「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 キヤノンギャラリーS

キヤノンギャラリーS
「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 
2018/11/28~2019/1/16



キヤノンギャラリーSで開催中の「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」を見てきました。

暗室の中で煌めくのは、美しき自然の風景が捉えられた、色に光に満ちた写真でした。チラシ表紙を飾る一枚も、青い空の下、大きな樹木が、葉を風に揺らしていて、手前には緑の草が生い茂り、その向こうには、太陽の光を受けて、白く輝いた小径が続いていました。さらに草を前に、大空を写した写真も魅惑的で、白い雲が綿あめのように浮かんでいました。どの作品も人の姿は殆ど見られず、あくまでも自然が写されていて、しばらく眺めていると、何とも言い難い多幸感が滲み出してくるかのようでした。

写真家の鈴木は、本展への出品に際し、近代の画家がモチーフにした土地を選んで撮影しました。それは例えばモネの睡蓮の池であったり、同じくモネやクールベの描いたノルマンディーのエトルタの海岸であったり、鈴木がかねてより撮り続けて来た南仏のサント・ヴィクトワール山であったりしました。ただし撮影地は必ずしも明示されていないため、いくつかの特徴的な景観を除けば、どの場所であるのかを具体的に知ることは出来ませんでした。そこはむしろ見る側の自由な発想に委ねられているのかもしれません。

おそらくは朝陽の登る光景を水平線越しに写した、一枚の海景に魅せられました。空も海もピンク色の光に染まっていて、極めて穏やかな波が岸へ打ち寄せていました。実際の場所こそ明らかではないものの、モネの「印象、日の出」のイメージと一部が重なるかもしれません。

「知覚の感光板」とは、セザンヌの言葉で、画家は「先入観を忘れ、ただモチーフを見よ、そうすれば、知覚の感光板に全ての風景が刻印されるだろう。」(チラシより)と語ったそうです。



必ずしも広いスペースではありませんが、作品数は20点超と思いの外に多く、見応えがありました。

日曜、祝日はお休みです。2019年1月16日まで開催されています。

「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 キヤノンギャラリーS
会期:2018年11月28日(水)~2019年1月16日(水)
休廊:日・祝日。年末年始(12月29日~1月6日)。
時間:10:00~17:30
料金:無料
住所:港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階
交通:JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行線品川駅より徒歩約10分
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「2019年 見逃せない美術展」 日経おとなのOFF

年の瀬も近づき、今年の展覧会の振り返りとともに、来年を見据えた記事も目立つようになってきました。

「日経おとなのOFF/2019年見逃せない美術展/日経BP社」

そのうち、毎年恒例と化しているのが、雑誌「日経おとなのOFF」の「絶対見逃せない美術展」特集で、2019年の展覧会の開催情報を多く掲載していました。



まず冒頭を飾るのが、カラヴァッジョの「ホロフェルネスの首を斬るユディト」と、クリムトの「ユディトI」、それに同じくクリムトの「パラス・アテナ」などで、いずれも2019年に開催される「カラヴァッジョ展」、「クリムト展 ウィーンと日本1900」、それに「ウィーン・モダン クリムト、シーレ世紀末への道」で出展される作品でした。実際のところ、クリムトに関しては、大型の展覧会が2件も続くだけに、2019年で最も注目される西洋美術展になるのではないでしょうか。


つい先だっても、「クリムト展 ウィーンと日本1900」に、クリムトの最大規模の作品となる「女の三世代」(ローマ国立近代美術館)の追加出品も決まりました。

また全国3会場を巡回する「カラヴァッジョ展」は、約10点の作品が来日するものの、会場で一部の出展作が異なるため、どこで見るのか悩ましく思う方も多いかもしれません。

「カラヴァッジョ展」 北海道立近代美術館(8月10日~10月14日)
 *名古屋市美術館(10月26日~12月15日)ほか、あべのハルカス美術館へ巡回。
「クリムト展 ウィーンと日本1900」 東京都美術館(4月23日~7月10日)
 *豊田市美術館(7月23日~10月14日)へ巡回。
「ウィーン・モダン クリムト、シーレ世紀末への道」 国立新美術館(4月24日~8月25日)
 *国立国際美術館(8月27日~12月8日)へ巡回。



