「吉村芳生 超絶技巧を超えて」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「吉村芳生 超絶技巧を超えて」 
2018/11/23~2019/1/20



東京ステーションギャラリーで開催中の「吉村芳生 超絶技巧を超えて」のプレス内覧会に参加してきました。

1950年に山口県で生まれ、版画やドローイングの画家としてデビューした吉村芳生は、身の回りの日常を見据えては、主に鉛筆で細密に描き出しました。


奥:吉村芳生「ドローイング 金網」 1977年

その吉村の制作にとって重要だったのは、写しの行為でした。一例が「ドローイング 金網」で、金網の網目のみを、おおよそ1万8千個も写しとりました。


吉村芳生「ドローイング 金網」(部分) 1977年

いずれもケント紙と金網を重ねてプレス機にかけ、紙に写った痕跡を鉛筆でなぞったもので、長さは17メートルにも及んでいました。吉村は「機械文明が人間から奪った感覚を自らに取り戻す」として、1日5時間、約70日間かけて完成させました。


吉村芳生「ドローイング 新聞 ジャパンタイムズ」 1979年〜80年 ほか

同じく「ドローイング 新聞」も、写しを半ば極めた作品で、インクの乾ききっていない新聞紙面にアルミ板をあて、プレス機で圧着させたのち、また紙をあて、最終的に紙に転写した薄いインクを元に、鉛筆で文字や写真を写していました。ともかく精巧に出来ていて、近くに寄っても、単なる古い新聞紙と見間違えてしまうかもしれません。


吉村芳生「SCENE No.36(河原)」 1983年

吉村が初期に描いた題材は、川辺や通り、駐車場、ジーンズ、灰皿など、ごくありふれた風景でした。制作に際しては、対象を凝視して直接的に紙へ描くのではなく、撮影した写真を利用し、リトグラフやシルクスクリーンなどの版画の技法も取り入れました。そのために主観性は排除され、作業はより機械的なものになりました。


右:吉村芳生「ジーンズ」 1984年
左:吉村芳生「ジーンズ 下絵(数字)」 1984年


「ジーンズ」も写しにこだわった作品でした。まず本物のジーンズをモノクロで撮影し、引き伸ばしたうえ、今度は鉄筆で2.5ミリ四方のマス目を引き、濃度に応じて0から9までの数字をマス目に書きました。それが、上の写真左の「ジーンズ」で、目をこらすと、確かに細かな数字がマス目に書き込まれていることが分かりました。


右:吉村芳生「ジーンズ」(部分) 1984年

一方で、右の「ジーンズ」はどのように描かれたのでしょうか。今度は写真と同じサイズの方眼紙を用意し、先に2で書いた数字を写したのち、同じサイズの透明フィルムを上から重ね、左端の行から、数字の0に斜線1、数字の1に斜線2、数字の5に斜線6本のように、1つのルール対応した斜線をインクで引いていました。つまりこの「ジーンズ」は、全て斜線のみで描かれていて、色の濃度のみが示されているにも関わらず、写真のように見えるわけでした。


吉村芳生「SCENE 85-8」 1985年 東京ステーションギャラリー

何気ない路上の1コマを捉えた「SCENE 85-8」も、同じく写真のように見えるかもしれません。吉村は雨に濡れた路面を、鉛筆で表現していて、写真のブレまでも描ききっていました。

吉村は生涯を通して自画像を描き続けた画家でした。うち目立つのが新聞紙の上に自画像を描いたシリーズで、吉村は新聞を「社会の肖像であり、自画像と同じである。」と捉えていました。


右:吉村芳生「新聞と自画像 2008.8.9 読売新聞」 2008年
左:吉村芳生「新聞と自画像 2008.10.8 毎日新聞」 2008年


「新聞と自画像」に目を奪われました。ノーベル賞の受賞や、オリンピックの開幕を告げる新聞の一面に、吉村自身の顔が浮かび上がっていました。


吉村芳生「新聞と自画像 2008.8.9 読売新聞」(部分) 2008年

ここで驚くのは、新聞紙自体も鉛筆で描かれていることで、吉村は紙面をコピーしたうえ、カーボン紙で紙に転写したのち、文字や写真の全てを鉛筆や色鉛筆で漏らさずに写し取りました。何やら描く、写すことに対して、執念すら感じないでしょうか。


