「バスキアを見たか。」 Pen(2019年10月1日号)

雑誌「Pen」2019年10月1日号、「ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。」を読んでみました。



「ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。」Pen(ペン)2019年10月1日号
https://www.pen-online.jp/magazine/pen/482-basquiat/

1960年にニューヨークに生まれ、ウォーホルらと友人関係を築きながら、若くしてアート界を席巻したジャン=ミシェル・バスキア(1960~1988)。27歳にして薬物の過剰摂取により没するも、約10年間あまりに1000点以上もの絵画を残し、近年も欧米を中心に回顧展が行われるなど、人気が衰えることはありません。

また日本では2017年、頭蓋骨のような頭部を激しい筆致で描いた「Untitled」が、約123億円で落札されたことも話題となりました。とは言え、国内でバスキアは過去、数回展示が行われたに過ぎず、必ずしも現在、作品を見る機会が多いとは言えません。

さらに何かと知名度の高まる中、意外にもバスキアについて書かれた日本語の文献や資料が殆どありませんでした。実際にも、バスキアに関した日本語の書籍の多くは、古書でしか入手出来ないそうです。

リリースの「いま読める唯一のバスキア大特集」もあながち誇張ではありません。雑誌「Pen」最新号にてバスキアが大きくクローズアップされました。



【バスキア特集の見どころ】

・27歳で世を去った、彗星のごとき天才の生涯。
 アート界に彗星のごとく現れ、27歳という若さで亡くなったバスキアの生涯をたどる。

・出発点は、ストリートに描いたグラフィティ
 1970年代後半のニューヨーク。10代だったバスキアは、友達とふたりで「SAMO©」という署名を添えた言葉を、廃墟の壁にスプレーペイントしていった。

​・初期に才能を認めていた、ギャラリストの証言。
 バスキアの才能に早くから着目していたひとり、ギャラリスト・美術評論家のジェフリー・ダイチが、バスキアのアートが世界で人々を惹きつけている理由を語る。

・ジャズにインスパイアされて、誕生した傑作の数々。
 チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーなど、黒人のジャズ・ミュージシャンをモチーフとした作品について。

・差別への怒りが、黒人アスリートを描く原動力。
 野球選手ハンク・アーロン、ボクサー カシアス・クレイ(モハメド・アリ)やジョー・ルイス、陸上選手ジェシー・オーエンスなどを描いた作品について。

・レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿が、心を捉えた。
 多くのアートを積極的に学んだバスキア。特にルネサンスの万能の人、レオナルドの手稿にある絵や言葉を作品に取り込んでいった。

・日本との意外な関係を知る、大展覧会が開催。
 待望の日本初の大型展『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』の見どころを、キュレーターのディーター・ブッフハートに聞いた。



まず冒頭ではバスキアの生涯を、作品の図版や年譜などで辿りつつ、ウォーホルやデヴィット・ボウイなどの様々なアーティストとの関係を紐解き、バスキアが如何にして制作活動を行ったのかについて詳細に解説していました。多方面に渡るバスキアの交流の軌跡などが一覧出来るのではないでしょうか。

さらに黒人のアスリートモチーフとした作品を取り上げ、当時のアメリカが抱えた人種問題などの社会状況がバスキアに与えた影響についても浮き彫りにしていました。それこそ「差別への怒り」とありますが、かの時代の社会への強い批判精神を持ち得ていたからこそ、バスキアは次々とエネルギッシュな作品を生み出していったのかもしれません。



一連の特集の中で特に興味深く感じたのは、バスキアがレオナルド・ダ・ヴィンチについて深い関心を寄せていたことでした。しかもいわゆる絵画ではなく、レオナルドが膨大に残した手稿の中の人体の図を自作に取り込んでいて、バスキアが幼少期に見て影響を受けたとされる解剖学書と深く関係しているようでした。


ジャズとの関わりも大変に重要で、バスキアが多くのジャズミュージシャンからインスピレーションを受けて制作した作品も多く紹介されていました。バスキアの作品からはどこか音楽的な即興性も感じられますが、その源泉はリズミカルなジャズにあるのかもしれません。

さて最後にバスキアの展覧会についての情報です。9月21日(土)より、六本木の森アーツセンターギャラリーにて「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」が開催されます。