そして続くのが、雑誌表紙も飾ったマネの「フォリー=ベルジェールのバー」の出展される「コートールド美術館展」、「ギュスターヴ・モロー展」、「ラファエル前派の軌跡展」、「ゴッホ展」などで、今年の「フェルメール展」、「ムンク展」と同様、2019年も西洋絵画に関した展覧会に人気が集まりそうです。

「コートールド美術館展」 東京都美術館(9月10日〜12月15日)
 *愛知県美術館(2020年1月3日〜3月15日)ほか、神戸市立博物館へ巡回。
「ギュスターブ・モロー展 サロメと宿命の女たち」 パナソニック汐留ミュージアム(4月16日〜6月23日)
 *あべのハルカス美術館(7月13日〜9月23日)ほか、福岡市美術館へ巡回。
「ラファエル前派の軌跡展」 三菱一号館美術館(3月14日〜6月9日)
 *あべのハルカス美術館(10月5日〜12月15日)へ巡回。
「ゴッホ展」 上野の森美術館(10月11日〜2020年1月13日)
 *兵庫県立美術館(2020年1月25日〜3月29日)へ巡回。

一方の日本美術で大きく取り上げられていたのは、若冲、蘆雪、蕭白、国芳らに加え、白隠や其一の作品が一堂に会する「奇想の系譜展 江戸絵画 ミラクルワールド」でした。奇想と言えば、一昨年、東京都美術館で開催された「若冲展」が、連日、凄まじい行列となり、社会現象となるほどに話題を呼びました。ひょっとすると「奇想の系譜展」でも、美術ファンの垣根を超えたムーブメントがおきるのかもしれません。


「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」 東京都美術館(2月9日〜4月7日)

「絶対見逃せない 2019年 美術展」は読み物としても充実していました。冒頭のカラヴァッジョやクリムトも、「2019年に見るべきスキャンダラスな美女たち」と題した、作家の中野京子さんのガイドで、ほかにも美術史家の山下裕二先生と、画家の山口晃さんの「奇想の系譜展 Special対談」も読み応えがありました。



そもそも単に特集は、「噂のポートレイト」や「数寄者達の事件簿」、それに「名僧の至宝」など、テーマをもって構成されていて、単なる展覧会の紹介ではありませんでした。さらに各記事も、例えば「カラヴァッジョの濃すぎる人生」ではバロック美術が専門の宮下規久朗先生、また「スター絵師たちのヒットの法則」では北斎館の安村敏信館長がアドバイザーとしてコメントを寄せるなど、専門家の見地も加わっていました。



「2019年に見られる名画でつづる 西洋美術史入門」も有用で、来年に見られる西洋絵画を参照しながら、大まかな西洋美術史を俯瞰していました。また雑誌の本編以外にも、美術館の広告が多いのが特徴で、各館の展示情報を得ることも出来ました。心なしか、年々、美術館の広告が増しているかもしれません。

日本美術でほかに着目しているのが、「佐竹本三十六歌仙と王朝の美」で、いわゆる絵巻切断事件で37幅に切り分けられた佐竹本三十六歌仙絵のうち、少なくとも21幅(以上)が京都国立博物館で公開されます。一部の佐竹本は、単発的に見る機会も少なくありませんが、これほどまとまって紹介されるのは稀で、実際にも過去最大のスケールの展示となります。

「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」 京都国立博物館(4月13日〜6月9日)
「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」 京都国立博物館(10月12日〜11月24日)


さらに同じく京都国立博物館では、「一遍聖絵」の12巻、130メートル超が公開される「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」も開催されます。ともに同館の単独の展覧会で、巡回はありません。



特別付録の「美術展100ハンドブック」も情報が満載でした。年間を通した100の美術展をカレンダー形式で掲載されている上、各展覧会の情報を、開催館、会期、見どころなどに分けて紹介していました。その中より、私が特に注目したい展覧会をいくつかピックアップしてみました。(上に掲載した展覧会を除く)

