく不純物のない一粒モノはまずもって作れないという理由で納得していた。世の女性にはドン引きされそうだが何せ専攻なので。ちょっと身もふたもない話にそれてしまったが、ブランド品そうでないメーカー品なども含めて値段などというものはあってないようなものだと思っているから、本人が気に入ったもので価格の許容範囲ならよしとしていた。こうしてターゲットが決まり、安い買い物ではないので、消費税が上がる前に購入しようというまったくの小市民的発想でまずは下見に行くことになったのが今月になってからである。
私が接客付きの買い物が苦手なのは我ながら筋金入りだが、特にこの手の売り場は入った瞬間にカラ―タイマーが点滅し始める。百貨店を歩く時「カーペットのある売り場には気を付けろ」というのが、父が常々呟いていた教えのようなものである。自分で偵察して決めておいてくれれば、付いて行くだけで済むから楽なのだが、せっかくの記念品だからそういうわけにもいかぬ雰囲気だった。こう見えても私は妻の買い物には基本的に付き合う。一人で戦うのは無理だが、二人なら店員の注意が主役に注がれるので気楽なのだ。唯一の条件は「ちゃんと買うこと」である。だから「決まってから言え」といつも言う。いざとなったら一直線に目的物に向かい「これください」と言って事足りるならば、それまでの余計なやりとりはOKだが、「ただ見てるだけ」などというのは時間の無駄としか思えない。。。
しかしそう何回もあるわけではないし、安い買い物ではないから、今回は「2回だけ下見に付き合う」と宣言し、せっかくだから「銀座」というブランド街を物色しようということになった。ブラブラ見に行くだけなら決して近寄らない街だが、「響くところ」があったらその場で決定というのもありだ。まずは妻が前からお気に入りだった「赤い箱」ブランドの本店・・・うーむ、何と言う敷居の高さか!扉を開けてくれる黒服がにっこりしながらも「長居すんなや」と目が語っている。「どうやら買うつもりが少しはあるらしい」と分かるとさりげなく店員が「どんなモノをお探しでしょうか?」近づいてくる。これだけ接近されたのに、背後になんの気配も感じなかったのは、やはりこの女性店員タダモノではない・・・
何と銀座には赤い箱ブランドがもう1点あり、何となくそちらの方が庶民的な雰囲気だったので、妻は一粒ネックレスを着けてみると言い出した。真横から見ると「C」が象ってあるホルダーで私から見てもその輝きは素晴らしい。しかし値札の輝きの方がもっと素晴らしい。。。その後いくつか私も知っているブランド店を見て回り、宝飾店の扉も開けた。どの店もただ見てるだけの客と少しでも買う気があるらしい者を見わけ、忍者のように気配を絶って忍び寄ってくる。しかしそれは決して感じの悪いものではなく、むしろ私のようなビビり屋でも緊張感なしに何かを語らせる話術を持っている。「一定サイズを超える宝石を着けるとじん麻疹が出る薬ってないですかねえ」この私にこの場で信じ難いギャグを言わせ、大口開けて笑っている・・・銀座の接客恐るべし!その後、百貨店の宝飾サロンにも足を運び、選択方針といくつかの候補を挙げた。
これまでの我が家の比較的大きな買い物には不思議な特色がある。ひとことで言うと「急転直下」ということである。当初の方向とは全然違うモノと出会い、閃きと共に「やっぱこっち!」とその気になって向かってしまうのだ。そろそろ家を持とうと物件を探していた時も半ば決まりかけていた見事な庭付きブランド住宅をあっさり止め、実家と同じような形をした土地を妻がどこからか見つけてきた。その上に建てた家は最初に建築士に希望していた姿とは似ても似つかない意外なものだ。小さくても景色や草木を愛でる日本庭園のように改造しようとした庭は全面ウッドデッキの屋外リビングになってしまったし、リビングを荒らす私と甘辛のおもちゃ・趣味のモノを収納する大きな物置のはずだったのに、ガーデンシェッドになってしまった。最近自家用車を買い替えた時も、当初は広い軽(って変な言い方だな)かハイブリットカーだったのに、いつの間にか当初全く眼中にもなかった「赤いライオン号」になってしまった。何か「悪ノリ神の声」のようなものが聞こえると「じゃあ、いっそのこと」となってしまうのである。
今回はそこまで大きな買い物ではないが、この「いっそのこと」と「急転直下」の法則が現れるような予感はしていた。私が「付き合う」と約束した下見はあと1回分ある。次は横浜あたりで物色するつもりらしかったが、私も「日本の中心」と「我々の馴染みエリア」を見ておけばいいだろうと思っていた。そして妻は下見の下見をしているうちに「これ!」というものを見つけたらしく、私も会社帰りに待ち合わせてお店に寄って見た。何となく「ああ、これで決まるだろなー」と思ったものだ。手に取ってよーく眺め(これはオレには作れないな)と確認した。(当たり前か!)
