東京駅周辺の美術館にて「七夕フェア」が開催されています

東京駅を起点に東西南北、半径1キロ以内に位置する4美術館こと出光美術館、三井記念美術館、三菱一号館美術館、東京ステーションギャラリー。

4館合同の提携企画です。6月27日(日)より7月7日(火)まで「七夕フェア」が開催されています。



「七夕フェア 6/27~7/7」(概要PDF)

期間中は夫婦やカップルで入場すると入館料が割引になる「カップル割」のほか、ショップでのグッズ販売、カフェでの限定メニューの提供などを用意。さらにはエントランスやショップ内にて笹飾りを実施するなど、七夕に因んだ各種企画が行われます。

ところで「七夕フェア」の「カップル割」、美術館によってはかなりお得な割引内容であるのもポイントです。


三井記念美術館の「七夕フェア」パネル

特にステーションギャラリーと三井記念美術館の割引が極めて充実しています。何と両館はカップル、つまりペアで来館すると、当日一般券1名分の料金で2名まで入場出来るのです。つまり1人分はただということになります。



一方、出光美術館は当日入館料の各200円引き、一号館美術館は同じく入館料がそれぞれ100円引きになります。また「カップル割」適用には、チケットブースで「カップル割」と申し出る必要があります。



「没後180年 田能村竹田」
出光美術館
http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/
会期:6月20日(土)~8月2日(日)
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階



「フィラデルフィア美術館浮世絵名品展 春信一番!写楽二番!」
三井記念美術館
http://www.mitsui-museum.jp/
会期:6月20日(土)~8月16日(日)
住所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階



「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」
三菱一号館美術館
http://mimt.jp/
会期:6月27日(土)~9月6日(日)
住所:千代田区丸の内2-6-2



「没後30年 鴨居玲展 踊り候え」
東京ステーションギャラリー
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
会期:5月30日(土)~7月20日(日)
住所:千代田区丸の内1-9-1

そのほかフェア期間中、一号館美術館では毎日抽選で50名に開館5周年グッズをプレゼント。またステーションギャラリー、三井記念美術館、一号館美術館の笹飾りは、実際に短冊へ願い事を書いて飾ることも出来ます。なお短冊はフェア終了後、縁結びの神様でお馴染みの東京大神宮でお焚き上げされるそうです。なかなか力が入っています。


三井記念美術館エントランスの笹飾り

東京駅周辺4美術館による期間限定のイベント「七夕フェア」。ここは「カップル割」を活かして美術館巡りを楽しんでみてはいかがでしょうか。
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「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」
6/16-9/13



東京国立近代美術館で開催中の「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」を見てきました。

AからZまでの36のキーワードがこれほど効果的に美術館の機能や活動を知らせてくれるとは思いもよりませんでした。

いわゆる国立美術館によるコレクション展。もちろん東京国立近代美術館だけではありません。国内の計5館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館、そして東京国立近代美術館の所蔵作品が展示されています。

その数は全部で170点。作品は多様です。日本画に西洋絵画、そして現代美術と幅広い。実は見る前はそれをどのようにして事典、つまりはキーワードと関連付けているのか、あまりイメージが浮かびませんでした。

というわけで早速、例をいくつか挙げてみましょう。例えば「H」、Hangingです。訳して「吊ること」。言われてみれば、美術館の展示で作品が吊られていないことはありません。その意味でも美術館の機能を知る上で重要なキーワードでもあります。


左手前:クロード・ヴィアラ「無題(緑)」 1974年 東京国立近代美術館
右奥:ミロスワフ・バウカ「50×4,85×43×49」 1998年 国立国際美術館


作品は2点。クロード・ヴィアラの平面とミロスワフ・バウカの立体作品が1点ずつ出ています。布にアクリルで描いた緑の斑紋、ヴィアラの「無題」は確かに上から吊るされています。またバウカも同様です。天井から紐で吊るされた椅子。やや傾いていますが、これが作品の主要部分をなすもの。吊りが一つの構成要素になっていることがわかります。


「吊り金具」 東京国立近代美術館

そこから一歩踏み込んでいます。つまり実際に使用する釣り金具をそのまま展示しているのです。ようは美術館で欠かせない道具を作品と同様に見せる仕掛け。普段、観客には目の届かない美術館の裏側をあえて展示、言い換えれば表側にも引き出してもいます。


フランシス・ベーコン「スフィンクスーミュリエル・ベルチャーの肖像」 1979年 東京国立近代美術館

「G」、Guardはどうでしょうか。「保護/警備」と訳されたキーワード。作品はベーコンの「スフィンクスーミュリエル・ベルチャーの肖像」です。かつて同館で行われたベーコン展の記憶も蘇ります。

それにしても「保護/警備」とベーコン、何の繋がりがあるのやといぶかしく思われる方もいるかもしれません。結論から言えば作品の前の保護柵と横の警備員の方を指すもの。つまりベーコン画、それを保護するガラス、保護柵、警備の方の4つ揃って、初めて一つのキーワード、「Guard」を成しているわけなのです。


左:「額」 国立西洋美術館
右:アンリ=ジャン=ギョーム=マルタン「自画像」 1919年 国立西洋美術館


また分かりやすいのが「F」のFrame。つまり「額/枠」です。写真からしても一目瞭然、右には多数の額の描かれたマルタンの「自画像」があり、左には美術館で用いられる額そのものが展示されています。またさも色面がフレーム状に連なるようなステラの絵画も同じく並んでいました。「Frame」をキーワードにマルタンとステラが繋がっているようにも見える。意外な組み合わせです。なかなか新鮮にも映りはしないでしょうか。


左:「ハロゲン照明」 東京国立近代美術館
右:クロード・モネ「ウォータールー橋、ロンドン」 1902年 国立西洋美術館


そのほか「L」のLight、「光/照明」では作品を照らすハロゲンライトそのものを作品と並べる試みもあります。また「T」のTemperature、「温度」ではよく展示室内で見かけもする温度計そのものを展示台に載せて見せています。ちなみに横に並ぶドーミエのリトグラフは温度計を主題としたもの。良く探したものだと感心してしまいました。


右:オノレ・ドーミエ「夏の風物詩『この温度計の野郎め…まだ上がってやがるぞ…』」 1856年 国立西洋美術館
左:「温湿度計」 国立西洋美術館


またこうした美術館を成り立たせる機能のほか、裏側での活動にも焦点を当てているのも見逃せないポイントです。


右:安井曾太郎「金蓉」 1934年 東京国立近代美術館
左:修復前の「金蓉」(パネル)


「C」のConservation、「保存修復」では、安井曾太郎の「金蓉」の修復について紹介。既に2度、修復家の手が入っているそうですが、修復前のひび割れした様子をパネルで紹介しています。


「Research 調査/研究」より「東京国立近代美術館研究紀要」ほか

また「E」のEducation、「教育」では、かつて美術館で行われた教育プログラムの記録などを参照。「R」のResearch、「調査/研究」でも同じようにスタッフの調査や研究を示す紀要などを展示しています。「M」のMoney、「お金」では、パネルで日本と欧米の美術館の運営費や予算について紹介していました。


左手前:「Earthquake 地震」より「免震台」(国立西洋美術館)

地震についても取り上げられていました。「E」からEarthquake、大正関東地震を描いた池田遙邨、そして神戸の震災を写した宮本隆司、米田知子と続きます。それだけでも見応えがありますが、一方で美術館の設備で地震に対応するものは何でしょうか。答えは免震台でした。地震大国、日本です。床に置かれた一台、これなくしてはもはや美術館の展示は成り立たないのかもしれません。


背景:「東京国立近代美術館の収蔵庫」
右上:藤田嗣治「パリ風景」 1918年 東京国立近代美術館


美術館の文字通り裏側、つまり収蔵庫を再現したコーナーには驚きました。しかも一館だけでなく、国立新美術館以外の全ての国立美術館の収蔵庫が紹介されています。また面白いのは全てが藤田の作品であることです。よく見ていかないと、一体、どの美術館のどの藤田なのか分からなくなってしまいます。


「Curation キュレーション」より展覧会準備のための資料

また設営の様子を映した映像、さらにはプランの模型なども展示。展覧会の準備の様子の一端も伝わってきました。


「Zero ゼロ」より出品作の輸送用クレート

ラストでは美術品の梱包物までが展示品と化しています。もはやバックヤードなどありません。ちなみに梱包物のラベルもそのままです。運搬業者はカトーレックでした。きっと展示を終えた際には、再びここへ作品が納められ、各館の収蔵庫へと配送されることに違いありません。


「Internet インターネット」よりモニター

ところで会場内に飾り気なく置かれていた一台のモニターに目が止まりました。ハッシュタグで「#これからの美術館事典」を記したツイッターの画面が出ています。ようは「I」Internetのコーナーですが、このタグでつぶやくと直ぐさまモニターにも反映されるわけです。

