「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」
2019/8/2~8/25



資生堂ギャラリーで開催中の「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」を見てきました。

1982年に愛媛県に生まれた小林清乃は、かねてより無名の人や市井の人が残した言葉に関心を寄せては、「私とそれ以外の世界の関わり」(解説より)をテーマにした作品を発表してきました。



暗がりの空間の中、ステージの上で円を描くように並ぶのが、7台の小さなスピーカーで、いずれも女性の音声で、日常の何気ない出来事と思しき内容のテキストが日本語でひたすらに語られていました。しかししばらく聞いていくと、それぞれには戦争についての話題があるなど、少なくとも現代の日本とは異なった時代が舞台であることが分かりました。



実際のところ、そのテキストは、1945年の3月から約1年間、東京の女学校を卒業した7人の残した手紙で、現在の同世代の女性が演じつつ朗読していたものでした。そして手紙の故か、くだけた話し言葉ではなく、書き言葉であるのも特徴でした。今ではなかなか聞くことの出来ない畏まった言葉のように思えるかもしれません。



それぞれの手紙は、日付に基づき、時系列でかつ同時にスピーカー上で再生されていて、相互に関わりあうようで、すれ違うような、複雑な音声のコミュニケーションが築かれていました。



小林は一連のサウンドインスタレーション「Polyphony 1945」において、戦争によって散り散りになった女性が手紙の中で語った「ふたたび、逢いたい」との気持ちを、過去の手紙の声と今に発する声にて、時空を超えて再会させたいと考えたそうです。中には東京大空襲で被災したり、終戦前に広島へと疎開した女学生もいました。



バッハの「平均律 クラヴィア第13番」のピアノの厳かな調べが聞こえてきました。戦争中もクラシック番組は放送されていて、こうしたピアノ曲を女学生らが聞きつつ、手紙に感想を書きあったこともあったそうです。



2つの原子爆弾が甚大な被害をもたらし、多くの人命を失いつつ、ようやく終戦へと至った1945年の8月から、今年で74年を迎えます。物静かに、しかしどこか気位高く日常を語る女学生の声を通し、改めて戦争や平和について考えたい展覧会と言えるかもしれません。



【第13回 shiseido art egg 展示スケジュール】
今村文展: 2019年7月5日(金)~7月28日(日)
小林清乃展:2019年8月2日(金)~8月25日(日)
遠藤薫展: 2019年8月30日(金)~9月22日(日)


8月25日まで開催されています。*写真はいずれも「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」会場風景及び展示作品。

「第13回 shiseido art egg 小林清乃展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2019年8月2日(金)~8月25日(日)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「水野里奈 思わず、たち止まざるをえない。」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「水野里奈 思わず、たち止まざるをえない。」
2019/7/12〜7/28



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「水野里奈 思わず、たち止まざるをえない。」を見てきました。

1989年に愛知県で生まれた水野里奈は、国内の個展やグループ展で作品を発表し、2015年のVOCA展では奨励賞を受賞するなどして活動してきました。


「青い宮殿」 2019年

壁一面に広がる一枚の大きな絵画に目を奪われました。それが「青い宮殿」と題した作品で、水墨によってトグロを巻く雲のようなモチーフを背景に、草花や山水、ないしソファーといった家具や、壺らしき装飾品の置かれた室内空間などが、極めて鮮やかな色彩によって描かれていました。また背景の水墨は、壁へ直に描かれていて、キャンバスの部分と半ば一体化していました。


「青い宮殿」 2019年

ともかくあまりにも大きな作品ゆえに、全体を一目で捉えるのも難しいほどでしたが、まるで万華鏡の中を覗き込むかのような華やかな色彩と、具象的でありながら強い装飾性を伴っているのが印象に残りました。


「青い宮殿」 2019年

水野は絵画において、「中東の細密画の装飾性・伊藤若冲の水墨画における筆致の要素・キャンバス地」(*)の3点を重視し、画面空間をまさに「レイヤーに置き換えて」(*)表現しているそうです。確かに水墨の力強い筆触は、若冲、ないし蕭白画を連想させる面もあるのではないでしょうか。また一部に、若冲の花鳥画における羽のような表現も見ることが出来ました。*ともに解説より


「青い宮殿」 2019年

大胆でかつ緻密さを兼ね備えた絵画は、まさに「思わず、立ち止まざるをえない。」と言えるのかもしれません。全体を引きで何とか捉えつつも、近づいては複雑に絡み合う緻密なモチーフに見入りました。


「細密ドローイング」 2019年

なおこれらの油彩とは一転し、「細密ドローイング」と題した小品の連作にも魅せられました。ここでは草花や装飾物などをボールペンで表現していて、線は細く、素早く引かれていて、さも画面全体へ散るような動きも感じられました。

また先の絵画同様、壁にも線や草花のモチーフが断片的に描かれていました。やはりドローイングでもレイヤー状の構成を重視しているのかもしれません。


「SCENT」 2016年

会場でもタブレットで紹介されていましたが、「青い宮殿」の背景の制作風景を捉えたダイジェスト映像も興味深いものがありました。


7月28日まで開催されています。

「水野里奈 思わず、たち止まざるをえない。」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:2019年7月12日(金)〜7月28日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「第13回 shiseido art egg 今村文展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第13回 shiseido art egg 今村文展」
2019/7/5~7/28



資生堂ギャラリーで開催中の「第13回 shiseido art egg 今村文展」を見てきました。

新進アーティストを公募によって紹介する資生堂アートエッグも、第13回を数えるに至りました。

今年度の応募総数は269件あり、選考を経て、今村文、小林清乃、遠藤薫の3名の作家が入選を果たしました。そして入選者の個展が、7月から9月にかけて順に行われます。

その第1弾が、1982年生まれの今村文で、「見えない庭」と題し、「ドローイングによる花や虫に囲まれた世界」(公式サイトより)構成するとしています。それでは一体、どのような展示なのでしょうか。



地下に広がる薄暗がりの展示室に置かれていたのは、開け放たれたクローゼットと、ランプの灯すチェスト、それに木の板で作られた部屋でした。中に立ち入ることこそ叶わないものの、明かりを頼りに部屋をドアから覗き込むと、白いシーツに包まれた一台のベット、それに小さな椅子が並んでいました。そして何よりも目を引くのが、ベットや椅子はおろか、天井から床面へと侵食するかのように広がる植物で、赤や黄色の花を咲かせていました。



