中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

(プラス情報)「障害者の仕事が減った」悩む企業が新たな挑戦

2024年09月15日 | 情報
「障害者の仕事が減った」悩む企業が新たな挑戦 働きやすい環境に、IT人材も #令和に働く
9/10(火) 共同

企業が障害者の雇用に頭を悩ませている。一定規模以上の企業には、法律で障害者を雇うことが義務付けられていて、その割合(法定雇用率)が近年、続けて引き上げられているからだ。現在は2.5%。100人の会社なら3人雇わないと法定率を達成できない。2026年には2.7%に引き上げられることが既に決まっている。
 ITやAIの登場、業務の効率化を受け、障害者が従来担ってきた単純作業が少なくなっているという事情もある。そんな中、ユニクロが新たな試みを始めたという。人材紹介大手のパーソルグループは障害者をIT人材に生かし、あのお菓子メーカーが採用した。どんなことをしているのか。現場に行ってみた。

「職域拡大」で店頭へ
店頭での商品陳列や清掃、お客さんの案内…。東京都杉並区にあるユニクロ店舗で志賀美怜さん(21)=仮名=が動き回っていた。見たところ、他の店員と特に変わりはない。
志賀さんは高卒後、コンビニでのアルバイトを経て昨年春、ユニクロに入社。週5日、準社員として働く。軽い知的障害があり、以前は商品の保管室で段ボール箱に入った服を一つ一つビニール袋から取り出す作業を主に担っていた。
ところが、昨年秋からユニクロは業務効率化と働き方改革の一つとして、商品を店舗に配送する際、1個ずつビニール袋に入れるのではなく、まとめて包むといった形に変更。多くの企業と同様、「効率化により、障害のあるスタッフにやってもらう仕事がなくなる」という現実に直面した。
そこで取り組んだのが「障害者の職域拡大」だ。障害の特性に合わせて指示や工夫をすれば、ほかにもできる仕事はあるのではないか。そう考えて「職域拡大ガイドブック」を作成。具体的な取り組み方を記した。
これを受け、志賀さんも保管室だけでなく店頭に出て働くように。女性のインナーコーナーを担当している。「前からお店に出て働きたいと思っていたので、うれしい。できることがだんだん増えてきた」と笑顔を見せる。

ほぼ全店に障害者が1人いる
 実は、ユニクロは障害者雇用の世界ではちょっと知られた存在だ。2001年に「全ての店舗で1人、障害者を雇用する」という目標を掲げ、国内のユニクロとGU約1200店のほとんどで障害者が働いている。
 半数以上の人は10年以上勤続。ファーストリテイリングのグループ全体で雇用率は4・89%(昨年6月現在)と、法定の2・5%を大きく上回る。
ただ職域拡大に伴い、障害のあるスタッフが店頭で働くようになると、新たな課題が出てきた。約7割は知的障害で、外見では分からない。「店員に商品のことを聞いても、ちゃんと答えてもらえなかった」といった声が客から届くようになったのだ。
志賀さんも男性客から突然話しかけられると、ドギマギしてしまうことがある。担当の女性インナーのことなら問題ないが、予想外の質問に答えるのは難しい。困ったときはインカム(小型無線機)で他の店員を呼ぶようにしている。
会社は障害のある店員向けに「私はサポートスタッフです。他のスタッフを呼んできますので、少々お待ちください」と書いた札を用意。全員ではないが、希望者は身に付ける。ファーストリテイリング広報部の伊藤弘喜さんは「障害のある人が当たり前に働いていることをお客さんにもご理解頂ければ」と話す。

「脳・神経の多様性」って何?
「IT化やデジタルトランスフォーメーション(DX)で障害者の仕事がなくなる」という状況に逆張りで挑むのが、パーソルグループだ。発達障害や精神障害がある人をIT人材に育てる事業に取り組む。
2019年から障害者の就労移行支援事業所「ニューロダイブ」を運営。東京、大阪、福岡など5カ所で約100人が利用する。原則2年の利用期間中に機械学習やAI、業務の自動化など先端ITのスキル習得を目指すのが特徴だ。
事業所の名前は「ニューロダイバーシティー」(脳・神経の多様性)という概念にちなんでいる。「脳や神経に由来する個人の特性の違いを多様性と捉えて尊重し、社会の中で生かしていこう」という考え方だ。