「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」 愛媛県美術館(2018年12月19日~3月24日)
 *Bunkamura ザ・ミュージアム(4月27日~6月30日)ほか、静岡市美術館、広島県立美術館へ巡回。
「シャルル=フランソワ・ドービニー展」 ひろしま美術館(1月3日~3月24日)
 *東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(4月20日~6月30日)へ巡回。
「世紀末ウィーンのグラフィック」 京都国立近代美術館(1月12日~2月24日)
 *目黒区美術館(4月13日~6月9日)へ巡回。
「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」 国立新美術館(1月18日~4月1日)
「クリスチャン・ボルタンスキー」 国立国際美術館(2月9日~5月6日)
 *国立新美術館(6月12日~9月2日)ほか、長崎県美術館へ巡回。
「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ」 国立西洋美術館(2月19日~5月19日)
「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」 国立新美術館(3月20日~5月20日)
 *京都国立近代美術館(6月14日~7月28日)へ巡回。
「国宝 東寺 空海と密教曼荼羅」 東京国立博物館(3月26日~6月2日)
「百年の編み手たち 流動する日本の近現代美術」「MOTコレクション ただいま/はじめまして」 東京都現代美術館(3月29日~6月16日)
「アイチアートクロニクル 1919-2019」(仮) 愛知県美術館(4月2日~6月23日)
「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」 千葉市美術館(4月13日~5月26日)
 *静岡市美術館(6月8日~7月28日)へ巡回。
「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館(6月15日〜10月27日)
「メスキータ展」 東京ステーションギャラリー(6月29日〜8月18日)
「原三渓の美術 伝説の大コレクション」 横浜美術館(7月13日〜9月1日)
「円山応挙から近代京都画壇へ」 東京藝術大学大学美術館(8月3日〜9月29日)
 *京都国立近代美術館(11月2日〜12月15日)へ巡回。
「没後90年記念 岸田劉生展」 東京ステーションギャラリー(8月31日〜10月20日)
 *山口県立美術館(11月2日〜12月22日)へ巡回。
「美濃の作陶」 サントリー美術館(9月4日〜11月10日)
「バスキア展」 森アーツセンターギャラリー(9月21日〜11月17日)
「大浮世絵展〜五人の絵師の競演」 江戸東京博物館(11月19日〜2020年1月19日)

2019年は改修工事などを終え、再開館する美術館が幾つかあります。うち東京では、都現代美術館が3年の休館を挟み、2019年3月にリニューアルオープンします。それを記念したのが、「百年の編み手たち 流動する日本の近現代美術」と「MOTコレクション ただいま/はじめまして」で、全館規模でコレクションが公開されます。また愛知でも4月に県美術館がリニューアルを終え、「アイチアートクロニクル 1919-2019」で再開し、愛知県の地域コレクションが紹介されます。ともに美術館の核である、コレクションに目を向ける良い機会となりそうです。


現代美術では「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」(国立新美術館)に、「クリスチャン・ボルタンスキー」(国立国際美術館・国立新美術館・長崎県美術館)、「塩田千春展:魂がふるえる」(森美術館)のほか、「バスキア展」(森アーツセンターギャラリー)などに関心が集まるのではないでしょうか。また誌面には記載がありませんが、2019年は、「瀬戸内国際芸術祭」、「あいちトリエンナーレ2019」、「岡山芸術交流2019」などの芸術祭も予定されています。



基本的に掲載情報は、関東、関西の美術館や博物館の大型展が中心です。それ以外の地域や小さな美術館の展覧会は、あまり網羅していません。とは言え、「美術展100ハンドブック」、「2019年美術展・名画カレンダー」、「クリムト・クリアファイル」の付録もついていて、税込820円とはなかなかお得ではないでしょうか。来年の展覧会のスケジュールを大まかに把握するのに、最適な一冊と言えそうです。


「日経おとなのOFF」の美術展特集は、毎年、人気があり、去年も一時、書店で品切れとなったこともありました。まずはお早めに手にとってご覧下さい。

「日経おとなのOFF 2019年1月号 絶対見逃せない 2019年 美術展」
出版社:日経BP社
発売日:2018/12/6
価格:820円(税込)
内容:「絶対見逃せない2019年美術展」。フェルメール、クリムト、マネ、ベラスケス、カラヴァッジョ、ゴーギャン、ゴッホ、若冲、蕭白、北斎---。中野京子と読み解く恐い! ?名画美女。60年ぶりの帰還行方不明だった モネ「睡蓮」。他
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「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」
12/7~12/16



スパイラルガーデンで開催中の「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」を見てきました。

1918年に創業した精密機械メーカー「CITIZEN」は、数々の時計を世に送り出し、今年で100周年を迎えました。

それを記念したのが、「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」で、建築家の田根剛が会場構成、ないしインスタレーションを手がけていました。



スパイラルが再び黄金の時計で華やかに彩られました。それが螺旋状の吹き抜けで展開する「LIGHT is TIME」で、約7万2千個にも及ぶ地板が空中に広がっていました。いずれも照明の効果により、色が変化していて、カーテン状に連なり、隙間から中へ立ち入ることも出来ました。