「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」@fujitvart) 森アーツセンターギャラリー 
期間:2019年9月21日(土)~11月17日(日)
 *9月24日のみ休館
時間:10:00~20:00(9月25日、26日、10月21日は17時まで。)
 *入館は閉館の30分前まで
場所:六本木ヒルズ森タワー52階(港区六本木6-10-1
料金:一般2100(1900)円、大学・高校生1600(1400)円、中学・小学生1100(900)円
 *( )内は15名以上の団体料金。

今回の「バスキア展」では、度々、バスキアも来日しては個展やグループ展を開いた日本との関係にも着目し、約130点にも及ぶプライベートコレクションが公開されます。いわゆる国際巡回展ではなく、日本のオリジナルな展覧会でもあります。



そして誌面のバスキア特集でも、「バスキア展」のキュレーターのインタビューや、一部の出展作品も掲載されていました。まさに来るべき「バスキア展」の前に、一通りアーティストについて知る良い機会とも言えるのではないでしょうか。私もこの特集を踏まえた上で、「バスキア展」を見に行きたいと思います。

なお紙版に合わせ、デジタル版も刊行されましたが、今号に限っては2000ダウンロード限定のみの発売になります。ひょっとすると途中で販売終了となるかもしれません。

「Pen(ペン) /ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。」

雑誌「Pen」No.482、特集「ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。」は、9月17日に発売されました。

「Pen(ペン) 2019年10/1号 [ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。]」(@Pen_magazine
出版社:CCCメディアハウス
発売日:2019/9/17
価格:700円(税込)
内容:ジャン=ミシェル・バスキアについては、インパクトのある頭部や王冠の絵、あるいはドキュメンタリーや映画を通して知っているという人も多いだろう。だが作品をじっくり見たことはあるだろうか?過去、日本での展覧会は数回きりだ。ここ数年、欧米では画期的な回顧展が開かれバスキア再発見の機運が高まっている。なぜならシンプルで直接的に見える作品の背後にはさまざまな意味があり、黒人のアイデンティティをモチーフとした重要な作品であることが示されたからだ。今年、待望の大規模展が日本で開かれる。バスキアを見る―いまこそ、その時だ。
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「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」 原美術館

原美術館
「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」
2019/8/10~2020/1/13



原美術館で開催中の「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」のプレスプレビューに参加してきました。

1969年に生まれた現代美術家の加藤泉は、2000年頃から木彫による人物像を手がけ、石やソフトビニールなどの多様な素材を用いた立体作品を制作してきました。

その加藤の新作で構成されたのが「LIKE A ROLLING SNOWBALL」と題した個展で、立体を中心にリトグラフなど約70点が出展されていました。



いわゆる彫刻で良く知られた加藤ですが、全てが木彫りというわけではありません。冒頭、ギャラリー1にて目の前に広がるのが、布や革、また刺繍などを用いた「無題」なる作品で、宙から顔、胴、そして腰から下の足へと、3つの面に分けられた人物の姿が描かれていました。



また足先にはチェーンで石が繋がれていて、リトグラフによって顔も写されていました。加藤は、一連の石の顔のリトグラフを6点制作していて、その版画も廊下にあわせて展示されていました。



最も広いスペースであるギャラリー2に展開したのが、3体で1組からなる「無題」で、大小に異なった人物が革の手を横に広げつつ、チェーンで互いに手を取り合うように繋がっていました。中央の緑の人物のみがやや小さく、左右の黄色と赤の像は等しく大きいため、ちょうど子どもを挟んだ両親、つまり家族を象っているのかもしれません。



そして奥には、青や黄色などの円を体につけた人物が二枚のキャンバスに描かれていて、口をすぼめては、両手を上げて、何かに驚いているような仕草を見せていました。なお加藤は彫刻の制作に際し、素材や作品ジョイント、つまり連結させることをよく行いますが、キャンバスを分けて描くのも、そうした彫刻のアプローチに触発されてのことだそうです。



屋外にも注目です。窓から目を庭に向けると、樹木の狭間や石の上に彫像が置かれていることが見て取れました。遠目では質感がやや分かりにくいかもしれませんが、いずれも石に着彩を施した作品で、石はラミュージアムアークより持ち込んだものでした。まるで隠れん坊をしている子どものようで、可愛らしくも映るのではないでしょうか。