発達障害や精神障害の人の中には、「通勤や人混みが苦手」「光や音に過敏」といった特性から通常の環境にストレスを感じる人も多い。そうした点に配慮すれば、とがった能力を発揮し、企業にとってはIT人材の確保、本人にとっては自己肯定感の高まりという好循環につながる。
とはいえ「コミュニケーションが苦手な人が本当に仕事をできるのか」。パーソルの担当者によると、そうした反応を示す企業は多いという。そこで、ニューロダイブではITスキルの習得と共に、自分ができることや業務内容を説明する「言語化」能力を身に付けてもらうことにも力を入れる。
利用者は訓練で実践的な成果物を作り、自ら企業にプレゼン。就職は実習を経てから決まるため、ミスマッチはほとんどないという。

打たれ弱くてもITエンジニアで活躍
ニューロダイブで人材を見いだした企業の一つが、江崎グリコ(大阪市)だ。
「課題を渡したら、1週間ほどで仕上げてしまった。優秀だなと思ったんです」。デジタル推進部マネジャーの橋本英彦さんは、今年1月に採用した若宮悠希さん(28)のことをそう話す。ニューロダイブの成果物発表会で若宮さんを見て、ITエンジニアとして採用を決めた。
若宮さんは大学院で知能情報工学を専攻。ソフトウエア会社で働いていたが、強い口調で話されるのが苦手で「気分変調症」との診断を受けた。昨年、精神障害の手帳を取得し、ニューロダイブを利用していた。
グリコは若宮さんの希望に沿って毎週1回、上司の橋本さんに相談できる場を設けている。「自分は打たれ弱くて、落ち込むと長く引きずってしまう」と言う若宮さん。「前の会社ではそれでうまくいかなかったのだが、今はすごく働きやすい」と話す。
 橋本さんはこう話した。「エンジニアは技術があってなんぼ。障害があっても、腕は確かなので問題ない」

「重要だが緊急ではない仕事」でプレッシャー気にせず
IT人材のニーズの高まりを受け、ニューロダイブから企業に就職した人は、事業開始から5年間で90人以上いる。就職先はグリコのほかゲーム会社、自動車メーカー、銀行などさまざまだ。
プラント大手、日揮ホールディングスの子会社「日揮パラレルテクノロジーズ」(横浜市)はこれまでに約10人をニューロダイブから採用した。社員37人のうち約9割が発達障害や精神障害のある人たちだ。
プラントを仮想空間で再現したり、月面開発プロジェクトで月面のメタバースを作ったり。日揮グループ各社のさまざまな業務課題をITで解決する役割を担う。

社員が働きやすいよう障害の特性に応じた多くの工夫がある。まず、請け負う業務は「重要だが緊急ではない仕事」が中心。それぞれのペースで働けるよう明確な納期は設定しない。チームで働くと、他の人と自分を比べて落ち込む人もいるため、仕事は基本的に個人単位で割り振る。
1日8時間労働だが、完全テレワーク制。働く時間帯もそれぞれの自由だ。仕事に没頭しすぎて調子を崩してしまうこともあるため、管理職が進捗を管理する。
「無理して苦手なことをやる必要はない。得意なことを伸ばしてほしい」と阿渡健太社長(37)。「ITが大好きな人たちなので、余計なプレッシャーがなければ、すごく能力を発揮してくれる」。今後も年間10人ペースで障害者を雇う計画だ。

取材後記
障害者の法定雇用率が引き上げられている最大の要因は、分母となる障害者の数自体が増えていることだ。その多くはうつ病など精神障害がある人。一方、企業は「精神障害者にどう接したらいいか分からない」と雇用に二の足を踏む。
安易に法定率を達成する手段として、障害者雇用を代行するようなビジネスも広がっている。でも、ちょっとした配慮で障害は障害でなくなることがある。面倒くさいことかもしれないが、企業がその一歩を踏み出すのを助ける仕掛けや人が増えてほしいと思う
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