また先のクローゼットも同様に、草花が広がっていて、チェストの引き出しにも花や葉の断片が無数に入れられていました。いずれも実際の草花ではなく、作家が水彩で描いて切り抜いた紙片でした。草花は時に絡み合い、半ば過剰なまでに茂っていて、本来的に室内である寝室が、まるで屋外、まさに庭のようでした。



「自我のない彼らはとても純粋な心だけの状態なのではないでしょうか。私にとって、花や虫は心を感受して光る白熱灯のようなものです。その光だけで満たしたいと思うのです。」 今村文(解説シートより)



草花とともに重要なモチーフがもう1つありました。それが写真では良く分からないかもしれませんが、無数の毛虫や蛾などの虫でした。いずれも草花と同様に紙で作られていて、例えば寝室では、ベットの上はおろか、壁から床に至るまでたくさんの毛虫が群れをなしていました。かなり精緻に作られていてリアリティもあるため、虫が苦手な方は思わず仰け反ってしまうかもしれません。



今村は、庭を作る際に寝室を築いたのは、「眠っている間の不在」について考えたからと述べています。そして目を覚ますと、「私を忘れていたと気づき」(解説シートより)、そこに本当に存在していたのかと自問するのだそうです。



ともすると寝室に広がる庭は、人が眠っている間にだけ現れる光景なのかもしれません。無数の草花や虫に囲まれた寝室の庭を見やりながら、どこか非現実の空間へと誘われていくような錯覚に陥りました。


今村文「ぼたん羽虫華鬘」 2018年

「花ふたち、茂み」や「ぼたん羽虫華鬘」などと題した、紙に水彩の平面のコラージュにも惹かれました。草花や虫の繊細で澄んだ生命感が滲み出ているように見えないでしょうか。



資生堂アートエッグの本年度のスケジュールは以下の通りです。

【第13回 shiseido art egg 展示スケジュール】
今村文展: 2019年7月5日(金)~7月28日(日)
小林清乃展:2019年8月2日(金)~8月25日(日)
遠藤薫展: 2019年8月30日(金)~9月22日(日)

全ての展示の終了後、有山達也(グラフィックデザイナー)、住吉智恵(アートプロデューサー)、小野耕石(美術家)の専門家3氏の審査を得て、大賞の「shiseido art egg賞」が選ばれます。


7月28日まで開催されています。おすすめします。*写真は全て「見えない庭」会場風景。撮影も可能です。

「第13回 shiseido art egg 今村文展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2019年7月5日(金)~7月28日(日)
休廊:月曜日。*祝日が月曜にあたる場合も休館
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「Ascending Art Annual Vol.3 うたう命、うねる心」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「Ascending Art Annual Vol.3 うたう命、うねる心」
2019/7/4~7/23



スパイラルガーデンで開催中の「Ascending Art Annual Vol.3 うたう命、うねる心」を見てきました。

1987年に富山に生まれた川越ゆりえは、これまでに嫉妬や寂しさ、弱さといった人間のネガティブな感情を、虫の標本を象った姿に置き換えて表現してきました。


川越ゆりえ「弱虫標本」 2013年

「弱虫標本」と題した作品も、遠目では本物と見間違うかのような虫のオブジェが並んでいて、大きな木製のフレームの中に収められていました。それらは、一見、虫を精巧に再現したように思えるかもしれませんが、実は全てはフィクションであり、創造の産物でした。


川越ゆりえ「羽化」 2014年

一連の幻想的な虫は、何やらヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルらの奇怪な生き物を連想させる面もあるのではないでしょうか。またペンダントのようなファッションとしても捉えても魅力的かもしれません。

1988年の大阪生まれの笹岡由梨子は、「Kyoto Art for Tomorrow2019-京都府新鋭選抜展」にて最優秀賞を受賞した「Gyro」を出展しました。


笹岡由梨子「Gyro」 2018年

様々な宗教の悪魔をモチーフとした大型の映像インスタレーションで、常に発せられる「許す」をキーワードに、極彩色の世界が展開していました。笹岡は、日本人が数多くの自然災害に見舞われながらも、常に自然を愛し、また許したとしています。

ハイライトを飾ったのが、吹き抜けの空間に展開した大小島真木の鯨をモチーフとしたインスタレーションでした。


大小島真木 展示風景

1987年に東京に生まれた作家は、2017年にフランスのファッションブランド、アニエス・ベーの支援する海洋生物保護のための「科学探査船タラ号太平洋プロジェクト」に参加しました。そしてその航海を元にして、パリの水族館では「鯨の目」(2019年)と題した展覧会を開催し、水族館の壁に大きな鯨をモチーフとした作品を描きました。


大小島真木「海の血」 2018年

今回の展示に際しては、パリでの4点に1点の新作を加え、いわば鯨がアトリウム空間を海に見立てて回遊する光景を表しています。


大小島真木「核と光-この大地は祖先から譲り受けたものではなく、孫達から借りている場所」(部分) 2018年

鯨は単にアクリルやクレヨンなどの画材で描かれているだけでなく、瀬戸内海の海辺で取得したプラスチックや漁師の網などの人工物も用いられています。また原水爆と思しきキノコ雲が描かれた作品もあり、いわば単に美しい作品ではありません。昨今、問題として大いに提起されたプラスチックゴミ問題しかり、環境への強い意識が現れていると言えるのかもしれません。


大小島真木 展示風景

このスペースだからこそのスケール感のある展示ではないでしょうか。さも海底から鯨を見上げるかのようにして楽しみました。

なお本展はスパイラルの運営母体であるワコールが、若手女性アーティストを中心に紹介するシリーズ展で、今回で第3回目に当たります。


入場は無料です。7月23日まで開催されています。

「Ascending Art Annual Vol.3 うたう命、うねる心」 スパイラルガーデン(@SPIRAL_jp)
会期:2019年7月4日(木)~7月23日(火)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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「井上嗣也展 Beginnings」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
「第373回企画展 井上嗣也展 Beginnings」
2019/5/14~6/26



ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「第373回企画展 井上嗣也展 Beginnings」を見てきました。

