2022年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例の私的ベスト企画です。2022年に観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2022年 私が観た展覧会 ベスト10

1.『国際芸術祭「あいち2022」』 一宮駅エリア / 尾西エリア /愛知芸術文化センター /有松地区 / 常滑やきもの散歩道 / INAXライブミュージアム(7/30~10/10)



『あいちトリエンナーレ』の後継として開催された『国際芸術祭 あいち2022』の展示が大変に見応えがありました。愛知芸術センターではコンセプチュアル・アートから人間の尊厳や社会の分断といったテーマを扱った作品が目立ち、一方で有松地区や一宮市、それに常滑市では土地の記憶を紐解きつつ、芸術として表現する作家の力作が少なくありませんでした。いわゆる都市型芸術祭ながらも、地域を巧みに取り込んだ新たな芸術祭のすがたを示していたように思えました。

2.『ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?』 ポーラ美術館(2021/9/18~2022/3/30)



アメリカの美術家のロニ・ホーンの国内の美術館としては初の個展で、1980年代より40年あまりのキャリアにおいて制作された作品が公開されていました。ガラスの彫刻から角柱による立体、また写真やドローイングなどを幅広く手がけていて、アイスランドの地誌や人々の生活、またアメリカのディキンスンの詩文の引用など重層的とも言える作品に引き込まれました。また自然に囲まれたポーラ美術館の環境ともうまくマッチしているようにも感じられました。

3.『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』 国立新美術館(2/9~5/30)



ニューヨークのメトロポリタン美術館のコレクションから、日本初公開の46点を含む65点のヨーロッパの絵画がやって来ました。ラファエロ、クラーナハにはじまり、カラヴァッジョにラ・トゥールやフェルメール、またルーベンスからプッサンとブーシェ、さらにマネやセザンヌへ至る作品は全編がハイライトとしても過言でないほど充実していました。特にルネサンスからバロック、ロココまでのラインナップが群を抜いていて、名画を前にして胸の高まりすら覚えました。

4.『彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった』 町田市立国際版画美術館(4/23~7/3)



戦後において展開した「戦後版画運動」と「教育版画運動」の2つの民衆版画運動を、約400点もの豊富な作品と資料によって紹介する展覧会でした。その源流は中国の木刻であったり、アマチュアの参加や学校教育の現場、さらには労働争議や平和運動、また反水爆運動など、社会や文化的活動との関わりを丹念に検証していて、民衆版画から戦後日本の知られざる歴史が浮き彫りになっていました。全国の子どもたちによる教育版画の共同制作の作品も見応えがありました。

5.『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』 東京オペラシティ アートギャラリー(7/16~9/19)



昨年4月に当初予定されていたものの、コロナ禍にて延期され、今年になって実現したガンダーの東京初の個展でした。時間やお金、価値や教育、それによく見ないと見えないものといった、ガンダーの関心のありかや現象を多様なメディアを駆使しながら取り上げていて、刺激的でかつ驚きに満ち、またユーモアに溢れた世界を空間全体で築き上げていました。これほど一見難解で謎めきながらも気づきを誘い、いつしか作品へと引き込まれるアート展も少ないかもしれません。

6.『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』 アーティゾン美術館(4/29~7/10)



ともに写真家の柴田俊雄と鈴木理策が、石橋財団コレクションとコラボレーションを果たした展覧会でした。地形や構造物を捉える柴田の写真とモンドリアンの絵画や、鈴木の写した蓮の浮かぶ水辺とモネの『睡蓮』などが響き合うなど、絵画や写真、さらに彫刻といったジャンルを超えた表現が生み出す新しい景色を楽しむことができました。

7.『ゲルハルト・リヒター展』 東京国立近代美術館(6/7~10/2)



ドイツの美術家、ゲルハルト・リヒターによる国内では16年ぶりの個展でした。主にリヒター財団の所蔵する110点余りの作品が公開されていて、中でもアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所にて囚人が隠し撮りした写真を下層に描き写した『ビルケナウ』は圧倒的な存在感を放っていました。現在、同展は豊田市美術館にて巡回開催されていますが、出来ることなら同館の素晴らしい展示空間でも見たいと思いました。

8.『北斎ブックワールド ―知られざる板本の世界―』 すみだ北斎美術館(9/21~11/27)



浮世絵の元とされ、板木に文字や挿絵を彫って摺ったものを本に仕立てた板本に着目した展覧会でした。板本の形態や内容による分類など、板木の基礎的な知識を細かに解説するだけでなく、初摺と後摺の比較から当時の所蔵者や読者の痕跡についても紹介していて、ともすれば地味とも受け止められない板木の見どころをうまく引き出していました。当時、板本がどのように作られ、人々の手に渡り、また親しまれたのかが極めてよく伝わってくるような内容だったかもしれません。

9.『大勾玉展-宝萊山古墳、東京都史跡指定70周年-』 大田区立郷土博物館(8/2~10/16)