大仰に言えば、美術館の展示の中に鑑賞者の体験がダイレクトに盛り込まれるという仕組み。もちろん事前のチェックなどありません。例えばキーワードの選定などには議論もあるでしょう。ここはあえて乗っかって感想などをつぶやいてみては如何でしょうか。


「Naked/Nude 裸体/ヌード」展示風景

設備、備品に限らず、一つのキーワードを接点としての作品の並びにも面白さがあります。ここでは細かに触れませんが、Originalでのルノワールや安井の模写からデュシャン、ウォーホルへと続く流れのほか、Tear、「裂け目」におけるリベラの修復プロセスにフォンタナ、大辻清司のパフォーマンス写真などの展開には思わずにやりとさせられました。


「これからの美術館事典」展示風景

体裁としては純然たるコレクション展ながら、切り口には一工夫も二工夫もある「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典」。見せる上、大いに読ませます。



コンパクトなカタログが良く出来ていました。こちらのテキストで展示に不足した面を補完出来そうです。


「これからの美術館事典」展示風景

ロングランの展覧会です。9月13日まで開催されています。これはおすすめします。

注)一部作品を除き、会場内の撮影が出来ました。

「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:6月16日(火)~9月13日(日)
休館:月曜日。但7月20日(月)は開館。翌21日(火)は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1000(800)円、大学生500(400)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *WEB割引引換券
 *当日に限り、「事物ー1970年代の日本の写真と美術を考えるキーワード」と「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」 原美術館

原美術館
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」
5/23-8/30



原美術館で開催中の「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」を見てきました。

「20世紀を代表するアーティストの一人」であるサイ・トゥオンブリー。アメリカ出身の画家です。時に「子供の落書き」とも称されるカリグラフィー的な作品で知られています。画家は2011年、ローマの地にて83歳で亡くなりました。

日本の美術館としては初めての個展です。うち作品は全て紙によるもの。ただし年代は幅広い。全81点です。1950年代から2000年を超えた作品までを網羅しています。

さてトゥオンブリー、国内でもかなり知名度があるのではないでしょうか。私も最近、作品を見たのは、昨年に東京国立近代美術館で行われたヤゲオ財団展でのことです。以前にも川村記念美術館などで何度か接した記憶があります。ともかく自在、あるいは悶えては乱れるかのような線の動き、その即興的なまでの躍動感に引かれたものでした。

いわゆる導入ということかもしれません。受付先、冒頭のギャラリー1では、年代の異なった作品を紹介。互いに見比べることが出来ます。初期50年代の「無題」2点と、80年代に描かれた「炎の花弁」などが展示されていました。

この「炎の花弁」の一つがチラシの表紙に掲載された作品(Petals of Fire)です。どうでしょうか。白、あるいはうっすらベージュを帯びた地に、赤や黒の絵具が点々と迸ります。時に上から下へ滴り落ちてもいます。下方にはテキスト、文字の羅列が見えました。黒ではなく赤でも描かれています。筆は素早い。走り書きです。そして上部には白く灰色を帯びた絵具が塗られています。目を凝らせばいずれも曲線、丸み、あるいはうねりを帯びていることが分かります。まるで余白を塗りつぶそうとするかのようです。雲のように広がっています。


「Untitled」1961/1963

一方で50年代、及び60年代初頭の「無題」は、一見するところ「子供の落書き」に近いかもしれません。鉛筆や色鉛筆による線が殴り書きされ、何か生き物、または身体の一部を象っているようにも見えます。その意味では抽象的な「炎の花弁」とは大きく異なります。どこか具象的なモチーフも浮き上がって見えるのではないでしょうか。

ギャラリー2以降はトゥオンブリーの作品がほぼ時系列で並んでいました。

それにしても一言に線とはいえども、実にバリエーションが幅広いことには驚きました。ペン、ボールペン、色鉛筆、クレヨン、ペンキなどを操っては描くトゥオンブリー、当然ながら線の太さや長さ、色に形はさまざま。引っ掻き傷のようであり、何かを包むようでもあり、なぞるようでもあり、あるいはぶちまけるようでもあります。さらにそれは形になるようでもあり、また形になる前の何物でもないようにも見えます。実に自由なのです。

トゥオンブリーが活動し始めた1950年頃のアメリカは抽象全盛期。かのポロックやロスコも初期においてシュルレアリスムからオートマティスムの影響の元、記号のような形態を描いた時期の作品がありました。それにトゥオンブリーも通じていたようです。

しかしながら彼は1957年にローマへと移ります。すると今度はアメリカのポップアートやミニマルとは距離を置き、独自の画風を展開していきました。そしてあくまでも「手で描く」ことを追求していたようです。さらにヨーロッパの古い神話や文学のモチーフを取り込みます。また意外にも身近な風景にも関心をもったそうです。もちろんそれは必ずしも具象的ではありませんが、晩期には植物などをそのまま表した作品なども現れています。

だからこそのバリエーションです。記号、動物、植物、そして人間に風景。「アナバシス」や「プロテウス」といったタイトルに直接、神話的主題を掲げた作品もあります。また植物では後年の「ニコラの花菖蒲」なども挙げられるのではないでしょうか。色の広がりは花弁の連なりのようにも見えました。

時に色は鮮やかで美しく、晩年の作品は華やかですらありますが、線の動きは身体の痙攣を伴うようでもあり、表情は意外と内省的にも映ります。どこか思索の中へ沈み込んでいくかのような印象さえありました。

感覚を揺さぶり、惑わし、それでいて「線の刺激する想像力」を喚起させるトゥオンブリー。孤高の詩人とも称されることがあるそうです。見当違いかもしれませんが、何やら象徴派の詩作を前にしているようでもあります。そしていつの間にやら無心で何周も展示室を巡っている自分に気がつく。確かに不思議な魅力をたたえていました。

なお本展は2003年にロシアのエルミタージュ美術館で開催され、以降、アメリカやヨーロッパ各国を廻ったもの。それを日本向けにアレンジした巡回展です。その意味でもトゥオンブリーの作品をまとめて見る貴重な機会だと言えそうです。



8月30日まで開催されています。

*作品名以外の「」内についてはチラシ、解説シートより引用しました。

「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」 原美術館@haramuseum
会期:5月23日(土)~8月30日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる7月20日は開館)、7月21日は休館。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
 *20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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パナソニック汐留ミュージアムで「アール・ヌーヴォーのガラス展」が開催されます

ヨーロッパ随一のガラスコレクションを誇るというドイツのデュッセルドルフ美術館。うち同館に寄贈したゲルダ・ケプフ夫人のコレクションがドイツ国外で初めて公開されます。



「アール・ヌーヴォーのガラス展」@パナソニック汐留ミュージアム]
URL:http://panasonic.co.jp/es/museum/
会期:7月4日(土)~9月6日(日)

作品はタイトルにもあるように「アール・ヌーヴォー」のガラス。アール・ヌーヴォーといえばすぐさまガレやドーム兄弟を連想しますが、今回はそれだけではありません。

例えばウジェーヌ・ルソー、エルネスト・レヴェイエ、ウジェーヌ・ミシェル、オーギュスト・ジャン。いずれもパリで活動したガラス工芸家たちです。さらにドーム兄弟の制作を支えつつ、独自の作品を展開したデズィレ・クリスチャン、ミュレール兄弟などのガラス作品なども網羅します。

ケプフ夫人はドイツの実業家の出身です。そもそもは室内装飾を目的としてガラス作品を蒐集していましたが、まだ一般的に評価されていなかったドーム兄弟を対象にするなど、コレクターとしての審美眼も持ち合わせていました。現在でも質の高いコレクションとして知られています。

[アール・ヌーヴォーのガラス展 見どころ]
1.アール・ヌーヴォーのガラス作品では第一級コレクションとして知られる、ゲルダ・ケプフ・コレクションが日本では初めてまとめて紹介される展覧会
2.ガレ、ドーム兄弟だけではないアール・ヌーヴォー期のガラス作家を多数紹介
3.ガラス部門の責任者、デド・フォン・ケルセンブロック=クロジック氏が監修するデュッセルドルフ美術館が全面協力

展示はシンプルに二本立てです。第1章の「パリ」ではジャポニスムやシノワズリを反映したパリのガラス作家たちの作品を俯瞰します。次いで第2章は「アルザス=ロレーヌ地方」です。ガレやドーム兄弟の活動した地域でのアール・ヌーヴォーのガラス制作の変遷を追いかけていきます。

*クリックで拡大します

ドイツ国外での初展示ということは、当然ながら日本でも初めてです。そういえば汐留ミュージアムは、先だっての「ルオーとフォーブの陶磁器」でも日本で初めてフォーブの陶磁器を紹介していました。知られざるメテの魅力に大いに感化された方も多いのではないでしょうか。

[アール・ヌーヴォーのガラス展 イベント・講演会]
講演会「アール・ヌーヴォーのガラス」
講師:假屋崎省吾氏(華道家)
日時:2015年7月7日(火)14時~15時
費用:無料。ただし本展の観覧券が必要。半券可。要事前予約。
定員:150名