吉村芳生「新聞と自画像 2009年」 2009年

新聞と自画像のシリーズには2パターンあり、1つがともに描くタイプで、もう1つが既存の新聞紙の上に自画像を描くものでした。うち「新聞と自画像 2009年」では、1年分の新聞の1面に、毎日撮影した自画像を拡大して描いていて、休刊日の1月2日を除くと、全部で364日、つまり364枚にも及んでいました。顔の表情は、新聞の記事の内容に対応していると言われています。


吉村芳生「3.11から 新聞と自画像」 2011年

「3.11から 新聞と自画像」では、東日本大震災の発生と惨状を伝えた新聞を素材にしていて、3月12日から1ヶ月分の新聞に、「見」、「光」、「阿」、「吽」、「叫」などと言った、8種類の自画像をシルクスクリーンで刷り込みました。吉村は、震災の発生当初は描けなかったものの、1ヶ月経過して、やはり描くべきだと考え、新聞を取り寄せては、顔を加えたそうです。また作品を売却して、チャリティーにあてたこともありました。


吉村芳生「コスモス」 2000〜07年

吉村は何もモノクロームの作品だけ制作していたわけではありません。1990年頃にはじめて花を題材にして以降、次第に色鉛筆で描く花の作品に制作の重心を移していきました。その前に東京から山口に移住し、そこで目にした花、とりわけ休耕田のコスモスに出会い、色を発見したと指摘されています。この頃の吉村は、従来の鉛筆のモノクロにやや息苦しさ感じていて、スランプに陥っていましたが、花の絵を色鮮やかに描くことにより、新たな境地を切り開きました。


吉村芳生「無数の輝く生命に捧ぐ」 2011〜13年

フェンス越しの藤の木が一面に広がるのが、「無数の輝く生命に捧ぐ」で、吉村は東日本大震災を契機に、花の1つ1つに亡くなった人の魂を思って描きました。元にはやはり写真が参照されているものの、実際の光景とは異なっていて、背後には何も描かず、ただマス目だけが微かに記されているだけでした。


吉村芳生「無数の輝く生命に捧ぐ」(部分) 2011〜13年

また画面右手の花が消えるように描かれているのも、吉村の意図した表現でした。かつてはモチーフに意味を持たせなかった吉村ですが、特に2000年を過ぎると、何らかのメッセージを込めた作品を制作するようになりました。

1990年代以降、故郷の山口を中心に活動していた吉村ですが、2007年に東京の森美術館で開催された「六本木クロッシング」に出展すると、大きな話題を呼び、各地の美術館でも作品が展示されるようになりました。しかしながら2013年、病に倒れて亡くなってしまいました。時に63歳でした。


吉村芳生「コスモス(絶筆)」 2013年

絶筆も「コスモス」でした。やはり一面の花畑を表していて、ちょうど画面の4分の1を残して筆がとまっていました。ここで明らかなのは、吉村が最後に至るまでマス目にそって、1つずつ塗り進めていたことで、残りの白い画面には、一切の下書きもなく、ただ小さなマス目のみが残されているだけでした。


「吉村芳生 超絶技巧を超えて」会場風景

出展数は、62件、600点と不足はありません。モノクロとカラーの双方で、オリジナルの画風、ないし制作法を確立した吉村の作品は、ほかでは代え難い魅力が存在していました。


中国、四国地方以外の美術館では初めての個展でもあります。2019年1月20日まで開催されています。少し遅くなりましたが、おすすめします。

「吉村芳生 超絶技巧を超えて」 東京ステーションギャラリー
会期:2018年11月23日(金・祝)~2019年1月20日(日)
休館:月曜日。但し12月24日、1月14日は開館。12月25日(火)は休館。年末年始(12月29日~1月1日)。
料金:一般900(700)円、高校・大学生700(500)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)

