「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン」 東京都美術館

東京都美術館
「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン」
7/21~10/8



東京都美術館で開催中の「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン」を見てきました。

誰しもが食し、日常の生活に根ざしたお弁当。自他の調理を問わず、人気の駅弁しかり、好みの弁当を挙げるとすれば、1つや2つで収まらないかもしれません。

その弁当を入れるための容器、すなわち弁当箱から展示がはじまりました。江戸時代の花火弁当から、明治・大正時代の白陶や楼閣型の弁当箱、また輪島塗りやブリキの手提げ弁当箱、さらにはブータンやポルトガルなど、アジア、ヨーロッパ、アフリカの弁当箱などがずらりと揃っていました。

江戸由来の変わり種として、舟型や碁盤型、宝袋型の弁当箱も面白いのではないでしょうか。国内の弁当箱に関しては、お辧當箱博物館、北区飛鳥山博物館、新宿区立新宿歴史博物館、ないし個人の所蔵で、海外の弁当箱は、国立民族学博物館のコレクションでした。

一部の弁当箱については、触れることも可能でした。見て、触って、意匠に多様な弁当箱を体感的に知ることが出来ました。

さて、後半は、弁当箱から一転し、現代美術家らが登場しました。そもそも弁当は、常に一人で食すわけではなく、宴などの共食の場でも用いられました。また、一人用の弁当箱であっても、作り手と食べる人を繋ぐ、言わばコミュニケーションのツールでもありました。

そのコミュニケーションこそが、展覧会の最大のテーマと言えるかもしれません。おべんとうを切っ掛けに、コミュニケーションの諸問題について取り組んだ、日本と海外の8名の作家が、主に参加型を志向したインスタレーションを出展していました。


小倉ヒラク「おべんとうDAYS」 2018年

「発酵デザイナー」として、発酵菌の働きをデザインとして可視化しようとする、小倉ヒラクは、アニメーションの「おべんとうDAYS」を制作しました。「歌って踊るお弁当」がコンセプトで、ポップなメロディーを聞いていると、不思議と見ている側も踊りたくなるような作品でした。弁当の楽しみは万国共通として、弁当の作る文化の多様性についても踏み込んでいました。

出張料理「あゆみ食堂」として、イベントや展示会などでケータリングを行う大塩あゆ美は、「23人の手紙からうまれたレシピ」を出展していました。これは「お弁当を贈りたいのは誰ですか?」として、全国から寄せられたレシピを元に考案した弁当を写したプロジェクトで、実際に弁当箱ともに投稿者へ送り届けられました。


小山田徹「お父ちゃん弁当」 2017年

美術家、小山田徹の「お父ちゃん弁当」は、小学生の姉が、幼稚園の弟のためのお弁当の指示書を書き、父が弁当に仕立てる記録で、「火山」や「どぶうさぎ」、「みちの下」といった、風代わりな指示を、何とか弁当として作った様子が写されていました。


小山田徹「お父ちゃん弁当」 2017年

そのお題を記入できるスペースもありました。どのようなお題を考えるのかも楽しいのではないでしょうか。


マライエ・フォーゲルサング「intangible bento」 2018年

オランダのイーティング・デザイナーのパイオニアであるマライエ・フォーゲルサングは、「intangible bento」において、お弁当の精霊を頼りに、弁当の中に入りこむインスタレーションを作り上げました。


マライエ・フォーゲルサング「intangible bento」 2018年

「精霊フォン」なる音声ガイドを頼りに、恐らくは弁当の世界観をイメージしたリボンの森の中を歩く体験は、どこか摩訶不思議でもあり、時折、現れる「お弁当の精霊」の囁きから、弁当を巡るコミュニケーションや、社会の環境問題などについて喚起させられました。