ガラスワークショップ「模様ガラス板を作ろう!」
講師:ガラス工芸・潮工房(小西潮氏、江波冨士子氏)
日時:2015年7月18日(土)午前10時~、午後2時~
費用:2000円。要事前予約。
定員:各回20名。
対象;小学校5年生以上。

*会場はいずれもパナソニック東京汐留ビル3階ホール。申込み方法は同館のハローダイヤル(03-5777-8600)へ。

いつもながらの立体展示にも定評のある同館のことです。きっと照明しかり、アール・ヌーヴォーのガラスをより際出させる仕掛けが待っているに違いありません。

[学芸員によるギャラリートーク]
日時:2015年7月25日(土)、8月8日(土)、8月21日(金)
*各回午後2時より(約40分)。参加費無料。要観覧券。
*申込み不要。

「アール・ヌーヴォーのガラス展」はパナソニック汐留ミュージアムで7月4日から開催されます。

「アール・ヌーヴォーのガラス展」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:7月4日(土)~9月6日(日)
休館:水曜日。及びお盆休み(8/10~14)。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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「ヘレン・シャルフベック展」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「ヘレン・シャルフベックー魂のまなざし」
6/2-7/26



東京藝術大学大学美術館で開催中の「ヘレン・シャルフベックー魂のまなざし」を見てきました。

これほど画家の描いた「自画像」に後ろ髪を引かれる展覧会も滅多にないかもしれません。

名はヘレン・シャルフベック(1862-1946)。ヘルシンキに生まれたフィンランドの画家です。3歳の時に事故で足を不自由にするも、11歳で絵の才能を見出され、18歳には奨学金でパリに渡ります。そこでマネ、セザンヌ、ホイッスラーなどの影響を受けました。


「少女の頭部」 1886年 油彩・板
フィンランド国立アテネウム美術館


展示は基本的に時系列です。シャルフベックの生き様を作品とともに追いかけています。

パリ行きの奨学金を得ることになったのが「雪の中の負傷兵」です。デビュー作と言ってよいでしょう。雪原に手足を伸ばしては身体を休める兵士の姿を描いています。時に荒々しい筆致はクールベのようです。早くから発揮された画家としての才能を見て取ることも出来ます。

「妹に食事を与える少年」はパリ滞在時に制作されました。いわゆるレアリスムのスタイル。コローの初期の作風を連想させはしないでしょうか。男の子が女の子にスープを飲ませようとしています。靴は木靴、中には藁が入っていました。かなり貧しい家なのかもしれません。しかしながらどこか穏やかな時間が流れているようにも見えます。画家によるモデルへの温かい視線を感じ取れるような作品でもありました。

フランスの後にはイギリスにも滞在します。そこで描かれたのが「快復期」です。アイヴズの少女をモデルにした作品、まさに病み上がりでしょうか。表情は定まらず、視線も虚ろな女の子。ついさっきまで床に伏せていたのかもしれません。髪の毛は乱れています。そして大きな椅子に腰掛けては、陶器の上の植物に見やっていました。これは結果的にシャルフベックを世に知らしめた代表作となります。翌年、1889年のパリ万博での銅賞の栄誉に輝きました。


「洗濯干し」 1883年 油彩・カンヴァス
フィンランド国立アテネウム美術館


シャルフベック、常に変化を志向していたのでしょうか。画風は必ずしも一定しません。時が経つ毎にスタイルを変えています。

最初の変化の切っ掛けはフィンランドへの帰国です。ヘルシンキからやや離れたヒュヴィンカーという町に母と移り住みました。

解説では「フランス美術の影響」とありましたが、どうでしょうか。それだけではないかもしれません。例えば「鎧を着た少年」はバーン=ジョーンズを思わせる面もあります。また「断片」では画肌にフレスコ画のような質感を取り込んでいます。言わば実験的な取り組みです。それに「古い醸造所」はやや抽象的な構成をとっています。さらに「サーカスの少女」の甘美なスタイルはローランサン風です。素早い線で女性を象った「モダン・スクールガール」はスーチンを見るようでもあります。

その中でも明らかに特定の画家に影響を受けたと思われる作品に目が止まりました。それが「お針子(働く女性)」です。


「お針子(働く女性)」 1905年 油彩・カンヴァス
フィンランド国立アテネウム美術館


木の椅子に腰掛けては手を前に組みながら目を瞑る女性。疲れを癒すのか、軽く眠っているようにも見えます。背景は一面のグレー、そして特徴的な横からの視点。明らかではないでしょうか。つまりホイッスラーです。かの「灰色と黒のアレンジメント」に対をなすような構図と画題ではありませんか。当時、ホイッスラーはヨーロッパの画壇でも注目の的だったそうです。シャルフベックも大いに触発されたに違いありません。


「諸島から来た女性」 1929年 油彩・カンヴァス
フィンランド国立アテネウム美術館


自らの心象を写すかのような自画像をシャルフベックは約40枚ほど残しています。また画家は身近な人物を好んでは肖像画に描きとめました。

うち「エイナル・ロイター」はシャルフベックを語る上でも重要な作品です。元々、ロイターは画家仲間の一人。19歳年下ながら、作品を大いに評価します。熱の入りようはシャルフベックの伝記を執筆するほどだったそうです。

そのロイターにシャルフベックは恋心を抱きます。しかし間もなく叶わぬ恋だと気がつきました。ようはロイターは別の女性と婚約してしまうのです。「ロマの女」はその頃の彼女のや心境を表した一枚です。手で頭を抱えては悲嘆にくれています。激しい身振りです。もはや顔の表情すら伺うことも出来ません。

さらにシャルフベックは「未完成の自画像」において、顔にナイフで切り込みを入れるという行為に出ました。言わば絵画上での自傷行為とも呼べるのではないでしょうか。実際にも画家は失恋のあまり、二ヶ月間も通院生活を送ったそうです。ロイターとの失恋がシャルフベックの制作にも影響を与えたに相違ありません。

1923年に母を亡くしたシャルフベックは、体調の優れない中、リゾート地のタンミサーリに居を移します。画家は孤独でした。ここにはかつて好んで描いた肖像画のモデルもいません。

制作として行き詰まりを見せていたのでしょうか。この頃、出入りしていた画商の提案によって、シャルフベックは旧作のリメイク、つまり作品の再解釈を試み始めます。

「パン屋」と題された2点の絵画はどうでしょうか。一枚は1887年、まだ20代半ばの作品、パン屋の店内を具象的に描いています。そしてもう一枚がその50年以上後に描かれたものです。構図こそ似ているものの、具象とは大きく異なっています。ようは抽象性が増しているわけです。


「天使断片 (エル・グレコによる)」 1928年 テンペラ・油彩・カンヴァス 
フィンランド国立アテネウム美術館


さらにグレコにも感化されます。「天使断片」における恍惚とした女性の姿はまさしくグレコを連想させるもの。素材にはテンペラも用いていますが、塗りは薄く、衣服などは断片的。言わば明瞭に描いていません。シャルフベック独自の感性も伺えます。

ちなみに画家はグレコの本物を一枚も見たことがなかったそうです。おそらくは画集なり挿絵から見ては描いていたグレコ風の作品。再解釈は何も旧作のレプリカではありません。画家が晩年になって改めてどのように自作を見つめ直したのか。相互を比較することで浮き上がってくるものも少なくありませんでした。

シャルフベックが亡くなったのは第2次大戦後の1946年のことです。83歳にて生涯を終えます。そしてこの最晩年の自画像こそ一つのハイライトとしても過言ではありません。

1944年からスウェーデンのホテルで療養生活に入ります。おそらくは必ずしも広くない一室。そこでシャルフベックは何を見やったのでしょうか。それが鏡なりを通して写し出された自らの顔、自画像であったということかもしれません。


「自画像、光と影」 1945年 油彩・カンヴァス
ユレンベリ美術館


「正面を向いた自画像」では老いて頬のこけた姿を何ら包み隠さずに描いています。さらに「自画像、光と影」はもはや幻影のようです。光や色に溶けて消えゆくような自らの姿を何とかキャンバスにつなぎ止めています。


「黒いりんごのある静物」 1944年 油彩・カンヴァス
ディドリクセン美術館


ホテルにあったのでしょうか。腐ったリンゴをモチーフにしているのには驚きました。「黒いリンゴのある静物」です。色は時に輪郭線をはみ出しては互いに混じり合っています。初めは黒く丸い物体が何かわかりませんでした。ずばりこれが腐ったリンゴです。きっと鼻をつくような臭いを放っていたことでしょう。その感覚までが作品から伝わってきます。

作品は全部で84点。これほどまとまった数でシャルフベックを見られる機会はおそらく今後も当面ありません。

「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし/求龍堂」

その意味でも一期一会の展覧会と呼んで差し支えないのではないでしょうか。例え頬はこけようとも、眼差しには強い意思をも感じるヘレン・シャルフベック。率直なところ、初めは名前すら知りませんでしたが、展覧会を見終えると、心を大いに引き付けられていたことに気がつきました。