1947年に生まれたアートディレクターの井上嗣也は、広告、出版のみならず、音楽のジャケットやファッションとのコラボなど、幅広いジャンルで旺盛に活動してきました。

そして井上は2010年、「TALKING THE DRAGON」と題した初めての個展を、ここギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催しました。以来、おおよそ10年ぶりとなる個展です。会場内には新作の「The Burning Heaven」をはじめ、過去に井上が手がけてきたポスターやブックデザインなど約70点の作品が展示されていました。


奥:「The Burning Heaven」2019年 ADV ギンザ・グラフィック・ギャラリー

新作の「The Burning Heaven」が大変な迫力でした。太陽や月などの天体、あるいは水、油、そして植物などの写真を用い、「架空の宇宙」(解説より)を表したというもので、それこそ宇宙空間を高速で進む彗星のように、輝かしいまでの光を放っていました。その躍動感のある光景に思わず息をのんでしまうかもしれません。


上段:「Contemporary Ancient」2019年 ADV ギンザ・グラフィック・ギャラリー
下段:「Happy Time」2019年 ADV ギンザ・グラフィック・ギャラリー

同じく新作の「Happy Time」も強い存在感を見せていて、動物などのモチーフを、半ばプリミティブな造形に置き換えたかのようなイメージを作り上げていました。さらに仏像の着衣とスカートの襞を並べて写した「Contemporary Ancient」も魅惑的で、その意外な組み合わせが生み出す、思いも寄らないイメージに目を奪われました。


「Sakanaction」 2016年 ADV ビクターエンタテインメント

躍動感といえば、サカナクションのシングルのジャケットも忘れられません。白い馬が転げながら、跳ねる姿を写していて、どことなくシュールな雰囲気も感じられました。


「COMME des GARÇONS SEIGEN ONO」 2019年 ADV 日本コロムビア

また音楽関係では、オノセイゲンの「COMME des GARCONS SEIGEN ONO」のジャケットも鮮烈なデザインで、一羽の鳥が真っ赤な口の中を晒すように、猛々しいまでに嘴を開く様子を写していました。こうした動物のモチーフを用い、半ば野性味のあるイメージを作り上げるのも、井上のデザインの魅力の一つと言えるかもしれません。


「Whisky Old 監督シリーズ」 1987年 ADV サントリー ほか

旧作の広告ポスターも充実していました。1980年代のサントリーの「ウィスキーオールド」や「コム デ ギャルソン」をはじめ、まだ記憶に新しい2017年の「野生展」(21_21 DESIGN SIGHT)などが目を引くのではないでしょうか。ともかくいずれも引きの強いビジュアルで、一度見ると頭から離れることはありません。


オノセイゲンによるBGMも会場を盛り上げていました。これほど熱気を感じるデザイン展もなかなか他にないかもしれません。


「第373回企画展 井上嗣也展 Beginnings」会場風景

撮影も可能です。6月26日まで開催されています。

「第373回企画展 井上嗣也展 Beginnings」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー
会期:2019年5月14日(火)~6月26日(水)
休廊:日曜・祝日。
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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「束芋 透明な歪み」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「束芋 透明な歪み」 
2019/4/26~6/2



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「束芋 透明な歪み」を見てきました。

1975年に生まれ、「にっぽんの台所」などの映像アニメーションで知られる束芋は、今回の個展に際し、自身初となる油絵を発表しました。

まるで古い邸宅に迷い込んだかのような錯覚に陥るかもしれません。初めの展示室でに置かれていたのは、古びた木製の椅子や机、それに棚などで、中央には大きなラグが敷かれ、その上を電球が仄かな明かりを灯していました。そして家具の上の壁や椅子に腰掛けるようにあったのが、新作となる油彩で、いずれも人をモチーフとしながらも、もぎ取られた片腕に口づけする頭部であったり、裂けた椅子から足が突き出しているなど、不気味な光景が描かれていました。

その奥には、「ふたり」と名付けられた映像のインスタレーションがあり、開閉を繰り返す箪笥を中心に、狭い室内、あるいは手足や脳、そして鳥などが登場する物語が展開していました。さらにもう1点、暗い通路の先にも「ループドロップ」と呼ばれる映像があり、そこでは白いタイルに囲まれた閉塞感のある空間で、裸の女性がショッキングな結末を迎える様子が映されていました。

束芋は近年、小説の挿絵や作品の写しなど、原作からインスピレーションを受けて描く作品には、原作に対する誤解等から、オリジナルとの間に「歪み」があるとしています。しかしそれこそがオリジナルと自らの作品をつなぐ「道」として、半ば肯定的に捉えてきました。

それを今回の個展では、全ての作品にオリジナルがあるにも関わらず、一度、関係を断ち切るため、可視化されていません。つまり元の原作の名が公開されていないわけです。

私自身、これまで束芋作品を見る際、殆ど原作を意識しませんでしたが、今回オリジナルを示さないことで、より奇異で、深い心の襞に溜まった何かを抉り取るような、どことない狂気的なものが表れているような気がしてなりませんでした。そして怖いもの見たさにしばらく作品を鑑賞していると、いつしか時間を忘れて何度も見入っていた自分に気がつきました。

新作の油絵をはじめ、オリジナルを公表しない展示方法など、また新たな束芋の展開が示された展示と言えるかもしれません。



入口のパネルのみ撮影が可能です。場内は一切出来ません。


なおpenオンラインアートニュースでも展覧会について簡単に紹介しました。ポーラミュージアムアネックスの会場写真が掲載されているため、展示の雰囲気が伝わるかもしれません。



6月2日まで開催されています。

「束芋 透明な歪み」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:2019年4月26日(金)~6月2日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
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「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」 メゾンエルメス

メゾンエルメス
「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」 
2019/3/28~6/23



メゾンエルメスで開催中の「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」を見てきました。

1981年に京都で生まれ、現在はフランスに在住するアーティスト、湊茉莉は、建物の壁面などに抽象的なモチーフを描く作品で知られて来ました。



エルメスの建物に、色彩鮮やかな巨大ペインティングが現れました。それが「Utsuwa」で、ビルを特徴付けるガラスブロックの表面に、直接、赤やオレンジ、またはピンクの色を塗ったファサードペインティングでした。