この石に対しての加藤の関心が現れていたのが、2階のギャラリー3に展開したインスタレーションでした。中央に木とソフトビニールによる人物、ないし顔の像があり、その周囲の床に顔の版画を貼った石の作品が多く並んでいました。顔には綿布によって手足もついていて、まるで手足をばたつかせる赤ん坊のようにも見えました。



美術館の最奥部に位置するギャラリー5では、いずれも「無題」の計8体の彫像が、ガラスケースの中に収められていました。一連の作品には、石、ソフトビニール、革、木、時にステンレスなどがミックスして用いられていて、石とアクリルのみの作品を除けば、単一の素材で出来ているものはありませんでした。



また全てがケースの中で展示されているからか、どこか博物館へ迷い込んだような錯覚にも陥りました。実際にも加藤は博物館を好んでいて、それをイメージしながらギャラリー5の展示を組み立てたそうです。



彫像の様態も一様ではありません。手をだらんと垂らしつつ、ぼんやりと前を見据えたり、膝を曲げては座っていたり、中には気持ちよさそうに横になりながら眠りこけているような者もいました。



子どもの頃、ソフトビニールの人形で遊んだ経験もある加藤は、ソフトビニールメーカーの知人に誘われては、作品の素材としてソフトビニールを取り込むようになったそうです。まず原型を自ら制作し、工場でプロダクトが出来た後、さらに手を加えてオリジナルの作品に仕上げています。そもそも加藤は、石や木しかり、素材の選択に関しては厳密なリサーチをせず、直感的に取り入れてきました。過去にはプラスチックなどのボツにした素材もあったそうです。

元々、絵画を制作していた加藤は、当初から人を描こうと思っていたわけではなく、良い絵を描こうとしていると、結果的に人の絵に行き着いたとしています。そして誰でも描けるような絵ではなく、自分で出来ることは何かを制作に際して常に問い直してきました。また人に特に未練があるわけではなく、もし他で良いと思える形が出来たら、そちらへ行っても良いとさえ考えてもいるそうです。ただ人が一番難しいとも語っています。



いわゆる「原始美術を思わせるミステリアスな人物」とも称される加藤の作品は、確かに土偶、ないしは古代の遺跡に眠る彫像を連想させる面もありますが、特にソフトビニールによる作品などはSFに登場する異星人のようで、近未来的なイメージにも見えなくはありません。全て作品のタイトルを「無題」とするのにも、一切の先入観を拭い去るゆえのものなのでしょうか。



スペースを鑑みれば作品数も不足なく、もはや人物像が原美術館を乗っ取るかのように展開していました。あたかも過去や未来へ自在にタイムスリップしては、人間とも宇宙人とも捉えがたい生き物を象った、加藤の今の飽くなき創造力に強く感心させられました。

本エントリの写真は報道内覧会時に撮影しました。一般会期中においては、1階のギャラリー1と2階のギャラリー5、及び常設展示を除いて撮影が可能です。(フラッシュ不可)



なお本展覧会は、ここ東京・品川の原美術館と、群馬県渋川市にあるハラミュージアムアークの2会場で開催されています。(共に会期は2020年1月13日まで)

新作中心の原美術館とは異なり、ハラミュージアムアークでは初期作から近作まで約140点を並べ、作家の活動を網羅的に紹介しているそうです。全く異なる双方の空間で作品を見ることで、初めて加藤の過去と現在の制作の全貌が明らかになるのかもしれません。


これほどの質量で加藤の作品を見たのは初めてでした。ロングランの展覧会です。2020年1月13日まで開催されています。おすすめします。

「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」 原美術館@haramuseum
会期:2019年8月10日(土)~2020年1月13日(月・祝)
休館:月曜日。但し2019年8⽉12⽇、9⽉16⽇、23⽇、10⽉14⽇、11⽉4⽇、2020年1⽉13⽇を除く。2019年8⽉13⽇、9⽉17⽇、24⽇、10⽉15⽇、11⽉5⽇、及び年末年始(2019年12月26日~2020年1月3日)は休館。
時間:11:00~17:00。
 *水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
 *20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。

注)写真は全て「加藤泉 – LIKE A ROLLING SNOWBALL」作品、及び会場風景。作品タイトルは全て「無題」。報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影しました。
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台風15号(ファクサイ)に伴う千葉県内の美術館の休館情報

