中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

和解は、当然の帰結

2017年01月26日 | 情報

和解は、当然の帰結です。が、推測するに、遺族にとっては、解決には程遠いでしょう。納得できる和解ではないでしょう。
皆さまの企業では、そもそもこのような事案が惹起されることはあり得ないことだと、理解されているでしょうが、
当ブログでも紹介しているように、不幸にも同様な事案に遭遇した時は、
当事者や家族の心情や状況をくみ取り、争いなどに持ち込まず、早期に解決していただきたいと思います。
併せて、二つの電通事件を担当された川人博弁護士の所感が掲載されていましたので、引用します。

電通と遺族が再発防止で合意 改善状況を毎年遺族に報告
2017年1月21日 朝日

広告大手、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が2015年12月に過労自殺した問題で、
高橋さんの遺族と電通は20日、再発防止策や慰謝料などの支払いに関する合意書に調印した。
電通は今後、再発防止策の実施状況について年1回、遺族側に報告することを約束した。
まつりさんの母、幸美(ゆきみ)さん(54)と代理人の川人博弁護士らがこの日、記者会見して明らかにした。
合意書の調印には、23日に引責辞任する電通の石井直社長が出席。
「会社における働き方を根本から改善したい。遺族との合意事項を着実に実行することを誓う」と述べたという。
合意の主な内容は、電通がまつりさんの自殺について深く謝罪する▽18項目の再発防止策を講ずることを明確にし、
遺族側に実施状況を毎年12月に報告する▽「慰謝料等解決金」を支払う――など。
再発防止に向け、電通が川人氏を講師とする管理職向けの研修を3カ月以内に開き、幸美さんが発言する時間を設けることも盛り込んだ。
再発防止策には電通がすでに打ち出した内容も含まれるが、川人氏は「遺族側が毎年報告を受けることについて約束した。
本当に再発防止策が実施されるのか懸念されたので、報告をきちっとするよう強く要求した」と合意の意義を強調した。
幸美さんは、合意に踏み切った理由として、電通がサービス残業をなくすこと、
パワハラの防止に全力を尽くすと約束したことなどを挙げ、「強い決意を持って改革を実行していただきたい」と強く求めた。
電通はこの日、「改めて高橋まつりさんのご冥福を深くお祈りするとともに、ご遺族に心よりおわびする。
二度と同じような出来事が起こらないようにするため、すべての社員が心身ともに健康に働ける労働環境を実現するべく、
全力で改革を進めていく」とのコメントを出した。

■合意書の骨子
・高橋まつりさんが過労・ストレスが原因で自殺したことに対し、電通は深く謝罪
・代理人弁護士と遺族が参加し、3カ月以内に電通の管理職が受講する研修会を実施
・毎年12月に電通が遺族に再発防止措置などの実施状況を報告
・電通は慰謝料等解決金を遺族に払う(金額は非開示)

■「頑張りすぎず、SOSを出して
「まつりが今でも東京のどこかで元気に暮らしているような気がしてなりません。
まつりに会いたい。でも二度とかなうことはないのです」高橋まつりさんの遺影とともに記者会見した幸美さんは、
時折涙ぐみながら娘への思いを語った。
合意書には、社内の懇親会の準備で過重な負荷がかからないようにすることや、パワハラの防止など、
まつりさんが苦しんだとされる労働環境の改善策が盛り込まれた。
「娘や、これまで過労で亡くなった多くの人たちの死を無駄にしないために、日本に影響力のある電通が改革を実現してほしい」。
幸美さんはそう訴えた。
川人氏も電通の姿勢に注文をつけた。電通では13年にも社員が過労死し、労災認定されている。
「このケースがもっと社内で総括され、反省されていれば、まつりさんが亡くなることはなかった」
「長時間労働に悩んでいる人に伝えたいことは」と問われると、
幸美さんは「頑張りすぎず、SOSを出してほしい。逃げてほしい。どこかに戻るところがあれば、戻ってほしい」と呼びかけた。