ペインティングは、ビルのほぼ頂点より3階部分にまで、どこか一筆で、円、ないし有機的なモチーフを象るように広がっていて、一部は明るい黄色も用いられていました。

湊は「Utsuwa」、すなわち器を、人間の文明にとって重要な役割を持っているとしています。そしてエルメスのガラスの建物を都市の器と見立て、一連の大きく連関するかのようなペインティングを完成させました。解説には「円相画のようにも見える」とありますが、どのようなイメージが浮かび上がっていたでしょうか。



その色彩は、建物内部に入っても、より際立って見えました。通常の展示スペースに当たる8階のギャラリーでは、湊が黄河、メソポタミア、エジプト、イスラムの各文明や文化にインスピレーションを受けたモチーフを、白い布に描いた「方丈・ながれ」を展示していて、いずれもが外のペインティングの色を反映していました。



それらは石や骨、陶で出来た彫像やお守り、ないし日常的な器などをモチーフとしていて、パリの美術館や博物館のコレクションから引用していました。外のペインティング同様、必ずしも明確な形が現れているようには見えませんが、そこは一人一人が自由に想像を働かせても良いのかもしれません。



さらにもう一室で展開する「ツキヨミ」も見逃すこと出来ません。銀やアルミの箔などが張られた数台の木製パネルが、まるで何らかの建築物を表すように置かれていました。そしていずれも外のペインティングや壁の色を取り込み、赤、ないし黄金を思わせる黄色に染まっていました。



湊の生家に近い桂離宮の古書院がモデルだそうです。それを抽象的に立ち上げ、離宮の池の水面に映る月のような光を表すとしています。



光の向きや色の有り様が、見る角度によって移り変わるのもポイントです。さも離宮の内部を散策するかのように、立て板の間を歩いては、異なる景色を楽しみました。

エルメスでこれほど巨大なペインティングが展示されたことはなかったかもしれません。ビューポイントは、ちょうど数寄屋橋交差点の向かい側です。この日は晴天の昼間でしたが、天候や時間帯によっても見え方が変化するのではないでしょうか。銀座がまぶしいネオンサインに包まれる夜の光景も面白そうです。



なお、当初、ファサードペインティングの展示は5月6日までとされていましたが、6月2日までの延長が決まりました。展覧会の会期は同月23日までですが、ファサードペインティングの公開期間中に観覧されることをおすすめします。



ガラスブロックの色は全て外から塗られているのかと思いきや、一部のみギャラリー側、つまり建物内部からも塗られていました。是非、会場で確認して下さい。



6月23日まで開催されています。

「うつろひ、たゆたひといとなみ 湊茉莉展」 メゾンエルメス
会期:2019年3月28日(木)~6月23日(日)
 *ファサードペインティング「Utsuwa」の公開は3月21日(木・祝)~6月2日(日)
休廊:4月12日(金)。
時間:11:00~20:00 
 *日曜は19時まで。入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。
住所:中央区銀座5-4-1 銀座メゾンエルメス8階フォーラム
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅B7出口すぐ。JR線有楽町駅徒歩5分。
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「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」
2019/4/3~6/23



資生堂ギャラリーで開催中の「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」を見てきました。

1985年に生まれた荒木悠は、近年、国内外の展覧会に参加し、「社会・歴史を背景にした」(解説より)映像を制作しては、映画祭などでも評価を得てきました。



弦楽四重奏によるヨハン・シュトラウス2世の「美しき青きドナウ」の調べが聞こえてきました。ギャラリーの壁面と天吊りのスクリーンに投影されているのが「The Last Ball」と名付けられた映像で、赤いドレスとタキシードに着飾った男女が、一見、音楽のリズムに合わせてはワルツを踊っているように思えました。



しかし、しばらく眺めていると、二人は手を取り合いつつも、iPhoneを持っていて、互いにカメラを向けながら、時に避けるような仕草もしていることが分かりました。そして天吊りのスクリーンには、iPhoneで捉えられた、女性から見た男性、あるいは男性から見た女性の姿が、裏表に映し出されていたものの、どことなく動きはぎこちなく、通常のダンスとは明らかに異なっていました。一体、どういう理由なのでしょうか。



これはフランスの作家で、海軍士官として世界を巡ったピエール・ロティの「江戸の紀行文」を下敷きに、1885年に鹿鳴館で開催された舞踏会を舞台としたインスタレーションでした。当時35歳だったロティは、鹿鳴館の舞踏会に出席し、「日本の工兵将校の令嬢」と、一緒にワルツを三度ほど踊ったと記述しました。一方で、それを元に1920年、芥川龍之介がロティの相手をした17歳の女性、明子を主人公とした「舞踏会」を著しました。

つまり映像では、西洋と東洋の2つの視点の立場の交錯した、同じ空間の情景を、現代に作り上げたわけでした。そして明子とロティはiPhoneで相手を撮りながらも、なるべく自らを撮られないように動いていて、その即興的な動きがダンスに見えるようになっていました。



そしてPhoneのカメラには、互いに異なった色彩設計が用いられていて、2人の映像が重なると、各々の映像を補色する関係になるよう出来ています。



さらに会場では、同じく「秋の日本」の「聖なる都・京都」、「日光霊山」、「江戸」に記述され、ロティが出向いた各地を、荒木が改めて撮影した映像も展示されていました。その中では、ロティの原文も字幕で引用されていて、映像と原文によって、100年の時を超えた違いが示されていました。



また資生堂の初代社長の福原信三の撮影した、ラフカディオ・ハーンの旧邸の階段の写真を引用した作品も出展していました。一見、シンプルなインスタレーションに映るかもしれませんが、時代や洋の東西、男女や虚実の関係などの混じりあいや移ろいに着目したテーマは重層的で、思いがけないほどに惹かれました。


3シーンある壁面の映像は全部で31分ほどありました。6月23日まで開催されています。おすすめします。

「荒木悠展 : LE SOUVENIR DU JAPON ニッポンノミヤゲ」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:2019年4月3日(水)~6月23日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「色部義昭展 目印と矢印」 クリエイションギャラリーG8