注)写真はプレス内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 キヤノンギャラリーS

キヤノンギャラリーS
「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 
2018/11/28~2019/1/16



キヤノンギャラリーSで開催中の「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」を見てきました。

暗室の中で煌めくのは、美しき自然の風景が捉えられた、色に光に満ちた写真でした。チラシ表紙を飾る一枚も、青い空の下、大きな樹木が、葉を風に揺らしていて、手前には緑の草が生い茂り、その向こうには、太陽の光を受けて、白く輝いた小径が続いていました。さらに草を前に、大空を写した写真も魅惑的で、白い雲が綿あめのように浮かんでいました。どの作品も人の姿は殆ど見られず、あくまでも自然が写されていて、しばらく眺めていると、何とも言い難い多幸感が滲み出してくるかのようでした。

写真家の鈴木は、本展への出品に際し、近代の画家がモチーフにした土地を選んで撮影しました。それは例えばモネの睡蓮の池であったり、同じくモネやクールベの描いたノルマンディーのエトルタの海岸であったり、鈴木がかねてより撮り続けて来た南仏のサント・ヴィクトワール山であったりしました。ただし撮影地は必ずしも明示されていないため、いくつかの特徴的な景観を除けば、どの場所であるのかを具体的に知ることは出来ませんでした。そこはむしろ見る側の自由な発想に委ねられているのかもしれません。

おそらくは朝陽の登る光景を水平線越しに写した、一枚の海景に魅せられました。空も海もピンク色の光に染まっていて、極めて穏やかな波が岸へ打ち寄せていました。実際の場所こそ明らかではないものの、モネの「印象、日の出」のイメージと一部が重なるかもしれません。

「知覚の感光板」とは、セザンヌの言葉で、画家は「先入観を忘れ、ただモチーフを見よ、そうすれば、知覚の感光板に全ての風景が刻印されるだろう。」(チラシより)と語ったそうです。



必ずしも広いスペースではありませんが、作品数は20点超と思いの外に多く、見応えがありました。

日曜、祝日はお休みです。2019年1月16日まで開催されています。

「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 キヤノンギャラリーS
会期:2018年11月28日(水)~2019年1月16日(水)
休廊:日・祝日。年末年始(12月29日~1月6日)。
時間:10:00~17:30
料金:無料
住所:港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階
交通:JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行線品川駅より徒歩約10分
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「2019年 見逃せない美術展」 日経おとなのOFF

年の瀬も近づき、今年の展覧会の振り返りとともに、来年を見据えた記事も目立つようになってきました。

「日経おとなのOFF/2019年見逃せない美術展/日経BP社」

そのうち、毎年恒例と化しているのが、雑誌「日経おとなのOFF」の「絶対見逃せない美術展」特集で、2019年の展覧会の開催情報を多く掲載していました。



まず冒頭を飾るのが、カラヴァッジョの「ホロフェルネスの首を斬るユディト」と、クリムトの「ユディトI」、それに同じくクリムトの「パラス・アテナ」などで、いずれも2019年に開催される「カラヴァッジョ展」、「クリムト展 ウィーンと日本1900」、それに「ウィーン・モダン クリムト、シーレ世紀末への道」で出展される作品でした。実際のところ、クリムトに関しては、大型の展覧会が2件も続くだけに、2019年で最も注目される西洋美術展になるのではないでしょうか。


つい先だっても、「クリムト展 ウィーンと日本1900」に、クリムトの最大規模の作品となる「女の三世代」(ローマ国立近代美術館)の追加出品も決まりました。

また全国3会場を巡回する「カラヴァッジョ展」は、約10点の作品が来日するものの、会場で一部の出展作が異なるため、どこで見るのか悩ましく思う方も多いかもしれません。

「カラヴァッジョ展」 北海道立近代美術館(8月10日~10月14日)
 *名古屋市美術館(10月26日~12月15日)ほか、あべのハルカス美術館へ巡回。
「クリムト展 ウィーンと日本1900」 東京都美術館(4月23日~7月10日)
 *豊田市美術館(7月23日~10月14日)へ巡回。
「ウィーン・モダン クリムト、シーレ世紀末への道」 国立新美術館(4月24日~8月25日)
 *国立国際美術館(8月27日~12月8日)へ巡回。