9月9日の午前5時前、千葉市付近に上陸した台風15号は、首都圏一円に暴風雨をもたらしました。特に進路の右側に当たった千葉県内の被害が大きく、今も県中南部を中心に複数の地域で停電や断水が続いています。皆さんのお住まいの地域は大丈夫だったでしょうか。被害を受けた方々には心よりお見舞い申し上げます。

*情報を更新しました(9月12日)。詳細はページ下をご覧ください。

台風第15号による被害・対応状況について(9月10日(火)13時時点):経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190910007/20190910007.html

台風15号について(第6報) :千葉県防災危機管理部
http://www.bousai.pref.chiba.lg.jp/portal/servlet/servlet.FileDownload?file=00P0o000022Er29EAC

台風は県内の美術館にも影響を与えています。9月10日(火)現在の休館情報をまとめてみました。

【臨時休館中】

千葉県立中央博物館(千葉市)、同博物館大利根分館(香取市)→大利根分館は9月11日(水)、本館は9月12日(木)から通常開館
市原湖畔美術館(市原市)→9月13日(金)まで臨時休館
DIC川村記念美術館(佐倉市)→9月13日(金)まで臨時休館
ホキ美術館(千葉市)→9月11日(水)開館


まずは千葉県立中央博物館です。台風による停電のため、本館と生態園、及び香取市にある大利根分館が休館しました。再開の時期は未定です。


現在、「夢みる力ー未来への飛翔」展を開催中の市原湖畔美術館は、台風による館内メンテナンスのため、9月10日(火)に臨時休館しました。


DIC川村記念美術館は、台風の影響により9月10日(火)は臨時休館し、翌日11日(水)も休館します。再開館日は未定で、ホームページで改めてお知らせがあるそうです。


ホキ美術館は美術館内、及び周辺道路の冠水などにより、通常開館日の9月9日(月)が臨時休館となりました。10日(火)は休館日で、明日11日(水)の開館を目指して復旧作業が進められているそうです。

【一部展示制限中】

千葉県立房総のむら(栄町):商家街並みのみの開放。→9月11日(水)より通常開館
国立歴史民俗博物館(佐倉市):倒木等の被害により「くらしの植物苑」を臨時休苑。
成田山書道美術館(成田市):倒木により成田山公園の立ち入り禁止。
千葉市立加曽利貝塚博物館(千葉市):加曽利貝塚縄文遺跡公園への立ち入り禁止。→見学ルート以外の立ち入り禁止


続いて一部の展示が制限されている美術館です。主に台風の暴風による倒木で、屋外の施設に影響が及びました。国立歴史民俗博物館の「くらしの植物苑」の復旧の目処は立っていません。


この他、来年3月から芸術祭を開催予定の「いちはらアート×ミックス2020」は、実行委員会事務局の電話や電子メールが不通となっています。また会場施設では危険物の撤去などが行われているそうです。


なお台風により交通網が寸断され「陸の孤島」と化した成田空港ですが、空港にほど近い航空科学博物館は通常通り開館しています。また「ミュシャと日本、日本とオルリク」が始まった千葉市美術館や、千葉県立美術館なども開館しています。


台風の影響は徐々に縮小していくものと思われますが、各美術館などへお出かけの際は、事前に公式サイトなどで開館状況を確認されることをおすすめします。(神奈川県の横須賀美術館も9月10日現在、停電により休館中です。→9月11日開館しました。

*9月11日:情報更新

第15号による被害・対応状況について(9月11日(水)6時30分時点):経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190911002/20190911002.html

台風15号について(第7報):千葉県防災危機管理部
http://www.bousai.pref.chiba.lg.jp/portal/servlet/servlet.FileDownload?file=00P0o000022FHwQEAW


市原湖畔美術館は9月13日(金)までの臨時休館が決まりました。


DIC川村記念美術館も9月13日(金)まで臨時休館し、14日(土)より開館することが決まりました。また当面は庭園を休園するそうです。


ホキ美術館は、美術館、カフェともに9月11日(水)より営業を再開しました。

*9月12日:情報更新

第15号による被害・対応状況について(9月12日(木曜日)7時00分時点):経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190912007/20190912007.html

台風15号について(第9報):千葉県防災危機管理部
http://www.bousai.pref.chiba.lg.jp/portal/servlet/servlet.FileDownload?file=00P0o000022FoHFEA0