クリエイションギャラリー
「第21回亀倉雄策賞受賞記念 色部義昭展 目印と矢印」
2019/4/4~5/21
 

クリエイションギャラリーG8で開催中の「第21回亀倉雄策賞受賞記念 色部義昭展 目印と矢印」を見てきました。
 
故、亀倉雄策の業績を讃え、日本グラフィックデザイナー協会が、毎年、年鑑の「Graphic Design in Japan」出品作の中より、最も優れた制作者に対して贈られる「亀倉雄策賞」も、今年で21回目を迎えました。
 
そこに選ばれたのが、アートディレクターとしても活動する色部義昭で、2017年に大阪市交通局より民営化して誕生した、大阪市高速電気軌道株式会社、すなわち「Osaka Metro」のコーポレート・アイデンティティで受賞しました。
 
冒頭は色部がこれまでに手がけてきたプロジェクトで、DIC川村記念美術館や市原湖畔美術館などのサインシステムが紹介されていました。
 

中でもアメリカ抽象絵画のコレクションで知られるDIC川村記念美術館のサインシステムは、2008年の同館のリニューアルに際して制作されたもので、余白のシルエットの立ち上がる矢印や、可愛らしいピクトグラムを特徴としていました。馴染みの深い方も多いのではないでしょうか。
 

いちはらアート×ミックスの主会場の1つでもある市原湖畔美術館については、2013年に新装開館した際、色部がサインシステムを手がけていて、まるで一昔前のテレビゲームのようなピクセルで表現されたロゴが目立っていました。アナログな味わいも魅力的かもしれません。
 

また壁に凹凸の多い入り組んだ空間であることから、点線の矢印を展開し、行き先を見失わないための工夫もなされているそうです。
 

つい先だって改修工事を終えた東京都現代美術館も、新たな館内サインを色部が手がけました。白と黒によるシンプルなデザインで、長坂常の設計による白色の木材のサイン什器に用いられました。重厚な美術館の建物とのマッチングも見どころかもしれません。
 

「Osaka Metro」は会場最奥部にて展開されていました。MetroのMにOsakaのOを内包したデザインで、らせん状に立体を描く姿は、まるでトンネル内を疾走する地下鉄のようにも見えました。
 

こうしたモーションロゴは、車内や駅のサイネージでも展開していて、会場でも実際に見ることが出来ました。また地下鉄の駅を捉えた映像もスクリーンに映されていて、さも駅へ立ち入ったかのような臨場感がありました。


スタイリッシュでありながら、視認性も高く、良いデザインではないでしょうか。
 

この他、富山市美術館や天理駅前広場CoFuFun、それに須賀川市民交流センターtetteなどのデザインについても紹介されていました。これからも各地で色部のサインシステムが増えていくのかもしれません。
 
 
自由に撮影も可能です。5月21日まで開催されています。
 
「第21回亀倉雄策賞受賞記念 色部義昭展 目印と矢印」 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:2019年4月4日(木)~5月21日(火)
休館:日・祝日。4月28日(日)~5月6日(月)。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。
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「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」 LIXILギャラリー

LIXILギャラリー
「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」 
2019/3/7~5/25

1897年に生まれ、舞台装置から映画の美術監督、また衣装デザイン、文筆業などで幅広く活動した吉田謙吉は、52歳にして東京の港区に12坪の自邸を、自らの設計で建築しました。

その12坪の家を中心に、吉田謙吉の空間づくりに関した業績を辿るのが、「吉田謙吉と12坪の家」展で、模型や資料などが所狭しと展示されていました。

冒頭に登場するのが、12坪の家で、1949年の建設当初の家を、20分の1のスケールで再現した模型でした。

吉田が家族と3人で住むために建てられたもので、赤い外壁の外観が目を引きました。書斎や台所がある中、特徴的なのがステージと観客席用のホールを内在していることで、おおよそ通常の住宅の間取りとは異なっていました。

また家の正面には、建物より広い20坪の洋風の庭が広がっていました。ここでは吉田の好みの植物が植えられていたほか、コンクリートの池では一時、金魚などが飼われていたものの、のちに吉田と舞台仲間が道具を制作するなど、多目的なスペースとして用いられるようになったそうです。

吉田は自邸を閉ざされた空間ではなく、家族以外にも繋がるコミュニティーの場として考えていて、こうした道具の制作だけでなく、屋内外で蚤の市や落語会を開くこともありました。

自邸は家族が増えたため、2部屋増築するも、火事で焼失し、建て直しされることもありました。そして12坪の家は、吉田の死後、1987年に解体されました。

その吉田が、東京美術学校図版科在学中に出会い、生涯の恩師の一人として慕っていたのが、民俗学者で考現学を提唱したことでも知られる今和次郎でした。

吉田は、関東大震災後、バラックの建て始めた東京の街を今和次郎らと歩き、街の風俗などを詳細に記録しました。そしてバラックを美しくする仕事を請け負うべく、若手芸術家らと「バラック装飾社」なる組織を結成し、仲間とともにペンキで殺風景なバラックに装飾を施しました。その第1号は、日比谷公園内の食堂、「開進食堂」だったそうです。

また街の復興が進んだのちも、吉田と今和次郎は風俗を記録し続け、それを「採集」と呼びました。そして1927年、新宿の紀伊国屋書店で「第1回しらべもの考現学展覧会」を開き、今が考現学と名付け、広く世に知られるようになりました。

その採集の記録がすこぶる面白く、マフラーをする人やマスクをする人、腕組みをする人などを分類した「サラリーマンの容態」や、銀座のコロンバンの前で見かけた人の履物の種類を数えた「履モノ調べ」などの資料も展示されていました。

吉田が舞台芸術家として歩み始めたのが、1924年にバラック建築として建てられた築地小劇場での活動でした。吉田は創立当初から美術部・宣伝部員として参加し、第1回公演の「海戦」の装置を担当しては、本格的な「表現派」(解説より)として高く評価されました。

このほか、バーや喫茶店、レストランなどの内装設計の仕事に関する資料も、興味深いのではないでしょうか。吉田は空間づくりにおいてエンターテイナー性を求め、人を魅了するような「たのしい空間」(解説より)を築き上げることを志向したそうです。その精神こそ冒頭の12坪の家に反映していたのかもしれません。