銀座では決して言わないであろうがここは我々の庭とも言えるところだ。「あのーぅ、ショッピングカード持ってるんですけど、ポイントって付きますよね」小市民丸出しのセリフに店員は慌てて奥で確認し、「すみません!来週から今月末までポイントキャンペーンがあります。もしよろしければその時にご購入頂いた方がお得です。お取り置きしておきますから」
こうして記念品購入は決まったのだった。ちなみにせっかくだから(と言うか購入が決まっているので)もう一度同じ店に二人で足を運んだが、手続きや証明書の発行なので結構手間取っているようだった。サロン(もちろん絨毯エリア)のご相談デスクは先客がいたので、隣の宝飾時計サロンのお取引テーブルに案内されたが、ガラステーブルに下に展示されたクラシカルなネジ巻時計を見ると
1516万円!
「やっぱさー、こういう所に来るヤツは『消費税』とか『ポイント』とか言わない人種なんだろなー」
手間取ったことで恐縮する店員に「着けて帰っていいですか?」と言って首に巻いてもらい、我々は絨毯エリアを後にして、最近お気に入りの「エクストラコールド」を飲める店に向かったのである。
おまけ
実は銀座を物色した日は「台場のグルメラン」というマラソンイベントに出場し、10km走った後だったのだ。その後お友達家族と合流して夕食を共にし、そのマンションおゲストルームにお泊りすることになっていたから、妻はがらがらとキャリーケースを頃がしていた。さすがに私もジョギングスタイルではなかったが、1時間近くジョギングして身体に負荷をかけていたから、「10キロ走った後なんだから、ちゃんとしてなくてもしょうがねえじゃん」と開き直れたので普段の緊張感はあまりなく銀座の街を闊歩できたのである。
その点、「女性のアクセサリー」というのは「周囲に光をもたらす」「そう思うことで自分も磨く」という立派な機能があるため、その購入に関してはかなり肯定的だが、その価値について自分の判断基準に照らすとどう考えても値段が付かないものが多い。材料科学専攻の私はたぶん全然次元が違うのだが「自分で作れるかどうか」が価値基準となっているからである。貴金属はむろん合成できないから高価値、宝石類で言うとサファイアとルビーは同じ酸化アルミニウムの単結晶(コランダム)にそれぞれチタン、クロムあたりが不純物として混じったもの、エメラルドは知らないが色からしてベリリウムがドーパントにあると思う。ダイヤモンドが炭素の結晶なのは有名で、5万気圧1500度の超高温高圧下で合成できるが、不純物のない無色透明の大きな宝石を作ることは難しい。ってなぜこんなに詳しいかというと研究室でそういう研究を行っていたからである。私は直接携わっていたわけではないが、衝撃波で超高温高圧状態を瞬間的に作り出しダイヤモンドの粉末を合成するとか、化学気相蒸着(CVD)と言って気体からダイヤモンド結晶を作るとか1000トンプレス機を使用して静的に合成可能状態を作り出す研究が行なわれていた。もう時効だが実際に作ってみたこともあるのだ。(ちなみにむろん石としても何の価値もない)
今回のリクエストは「炭素」だった。そう言えば給料●ヶ月分という例のセレモニーは婚約当時の生活苦のため行っていなかった。誕生石や新婚旅行先で気に入った石などだったら、「アルミニウムやケイ素の酸化物なんか・・・」とついブツブツ言うところだが、先も述べたようにこちらは結晶構造に欠陥がなく不純物のない一粒モノはまずもって作れないという理由で納得していた。世の女性にはドン引きされそうだが何せ専攻なので。ちょっと身もふたもない話にそれてしまったが、ブランド品そうでないメーカー品なども含めて値段などというものはあってないようなものだと思っているから、本人が気に入ったもので価格の許容範囲ならよしとしていた。こうしてターゲットが決まり、安い買い物ではないので、消費税が上がる前に購入しようというまったくの小市民的発想でまずは下見に行くことになったのが今月になってからである。
私が接客付きの買い物が苦手なのは我ながら筋金入りだが、特にこの手の売り場は入った瞬間にカラ―タイマーが点滅し始める。百貨店を歩く時「カーペットのある売り場には気を付けろ」というのが、父が常々呟いていた教えのようなものである。自分で偵察して決めておいてくれれば、付いて行くだけで済むから楽なのだが、せっかくの記念品だからそういうわけにもいかぬ雰囲気だった。こう見えても私は妻の買い物には基本的に付き合う。一人で戦うのは無理だが、二人なら店員の注意が主役に注がれるので気楽なのだ。唯一の条件は「ちゃんと買うこと」である。だから「決まってから言え」といつも言う。いざとなったら一直線に目的物に向かい「これください」と言って事足りるならば、それまでの余計なやりとりはOKだが、「ただ見てるだけ」などというのは時間の無駄としか思えない。。。