[ヘレン・シャルフベック展 巡回予定]
宮城県美術館:8月6日(木)~10月12日(月・祝)
奥田元宋・小由女美術館:10月30日(金)~2016年1月3日(日) 
神奈川県立近代美術館葉山館:2016年1月10日(日)~3月27日(日) 



7月26日まで開催されています。まずはおすすめします。

「ヘレン・シャルフベックー魂のまなざし」 東京藝術大学大学美術館
会期:5月2日(火)~7月26日(日)
休館:月曜日。但し7/20(月)は開館。翌21日(火)は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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「李傑(リー・キット) The voice behind me」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「李傑(リー・キット) The voice behind me」 
6/2-7/26



資生堂ギャラリーで開催中の李傑(リー・キット)個展、「The voice behind me」を見てきました。

1978年に香港で生まれたアーティスト、リー・キット。現在は主に台北を拠点に活動しているそうです。

2013年にはヴェネチア・ビエンナーレの香港館の代表に選出。展示は高い評価を受けます。ウォール・ストリート・ジャーナルにて「必見ベスト5」のアーティストにも挙げられました。



さて場内、まず目に飛び込んで来たのが壁でした。しかしながらそれはただ空間を仕切るものではなく、文字が記され、絵具が塗られ、まるで一枚のキャンバスのようにも見えます。そして壁の前には一脚の椅子が置かれていました。果たして監視の方が座るためのものか、そうではないのか。必ずしも明確に見分けがつくわけでもありません。



奥へ進んでみました。すると暗がりの中から浮かぶのは2点の平面作品、いずれも男性がモチーフとなっています。さらに再び備品が現れました。今度は机です。紙、布も垣間見えます。いずれも既製品なのでしょうか。また照明も特徴的です。限りなく淡く、時に青白いが空間を満たします。まるで薄日の差し込むリビングのようです。そういえばペアのクッションの並んだソファもありました。



リーは、布やダンボールに描いた絵画、ライトやタオルハンガーのような既製品と絵画を組み合わせた作品、映像と絵画を並べた作品など、日常の一部と見紛うさりげない作品を制作しています。 *資生堂ギャラリーサイトより

結論から言えば、これら全てが作品です。新作と旧作を交えたもの。平面や立体を組み合わせては一つのインスタレーションを展開しています。



照明はギャラリーの壁そのものにも「絵画」を作り上げました。光になぞられた壁の質感はまるでキャンバス地のようでもあります。光の色はまるで塗られた絵具のようです。そのニュアンスは絶妙、一つとして同じ景色を作りません。また光と影の合間がキャンバス同士の境、さらには床面の影までが一つの抽象絵画のようにも見えてきました。

ただしリーの作品、必ずしも何かの絵画のみを空間に志向しているわけではありません。といいのも例えばテーブルの表面を引っ掻き続けた作品には「効率のみを追求するようになった都市への静かな批判がこめられている」(解説シートより)とのこと。率直なところ、一見するだけでは、なかなかリーの「問題意識」は汲み取れませんでしたが、社会的な批評性を持ちえた作品でもあるようです。



それにしても2巡、3巡すると、どこか空間から離れ難くなるような展示でした。不思議なまでの心地よい感覚は何に由来するのでしょうか。しばし時間を忘れて滞在しました。

7月26日まで開催されています。

「李傑(リー・キット) The voice behind me」 資生堂ギャラリー
会期:6月2日(火)~7月26日(日)
休廊:毎週月曜日
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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速水御舟「菊花図」 世田谷美術館

現在、世田谷美術館で開催中の「速水御舟とその周辺」展。没後80年を迎えた速水御舟を中心に、師の松本楓湖や兄弟子の今村紫紅、同輩の小茂田青樹をはじめとした一門の画家らを参照。御舟の画業を師弟や門人との関係から追っています。



「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」@世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)

私も既に一度、GW過ぎに展示を見ましたが、その際にはチラシ表紙(上画像)を飾る「菊花図」が出ていませんでした。つまり期間限定、後期のみの出品だったわけです。6月2日(火)より「菊花図」が公開されています。

「菊花図」は冒頭での展示です。思いの外に小ぶりの屏風でした。形式としては4曲1双、高さは各93センチに横幅は182センチです。金地の平面に黄色や赤などの菊が描かれています。菊が横へ連なり、また上下に段差をもって広がる構図は、光琳の「燕子花図屏風」を連想させる面もあります。

ただしここには光琳画の特筆である装飾性よりも、写実、ないしはそれを通り越した、御舟独特の濃密、あるいは執拗なまでの細密表現を見て取ることが出来ました。

御舟が「菊花図」を制作したのは1921年。ちょうど結婚した27歳の時です。前年には「京の舞妓」を完成させ、いわゆる写実表現にのめり込んでいた頃。「菊花図」においても同様に写実を追求しています。「北方ルネサンスの画家・デューラーの影響」(本展カタログより)を指摘される作品でもあります。

まず目に飛び込んで来たのが、鮮やかな菊の色彩、そして花弁の細かな表現です。花びらは一枚一枚、やや強めの輪郭線に象られています。また花は生々しい。劇画調と言ったら語弊があるでしょうか。何やら熱気のようなものが伝わってきます。とは言え、中には今にも萎れて丸まり、朽ち落ちてしまうような花もありました。色は意外と透明感があります。図版では濃い水色に見える菊もかなり白が混じっていました。

一方で葉の質感は重い。何層にも色を塗り重ねたのかもしれません。緑に茶色が混じっています。そして菊はいずれも針金のような棒で支えられていました。

「菊花図」にあわせて「菊写生帳」も展示されていました。こちらは「菊花図」に先立つ1年前、1920年の制作です。本画よりもさらに写実的です。菊の咲く様子を有り体に捉えています。そしてこちらも実に細かい。素早い筆致にて花弁はおろか、葉脈までをも見事に浮き上がらせていました。

「速水御舟とその周辺」 世田谷美術館(はろるど)

なお「速水御舟とその周辺」展、既に会期は残り2週間。初めにも触れたように後期展示に入っています。



前後期で相当数の作品が入れ替わりました。また「周辺」とあるように、御舟作は4割ほど、残りは別の画家の作品で占められています。ただそれこそ本展の面白いところ。今村紫紅や小茂田青樹に優品も多く、知られざる御舟同門の画家の作品もなかなか見応えがあります。

また御舟コレクションで名高い山種美術館以外の作品で構成されているのもポイントです。平塚市美術館、横浜美術館、また茂原市美術館や西丸山和楽庵、さらに京都国立近代美術館や個人の作品も目立ちます。ゆえに見慣れない御舟作も少なくありません。やはり御舟ファンには是非とも見ておきたい展示と言えそうです。



速水御舟の「菊花図」は世田谷美術館の「速水御舟とその周辺展」で7月5日まで公開されています。

「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」 世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)
休館:毎週月曜日。但し祝休日の場合は開館し、翌日休館。5/4(月)~6(水)は開館、5/7(木)は休館。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17:30
料金:一般1200(1000)円、65歳以上1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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「特集 河鍋暁斎」 美術手帖

いよいよ今月末、三菱一号館美術館で始まる「河鍋暁斎展」。「狂っていたのは、俺が、時代か?」とは何ともチャレンジングなサブタイトルです。楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。


「特集 河鍋暁斎」 美術手帖
http://www.bijutsu.co.jp/bt/

その展覧会を目前にしての企画です。美術手帖の最新号で「河鍋暁斎」が特集されています。



コピーは「この絵描き、天下無敵。」。全体の監修を務めるのは山下裕二先生です。冒頭、田附勝氏による写真から目を引かれるもの。暁斎画をこれでもかというほどにクローズアップ。山下先生が暁斎の特徴として挙げる「二重性」のうち、「巨大×細微」における「細微」、つまり暁斎画の細部の繊細な筆致を目の当たりにすることが出来ます。

それにしても山下先生、何とも暁斎愛に満ちてはいないでしょうか。と言うのも、かつて京博で回顧展の行われた暁斎ですが、次に例えば東博で開催すればどのような展示をするのか。その具体的なプランまでを披露しています。さらには「勝手に重文指定」として、暁斎画に重文がないのはけしからんと、全9点の作品をまさに勝手に重文に認定しているのです。

さて今回の「河鍋暁斎」特集。実に幅広い視点が盛り込まれているのも特徴です。各方面で活躍するアーティストらが暁斎の魅力を語りに語っています。

まずはしりあがり寿さんです。題して「新富座妖怪引幕が出来るまで」。暁斎畢竟の大作の「新富座妖怪引幕」の制作プロセスを漫画化しています。実は私もこの作品、かつて成田山の書道博物館で見たことがありますが、僅か4時間で描き上げたとは到底思えないほどに充実。全17メートルにも及ぶ大画面に至極圧倒された記憶があります。それをしりあがりさんは、注文主である仮名垣魯文に着目し、暁斎との2人のやり取りを軽妙洒脱、面白おかしく表しました。