そして続くのが、雑誌表紙も飾ったマネの「フォリー=ベルジェールのバー」の出展される「コートールド美術館展」、「ギュスターヴ・モロー展」、「ラファエル前派の軌跡展」、「ゴッホ展」などで、今年の「フェルメール展」、「ムンク展」と同様、2019年も西洋絵画に関した展覧会に人気が集まりそうです。

「コートールド美術館展」 東京都美術館(9月10日〜12月15日)
 *愛知県美術館(2020年1月3日〜3月15日)ほか、神戸市立博物館へ巡回。
「ギュスターブ・モロー展 サロメと宿命の女たち」 パナソニック汐留ミュージアム(4月16日〜6月23日)
 *あべのハルカス美術館(7月13日〜9月23日)ほか、福岡市美術館へ巡回。
「ラファエル前派の軌跡展」 三菱一号館美術館(3月14日〜6月9日)
 *あべのハルカス美術館(10月5日〜12月15日)へ巡回。
「ゴッホ展」 上野の森美術館(10月11日〜2020年1月13日)
 *兵庫県立美術館(2020年1月25日〜3月29日)へ巡回。

一方の日本美術で大きく取り上げられていたのは、若冲、蘆雪、蕭白、国芳らに加え、白隠や其一の作品が一堂に会する「奇想の系譜展 江戸絵画 ミラクルワールド」でした。奇想と言えば、一昨年、東京都美術館で開催された「若冲展」が、連日、凄まじい行列となり、社会現象となるほどに話題を呼びました。ひょっとすると「奇想の系譜展」でも、美術ファンの垣根を超えたムーブメントがおきるのかもしれません。


「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」 東京都美術館(2月9日〜4月7日)

「絶対見逃せない 2019年 美術展」は読み物としても充実していました。冒頭のカラヴァッジョやクリムトも、「2019年に見るべきスキャンダラスな美女たち」と題した、作家の中野京子さんのガイドで、ほかにも美術史家の山下裕二先生と、画家の山口晃さんの「奇想の系譜展 Special対談」も読み応えがありました。



そもそも単に特集は、「噂のポートレイト」や「数寄者達の事件簿」、それに「名僧の至宝」など、テーマをもって構成されていて、単なる展覧会の紹介ではありませんでした。さらに各記事も、例えば「カラヴァッジョの濃すぎる人生」ではバロック美術が専門の宮下規久朗先生、また「スター絵師たちのヒットの法則」では北斎館の安村敏信館長がアドバイザーとしてコメントを寄せるなど、専門家の見地も加わっていました。



「2019年に見られる名画でつづる 西洋美術史入門」も有用で、来年に見られる西洋絵画を参照しながら、大まかな西洋美術史を俯瞰していました。また雑誌の本編以外にも、美術館の広告が多いのが特徴で、各館の展示情報を得ることも出来ました。心なしか、年々、美術館の広告が増しているかもしれません。

日本美術でほかに着目しているのが、「佐竹本三十六歌仙と王朝の美」で、いわゆる絵巻切断事件で37幅に切り分けられた佐竹本三十六歌仙絵のうち、少なくとも21幅(以上)が京都国立博物館で公開されます。一部の佐竹本は、単発的に見る機会も少なくありませんが、これほどまとまって紹介されるのは稀で、実際にも過去最大のスケールの展示となります。

「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」 京都国立博物館(4月13日〜6月9日)
「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」 京都国立博物館(10月12日〜11月24日)


さらに同じく京都国立博物館では、「一遍聖絵」の12巻、130メートル超が公開される「国宝 一遍聖絵と時宗の名宝」も開催されます。ともに同館の単独の展覧会で、巡回はありません。