しかしそう何回もあるわけではないし、安い買い物ではないから、今回は「2回だけ下見に付き合う」と宣言し、せっかくだから「銀座」というブランド街を物色しようということになった。ブラブラ見に行くだけなら決して近寄らない街だが、「響くところ」があったらその場で決定というのもありだ。まずは妻が前からお気に入りだった「赤い箱」ブランドの本店・・・うーむ、何と言う敷居の高さか!扉を開けてくれる黒服がにっこりしながらも「長居すんなや」と目が語っている。「どうやら買うつもりが少しはあるらしい」と分かるとさりげなく店員が「どんなモノをお探しでしょうか?」近づいてくる。これだけ接近されたのに、背後になんの気配も感じなかったのは、やはりこの女性店員タダモノではない・・・
何と銀座には赤い箱ブランドがもう1点あり、何となくそちらの方が庶民的な雰囲気だったので、妻は一粒ネックレスを着けてみると言い出した。真横から見ると「C」が象ってあるホルダーで私から見てもその輝きは素晴らしい。しかし値札の輝きの方がもっと素晴らしい。。。その後いくつか私も知っているブランド店を見て回り、宝飾店の扉も開けた。どの店もただ見てるだけの客と少しでも買う気があるらしい者を見わけ、忍者のように気配を絶って忍び寄ってくる。しかしそれは決して感じの悪いものではなく、むしろ私のようなビビり屋でも緊張感なしに何かを語らせる話術を持っている。「一定サイズを超える宝石を着けるとじん麻疹が出る薬ってないですかねえ」この私にこの場で信じ難いギャグを言わせ、大口開けて笑っている・・・銀座の接客恐るべし!その後、百貨店の宝飾サロンにも足を運び、選択方針といくつかの候補を挙げた。
これまでの我が家の比較的大きな買い物には不思議な特色がある。ひとことで言うと「急転直下」ということである。当初の方向とは全然違うモノと出会い、閃きと共に「やっぱこっち!」とその気になって向かってしまうのだ。そろそろ家を持とうと物件を探していた時も半ば決まりかけていた見事な庭付きブランド住宅をあっさり止め、実家と同じような形をした土地を妻がどこからか見つけてきた。その上に建てた家は最初に建築士に希望していた姿とは似ても似つかない意外なものだ。小さくても景色や草木を愛でる日本庭園のように改造しようとした庭は全面ウッドデッキの屋外リビングになってしまったし、リビングを荒らす私と甘辛のおもちゃ・趣味のモノを収納する大きな物置のはずだったのに、ガーデンシェッドになってしまった。最近自家用車を買い替えた時も、当初は広い軽(って変な言い方だな)かハイブリットカーだったのに、いつの間にか当初全く眼中にもなかった「赤いライオン号」になってしまった。何か「悪ノリ神の声」のようなものが聞こえると「じゃあ、いっそのこと」となってしまうのである。
今回はそこまで大きな買い物ではないが、この「いっそのこと」と「急転直下」の法則が現れるような予感はしていた。私が「付き合う」と約束した下見はあと1回分ある。次は横浜あたりで物色するつもりらしかったが、私も「日本の中心」と「我々の馴染みエリア」を見ておけばいいだろうと思っていた。そして妻は下見の下見をしているうちに「これ!」というものを見つけたらしく、私も会社帰りに待ち合わせてお店に寄って見た。何となく「ああ、これで決まるだろなー」と思ったものだ。手に取ってよーく眺め(これはオレには作れないな)と確認した。(当たり前か!)
銀座では決して言わないであろうがここは我々の庭とも言えるところだ。「あのーぅ、ショッピングカード持ってるんですけど、ポイントって付きますよね」小市民丸出しのセリフに店員は慌てて奥で確認し、「すみません!来週から今月末までポイントキャンペーンがあります。もしよろしければその時にご購入頂いた方がお得です。お取り置きしておきますから」
こうして記念品購入は決まったのだった。ちなみにせっかくだから(と言うか購入が決まっているので)もう一度同じ店に二人で足を運んだが、手続きや証明書の発行なので結構手間取っているようだった。サロン(もちろん絨毯エリア)のご相談デスクは先客がいたので、隣の宝飾時計サロンのお取引テーブルに案内されたが、ガラステーブルに下に展示されたクラシカルなネジ巻時計を見ると
1516万円!
「やっぱさー、こういう所に来るヤツは『消費税』とか『ポイント』とか言わない人種なんだろなー」
手間取ったことで恐縮する店員に「着けて帰っていいですか?」と言って首に巻いてもらい、我々は絨毯エリアを後にして、最近お気に入りの「エクストラコールド」を飲める店に向かったのである。
おまけ
実は銀座を物色した日は「台場のグルメラン」というマラソンイベントに出場し、10km走った後だったのだ。その後お友達家族と合流して夕食を共にし、そのマンションおゲストルームにお泊りすることになっていたから、妻はがらがらとキャリーケースを頃がしていた。さすがに私もジョギングスタイルではなかったが、1時間近くジョギングして身体に負荷をかけていたから、「10キロ走った後なんだから、ちゃんとしてなくてもしょうがねえじゃん」と開き直れたので普段の緊張感はあまりなく銀座の街を闊歩できたのである。