暁斎に「最高の評価」を与えている山口晃さんも登場します。山下先生との対談です。河鍋暁斎記念美術館を訪ねて「放屁合戦絵巻」や「美人図」の下絵などを鑑賞。暁斎の頭に3Dとなっているはずのモチーフが、画面では平面的になっていることなどを指摘しています。時には日本美術全般に話を広げては、暁斎の魅力についてさっくばらんに語っていました。

なおここに登場する河鍋暁斎記念美術館ですが、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

場所は埼玉の西川口です。暁斎専門の美術館としても知られ、肉筆から下絵、画稿などを含め3000件も有しています。そして館長は暁斎を曽祖父に持つ河鍋楠美氏です。誌面でも暁斎が河鍋家でどのように語り継がれたのかや、美術館の設立などについてインタビュー形式で触れています。暁斎に最も近しい人物による貴重な証言として重要だと言えそうです。

読み物として私が特に面白く感じたのは、西尾康之さんによる「暁斎が本当に描きたかったものとは?」でした。



ここで西尾さんは暁斎の下絵、とりわけ線、さらには筆の太さや墨の濃さにまで言及しては、暁斎画を分析。また「女人群像」の描写から、暁斎は衣服にフェティシズムがあったのではないかとも述べています。

さらに暁斎は山姥をむしろ普通の女性として描こうとしていたのではないかも指摘。また「九相図」でも、死を死としてではなく、むしろ「華やか」であり、「自由になること」であると考えていたのではないか。そのようにも語っていました。

木下直之氏の「呑み、笑い、騒いでわかる 暁斎の時代の絵」も興味深いのではないでしょうか。



暁斎の時代にあった書画会を出発点に、現代の美術の在り方にまで引き付けて論じたテキストです。書画会の即興性が近代以降、消えてしまった一方で、現代のライブパフォーマンスに蘇っているのではないかという箇所も面白い。展示空間としての絵馬堂と美術館、さらには暁斎の春画についても踏み込んでいます。

ほかには20代の頃から暁斎が好きだったという天明屋尚さんのインタビューや、暁斎の年記に沿った「河鍋暁斎物語」なる漫画もありました。端的に展覧会に準拠した特集ではありません。

一号館での展覧会に向けても読んでおきたいのが「エシゾチズムを超えてー暁斎と外国人たち」です。



テキストは今回の企画を担当された三菱一号館美術館の野口玲一氏です。ここで暁斎と外国人、特に一号館美術館ともゆかりのあるジョサイア・コンドルに着目。海外の日本美術の受容を踏まえつつ、暁斎とコンドルの師弟関係について触れながら、相互に与えた影響などについて論じています。

またラストには一号館の暁斎展をはじめ、この夏、暁斎画を見られる展覧会もリストアップ。暁斎に関する書籍も紹介していました。



「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」@三菱一号館美術館
URL:http://mimt.jp/kyosai/
会期:2015年6月27日(土)~9月6日(日)

なお暁斎は次号の芸術新潮でも特集(6/25発売予定)があるそうです。私も読み始めたばかりですが、この美術手帖と芸術新潮の2大美術誌での特集を経ての暁斎展。大いに期待出来るのではないでしょうか。

「美術手帖2015年7月号/河鍋暁斎/美術出版社」

美術手帖2015年7月号、「特集 河鍋暁斎」は全国の主要書店で発売中です。まずはお手に取ってご覧下さい。

「特集 河鍋暁斎」 美術手帖(美術出版社)
内容:江戸から明治へと時代が大きく転換する頃、伝統技術を駆使した仏画や美人画、妖怪や骸骨が踊るユーモラスな戯画、春画まで、あらゆるものを描ける人気絵師がいた。自己表現を超えて、庶民に寄り添い、絵師として生きた河鍋暁斎は、いかにして時代の変化と名声の浮き沈みを乗り越えて、再び評価されるに至ったのか?多才が故にとらえがたい、その実態に迫る。
価格:1728円(税込)
刊行:2015年6月17日
仕様:192頁
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6次元で「これからの美術館事典ナイト」が開催されます

6月16日(火)から東京国立近代美術館で始まった「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」。そのサテライトイベントです。荻窪の6次元でトーク「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典ナイト」が開催されます。



[6/27(土) 『No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典ナイト』]
出演:桝田倫広さん(東京国立近代美術館研究員)×新藤淳さん(国立西洋美術館研究員)×ナカムラクニオさん(聞き手)
会場:6次元(荻窪駅西口より徒歩2~3分)
日時:6月27日(土) 19:30~(19:00開場)
参加費:1500円(要予約)
予約方法:件名を「これからの美術館事典ナイト」とし、名前、参加人数、電話番号を明記の上、rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp (ナカムラ)まで。

[これからの美術館事典ナイト 概要]
美術館をテーマにAからZまで36個のキーワードを事典風に構成した「No Museum, No Life?」展。現在、東京国立近代美術館で開催中の展覧会を企画した桝田倫広さん(東京国立近代美術館研究員)と新藤淳さん(国立西洋美術館研究員)のお二人を招いて、トークイベントを開催します。



[6次元(荻窪)] 
http://www.6jigen.com/
住所:杉並区上荻1-10-3 2F

イベントの開催日時は6月27日(土)の夜7時半から。出演は展覧会を企画された東京国立近代美術館の桝田倫広さんと国立西洋美術館の新藤淳さんです。それに聞き手として6次元店主のナカムラさんも登壇されます。

それにしても東近美の桝田さんと西美の新藤さん。この若いお二人の組み合わせによるトークはあまり聞いたことがありません。かなりレアな機会だと言えるのではないでしょうか。

私も新藤さんのお話は何度か伺ったことがありますが、ともかく話題が豊富でお話が尽きません。鋭く、時に際どい発言も笑顔でさらりと話されるような面白い方です。そして今回の会場は美術館を離れた6次元です。ひょっとすると普段、なかなか話しにくいような裏話なども出るかもしれません。

予約方法は上記の通りです。事前に6次元まで直接メール(rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp)でお問い合わせください。なお受付は先着順です。一定数に達し次第、終了となります。



「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典展」を、分かりやすく噛み砕いては、深く掘り下げる「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典ナイト」in荻窪6次元。興味のある方は申込んでみては如何でしょうか。

「No Museum, No Life?ーこれからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:6月16日(火)~9月13日(日)
休館:月曜日。但7月20日(月)は開館。翌21日(火)は休館。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般1000(800)円、大学生500(400)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り、「事物ー1970年代の日本の写真と美術を考えるキーワード」と「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS

今年、放送開始から40年を迎えたNHKの「日曜美術館」。現在の司会は俳優の井浦新さんとアナウンサーの伊東敏恵さん。井浦さんの美術に対する真摯な姿勢は、一視聴者として共感することも少なくありません。私はいつも再放送ですが、最近、見る機会が増えた気がします。


「ブルータスの『日曜美術館』。」(BRUTUS)
http://magazineworld.jp/brutus/
目次&立読み→http://magazineworld.jp/brutus/brutus-803/

40周年を期しての企画です。雑誌「ブルータス」にて「日曜美術館」の特集が組まれています。



メインの企画は歴代の日曜美術館のピックアップ。全2000回超の放送では「そうそうたる出演者」(*)が登場したこともありました。言わば伝説的とも呼べる放送回を取り上げています。



第1室はかの手塚治虫です。お題は絵巻の鳥獣戯画。先の東京国立博物館の展示でも大いに話題となりました。今から遡ること30年以上も前、1982年の11月の日曜美術館に手塚治虫が出演し、独自の切り口で鳥獣戯画を語りました。

実はこの回、今年の4月にアンコール放送されました。ご覧になった方も多いかもしれません。手塚治虫が理路整然、鳥獣戯画について語る様は、もはや感動的ですらありました。特にうさぎの目、その線の巧みな描写に言及しながら、現代のマンガと関連付ける点などは、同絵巻を見る一つの切り口として、大いに興味深いものがありました。

一つの絵師や作品を複数の著名人が取り上げたこともあります。例えば尾形光琳です。最近では2010年に佐藤可士和が「夢の光琳 傑作10選」に出演。名作「燕子花図屏風」のデザイン性について語りました。

一方でもう一つの名作、「紅白梅図屏風」について語ったのは永井一正です。時は1984年。「紅白梅図 デザイナー 光琳誕生」での放送回です。さらにその7年前、1977年には田中一光が「私の光琳」と題して出演。自らの作品に光琳画を落とし込む田中が、光琳を「江戸中期のバイタリティ、ぬけぬけとした強さを持っている」(*)と評価。三者ともデザイナーではありますが、それぞれに異なった視点が面白いもの。もちろんこういった比較、番組上ではなかなか叶いませんが、今回のブルータス上では実現しているというわけです。

教育テレビ50周年の年に番組名が「新日曜美術館」から「日曜美術館」に戻りました。その第1回目に出演したのが、現代美術家の村上隆でした。



回は奇想、曾我蕭白。村上自身が3本の指に入るというくらい好きだという絵師です。作品の現代性を評価し、蕭白には「画題を持っている本質を暴き出したいという、強い欲望」(*)があったのではないかと述べています。