マライエ・フォーゲルサング「intangible bento」 2018年

リボンの森は迷路で、ルートも決まっていないため、自由に歩くことが出来ました。弁当を探検する発想からして、新奇と言えるかもしれません。


北澤潤「FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁」 2018年

美術家の北澤潤は、会場内にマーケットを作り上げました。その名は「FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁」で、東南アジアなどの屋台を思わせるブースに、玩具、日用品、装身具、衣服、文房具のほか、古びた扇風機やカセットテープ、さらには一見するとガラクタとしか言えないようなものが所狭しと並んでいました。


北澤潤「FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁」 2018年

実はこれらは、様々な人々からおすそ分けによって集まった品々で、会場でも「おすそわけリスト」に記入し、実際に持ち込むことも出来ました。もちろん持ち帰ることも可能です。


北澤潤「FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁」 2018年

おすそ分け用の箱まで用意されていましたが、中には車でなければ持ち帰れないほどに大きいものもありました。


北澤潤「FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁」 2018年

北澤は弁当について考えていた時、インドネシアの島に滞在していて、日本の弁当とは、中身や所作のかけ離れたものの間にある、「おなじ」を探したかったと語っています。


北澤潤「FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁」 2018年

まさに「おすそわけ」こそ、モノを繋いでの、人同士のミュニケーションではないでしょうか。何か持ち込むものを持って出かけるのも良いかもしれません。


「BENTO おべんとう展」会場風景

最初に「おべんとう展」なる展覧会が開催されると聞いた際、率直なところ、内容について全く想像も出来ませんでした。しかしながら、現代アーティストらの切り口には創意があり、意外な発見も少なくありません。思いの外に楽しめました。



同時開催の「没後50年 藤田嗣治展」のチケットを提示すると、当日料金から一般300円引きとなります。


一部の作品のみ撮影が出来ます。10月8日まで開催されています。

「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン」@bento_tobi) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:7月21日(土)~10月8日(月・祝)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *11月1日(水)、2日(木)、4日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。9月18日(火)、25日(火)。但し8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開館。
料金:一般800(600)円、大学生・専門学校生400円、65歳以上500円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
*10月1日(月)は「都民の日」により無料。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」
8/3~8/26



資生堂ギャラリーで開催中の「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」を見てきました。

1980年に生まれた宇多村は、ロンドン大学を卒業後、しばらく同地に滞在し、「文明の進歩」(解説より)を考察すべく、映像やパフォーマンス、それにインスタレーションを制作してきました。



会場に忽然と現れたのが、大きな黒い箱で、展覧会のタイトルでもある「Holiday at War」、すなわち「戦争と休日」と名付けられた作品でした。青白い光に包まれていて、ちょうど上から3分の1付近に写真がはめ込まれていました。近づくとリゾート地のホテル、あるいはマンションのような施設が写されていることが分かりました。



その部分は、まるで灯台の明かりのような光の旋回によって、明るくなったり、暗くなったりしていて、ぐるりと一周、追いかけていると、海辺のリゾートの大パノラマを前にしているかのようでした。しかし、その時点で、そもそも一体、どの場所を表しているのか、皆目、見当もつきませんでした。



箱の周囲の壁にヒントがありました。と言うのも、そこには宇多村による、日本語と英語のテキストが2段で記されているからでした。

「私は海に沿って歩いている。ドイツのリューゲン島のプローラという地にある浜辺だ。海岸の目の前には、4.5kmの長さに及ぶ巨大な建物がそびえ立っている。」 *会場のテキストより



それは、古くからの保養所でもあったバルト海に面したリューゲン島に、ナチスが築き上げた、4.5kmにも伸びた建物でした。ナチスは、プロパガンダのために、労働者のリゾートを作るべく、一連のビルを建設し、約2万名もの人々が休暇を過ごせるように計画しました。しかし、第二次世界大戦がはじまると、建設は中止され、一時は疎開した人々を受け入れたものの、ソビエト軍によって占領されると、基地として使用されました。その後、結果的にビルは長らく放置されました。「プローラの巨人」とも呼ばれていたそうです。