12坪の家と吉田の多彩な活動を通して、生活を楽しくするヒントが垣間見えるような展覧会でした。

撮影も可能です。5月25日まで開催されています。

「吉田謙吉と12坪の家-劇的空間の秘密-」 LIXILギャラリー
会期:2019年3月7日(木)~5月25日(土)
休廊:水曜日。
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:中央区京橋3-6-18 LIXIL:GINZA1、2階
交通:東京メトロ銀座線京橋駅より徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7番出口より徒歩3分、都営浅草線宝町駅より徒歩3分、JR線有楽町駅より徒歩7分

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「ポーラ ミュージアム アネックス展2019 創生と技巧」 ポーラミュージアムアネックス

ポーラミュージアムアネックス
「ポーラ ミュージアム アネックス展2019 創生と技巧」
2019/3/20〜4/14

ポーラミュージアムアネックスで開催中の「ポーラ ミュージアム アネックス展2019 創生と技巧」を見てきました。

2019年の「ポーラミュージアムアネックス展」の後半に当たる第15回では、テーマを「創生と技巧」と変え、川久保ジョイ、池ヶ谷陸、木村恒介、柳井信乃の4名のアーティストが作品を発表しました。

何やらフェンスで囲われた壁が斜めに立っていました。それが池ヶ谷陸の「Metoropolitan Paradox」で、実際のフェンスを使った作品でした。中にはLEDがあり、平仮名で文字が連なっていました。ただしフェンスの中へ立ち入ることは出来ませんでした。

池ヶ谷は、2016年にポーラ美術振興財団によってドイツで研修し、今もベルリンに在住しているそうです。かつての東西冷戦下において分断された西ベルリンでは、「壁に囲まれて自由な社会を築いていた」(解説より)としています。確かにフェンスは「境界線を引き、他者の侵入を拒むもの」(解説より)でした。昨今のアメリカとメキシコの「壁」の問題しかり、今にも続く国家やコミュニティーの分断の問題について、改めて目を向けているのかもしれません。

川久保ジョイの2枚の海を写した写真に魅せられました。ともにギリシャで撮影したもので、1枚はエーゲ海西、そしてもう1枚はクレタ海西と場所が記載されていました。

これらは本来、「海を挟んだ対岸同士の写真2枚」(解説より)で完成するものの、ここではあえて対の一方のみを展示しているそうです。ギリシャ側から見て、エーゲ海とクレア海を挟んだ対岸には、おおむねトルコが位置しますが、その光景を想像するのも面白いかもしれません。

木村恒介の一連の紙の作品に魅せられました。遠目では木目の荒い油彩のようで、野山や桜、はたまたおそらく研修先のドイツと思しき都市の風景が描かれていました。

近づくと表情が一変しました。単に一枚の紙と思いきや、実は長く細い紙が縦横に編まれていて、風景なりが細かに描きこまれていました。しかし升目同士の関係は明らかではなく、ひょっとすると厳密に隣り合うことなく、全体のイメージを構築しているのかもしれません。その揺らぎを伴った独特の景色に見入りました。

このほか、柳井信乃が、映像インスタレーション、「Happy and Gloripous」を出展し、会場内に高らかと「God Save the Queen」を響かせていました。

 4月14日まで開催されています。

「ポーラ ミュージアム アネックス展2019 創生と技巧」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:2019年3月20日(水)〜4月14日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。

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「バック・トゥ・ザ 江戸絵画~若冲・蕭白・蘆雪・白隠~」 加島美術

加島美術
「バック・トゥ・ザ 江戸絵画~若冲・蕭白・蘆雪・白隠~」
2019/3/21~3/31
 
 
加島美術で開催中の「バック・トゥ・ザ 江戸絵画~若冲・蕭白・蘆雪・白隠」を見てきました。
 
今から300年前の江戸時代中期、いわゆる奇想ならぬ、「際立った個性」(公式サイトより)を放つ絵師たちがいました。
 
そうした絵師を紹介するのが「バック・トゥ・ザ 江戸絵画」で、タイトルにもあるように、若冲をはじめ、蕭白、蘆雪、白隠のほか、岩佐又兵衛に林十江らの約35点の作品が、展示、ないし販売されていました。
 
会場内の撮影の許可を頂戴しました。
 
伊藤若冲「柳に叭々鳥図」
 
まず目立っていたのは、特に人気の若冲で、「柳に叭々鳥図」では、風に吹かれた柳に向かい、叭々鳥が首をくねらせては舞い降りていました。柳の幹や葉は、軽妙でかつ素早い筆致で表していて、濃い墨によって象られた鳥とは対比的な姿を見せていました。ともかく鳥を多く描いた若冲でしたが、叭々鳥に関しては類例が多くなく、金閣寺の襖絵のほか、数点が確認されているに過ぎないそうです。
 
伊藤若冲「雙鶏図」
 
「雙鶏図」は、番いの鶏を双幅に描いた作品で、丸みを帯びて柔らかい雌と、堂々と起立する雄を左右に表していました。まるで書のような勢いのある尾羽などは、いかにも若冲ならではの描写でしたが、墨を細かに散らしたような羽根の表現も興味深いものがありました。
 
伊藤若冲「引千切」
 
その若冲に、風変わりな「引千切」と題した作品がありました。右手へ余白を広く用い、左に丸いものが置かれていて、そもそも「引千切」を知らなければ、何を表しているか分からないかもしれません。
 
結論からすれば、餡と餅で出来、京都のひな祭りや、お祝いごとに用いられるお菓子の引千切を、お盆にのせた様子を表した作品でした。若冲の最晩年の85歳に制作したと伝えられていて、かつては栗とも言われていましたが、緩やかな線は、確かに餅の弾力感を伝えているかのようでした。
 
右奥:長澤蘆雪「躑躅群雀図」
 
蘆雪の「躑躅群雀図」が魅惑的でした。赤々とした花を咲かせた躑躅の周りに雀が群れていて、水浴びをしたり、羽を繕ったりしては、忙しなく活動する雀の容態を巧みに描いていました。またどこか笑っているような、いわば擬人化した表現も面白いかもしれません。
 
円山応挙「雪柳狗子図」
 
この蘆雪の雀に負けないほどに可愛らしいのが、円山応挙の「雪柳狗子図」でした。雪をかぶった柳の木の下で、三頭の仔犬がじゃれあっていて、一頭は雪に戯れるようにひっくり返り、またもう一頭は別の仔犬の背中に乗っては遊んでいました。時に応挙46歳の作品として伝えられています。
 