特別付録の「美術展100ハンドブック」も情報が満載でした。年間を通した100の美術展をカレンダー形式で掲載されている上、各展覧会の情報を、開催館、会期、見どころなどに分けて紹介していました。その中より、私が特に注目したい展覧会をいくつかピックアップしてみました。(上に掲載した展覧会を除く)

「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」 愛媛県美術館(2018年12月19日~3月24日)
 *Bunkamura ザ・ミュージアム(4月27日~6月30日)ほか、静岡市美術館、広島県立美術館へ巡回。
「シャルル=フランソワ・ドービニー展」 ひろしま美術館(1月3日~3月24日)
 *東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(4月20日~6月30日)へ巡回。
「世紀末ウィーンのグラフィック」 京都国立近代美術館(1月12日~2月24日)
 *目黒区美術館(4月13日~6月9日)へ巡回。
「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」 国立新美術館(1月18日~4月1日)
「クリスチャン・ボルタンスキー」 国立国際美術館(2月9日~5月6日)
 *国立新美術館(6月12日~9月2日)ほか、長崎県美術館へ巡回。
「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ」 国立西洋美術館(2月19日~5月19日)
「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」 国立新美術館(3月20日~5月20日)
 *京都国立近代美術館(6月14日~7月28日)へ巡回。
「国宝 東寺 空海と密教曼荼羅」 東京国立博物館(3月26日~6月2日)
「百年の編み手たち 流動する日本の近現代美術」「MOTコレクション ただいま/はじめまして」 東京都現代美術館(3月29日~6月16日)
「アイチアートクロニクル 1919-2019」(仮) 愛知県美術館(4月2日~6月23日)
「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」 千葉市美術館(4月13日~5月26日)
 *静岡市美術館(6月8日~7月28日)へ巡回。
「塩田千春展:魂がふるえる」 森美術館(6月15日〜10月27日)
「メスキータ展」 東京ステーションギャラリー(6月29日〜8月18日)
「原三渓の美術 伝説の大コレクション」 横浜美術館(7月13日〜9月1日)
「円山応挙から近代京都画壇へ」 東京藝術大学大学美術館(8月3日〜9月29日)
 *京都国立近代美術館(11月2日〜12月15日)へ巡回。
「没後90年記念 岸田劉生展」 東京ステーションギャラリー(8月31日〜10月20日)
 *山口県立美術館(11月2日〜12月22日)へ巡回。
「美濃の作陶」 サントリー美術館(9月4日〜11月10日)
「バスキア展」 森アーツセンターギャラリー(9月21日〜11月17日)
「大浮世絵展〜五人の絵師の競演」 江戸東京博物館(11月19日〜2020年1月19日)

2019年は改修工事などを終え、再開館する美術館が幾つかあります。うち東京では、都現代美術館が3年の休館を挟み、2019年3月にリニューアルオープンします。それを記念したのが、「百年の編み手たち 流動する日本の近現代美術」と「MOTコレクション ただいま/はじめまして」で、全館規模でコレクションが公開されます。また愛知でも4月に県美術館がリニューアルを終え、「アイチアートクロニクル 1919-2019」で再開し、愛知県の地域コレクションが紹介されます。ともに美術館の核である、コレクションに目を向ける良い機会となりそうです。


現代美術では「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」(国立新美術館)に、「クリスチャン・ボルタンスキー」(国立国際美術館・国立新美術館・長崎県美術館)、「塩田千春展:魂がふるえる」(森美術館)のほか、「バスキア展」(森アーツセンターギャラリー)などに関心が集まるのではないでしょうか。また誌面には記載がありませんが、2019年は、「瀬戸内国際芸術祭」、「あいちトリエンナーレ2019」、「岡山芸術交流2019」などの芸術祭も予定されています。



基本的に掲載情報は、関東、関西の美術館や博物館の大型展が中心です。それ以外の地域や小さな美術館の展覧会は、あまり網羅していません。とは言え、「美術展100ハンドブック」、「2019年美術展・名画カレンダー」、「クリムト・クリアファイル」の付録もついていて、税込820円とはなかなかお得ではないでしょうか。来年の展覧会のスケジュールを大まかに把握するのに、最適な一冊と言えそうです。