しかし、2006年頃、再利用の計画が持ち上がり、2011年には一部に宿泊施設が開業しました。つまり、その光景が、窓の部分に写されていたわけでした。



「プローラの巨人」の建築家をコンペで選んだのが、ヒトラーの寵愛を受けた、アルベルト・シュペーアでした。彼は、ナチスの党主任建築家として活動し、パリ万博のドイツ館やニュルンベルクの党大会会場を設計した上、政権では軍需相を担ったこともありました。



その後、戦争が終結すると、ニュルンベルク裁判で起訴され、戦犯として20年の禁固刑を言い渡されました。そしてシュペーアが投獄された独房と、余暇のためのプローラの部屋のサイズが、殆ど同じであり、その部屋こそが、まさに会場に置かれた黒い箱と同じ大きさでした。

「黒い箱と壁との間の空間を、私は「人類の彼岸」と呼びます。この作品では、鑑賞者は、歩きながら、時空間を越え、思考する歩行者になっていくでしょう。」 *解説より



一つのシンプルな黒い箱からは、予想もし得ないような、時間を超えた、大きな物語が紡がれていました。宇多村は自らの展示手法を「空間シネマ」と呼んでいるそうですが、巡り行く景色を追っていると、確かに一つの映画に入り込むかのような錯覚に陥りました。

「第12回 shiseido art egg展」
冨安由真展:6月8日(金)~7月1日(日)
佐藤浩一展:7月6日(金)~7月29日(日)
宇多村英恵展:8月3日(金)~8月26日(日)


8月26日まで開催されています。 *写真は全て「Holiday at War」

「第12回 shiseido art egg 宇多村英恵展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:8月3日(金)~8月26日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料。
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ」 世田谷文学館

世田谷文学館
「ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ」 
7/14~9/17



世田谷文学館で開催中の「ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ」を見てきました。

1948年に東京で生まれ、アートディレクターや映画監督としても活動する信藤三雄は、数多くのミュージシャンのCDジャケットを手がけ、延べ1000枚も作り上げました。



ジャケットが世田谷文学館の展示室を埋め尽くしました。ともかく右を向いても、左を向いても、無数のジャケットが連なっていて、CDに限らず、レコードもありました。空間のプロデュースは信藤三雄が自ら行い、会場デザインを、舞台美術や住宅設計などで知られる、建築家でデザイナーの遠藤治郎が担いました。



信藤は、1984年、松任谷由実のシングルのデザインを担当し、本格的にジャケットのデザインの仕事に関わるようになりました。その後、ピチカート・ファイヴのシングル、「ピチカート・ファイヴ・イン・アクション」をきっかけに、ピチカートの多くのCDやレコードのアートディレクションを手がけました。



そしてサザンオールスターズ、Mr.Children、MISIAなどのデザインも行い、同時代の音楽シーンをデザインの面からも牽引しました。いずれもヒット曲が多く、馴染みのあるジャケットも少なくありませんでした。



ライターの故・川勝正幸は、信藤三雄をして、「ミュージシャンと一緒に走っている勢いがデザインにもある。要するに同時代性を感じさせる」(*)と評したそうです。*展覧会リリースより



私も10代や20代前半の頃、Mr.ChildrenやMy Little LoverのCDを購入しては、繰り返し聞いていたことを思い出しました。



若い頃に聞いた音楽は、同時代の体験とともに、耳と体に染み付いているものです。ジャケットを前にすると、かの頃の、どこか甘酸っぱく、懐かしい思い出が、色々と蘇ってくるのを感じました。



信藤が監督したミュージックビデオの映像も上映もありました。(全8本)さらに書道家としても活動していて、作品の展示も行われていました。



会場内、動画、フラッシュ以外であれば、全ての撮影も出来ました。



ネット配信が主流となりつつある中、「ジャケット買い」なる言葉は、死語となりつつあるかもしれません。しかし、信藤三雄のジャケットの生み出した、力強いまでの熱気に、終始、圧倒されました。