白隠慧鶴「鍾馗図」
 
白隠の「鍾馗図」も迫力満点でした。鋭い眼光で睨みを利かせた鍾馗を、太く、即興的な筆致で描いていて、足元には剣を覗かせていました。なおこの鍾馗には、隠し文字があると言われていますが、一体、何が記されているのでしょうか。
 
最後に私にとって衝撃的なまでに強い印象を与える作品と出会いました。それが水戸出身で、立原翠軒に才能を見出された、林十江の「虎独風直図」でした。
 
林十江「虎独風直図」
 
一頭の虎が、強い風に向きつつ、咆哮する姿を描いていて、荒々しい筆遣いは、もはや何かに取り憑かれたかのように乱れ動いていました。また咆哮する虎の表情も鬼気迫っていて、あたかも風の向こうに対峙する別の動物を威嚇しているかのようでした。これほど凄みのある動物画もあまりほかで見ることはありません。
 
独学で絵を学んだ林十江は、水戸南画の草創期の絵師として重要な地位を占めたものの、作品が水戸の地を離れなかったこともあり、必ずしも一般に知られませんでした。また37歳にして世を去ったため、残された作品も多いとは言えません。
 
遡ること約30年前、1988年に林十絵の回顧展が板橋区立美術館で開催されたそうですが、再びまとめて作品を見る機会があればと思いました。
 
 
さて「バック・トゥ・ザ 江戸絵画」とは、メインビジュアルからしても明らかなように、アメリカのSF映画、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をもじって付けられています。
 
 
そして、昨年末、来日中だった、博士役のドクを演じたクリストファー・ロイド氏が来店し、偶然にも、その日に完成したというビジュアルデザインにサインをしたそうです。サイン入りポスターも画廊入口に掲示されていました。
 
 
WEBサイト、及び店頭にて必要事項を記入して申し込むと、展覧会の特製カタログが無料で頂けます。(限定数)ドク博士らしきシルエットが、作品のワンポイント解説を加える趣向で、現在、府中市美術館で開催中の「へそまがり日本美術」の監修を担った、金子信久氏のテキストも付いています。詳しくはギャラリーへお問い合わせ下さい。
 
僅か11日限定の展覧会です。会期中のお休みはありません。
 
3月31日まで開催されています。
 
「バック・トゥ・ザ 江戸絵画~若冲・蕭白・蘆雪・白隠~」 加島美術@Kashima_Arts
会期:2019年3月21日(木)~3月31日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料。
交通:東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分。地下鉄有楽町線銀座一丁目駅出口7より徒歩2分。JR線東京駅八重洲南口より徒歩6分。
 
注)会場内の写真は主催者の許可を得て撮影しました。
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「ピエール セルネ & 春画」 シャネル・ネクサス・ホール

シャネル・ネクサス・ホール
「ピエール セルネ & 春画」
2019/3/13~4/7



シャネル・ネクサス・ホールで開催中の「ピエール セルネ & 春画」を見て来ました。

フランスの現代アーティスト、ピエール・セルネは「Synonyms(同義語)」と題したシリーズにて、個人、あるいはカップルのヌードを写真に捉えました。

そのセルネの写真が、日本の江戸時代の春画と邂逅しました。いずれも浦上蒼穹堂・浦上満コレクションのコレクションで、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎らの名だたる絵師による粒ぞろいの作品ばかりでした。

さて単にヌードとはいえども、セルネの写真は、一見すると人の身体を写していると思えないかもしれません。とするのも、セルネは写真において、肉体をストレートに表すのではなく、モノクロのシルエットのみで切り取っていて、その曲線を描いた形態は、まるで抽象画のようでもあるからです。

またヌードは、何も男女だけに限定されているわけでもありません。その姿は限りなく匿名的であり、あくまでもタイトルに記された被写体の名前でしか、個人や性別を推測するほかありませんでした。

一方の春画は、人の性愛を露骨にでかつ、誇張して描いていたもので、江戸時代には数千点を超える作品が制作されました。ここで興味深いのは、思いの外に絵師によって表現が異なっていることで、例えば春信では、得意の見立絵のように、古典文学を題材に、男女の物語を重ねていました。また北斎は、画面全体に男女の姿を現していて、周囲に擬音などの声を表す書入を加えていました。

烏文斎栄之の「源氏物語春画巻」が絶品でした。烏帽子を被った公家の男が、町人や遊女などの女と交わる光景を表した作品で、各図に源氏物語の巻名と、各帖の主題を象徴する絵が描かれていることから、公家に光源氏が投影されたと言われています。

着衣の細かな紋様なども精緻に描かれていて、上質の顔料で制作されたのか、発色が驚くほどに鮮やかでした。これほど光り輝いて見える春画も滅多にないかもしれません。

セルネは人類共通のテーマとして「性」があるとしています。また春画も当時は、「笑い絵」とも呼ばれ、男女の区別なく、多様な階層の人々に愛でられました。

先だっての永青文庫の展覧会をあげるまでもなく、改めて価値が見出されつつ春画ですが、フランスの現代アートと交差することで、さらに魅力を高めていたと言えるかもしれません。その官能的な世界に酔いしれました。


グラフィックデザイナーのおおうちおさむの手がけた、会場デザインも見どころの1つでした。通路状に空間を区切り、丸窓を多用した展示室を築いていて、窓から作品を見やると、さも目にしてはいけないものを覗いているような錯覚に陥りました。

なお、おおうちおさむは2013年の頃より、シャネル・ネクサス・ホールのアートディレクションに携わり、これまでにも「サラ・ムーン展」や「フランク・ホーヴァット展」などの照明デザインを担ってきました。



入口の丸窓の外のみ撮影が可能です。中は写真が撮れません。また3月28日は展示替えのため休館です。お出かけの際はご注意下さい。

4月7日まで開催されています。

「ピエール セルネ & 春画」 シャネル・ネクサス・ホール
会期:2019年3月13日(水)~4月7日(日)
 前期:3月13日(水)〜3月27日(水) 、後期:3月29日(金)〜4月7日(日)
休廊:3月28日(木)。
料金:無料。
時間:12:00~19:30。
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。