再びとしたのには理由があります。2014年に同じスパイラルで開催された「CITIZEN LIGHT is TIME ミラノサローネ2014凱旋展」でのことです。同展でも田根は、時計の地板を用いたインスタレーションを出品し、大変に話題を集めました。その人気から、当初の会期が延長されたほどでした。



今回も基本的なコンセプトは同様かもしれませんが、4年前とは構成が異なっていて、前回より空間の横への繋がりを志向しているようでした。かつての展示の記憶を振り返りながら、黄金色に煌めくインスタレーションを楽しむのも良いかもしれません。



さて展示は「LIGHT is TIME」だけに留まりません。ほかにも、時計作りに関した映像や道具を並べ、シチズンの物づくりのプロセスを紹介するコーナーもありました。



寺島修司の「時をめぐる幻想」も目を引くのではないでしょうか。これは寺島がシチズン広報誌に寄稿したテキストの中より、1967年から1979年までの15編を抜粋し、気鋭の画家の描き下ろし絵を加えたもので、今年、シチズンの100周年を記念して出版されました。



さらに「Thinking Time」では、歴代の時計のモデルを展示し、時間を計測すべく、常に新たな技術に挑戦し続けてきたシチズンの歴史を辿ることも出来ました。



会期2日目の土曜に見てきましたが、会場内は盛況でした。ともかく「LIGHT is TIME」の展示が美しく、スマホを片手に撮影している方が多く見受けられました。SNSでも大いに拡散するかもしれません。



会期は10日間です。12月16日まで開催されています。

「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:12月7日(金)~12月16日(日)
休館:無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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「近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」 求龍堂

求龍堂より刊行された「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」を読んでみました。

「生誕130年 佐藤玄々/求龍堂」

明治21年に福島県の相馬で生まれた佐藤玄々(朝山)は、宮彫師の父や伯父に木彫を学んでは上京し、山崎朝雲に入門すると、野菜や小動物などの小像から、大型の歴史人物像など、多様な木彫を制作しました。



その玄々の制作の全貌を紹介するのが、「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」(求龍堂)で、時間を追って足跡を辿りつつ、日本彫刻と西洋彫刻を半ば融合した、玄々の独自に辿り着いた木彫の魅力について明らかにしていました。



玄々といえば、日本橋三越本店の1階のホールにそびえ立つ「天女(まごころ)」が圧倒的に知られていますが、何も当初から巨大な木彫を手がけていたわけではありませんでした。日本美術院の同人に参加し、奈良で仏像を研究したのち、1年半パリに留学した玄々は、ブルーデルの美術研究所に通い、ジャコメッティと交流するなど、幅広い分野の彫刻を吸収しては、制作に活かしていました。



また帰国後に取り込んだ動物の作品も可愛らしく、玄々は馬込の自宅周辺にあった牧場で、鶏やウサギ、それに牛などの動物をよく観察していたこともあったそうです。一連の動物彫刻はフランソワ・ポンポンとの類似性も指摘されていて、筍や白菜などの野菜彫刻は、中国の宋元画の蔬菜図に関連性を見る向きもあるそうです。玄々は「東西のイメージを自在に翻案」(解説より)した彫刻家でもありました。



鳩や鳥、それに蜥蜴なども魅惑的ではないでしょうか。極めて写実的に表された蜥蜴の一方、鳩などはかなり形を大胆に捉えていて、振り幅の広い作風も、玄々の面白いところかもしれません。



はじめに朝山と称していた佐藤が、玄々と号を改めたのは、戦後、昭和23年になってからのことでした。昭和26年に三越の社長より、日本橋本店に設置するための記念像を依頼された玄々は、例の「天女(まごころ)」を構想し、弟子たちとともに制作をはじめました。何せ10メートルにも及ぶ超大作だけに、2年の予定で完成するはずが、結果的に10年の歳月が費やされたそうです。本書においても、「天女(まごころ)」の制作プロセス、そして賛否入り混じった評価などについて、細かに触れていました。



なおまた戦前、戦中に関しては、震災や戦争でアトリエを焼失するなどして、多くの作品が失われました。それも、玄々の評価が定まらない一因と言えるのかもしれません。



「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」(求龍堂)には、図版はもとより、複数の論考や資料写真、さらに年譜、文献目録など、玄々の全てが記されていると言っても良いかもしれません。また玄々は過去の展覧会のカタログが完売しているため、現時点で手に入れやすい資料は、この本しかありません。また酒豪であった玄々の酒にまつわるエピソードも記載されるなど、作家の知られざる生き様も伺うことが出来ました。