なお蕭白の特集に関しては1997年、舞踏家の大野一雄が、美術史家の辻惟雄とともに出演したことがあったそうです。しかもその回では蕭白の「柳下鬼女図」の前で大野が踊り出したとか。誌面ではこうした番組上でのエピソードにも触れられています。

日曜美術館を切っ掛けとして話題となった作家も少なくありません。



題して「日曜美術館スター誕生!」です。田中一村、常田健、神田日勝、石田徹也らが取り上げられています。特に田中一村は1984年から2014年までの間、計5回も番組で特集されています。そう言えば千葉市美術館でも一村の展覧会がありましたが、普段、何かと静かな同館が大変に混雑していました。これも日曜美術館あってゆえの集客ということだったのかもしれません。

司会の井浦さんのセレクトによる「空想美術館」も実現したら楽しいのではないでしょうか。



これは架空の美術館を作るとして、館長たる井浦さんが美術作品を幅広く取り上げていくもの。全48件です。古代の奇石や縄文土器に始まり中世美術と続きます。またお好きなのでしょうか。最も多くピックアップされたのは江戸絵画でした。さらに近代日本画に現代美術までを網羅します。うち琳派では唯一、鈴木其一の「朝顔図屏風」が取り上げられていました。かつて東京国立近代美術館で行われたRIMPA展以来、もう何年も日本で公開されていない作品ですが、確かに「咲き乱れる朝顔が美しすぎて、怖さすら感じてしまう」(*)もの。私もまたもう一度、見たい作品の一つでもあります。



ラストの資料室と題した「日曜美術館と日本の美術界の40年。」も有用ではないでしょうか。上段に日曜美術館の放送の年譜、下段に日本の美術界の出来事を記した年表。司会者などに関する記述が少なかったのは残念でしたが、少なくとも美術史とリンクする形で番組の変遷を追いかけることが出来ます。

またここでは何よりも岡崎乾二郎による解説、「非歴史化しつつある美術館は新しい歴史の扉を開くのか?」が大いに読ませます。他の美術番組やサブカルの動向にも目を向けつつ、70年代以降の美術館の設立やそのコレクション、また近年のビエンナーレや大型展の状況などについて論じていました。



美術館へのお出かけは「40の美術館で見るべき、40の名作。」が参考になりそうです。

全国津々浦々の美術館、全40館をピックアップし、さらに各1点ずつ、コレクションを紹介する特集。さすがに日本中に目を向けているだけあり、私も行ったことがない美術館ばかりですが、うち一つ、この夏にでも訪ねたいと思ったのは埼玉の丸木美術館です。言うまでもなく「原爆の図」で知られる丸木位里と俊夫妻が拠点としていた美術館。ちょうど先日、「原爆の図」の里帰り展示が報道でも取り上げられていました。

「故丸木夫妻の『原爆』里帰り 9点、60年ぶり埼玉へ」(東京新聞)
「原爆展:米ワシントンで始まる 『原爆の図』も初公開」(毎日新聞)

全体のテキストは、ライターで、NHK NEWS WEBのネットナビゲーターでもお馴染みの橋本麻里さん。テキスト量も多く、当然ながら読み応えもあります。しばらく楽しめそうです。

なお日曜美術館では公式サイトの他に、40周年記念キャンペーンサイトも公開中。びじゅつ委員長のツイッターアカウント(@nhk_bijutsu)は既によく知られるところですが、さり気なくブログもなり頻繁に更新されています。そちらもあわせてご覧下さい。

NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/

日美40|NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/40/

日美40ブログ(井浦新さん&制作スタッフによるアート日記)
http://www.nhk.or.jp/nichibi-blog/

雑誌BRUTUSによる、その名も「ブルータスの『日曜美術館』。」 。6月15日から全国の書店、もしくはコンビニなどで販売中です。まずはお手にとってご覧下さい。(*印はブルータスからの引用です。)

「BRUTUS(ブルータス)/ブルータスの『日曜美術館』。/マガジンハウス」

「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS(マガジンハウス)
内容:1976年にスタートしたNHK『日曜美術館』。40年も続く番組の中では、さまざまな肩書きを持つ出演者たちが、独自の視点で美術作品や作家を語りました。教科書や専門書には載っていない、彼ら彼女らの視点や言葉を読めば、美術の楽しみ方は無限にあることが分かります。
価格:650円(税込)
刊行:2015年6月15日
仕様:128頁
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「金沢の町家ー活きている家作職人の技展」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「金沢の町家ー活きている家作職人の技展」 
6/4-8/22



リクシルギャラリーで開催中の「金沢の町家ー活きている家作職人の技展」を見てきました。

日本の伝統的な木造の家屋。古き城下町の金沢は戦災や震災の被害をあまり受けませんでした。それゆえでしょうか。市内各地には今も多くの町家が残っています。

金沢における町家の家作、すなわち家造りや修復に関する伝統技術を紹介する展覧会です。出展は実際に使われた道具や材料、さらに工程サンプルなど170点ほど。特に技術を継承する職人の仕事にスポットを当てています。



まずは「畳」です。代々、金沢の地にて畳屋を営む立野氏は何と現在で8代目。当主は兼六園内の楼閣の畳の表替えなども手がけています。



畳みに関する道具とともに、畳床の見本も出ていました。これが棕櫚製というから驚きです。通気性の良い同素材、今でこそ殆ど使われていないそうですが、旧家から稀に引き取ることもあるとか。使い古しならではの味わいが感じられます。



石工はどうでしょうか。石を叩き、また割り、彫る道具もずらり。ツルにサシバヅルに鑿など。普通のトンカチのようにも見えますが、よくよく見ると独特の形をしています。



鏝(コテ)の種類がたくさんあるのには驚きました。左官です。大小様々なコテの数々。素材、もしくは扱う面積に応じて使い分けるのでしょうか。道具の選択の一つをとっても職人のセンスが問われるのかもしれません。



道具そのものが一つの芸術品のようにも見えます。表具です。打ち刷毛は掛軸の裏打ちのために用いられるもの。桶は糊を薄める時に使うそうです。



さらに掛軸に使う美栖紙と呼ばれるサンプルも並んでいました。奈良の吉野で漉かれた紙だそうです。



ほかには瓦や建具、さらに大工といった技も紹介。修復の現場を伝えるレポートや映像なども展示されています。



大工の継手の仕組みを体験出来るコーナーもありました。こちらの模型は実際に触ることが可能。見本の写真を元に組み合わせることが出来ます。



新幹線も開業し、何かと話題の金沢ですが、町家の伝統を支えるのは、一人一人の技術をもった職人たちの地道な手仕事です。それを丹念に追いかける企画。いつもながらの小さなスペースですが、思いの外に見入るものがありました。

「金沢の町屋 活きている家作職人の技/LIXIL出版」

8月22日まで開催されています。

「金沢の町家ー活きている家作職人の技展」 LIXILギャラリー
会期:6月4日(木)~8月22日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分
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「第4回 新鋭作家展 堀口泰代・對木裕里」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「第4回 新鋭作家展 堀口泰代・對木裕里」
6/6-6/21



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「第4回 新鋭作家展 堀口泰代・對木裕里」を見てきました。

2011年から始まった「新鋭」の作家を公募展形式で紹介する「新鋭作家展」。今年で早くも4回目です。優秀者は2名。堀口泰代と對木裕里の展示が行われています。

まずは對木裕里です。1987年の神奈川生まれ。2011年に京都市立芸術大学大学院の修士課程を修了。主に「木や紙・粘土などを構成した立体作品」(チラシより)を制作し続けています。

展示室内、確かに目につくのは木や紙、そして粘土です。しかしながらそれらは単にオブジェとしてあるだけでなく、互いに関係し合うかのように配置されています。

目の前にはロープ、その支柱の土台が粘土でした。また床面へ広がる紙。水色に塗られています。随所には波を思わせるような白い曲線も描かれていました。まるで池かプールのようです。壁際にも同じように紙が吊るされています。こちらは端が少し丸まっていました。さらには管を石膏で固めたものやサークル状の木材のオブジェもあります。いずれも同じようにロープが絡み合います。ビニールに入った水も吊るされていました。

それにしても多様に展開する立体物、複雑なインスタレーションを展開していますが、しばらく見ていて、ふと漠然とながらも思い浮かんだのは、庭園、つまり水辺があり、また緑のある日本の庭園のイメージでした。

タイトルに目を向けてみましょう。「本の場」です。突き詰めてしまえば庭とは無縁。必ずしも作家の意図とは違うことに気づきます。入口すぐにある衝立て状のレリーフは「you」、何と姿見です。そしてキーワードは「空間をめくる」。素材と紡いだ時間と物語の関係、言葉のイメージを取り込んだ作品だそうです。

一方、身体に着目し、新たなる風景を生み出すのが堀口泰代です。1977年の群馬生まれ。武蔵野美術大学大学院の修士課程を修了した堀口は、「布でかたどった立体物を被写体となる人物に纏わせ、写真で捉える」(チラシより)という制作を行っているそうです。