「日経おとなのOFF」の美術展特集は、毎年、人気があり、去年も一時、書店で品切れとなったこともありました。まずはお早めに手にとってご覧下さい。

「日経おとなのOFF 2019年1月号 絶対見逃せない 2019年 美術展」
出版社:日経BP社
発売日:2018/12/6
価格:820円(税込)
内容:「絶対見逃せない2019年美術展」。フェルメール、クリムト、マネ、ベラスケス、カラヴァッジョ、ゴーギャン、ゴッホ、若冲、蕭白、北斎---。中野京子と読み解く恐い! ?名画美女。60年ぶりの帰還行方不明だった モネ「睡蓮」。他
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「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」
12/7~12/16



スパイラルガーデンで開催中の「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」を見てきました。

1918年に創業した精密機械メーカー「CITIZEN」は、数々の時計を世に送り出し、今年で100周年を迎えました。

それを記念したのが、「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」で、建築家の田根剛が会場構成、ないしインスタレーションを手がけていました。



スパイラルが再び黄金の時計で華やかに彩られました。それが螺旋状の吹き抜けで展開する「LIGHT is TIME」で、約7万2千個にも及ぶ地板が空中に広がっていました。いずれも照明の効果により、色が変化していて、カーテン状に連なり、隙間から中へ立ち入ることも出来ました。



再びとしたのには理由があります。2014年に同じスパイラルで開催された「CITIZEN LIGHT is TIME ミラノサローネ2014凱旋展」でのことです。同展でも田根は、時計の地板を用いたインスタレーションを出品し、大変に話題を集めました。その人気から、当初の会期が延長されたほどでした。



今回も基本的なコンセプトは同様かもしれませんが、4年前とは構成が異なっていて、前回より空間の横への繋がりを志向しているようでした。かつての展示の記憶を振り返りながら、黄金色に煌めくインスタレーションを楽しむのも良いかもしれません。



さて展示は「LIGHT is TIME」だけに留まりません。ほかにも、時計作りに関した映像や道具を並べ、シチズンの物づくりのプロセスを紹介するコーナーもありました。



寺島修司の「時をめぐる幻想」も目を引くのではないでしょうか。これは寺島がシチズン広報誌に寄稿したテキストの中より、1967年から1979年までの15編を抜粋し、気鋭の画家の描き下ろし絵を加えたもので、今年、シチズンの100周年を記念して出版されました。



さらに「Thinking Time」では、歴代の時計のモデルを展示し、時間を計測すべく、常に新たな技術に挑戦し続けてきたシチズンの歴史を辿ることも出来ました。



会期2日目の土曜に見てきましたが、会場内は盛況でした。ともかく「LIGHT is TIME」の展示が美しく、スマホを片手に撮影している方が多く見受けられました。SNSでも大いに拡散するかもしれません。



会期は10日間です。12月16日まで開催されています。

「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:12月7日(金)~12月16日(日)
休館:無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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「近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」 求龍堂

求龍堂より刊行された「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」を読んでみました。

「生誕130年 佐藤玄々/求龍堂」

明治21年に福島県の相馬で生まれた佐藤玄々(朝山)は、宮彫師の父や伯父に木彫を学んでは上京し、山崎朝雲に入門すると、野菜や小動物などの小像から、大型の歴史人物像など、多様な木彫を制作しました。



その玄々の制作の全貌を紹介するのが、「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」(求龍堂)で、時間を追って足跡を辿りつつ、日本彫刻と西洋彫刻を半ば融合した、玄々の独自に辿り着いた木彫の魅力について明らかにしていました。



玄々といえば、日本橋三越本店の1階のホールにそびえ立つ「天女(まごころ)」が圧倒的に知られていますが、何も当初から巨大な木彫を手がけていたわけではありませんでした。日本美術院の同人に参加し、奈良で仏像を研究したのち、1年半パリに留学した玄々は、ブルーデルの美術研究所に通い、ジャコメッティと交流するなど、幅広い分野の彫刻を吸収しては、制作に活かしていました。