<電通過労自殺>再発防止で遺族と「和解」 謝罪と解決金も
毎日新聞 1/20

◇「鬼十則」使用した労務管理、新人研修しないなど盛り込む
広告最大手・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が過労自殺した問題で電通と遺族は20日、
電通が謝罪し、再発防止の取り組みを強化するとともに、解決金を支払うことで合意した。
東京都内で記者会見した母の幸美さん(54)は涙をこらえ
「娘は二度と帰って来ないが、二度と悲劇を繰り返さないよう改革に向かってほしい」と述べた。
会見に同席した遺族代理人の川人博弁護士は「電通社員で過労死の疑いがきわめて強いと思われるケースが少なくとも他に2人いる。
業務上の原因で病気になった人も2人以上いる」と述べ、再発防止策の履行を迫った。
一方、電通は同日「高橋まつりさんのご冥福を深くお祈り申し上げるとともに、
ご遺族の皆さまに心よりおわび申し上げます」とのコメントを発表した。
両者の合意書で、電通は高橋さんの死を踏まえ「再発防止に向けた改善の決意を表明する」とした。
23日付で引責辞任する石井直社長が合意書に調印し、口頭でも謝罪した。
解決金の額は非公開で慰謝料と未払い残業代も含まれる。
川人弁護士は「電通が全面的な責任を負うことを前提とし、社会的に相当な金額」と述べた。
1981年に過労自殺した男性社員の場合、電通は約1億6800万円の損害金を支払うことで遺族と和解した。
今回の合意事項に盛り込まれた電通の長時間残業やパワハラの再発防止策は以下の通り。
▽役員を含む局長以上の管理職向けに長時間労働についての研修会を3カ月以内に行う▽研修会で幸美さんに発言の機会を与える
▽持ち帰り残業の原則禁止▽過重労働を助長すると批判された社員の行動原則「鬼十則」を新人研修などに使わない
▽高橋さんを苦しめた職場の懇親会の準備や反省会で過重負荷を発生させない
▽社員の残業時間と入退館記録のずれが30分以上ある場合には調査する▽遺族に毎年12月、再発防止策の実施状況を報告する--など。

(参考)
高橋まつりさんの過労自殺事件を担当する川人博弁護士は20日の記者会見で、
「今こそ職場の改革を実現することを訴える―2人の電通社員過労死事件を担当した者として―」と題する文書を配布した。
全文は次の通り。(2017年1月21日 朝日に掲載)

2人の電通社員過労死事件を担当した者として、意見を述べる。
(1)1991年8月、電通男性社員(当時24歳)が入社2年目に死亡した原因は、
3日に一度は徹夜という「常軌を逸した」(東京地裁判決の表現)長時間労働による過労、ならびに上司によるパワハラが原因であった。
下級審判決にとどまらず、最終的に最高裁判決(2000年3月24日)によって企業の責任が明確にされ、
その後、会社が遺族に謝罪し、再発防止にとりくむことを約束して、訴訟上の和解が成立した(最高裁以降川人が遺族代理人を務めた)。
そして、電通は、現在の本社建物に移転した後に、フラッパーゲート記録で従業員の入退館時刻を管理し、
労働時間短縮・健康管理にとりくんでいる旨をメディアを通じて広報した。
(註:小生もこのような対応を承知していました)
にもかかわらず、最高裁判決から15年経過した年に、高橋まつりさんが、前記事件と全く同じような原因で死亡に至ったことは、
実に深刻な事態と言わざるを得ない。
電通における犠牲者は、この2人にとどまらず、いま報道されているだけでも、
さらに1人の死亡(2013年)につき労災認定(昨年)されており、
加えて、過労死の疑いの強い在職中死亡は、これら3名以外にも相当数発生している。
死亡に至らずとも、業務上の過労・ストレスが原因と思われる疾病に罹患した人も数多い。
高橋まつりさんの死は、まさに起こるべくして起きたものと言わざるを得ない。
会社経営者の責任、管理者の責任は、極めて重大である。
と同時に、かかる異常な職場の状態を放置していたことにつき、行政当局も、深く反省しなければならない。
(2)昨年10月7日の労災認定記者会見以降、かつてない報道がおこなわれ、また、行政当局も機敏な動きをおこなった。
この結果、電通にとどまらず、日本の企業全体に対して、長時間労働を削減すること、
過労死をなくすことの重要性・緊急性が指摘されることとなり、現在に至っている。
その意味で言えば、現在、わが国の長年にわたる職場の長時間労働、過重労働を改革していく社会的条件が熟しており、
この機会を逃がすことなく、確実な改革を実現しなければならないと考える。
電通の役員諸氏は、社長交代の有無にかかわらず、職場改革のために全力を尽くしていただきたい。
また、日本のすべての企業において、企業トップが先頭に立って、改革を実行していただきたい。
政府・行政当局においては、過労死等防止対策推進法(2014年成立)に定める「国の責務」を、
しっかりと自覚して、過労死ゼロの社会へ向けて、具体的な措置を早急に講ずることを求めたい。
とくに、現在審議されている「働き方改革」において、時間外労働時間の上限規制を法律・政令で定めることを強く訴えたい。
また、長時間労働、過重労働を促進するような法律の制定・改正は、断じておこなってはならない。
当職は、今後とも、働く者のいのちと健康を守るために、微力を尽くしていきたいと考えます。
以上

 

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