黒い帆船がありました。遠目では黒い糸で出来ているかと見間違うような作品、何と素材は髪の毛、カツラでした。作家はそのカツラの帆船を冠っては海に繰り出しています。その様子を写真に収めていました。

スカイツリー、都庁、ビックサイトなど、東京のスカイラインを象る建築物のジオラマが広がります。その素材は布。一枚でしょうか。皆繋がっていました。

奥の映像に目が止まりました。するとこのジオラマの布、つまり衣裳を身につけた女性がダンスをしている姿が映し出されています。布を媒介にして身体と風景を繋ぐ試み。大きく身振りを交えれば、ジオラマの建物はいとも簡単に倒壊してしまうわけです。

さてアトリアでは現在、来年の第5回展に向けての二次審査の公開中。一次審査を通過した作家のプレゼンテーションが展示されています。

審査員:前山裕司(埼玉県立近代美術館学芸員)、戸谷成雄(彫刻家)、南蔦宏(美術評論家)

優秀者は既に大石麻央と野原万里絵に決定しました。また次回展は作品展示のみならず、川口の地域や人に関係するプロジェクトも行うそうです。来年7月中旬以降に予定されている「第5回 新鋭作家展」にも期待したいと思います。

「第5回 新鋭作家展」
優秀者:大石麻央、野原万里絵
会期:2016年7月中旬~8月末(予定)
会場:川口市立アートギャラリー・アトリア



入場は無料です。6月21日まで開催されています。

「第4回 新鋭作家展 堀口泰代・對木裕里」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:6月6日(土)~6月21日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00。土曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
料金:無料
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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「江戸のダンディズム」 根津美術館

根津美術館
「コレクション展 江戸のダンディズム 刀から印籠まで」
5/30-7/20



根津美術館で開催中の「江戸のダンディズムー刀から印籠まで」を見てきました。

ダンディズム:18世紀末から19世紀初頭英国に現れた伊達(だて)好みの気風。*百科事典マイペディアより

偶然なのでしょうか。日本でもほぼ同時代、意匠を凝らした刀剣の拵や印籠が武士の間で好まれました。まさしく江戸の伊達男。さらに制作に携わった職人たちも明治維新後、金工などで業績を残した者も少なくなかったそうです。

主に江戸後期、幕末、明治に流行した華やかな刀装具や印籠を紹介します。その数、約90点。全て根津美術館のコレクションです。

冒頭に並ぶのは刀です。短刀に太刀に脇差。全20点ほど。刀の放つ白い光。息を飲むほど美しい。かつて同美術館で行われた名物刀剣展の記憶がよみがえります。

正保年間以降、武士は大小二本指し、つまり太刀と小刀を持つことが一般的となります。そして戦がなかったことから、いわゆる装身具、所有者の象徴として飾られることが多くなりました。

刀を見る際には何と言っても刃文に目が向いてしまいます。すっと鋭く伸び、ある時にはまるで波打つか霧が立ち込めるかのように広がる刃文。「脇指 銘 越前守助広/以地鉄研造之」では刃文が波濤の如く展開しています。力強い。なお作者の沖田助広は、江戸時代の大坂を代表する刀工として知られているそうです。


「脇指 銘 播磨大掾藤原重高/越前住」 江戸時代 17世紀

透かし彫りが見事です。「脇指 銘 播磨大掾藤原重高/越前住」は江戸初期に名を挙げた刀工の作品。腰には倶利伽羅龍が施されています。刃文はどこか静的です。薄く長く広がっています。

一際、太い刀に目が留まりました。銘は「月山貞一造之/明治三十六年春」、明治時代も後期、幕末から活動し、廃刀令後も刀を造り続けた刀工の作品です。何でもかつて平家の「小烏丸」と呼ばれる太刀を写した刀、身は直列で重々しい。この時代にはこうした古い刀を復刻するような動き、いわゆる復古的な刀も大いに好まれたそうです。

続いては拵です。拵とは刀の外装。もちろん本来は刀の身を保護するためのものですが、幕末にかけては装飾性が極めて増していきます。実に雅やかな拵がいくつも作られました。

「鳳凰螺鈿飾太刀拵」の意匠は番いの鳳凰、螺鈿です。そして随所には宝石でしょうか。エメラルドグリーンの石がはめ込まれています。もはや持ち運び云々の問題ではないでしょう。飾っては愛でるような拵。大変にデコラティブです。


「稲穂雁蒔絵大小拵」(太刀) 江戸~明治時代 19世紀

大小で一揃えの拵です。「稲穂雁蒔絵大小拵」は太刀に稲穂、小刀に雁を金の蒔絵で描いたもの。農耕と三保松原が主題、秋をイメージした作品です。また末広がりの鞘のデザインも個性的であります。


「牡丹蝶図鐔」(表) 加納夏雄 明治時代 19世紀

鐔や印籠はどうでしょうか。「牡丹蝶図鐔」は文字通り牡丹を細かな彫りで表したものです。作者の加納夏雄は幕末の名工、維新後も帝室技芸員として活動した人物だそうです。


重要文化財「燕藤蒔絵印籠」 原羊遊斎 江戸時代 19世紀

印籠では抱一とのコラボでもお馴染みの原羊遊斎の「燕藤蒔絵印籠」に引かれました。印籠という小さな画面に驚くほど濃密な蒔絵を施した原羊遊斎。藤は満開です。そして下方には燕が勢いよく飛んでいます。

90点のうち刀、拵、鐔で60点超。残りが印籠です。また一部の拵では各パーツを分解して名称とともに紹介。何かと覚えにくい刀の用語への理解も深まります。ほぼ刀をメインにした展示と言って差し支えありません。

引き続くテーマ展も充実しています。「唐詩の書」では中国、および日本の文人たちの唐詩の書を紹介。光悦の「和漢朗詠妙」の美しさには惚れ惚れしてしまいます。


「北野展示縁起絵巻(根津本)」(巻第六・部分) 室町時代 15世紀
 
「北野天神縁起絵巻」も巻4~6の面が一揃え開いていました。これは北野天満宮にある「弘安本」(原本)を後に転写した、通称「根津本」と呼ばれるもの。と言っても成立は室町時代です。原本はかなり痛んでいるそうですが、「根津本」は彩色しかり、思いの外に状態が良い。宗達も「風神雷神図屏風」の制作において参照したと言われる有名な雷神の姿も見ることが出来ます。

茶の湯のコーナーではさりげなく抱一の「七夕図」を展示して季節感を演出。美濃の「鼠志野茶碗 銘 山の端」や信楽の「茶碗 銘 水の子」などの優品にも心が奪われます。



幕末、明治の艶やかな刀装具に印籠を紹介して見せる「江戸のダンディズム」。なかなか洒落たネーミングではないでしょうか。



7月20日まで開催されています。

「コレクション展 江戸のダンディズム 刀から印籠まで」 根津美術館@nezumuseum
会期:5月30日(土)~7月20日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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「江戸の悪」 太田記念美術館

太田記念美術館
「江戸の悪」
6/2-6/26



太田記念美術館で開催中の「江戸の悪」を見てきました。

一概には言えませんが、どこか近付き難いながらも、不思議と引き付けて止まない「悪」(ワル)の魅力は、今も昔もそう変わらないのかもしれません。

まずは誰もが知る悪役スター、石川五右衛門です。安土桃山時代、市中で盗みを働いては暴れたという大盗賊。実在したか否かについては諸説あるそうですが、ともかくこれほど人気のあった悪もいません。歌舞伎などの演目でも頻繁に取り上げられます。

たとえば三代豊国の「東海道五十三次之内 京 石川五右衛門」は見るからに伊達男。言ってしまえばカッコいい。定説では無頼漢であった悪人も、芝居では善人、つまり美化されることも多かったそうです。

この五右衛門の処刑シーンを描いた国芳の作品が強烈でした。衆人が見守る中、煮えたぎる巨大な釜に入れられては耐える五右衛門の姿。既に身体は血みどろです。腕を上にして持ち上げているのは倅です。最期の最期まで息子を思う五右衛門。涙を誘います。死に際しても挟持を失うことはありません。左下で嘆くのは五右衛門の妻なのでしょうか。処刑人らはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべています。何とも臨場感のある光景ではないでしょうか。

三代豊国では「梨園侠客伝」の連作に目を引かれました。うち「御所の五郎蔵」が魅惑的です。桜の舞う中を傘を開いてポーズを構えます。衣裳には勇ましき昇り龍。これぞ粋の真骨頂。同シリーズの「髭のいきう」も勇ましいのではないでしょうか。花紋をあしらった派手な衣裳に桜。そして背景は夜。つまり黒です。これを映えずとして何と呼べば良いのでしょうか。見事なまでにキマっていました。