千葉県立中央博物館は、大利根分館が9月11日(水)、本館が9月12日(木)に営業を再開しました。また中央博物館・生態園は、被害の対処のため、しばらく休園するそうです。
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「手塚愛子展 Dear Oblivion―親愛なる忘却へ」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「手塚愛子展 Dear Oblivion―親愛なる忘却へ」
2019/9/4~9/18



スパイラルガーデンで開催中の「手塚愛子展 Dear Oblivion―親愛なる忘却へ」を見てきました。

ベルリンを拠点に活動する現代美術家の手塚愛子は、「解体と再構築」(解説より)する手法で織物の作品を制作し、国内外で評価を得てきました。


「華の闇(夜警02)」 2019年

一枚の名画をモチーフにした作品に目を奪われました。それが「華の闇(夜警02)」で、現在、アムステルダムの国立美術館に収蔵されているレンブラントの「夜警」を引用したジャカード織の作品でした。

元になる「夜警」は、1639年、市民隊のバニング・コック隊長と自警団18名が、自らの集団肖像画をレンブラントに依頼したもので、画家は注文通りの18名の自警団を描く代わりに、実に31名もの人物を描きこんでは、肖像画というよりも、ドラマテックな歴史画のような画面を作り上げました。今でこそレンブラント畢竟の傑作として知られるものの、当時、注文した自警団にとっては、必ずしも好意的に受け止められなかったそうです。

一見、夜の景色であるようにも思えますが、後世の洗浄作業などによって、今では昼を描いた作品だと明らかになりました。しかしそれでも元の絵画は暗く、闇から人物が浮かび上がってくるようにも見えなくありません。


「華の闇(夜警02)」(部分) 2019年

それを手塚は自作おいて背景を変化させ、アムステルダム国立美術館の所蔵品を中心としたカラフルなインド更紗に置き換えました。美しい花模様で知られるインド更紗は、オランダ東インド会社の交易によってヨーロッパにもたらされ、早くから室内装飾などで人気を得ていました。手塚の作品は、いわば洋の東西の邂逅、あるいは「夜警」とインド更紗のコラボレーションとも捉え得るのかもしれません。


「京都で織りなおし」 2019年

鮮やかな花々で彩られた「京都で織りなおし」は、明治時代に川島織物(現、川島織物セルコン)によって作られた手織りのテーブルクロスを蘇らせた作品で、かねてより川島織物セルコンと作品を制作してきた手塚が、同社に再制作を持ちかけ、現代の機械織の技術によって再現しました。


「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」 2019年

一際目立つのが、スパイラルガーデンを特徴付ける螺旋状のスペースに展開した「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」でした。縦4メートル強、幅9メートルにも迫ろうかとする巨大な作品は宙づりになっていて、ちょうど鳥が翼を広げるかのような形を見せていました。


「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」(部分) 2019年

ここでは飛鳥時代の天寿国繍帳や水月観音菩薩半跏像の襞、ないし薩摩ボタンのモチーフが層状に積み重ねられていて、十八世紀のヨーロッパボタンと対置させつつ、結び合うように構築させていました。


「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」(部分) 2019年

なお薩摩ボタンとは、江戸末期から明治にかけて輸出用に生産されたもので、まさに当時の西洋のジャポニスムを意識すべく、日本的な風景や着物姿の女性などが絵付けされていました。そして手塚は薩摩とヨーロッパのボタンを合わせ並べることで、近代の日本と西洋の関係を見据えているのかもしれません。


「親愛なる忘却へ(美子皇后について)」(部分) 2019年

この他、昭憲皇太后の大礼服に着想を得た「親愛なる忘却へ(美子皇后について)」も目を引くのではないでしょうか。昭憲皇太后は初めて洋装を取り入れた皇族で、作品には皇后の読んだ歌も織り込まれていました。


「親愛なる忘却へ(美子皇后について)」(部分) 2019年

スパイラルガーデンとしては実に12年ぶりの「大規模」(リーフレットより)な個展だそうです。私も手塚の作品を一定数まとめて見たのは久しぶりでした。



受付で配布されている無料のリーフレットのテキストが充実していました。お取り忘れなきようにおすすめします。


撮影も可能です。9月18日まで開催されています。

「手塚愛子展 Dear Oblivion—親愛なる忘却へ」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:2019年9月4日(水)~9月18日(水)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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メールマガジン「『失われたアートの謎を解く』の謎を解く!」が発行されます