最後に玄々の展覧会の情報です。現在、生地である福島県の県立美術館にて、「生誕130年 佐藤玄々<朝山>展」が開催されています。



「生誕130年 佐藤玄々<朝山>展」 (福島県立美術館)
会期:2018年10月27日(土)~12月16日(日)
https://art-museum.fcs.ed.jp

同県では初の大規模な展覧会で、木彫、ブロンズ、石膏原型、墨画など、約100点の作品が公開されています。そして本書も、玄々展の公式図録兼書籍として発売されました。

また展覧会は福島会場終了後、来年1月から3月にかけ、愛知県と東京都に巡回し、計3つの会場で行われます。

「生誕130年 佐藤玄々<朝山>展」 巡回スケジュール
碧南市藤井達吉現代美術館:2019年1月12日(土)~2019年2月24日(日)
日本橋三越本店: 2019年3月6日(水)~2019年3月12日(火)



東京会場は「天女(まごころ)」で有名な日本橋三越本店です。おそらく新館7階の催物会場で開かれます。福島で見るのがベストかもしれませんが、玄々畢竟の大作である「天女(まごころ)」は、当然ながら他会場では公開されません。



来春に東京へやって来る展覧会を前にして、一通り玄々について知っておくためにも、有用な一冊となりそうです。

「生誕130年 佐藤玄々/求龍堂」

「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」は求龍堂より刊行されました。

「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」
出版社:求龍堂
発売日:2018/10/31
価格:2484円(税込)
内容:福島県相馬市に生まれた彫刻家佐藤玄々(朝山)は、抜群の写生力と官能性のある生命力、彫刻の枠を超えたスケールの大きい造形が特徴的な近代木彫の大家。大正から昭和にかけて、平櫛田中、石井鶴三、戸張孤雁、中原悌二郎らとともに活躍。「宮彫師」としての日本伝統の彫刻と、「ブールデル」に学んだ西洋彫刻を融合し、近代彫刻として独自のスタイルを築く。あの巨匠横山大観をして天才と言わしめた玄々の知られざる全貌がわかる初めての作品集。
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「石井林響展-千葉に出づる風雲児」 千葉市美術館

千葉市美術館
「生誕135年 石井林響展−千葉に出づる風雲児」
2018/11/23~2019/1/14



千葉市美術館で開催中の「生誕135年 石井林響展-千葉に出づる風雲児」を見てきました。

明治17年に千葉の土気本郷町(現在の千葉市)に生まれた日本画家、石井林響(1884~1930)は、修善寺や品川に移るも、大正末期には大網に画房を築き、歴史画から風景画、風俗画、さらに文人画と画風を変えながら、多くの作品を残しました。

石井林響、本名毅三郎は、千葉の中学時代に画才を見出され、卒業後に上京し、美術を学びました。当初は洋画を志していたものの、途中で日本画へ転向し、明治34年に橋本雅邦に師事しました。

21歳の時、二葉会で銀賞賞を受賞したのが、チラシ表紙を飾る「童女の姿となりて」で、少女に扮装して、熊曾建(くまそたける)を討とうする、ヤマトタケルの姿を描いていました。その表情は凛々しく、右手を開きながら、左手で銅鏡を持っていて、足元には短刀が置かれていました。淡い色彩や細い線など、大変に緻密に描かれた作品で、特に透けた着衣が見事に表現されていました。このように初期の林響は、当時流行していた歴史画を制作しては、評価を得ました。


石井林響「木華開耶姫」 明治39年 千葉県立美術館

明治40年末から約2年間、修善寺温泉の旅館に滞在した林響は、同地で絵の修養に励みました。その頃の一枚が、「弘法大師」で、右手で五鈷杵を持ち、左に念珠を持っては、堂々とした様で座る大師の全身を捉えていました。また背景には、大きな後光が円く広がっていますが、当初は岩窟の中の姿を描くべく、下絵で岩や樹木を表していたそうです。展示では、本画と下絵を見比べることも出来ました。

林響は各方面に活動の場を広げた画家でした。明治42年には安田靫彦や今村紫紅らによる紅児会に参加すると、大正には日本美術院の院友となり、のちに帝展へと移りました。東京の南品川に居を構え、多くの画人らと交流しながら、絵を制作していたそうです。