縄文時代にはじまり、古墳時代に隆盛し、奈良時代に衰えた勾玉を全国各地から1500点も集め、未だ謎の多い勾玉の歴史やデザインの変遷などを丹念に紐解いた展覧会でした。ともかくこれほどの勾玉を一度に目にする機会からして初めてで、地域によって異なるあり方や勾玉の衰退の経緯について大いに興味を引かれました。装身具であり副葬品だった勾玉を通して、古代史ミステリーを解き明かすような面白さも感じられたかもしれません。

10.『どうぶつかいぎ展』 PLAY! MUSEUM(2/5~4/10)



ドイツの作家、ケストナーの絵本『動物会議』に着想を得た8名のアーティストが、絵画やインスタレーションなどを公開した展覧会で、戦争を繰り返す人間を痛烈に批判したケストナーのメッセージが改めて作品として表現される様を見ることができました。ちょうどロシアによるウクライナ侵攻がはじまった頃と会期が重なりましたが、今もなお戦争によって子どもたちの日常が奪われる状況が続いていることに身につまされてなりませんでした。

次点.『佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在』 水戸芸術館(2021/11/13~2022/1/30)



ベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

『「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」奈良美智展弘前 2002-2006 ドキュメント展』 弘前れんが倉庫美術館(2022/9/17~2023/3/21)
『野口里佳 不思議な力』 東京都写真美術館(10/7~2023/1/22)
『大竹伸朗展』 東京国立近代美術館(11/1~2023/2/5)
『加耶―古代東アジアを生きた、ある王国の歴史―』 国立歴史民俗博物館(10/4~12/11)
『つながる琳派スピリット神坂雪佳』 パナソニック汐留美術館(10/29~12/18)
『開通60周年記念「芸術作品に見る首都高展」』 O美術館(12/15~21)
『闇と光―清親・安治・柳村』 太田記念美術館(11/1~12/18)
『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』 アーティゾン美術館(11/5~2023/2/5)
『大蒔絵展―漆と金の千年物語』 三井記念美術館(10/1~11/13)
『名和晃平 生成する表皮』  十和田市現代美術館(6/18~11/20)
『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』 東京国立博物館(10/18~12/11)
『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』 東京オペラシティ アートギャラリー(10/8~12/18)
『鉄道と美術の150年』 東京ステーションギャラリー(10/8~2023/1/9)
『junaida展 IMAGINARIUM』 PLAY! MUSEUM(10/8~2023/1/15)
『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』 国立西洋美術館(10/8~2023/1/22)
『日本の中のマネ ―出会い、120年のイメージ―』 練馬区立美術館(9/4~11/3)
『新版画 進化系UKIYO-Eの美』 千葉市美術館(9/14~11/3)
『開館15周年記念 李禹煥』 国立新美術館(8/10~11/7)
『リボーンアートフェスティバル 2021-22』 宮城県石巻市街地・牡鹿半島(8/20~10/2)
『東北へのまなざし1930-1945』 東京ステーションギャラリー(7/23~9/25)
『ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ』 市原湖畔美術館(7/16~9/25)
『シアトル→パリ 田中保とその時代』 埼玉県立近代美術館(7/16~10/2)
『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』 武蔵野美術大学美術館(7/11~8/14、9/5~10/2)
『孤高の高野光正コレクションが語る  ただいま やさしき明治 発見された日本の風景』 府中市美術館(5/21~7/10)
『生誕100年朝倉摂展』 練馬区立美術館(6/26~8/14)
『蜷川実花「瞬く光の庭」』 東京都庭園美術館(6/25~9/4)
『津田青楓 図案と、時代と、』 渋谷区立松濤美術館(6/18~8/14)
『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』 森美術館(2/18~5/29)
『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 東京国立博物館(5/3~6/26)
『ボテロ展 ふくよかな魔法』  Bunkamura ザ・ミュージアム(4/29~7/3)
『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー』 三菱一号館美術館(2/18~5/15)
『本城直季 (un)real utopia』 東京都写真美術館(3/19~5/15)
『大英博物館 北斎 ―国内の肉筆画の名品とともに―』 サントリー美術館(4/16~6/12)
『没後50年 鏑木清方展』 東京国立近代美術館(3/18~5/8)
『シダネルとマルタン展』 SOMPO美術館(3/26~6/26)
『本城直季 (un)real utopia』東京都写真美術館(3/19~5/15)
『生誕110年 香月泰男展』 練馬区立美術館(2/6~3/27)
『Viva Video! 久保田成子展』 東京都現代美術館(2021/11/13~2022/2/23)
『開館20周年記念 フランソワ・ポンポン展』 群馬県立館林美術館(2021/11/23~2022/1/26)
『ミケル・バルセロ』 東京オペラシティアートギャラリー(1/13~3/25)

今年もコロナ禍が続きましたが、一度中止されていた展覧会が開かれたり、同じく延期されていた芸術祭が再開するなど、昨年に比べると多くの展示を見ることができました。いわゆるウィズコロナにおいて、おそらくは来年も同じような状況が続くと思われます。

この一年、皆さまはどのような美術との出会いがありましたでしょうか。このエントリをもちまして年内のブログの更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうぞ良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
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