ところで今回、キャプションに「悪人度」なる指標がありました。最高は星5つです。これが思いの外に面白いもの。星5つに輝いた悪人は決して多くありません。

一人は先に挙げた石川五右衛門、二人目がこれまた有名な鼠小僧です。あとは四谷怪談の伊右衛門、立場の太平次、村井長庵、また浅茅ヶ原の鬼婆など数名。後ろ四名は人殺しです。星の数で知る悪人の度合い。注意して見ると良いかもしれません。

歴史上の人物にも悪人がいます。代表的なのが「仮名手本忠臣蔵」で高師直として登場した吉良上野介。言うまでもなく赤穂浪士事件の当事者です。そして明智光秀、平清盛、蘇我入鹿と続きます。もちろん何故に彼らが悪人かについては議論もあるでしょう。実際にも光秀は、非情な君主に厭われた弱者として擁護されたこともあったそうです。

熱病に唸らされた清盛を描いた「平清盛炎焼病之図」が劇的です。作者は天才絵師の月岡芳年。やせ細った清盛が寝床でのたうち回ります。すぐ後ろには閻魔大王がいつでも来いと言わんばかりの姿で待ち構えていました。周囲には黄色い火焔が迸ります。鬼の姿も見えました。まさしく地獄絵図、思わず清盛に同情してしまうかのような描かれぶりです。何やら気の毒ですらありますが、これも人気の悪ゆえに描かれた名作ということなのかもしれません。

悪は何も男性だけではありません。悪女も登場。豊原国周が描いたのは「原田お絹」。金貸しの妾となり、歌舞伎役者に入れこんでは、障害となる男性を毒殺します。モデルは実在した毒殺犯、原田きぬ。夜嵐おきぬとして新聞錦絵などのモチーフに好まれたそうです。

展示では「悪」たちを、「盗賊・侠客」、「悪の権力者たち」、「恋と悪」、「妖術使い」といったテーマ別に分類。歌川豊国、三代豊国らをはじめ、月岡芳年らの作品が目立っていました。

テーマも明確。なかなか見せては読ませる展示ですが、残念ながらカタログはありませんでした。リストは同館のWEB上で確認することが出来ます。



半ば怖いもの見たさのゆえに引き寄せもする悪人の展示。どこか人には悪人願望でもあるのでしょうか。館内も不思議な熱気に包まれていました。

6月26日まで開催されています。

「江戸の悪」 太田記念美術館@ukiyoeota
会期:6月2日(火)~6月26日(金)
休館:月曜日。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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「ルオーとフォーヴの陶磁器」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「ルオーとフォーヴの陶磁器」
4/11-6/21



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ルオーとフォーヴの陶磁器」を見てきました。

ルオーもフォーヴも重要ですが、この展覧会の主人公は、アンドレ・メテだと言えるのではないでしょうか。

メテは20世紀初頭のフランスで活動した陶芸家です。パリ郊外で制作をおこない、当地では「陶磁器の装飾に力強さを復活させた」(キャプションより)人物として名を残しているそうです。


アンドレ・メテ「蓋付丸形小箱 鳥と星座」 1918年頃 高さ5cm 最大径9cm 施釉陶器
ブロ・コレクション


ただし日本では知られていません。ただやむを得ないことなのでしょう。なにせ国内にメテの陶磁器が殆ど所蔵されていないからです。

それは表題の「ルオーとフォーヴの陶磁器」も同様です。そもそも例えばブラマンクが陶磁器制作に熱中していたこと自体、初めて知った方も多いのではないでしょうか。出品は陶器下絵や型紙を含め140件。一部を除き、ほぼ全てがフランスから来ています。ようは日本で初めてメテ、そしてルオーらのフォーヴの作家の手がけた陶磁器を紹介する展覧会というわけなのです。

まずは主人公のメテです。展示でも4割のウエイトを占めています。生まれは1871年、陶芸は独学だったそうです。1902年にパリ郊外に窯を開き、本格的な作陶家としてデビューします。

メテは初期にせっ器、中期にファイアンス(錫釉色絵陶器)、そして後期には施釉陶器と技法を変えながら制作していました。ちなみにこれらの三つの技法、焼物に親しくないと内容が思い浮かばないかもしれませんが、そこは会場のキャプションがカバー。丁寧な解説がついています。


アンドレ・メテ「大皿 アダムとイヴ」 1909-20年 径29cm 施釉陶器
パリ市立プティ・パレ美術館 © Petit Palais / Roger-Viollet


モチーフは多様です。「大皿 アダムとイブ」はどうでしょうか。聖書の主題、メテは後期に人物を好んで描きますが、本作もそのうちの一枚です。中央にはヘビの誘惑によってリンゴを手にする二人の姿が描かれています。ともかく美しいのは目に染み入るような青。藍色とも言ってよいでしょう。輝いています。まるでモザイク画を見るかのようでした。


アンドレ・メテ「卵型花瓶 幾何学模様と野兎」 1910-11年頃 高さ18cm 施釉陶器
ブロ・コレクション


同じく青を基調としています。兎が跳ねる姿を描いたのが「卵型花瓶 幾何学模様と野兎」です。素直に可愛らしい。縁は金でしょうか。同じく動物をモチーフとした「蓋付丸形小箱 鳥と星座」では内側に一面の金が広がっています。図像は総じて装飾的です。ペルシアの花やアラベスクの紋様を巧みに取り込んでいます。


アンドレ・メテ「陶器下絵」 27.5×25.2cm グワッシュ、石墨/トレーシングペーパー
個人蔵、ムードン


陶器下絵も何点か出ていました。こちらは水彩です。また一部には下絵と陶器を見比べる展示もあります。メテがどのように陶器を制作していたのかを見知ることが出来ました。

さて後半です。ここからはルオーとフォーヴ。順から言えばフォーヴが先です。ブラマンクにマティスにドラン、そしてマイヨールにジャン・ピュイ。いずれも師はメテです。有力な画商、ヴォラールが画家たちをメテに紹介しました。1906年頃からメテの工房で陶磁器の絵付けに挑戦していたそうです。


ルイ・ヴァルタ「花瓶 レダ」 1907年頃 高さ54cm ファイアンス 
パリ市立プティ・パレ美術館 © Patrick Pierrain / Petit Palais / Roger-Viollet


それにしてもメテに学んだと言えども、いずれも類い稀な才能を持つ画家たち。まさしく百花繚乱です。陶磁器においても各々に異なった世界を切り開いています。

ブラマンクは5年間で300枚もの絵付けを残しています。タッチはあまり空間にとらわれません。大胆です。太いストロークが草花の模様を象ります。さすがに絵画ほどの濃密さはありませんが、それでも生気に満ちた雰囲気を漂わせていました。

マティスのセンスが絶妙でした。「花瓶 装飾的な花」では限定された線と色を用いて花を開かせています。色は赤と緑のみ。地は乳白色でしょうか。それをキャンバスと見立てれば、まさしく絵画を写したかのような表現です。軽快でかつ素早い筆遣い。無駄はありません。

メテはフォーヴの画家たちにファイアンスを用意したそうです。素焼きの器に顔料を用いては描いています。ドランの「花瓶 幾何学模様」の色彩も華やかで美しいもの。ピュイはやや変わってより具象的なモチーフに取り組みました。「皿 金魚」は花模様の中、可愛らしい金魚の描かれた一枚です。キャプションに「遊戯的」とありますが、確かに遊び心を感じさせる作品でもあります。

ラストがルオーです。おおよそ55点。中には汐留ミュージアムや出光美術館所蔵の絵画も含みます。

このルオー、絵画でも極めて重厚なマチエールを見せますが、まさか陶器でも同じような表現を志向していたとは知りませんでした。

一例がチラシ表紙を飾る「花瓶 水浴の女たち」です。モチーフは文字通り裸婦像。それにしても深く、濃い青い色彩ではないでしょうか。時にガラスの輝きとも評されるルオー画のマチエールを見事なまでに再現しています。

「大皿 オフィーリア」も目を引きました。瞳を大きく開けながらも、どこか憂い、あるいは悲し気な表情を見せるオフィーリアの姿。やはり表面は絵画同様に味わい深いものがあります。色彩が全てを飲み込んでいます。縁にはメテも得意とした金属光沢によるひび焼きを見ることが出来ました。


アンドレ・メテ「花瓶 鳥と植物」 1909-20年頃 高さ38.5cm 施釉陶器
パリ市立プティ・パレ美術館 © Petit Palais / Roger-Viollet


ちなみにメテとルオーは同い年です。彼が陶芸に取り組んだのもほかのフォーヴの画家同様、1906年頃。活動は計7年間。1913年にまで及びます。主題は絵画と同じく裸婦や道化師です。実際の展示でも一部、似たモチーフを絵画と陶磁器の両方で参照していました。

このところ何かと展示設営に巧みな汐留ミュージアムのことです。今回もテーブルセットや効果的な照明など、作品をより美しく見せる仕掛けに事欠きません。魅入りました。



会場内、余裕がありました。6月21日まで開催されています。

「ルオーとフォーブの陶磁器」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月11日(土)~6月21日(日)
休館:水曜日。但し4月29日、5月6日は開館。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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