「漁撈」に目を奪われました。六曲一双の画面に、波が打ち寄せる岩場の中、一人の男が小舟に乗る様子を描いていて、人物を大きく引き延ばすように表していました。また寒山拾得も得意とした画題の1つで、「寒山子」では、爪を伸ばし、不気味な笑みを浮かべる寒山の姿を描いていました。

縦横2メートルは超える「王者の瑞」も目立っていたかもしれません。二曲一双の屏風で、右に聖帝、そして左には背を曲げた麒麟の姿がありましたが、林響は実際のキリンの剥製を写生してから、本画の制作に取り掛かったそうです。


石井林響「総南の旅から 砂丘の夕」 大正10年 山種美術館 (展示期間:11月23日~12月20日)

大正に入って、号を天風から林響へと改めると、それまでの歴史画ではなく、中国風俗画や、南画風の作品を多く描くようになりました。大正期は「カラリスト」と呼ばれるほど色を多用した一方、南画に傾倒すると、モノクロームを基調とした、軽妙な作風へと変化しました。ともかく林響は変わる画家で、ともすると最初期と晩期の作品が、同一の人物によるとは思えないかもしれません。

林響は古画のコレクターでもありました。中でも中国・清の画家、石濤の「黄山八勝画冊」を大正末に購入し、一時期、所有していました。のちに林響の手から離れ、住友家へ移り、現在は泉屋博古館に所蔵され、重要文化財にも指定されています。


石濤「黄山八勝画冊」 中国・清時代 泉屋博古館 (重要文化財)

この「黄山八勝画冊」が絶品でした。画冊ゆえに、一辺は20~26センチほどの小さな作品ですが、細かい線が震えるように広がり、淡い色彩を伴いながら風景を築いていて、覗き込むと、場の空気や臨場感が伝わるかのようでした。(会期中は場面替えで展示されます。)

大正15年に千葉の大網宮谷に画房「白閑亭」を築いて移住すると、さながら南画を極めべく、さらに絵画を描き始めました。またアトリエは自然に囲まれていて、林響も草花を育てつつ、多くの鳥を飼いながら、日々の生活を送っていました。林響は部類の鳥好きでも知られ、実際に作品にも多くの鳥が描かれていました。


石井林響「野趣二題(池中の舞)(枝間の歌)」から「池中の舞」 昭和2年 東京国立近代美術館

この頃を代表するのが、「野趣二題 枝間の歌・池中の舞」ではないでしょうか。2幅の画面には、墨と淡い色彩で、水中の魚や樹木を描いていて、筆は大変に素早く、なおかつ密でもあり、まるで大気が空間を満たすように広がっていました。玉堂の世界を思わせる面があるかもしれません。

こうして再び郷里の千葉で活動していた林響ですが、昭和5年、突然、脳溢血にて亡くなってしまいます。時に48歳でした。


石井林響「薄暮」 大正末期 佐野市立吉澤記念美術館

今でこそ林響は知る人ぞ知る存在かもしれませんが、当時は「西に関雪あり、東に林響あり」と称されるほど、高く評価されていました。言い換えれば「千葉に林響あり」とも呼べるかもしれません。

展示替えの情報です。会期中に一度、一部の作品が入れ替わります。

「生誕135年 石井林響展−千葉に出づる風雲児」出品リスト(PDF)
前期:11月23日(金・祝)~12月20日(木)
後期:12月21日(金)~2019年1月14日(月・祝)

なお林響展に続く、所蔵作品展「林響の周辺」では、林響と関係のあった画家や弟子、それに玉堂の作品などを丹念に紹介していました。もちろん林響展のチケットで観覧出来ます。お見逃しなきようおすすめします。


出品は約130点です。千葉県内の美術館はもとより、伊豆市のほか、個人蔵の作品も多くやって来ています。おおよそ28年ぶりとなる大規模な回顧展です。千葉単独の開催で、巡回はありません。



2019年1月14日まで開催されています。

「生誕135年 石井林響展−千葉に出づる風雲児」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2018年11月23日(金・祝)~2019年1月14日(月・祝)
休館:12月3日(月)、12月29日(土)~1月3日(木)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *おなまえ割引:姓が「石井」あるいは名前に「天」「風」「林」「響」がつく方は観覧料2割引。(要証明書)
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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