また帰国後に取り込んだ動物の作品も可愛らしく、玄々は馬込の自宅周辺にあった牧場で、鶏やウサギ、それに牛などの動物をよく観察していたこともあったそうです。一連の動物彫刻はフランソワ・ポンポンとの類似性も指摘されていて、筍や白菜などの野菜彫刻は、中国の宋元画の蔬菜図に関連性を見る向きもあるそうです。玄々は「東西のイメージを自在に翻案」(解説より)した彫刻家でもありました。



鳩や鳥、それに蜥蜴なども魅惑的ではないでしょうか。極めて写実的に表された蜥蜴の一方、鳩などはかなり形を大胆に捉えていて、振り幅の広い作風も、玄々の面白いところかもしれません。



はじめに朝山と称していた佐藤が、玄々と号を改めたのは、戦後、昭和23年になってからのことでした。昭和26年に三越の社長より、日本橋本店に設置するための記念像を依頼された玄々は、例の「天女(まごころ)」を構想し、弟子たちとともに制作をはじめました。何せ10メートルにも及ぶ超大作だけに、2年の予定で完成するはずが、結果的に10年の歳月が費やされたそうです。本書においても、「天女(まごころ)」の制作プロセス、そして賛否入り混じった評価などについて、細かに触れていました。



なおまた戦前、戦中に関しては、震災や戦争でアトリエを焼失するなどして、多くの作品が失われました。それも、玄々の評価が定まらない一因と言えるのかもしれません。



「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」(求龍堂)には、図版はもとより、複数の論考や資料写真、さらに年譜、文献目録など、玄々の全てが記されていると言っても良いかもしれません。また玄々は過去の展覧会のカタログが完売しているため、現時点で手に入れやすい資料は、この本しかありません。また酒豪であった玄々の酒にまつわるエピソードも記載されるなど、作家の知られざる生き様も伺うことが出来ました。

最後に玄々の展覧会の情報です。現在、生地である福島県の県立美術館にて、「生誕130年 佐藤玄々<朝山>展」が開催されています。



「生誕130年 佐藤玄々<朝山>展」 (福島県立美術館)
会期:2018年10月27日(土)~12月16日(日)
https://art-museum.fcs.ed.jp

同県では初の大規模な展覧会で、木彫、ブロンズ、石膏原型、墨画など、約100点の作品が公開されています。そして本書も、玄々展の公式図録兼書籍として発売されました。

また展覧会は福島会場終了後、来年1月から3月にかけ、愛知県と東京都に巡回し、計3つの会場で行われます。

「生誕130年 佐藤玄々<朝山>展」 巡回スケジュール
碧南市藤井達吉現代美術館:2019年1月12日(土)~2019年2月24日(日)
日本橋三越本店: 2019年3月6日(水)~2019年3月12日(火)



東京会場は「天女(まごころ)」で有名な日本橋三越本店です。おそらく新館7階の催物会場で開かれます。福島で見るのがベストかもしれませんが、玄々畢竟の大作である「天女(まごころ)」は、当然ながら他会場では公開されません。



来春に東京へやって来る展覧会を前にして、一通り玄々について知っておくためにも、有用な一冊となりそうです。

「生誕130年 佐藤玄々/求龍堂」

「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」は求龍堂より刊行されました。

「生誕130年 近代彫刻の天才 佐藤玄々(朝山)」
出版社:求龍堂
発売日:2018/10/31
価格:2484円(税込)
内容:福島県相馬市に生まれた彫刻家佐藤玄々(朝山)は、抜群の写生力と官能性のある生命力、彫刻の枠を超えたスケールの大きい造形が特徴的な近代木彫の大家。大正から昭和にかけて、平櫛田中、石井鶴三、戸張孤雁、中原悌二郎らとともに活躍。「宮彫師」としての日本伝統の彫刻と、「ブールデル」に学んだ西洋彫刻を融合し、近代彫刻として独自のスタイルを築く。あの巨匠横山大観をして天才と言わしめた玄々の知られざる全貌がわかる初めての作品集。
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