9月7日(土)にちくま新書より発売される『失われたアートの謎を解く』(監修:青い日記帳)。

「失われたアートの謎を解く/監修・青い日記帳/ちくま新書」

レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」やフェルメールの「合奏」などの盗難事件をはじめ、ナチスの美術品犯罪や戦争による破壊、ないし高松塚古墳やラスコーといった文化遺産など、いわゆる「失われたアート」についてまとめた本で、失われた経緯や奪還、再生への努力など、歴史の裏側に潜むドラマや人との関わりなどについて紐解いています。



またちくま新書としては異例と言って良いほどヴィジュアルが多く、テキストを追うだけでなく、図解資料を一覧しながら楽しめるようにも工夫されています。



その『失われたアートの謎を解く』の発売に際し、本の概要や魅力を紹介するメールマガジン、「『失われたアートの謎を解く』の謎を解く!」が発行されます。

登録は至って簡単です。下記の専用サイトにお名前とメールアドレスを記入するだけです。ご登録後、翌日朝7時より毎日計5通、メールマガジンが自動で届けられます。お名前はハンドルネームで構いません。無料(通信料金を除く)で利用いただけます。途中で配信を停止することも可能です。

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計5回のメールマガジンでは、本の内容だけでなく、執筆陣や編集者へのインタビューの他、監修を務めた青い日記帳のTak(@taktwi)さんのコメントなども掲載されます。また第1回目と5回目には、無料で紙面を試し読み出来るメールマガジン読者限定の「特典PDF」もプレゼントされます。

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メールマガジンは「『失われたアートの謎を解く』編集チーム」が受付、発行しますが、配信に際しては筑摩書房の許可をいただいています。なお今日9月6日には、筑摩書房より『失われたアートの謎を解く』の特設サイトもオープンしました。そちらでは「ムンク《叫び》は二度盗まれる」を試し読みすることも出来ます。



▼『失われたアートの謎を解く』特設サイト
https://www.chikumashobo.co.jp/special/mysteryof_lostart


最後にイベントの情報です。現在、「青い日記帳×池上英洋!失われたアートの謎を解く」のトークイベントの参加者を募集中です。



<丸善雄松堂 知と学びのコミュニティ>
「青い日記帳×池上英洋!失われたアートの謎を解く」
日時:2019年9月14日 (土) 19:00〜20:40 *受付開始:18:30
会場:DNPプラザ2階(新宿区市谷田町1丁目14
参加費:500円
申込サイト→https://peatix.com/event/1311804

これは青い日記帳のTakさんと、『失われたアートの謎を解く』に寄稿された東京造形大学教授の池上英洋先生が、紙面に取り上げられた美術品などについて話すもので、来年に池上先生の企画されたレオナルド・ダ・ヴィンチに関する展覧会についても触れていただきます。



会場は市ヶ谷駅にほど近いDNPプラザです。先着順で定員の100名に達し次第、受付は終了となります。



なお『失われたアートの謎を解く』では、私も執筆担当の一員として、原稿の一部の作成に関わりました。よってメールマガジンにもコメントを寄せています。



私の拙い原稿はともかくも、プロの編集者の方が何度もチェック、及び加筆と修正して下さったため、読み応えのある内容になったと思います。まずはメールマガジンにご登録下さり、『失われたアートの謎を解く』を手にとって頂ければ嬉しいです。


それでは多くの方の「『失われたアートの謎を解く』の謎を解く!」メールマガジンへのご登録をお待ちしております。

▼「『失われたアートの謎を解く』の謎を解く!」メールマガジン登録(無料)
https://mail.os7.biz/add/ITqX


「失われたアートの謎を解く」(ちくま新書) 監修:青い日記帳 
内容:美術史の裏に隠された、数多くの失われたアート。その歴史は、人間の欲望の歴史でもあるーアートが失われた詳細な経緯と、奪還や再生の努力、歴史上の人物とアートの関わりまで、美術の歴史の裏側を徹底ビジュアル解剖!  《モナ・リザ》盗難/修復不可能にされたムンク《叫び》/ナチスの美術品犯罪/フェルメール《合奏》を含む被害総額5億ドルの盗難事件…
新書:全224ページ
出版社:筑摩書房
価格:1037円(税込)
発売日:2019年9月7日
特設サイト:https://www.chikumashobo.co.jp/special/mysteryof_lostart
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