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「奥山由之 白い光」 キヤノンギャラリーS

キヤノンギャラリーS
「奥山由之 白い光」 
2019/3/7~4/15



キヤノンギャラリーSで開催中の「奥山由之 白い光」を見てきました。
 
1991年に東京で生まれ、2011年に「Girl」で第34回写真新世紀優秀賞を受賞した奥山由之は、写真のみならず、映像作家としても幅広く活動してきました。

その個展は、ギャラリーのWEBによれば、「かつてない新たな試み」により、「写真を見るという行為について再認識する」(ともに解説より)としています。それでは、一体、如何なる試みがなされていたのでしょうか。

結論からすると、そもそも観覧の方法からして、一般的な写真展とは異なりました。とするのも、通常はギャラリーに入り、受付でリーフレットを受け取っては、それを目にしながら展示室で作品を鑑賞しますが、今回はまずリーフレットが先に配布されません。

さらに係の方から「定員制です。少々お待ち下さい。」との案内がありました。そしてしばらく待ち、別の観客の方が展示室より退出すると、小さな懐中電灯を渡され、入場することが出来ました。

中は照明の落とされた暗室で、懐中電灯の明かりがなければ、目の前も覚束ないほどに真っ暗でした。そして闇に包まれた展示室の壁に、奥山の写真が掲げられていて、観客は手元の懐中電灯の光を当てることで、一点一点、見られるという流れになっていました。言い換えれば、それこそ懐中電灯の「白い光」の導きによって、初めて作品が現れるわけでした。

海に接した漁港と思しき光景からはじまる写真は、船に乗り、漁に勤しむ漁師を写していて、船室の光景や、船上で煙草をふかす男性の姿も見られました。写真は時に漁師にすぐそばへ肉薄していて、極めて距離感が近く、しばらく見ていると、さも観客も写真家に従って船に乗り込み、漁を目の当たりにしているかのようでした。闇の中、ライトに浮かび上がる、ざらりとした肌理の写真は、どこか映画のスクリーンのようで、何とも言い難い臨場感も感じられました。あたかも写真の中へ入り込むかのような錯覚に陥るかもしれません。

会場では明確に記載がなかったものの、一連の写真は、どうやら奥山が気仙沼の漁師を写した、「気仙沼漁師カレンダー」に関した作品のようでした。この「気仙沼漁師カレンダー」とは、2011年の東日本大震災の前に、同地の女性による「気仙沼つばき会」によって発案されたもので、2013年の1作目は藤井保が担当し、以降、浅田政志、川島小鳥、竹沢うるまの各写真家が手がけてきました。

そして奥山は撮影に際し、80本以上のフィルムを用いたそうです。真剣な眼差しで魚を両手に持っていたり、屈託無い笑顔を浮かべる漁師は、いずれも力強く、生命感に満ち溢れてました。

気仙沼漁師カレンダー2019
http://ryoushi-calendar.com

繰り返しになりますが、観覧は少人数による定員制です。よって混雑時はしばらく待つ必要があります。お出かけの際はご注意下さい。


日曜、祝日はお休みです。4月15日まで開催されています。

「奥山由之 白い光」 キヤノンギャラリーS
会期:2019年3月7日(木)~2019年4月15日(月)
休廊:日・祝日。
時間:10:00~17:30
料金:無料
住所:港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階
交通:JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行線品川駅より徒歩約10分
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「光るグラフィック展2」 クリエイションギャラリーG8

クリエイションギャラリーG8
「光るグラフィック展2」 
2019/2/22~3/28



今から5年前、2014年に開かれた「光るグラフィック展」では、15組のクリエイターの作品を、同じサイズの光るモニターで展示し、それぞれのデジタルでの表現が紹介されました。

その第2弾に当たる「光るグラフィック展2」が、銀座のクリエイションギャラリーG8にて開催されています。

さて今回の展覧会では、15組のクリエイターが、ポスター、絵画、写真などを展示していましたが、前回と大きく異なるのが、一方でのデジタルのアプローチでした。(出品作家は前回と異なります。)


「光るグラフィック展2」展示風景

とするのも、ギャラリー全体にバーチャル空間を立ち上げ、実空間と同じ作品を3Dで表していたからでした。


「光るグラフィック展2」バーチャル映像

この3D空間を手がけたのが、メディアアーティストの谷口暁彦でした。そして来場者は、会場の奥に設置されたコントローラーを操作しつつ、壁に映されたバーチャル空間の作品を見ていく仕掛けになっていました。つまり同じ展示が、実空間と3D空間の両方で展開していました。


左:カワイハルナ「浮く三角形」 2019年
右:葛西薫「Crybaby Clown」 2013年


リアルとバーチャルの境界は曖昧ながらも、大きく見え方の異なる作品もあり、もはやそれぞれがオリジナルであるようにも思えなくはありません。中でもリアルでは読み解けない鈴木哲生「文字のスト」は、双方を見ることで、はじめてイメージの開ける作品と言えるかもしれません。

現実と仮想の境界がなくなってゆく中で、「オリジナル」の所在はどこにあるのか、現実空間と仮想空間のそれぞれに置かれたとき、グラフィックはどのように存在するか、体験していただく展覧会にしたいと考えております。 *ギャラリーサイトより


左:亀倉雄策「大阪万博ポスター」 1967年
右:永田康祐「inbetween」 2016年


実空間と3D空間で、同じ作品を見比べること自体が、興味深い体験ではないでしょうか。リアルの作品を見つつ、奥で3Dコントローラーを動かしては、ギャラリー内をバーチャルに行き来しては見入りました。


原田郁「GARDEN WHITE CUBE(G8)#001」 2019年

「光るグラフィック展2」出展作家:藍嘉比沙耶、exonemo、大島智子、葛西薫、亀倉雄策、カワイハルナ、北川一成、groovisions、小山泰介、佐藤晃一、Joe Hamilton、鈴木哲生、谷口暁彦、永井一正、永田康祐、Nejc Prah、長谷川踏太、原田郁、UCNV

それにしても次に5年後、「光るグラフィック展3」が行われるとしたら、どのようにアプローチされるのでしょうか。光るモニターから3Dへと変化したように、また大きく異なった展開が見られるのかもしれません。


コントローラーは1つです。混雑時は多少、待つ場合がありそうです。

3月28日まで開催されています。

「光るグラフィック展2」 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:2019年2月22日(金)~3月28日(木)
休館:日・祝日。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。
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