9月17日まで開催されています。

「ビーマイベイビー 信藤三雄レトロスペクティブ」 世田谷文学館@SETABUN
会期:7月14日(土)~9月17日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月16日(月・祝)および9月17日(月・祝)は開館し、7月17日(火)は休館。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般800(640)円、大学・高校生・65歳以上600(480)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:世田谷区南烏山1-10-10
交通:京王線芦花公園駅より徒歩5分。
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「いちばんやさしい美術鑑賞」 青い日記帳

アートブロガーの草分け的存在で、いつもお世話になっている「青い日記帳」のTak(@taktwi)さんが、8月6日、ちくま新書より「いちばんやさしい美術鑑賞」を上梓されました。

「いちばんやさしい美術鑑賞/青い日記帳/筑摩書房」

「いちばんやさしい美術鑑賞」は、年間、数百の展覧会をご覧になり、日々、ブログ「青い日記帳」を更新されているTakさんが、「美術の骨の髄まで味わいつくす」べく、書かれたもので、構想から2年越し、全250ページにも及ぶ、大変な労作になっています。



内容は、大きく「西洋美術を見る」と、「日本美術を見る」の二本立てで、グエルチーノ、フェルメール、モネ、セザンヌ、ピカソ、それに雪舟、光琳、若冲、松園など、各作家の作品を引用し、Takさんならではの鑑賞のコツ、ないし楽しみ方をまとめていました。全ての作品が、国内の美術館のコレクションであるのも特徴で、本を読んだ上、実際の作品を鑑賞するのにも、あまり障壁はありません。また、おおまかに年代順に取り上げられているため、美術の流れを掴み取ることも出来ました。



はじまりの第1章は、グエルチーノでした。2015年の春に国立西洋美術館で回顧展が開催され、Takさんの言われるように、一般的に「聞いたこともない画家」でありながらも、作品の第一印象を大切して見る点や、キャプションの読み方などについて触れ、画中の「手」こそ、鑑賞のポイントであると書かれています。



いわゆる美術の解説本ではないのが、最大の特徴と言えるかもしれません。前書きに、「素人による素人のための指南書」と記されているように、Takさん独自の視点から、美術の見かたのヒント、ないしコツについてのアドバイスをされています。筑摩書房の編集者である大山悦子さんも、「美術史家の書くことはか書かなくて良い。あくまでも鑑賞術を書いて欲しい。」として、Takさんに執筆を依頼されました。よって、編集の段階で、Takさんの書かれた専門的な内容の部分を、あえて削ることもあったそうです。



そもそも執筆の切っ掛けになったは、先に三菱一号館美術館の高橋明也館長が上梓した「美術館の舞台裏」にありました。ここで、打ち上げと題し、Takさんを交えた飲み会的な会合で、大山さんから新書執筆への依頼がなされました。当初、Takさんも社交辞令と思っていたものの、その後、正式にメールでお願いがあり、書くことを決めたそうです。

元々、大山さんはTakさんのブログを読んでいましたが、「美術館の舞台裏」が、「青い日記帳」に取り上げられたことにより、爆発的に本が売れたと言います。そこで、「青い日記帳」の勢いを目の当たりにした大山さんは、ブロガーでもあるTakさんのような、プロではない視線による美術の本があれば面白いのではないかと思い、筆をとってもらうことになりました。ブログで、「アート好き」が前面に出ていることに、とても好感を持たれていたそうです。



執筆に際しては、まず第1章、すなわちグエルチーノの章から書かれ、一部に構成上の入れ替えがあったものの、順番通りに15章まで書き進められました。第1章が完成した際、大山さんは、率直に面白いと感じられたそうです。また、写真作品(グルスキー)や浮世絵を入れるのかについて、色々と議論があったものの、最終的にはTakさんが書きたい作品で、章立てが決まりました。

しかし、さすがに紆余曲折あり、当初の期日であった2017年の8月末に間に合いませんでした。中でも、第12章の曜変天目は時間がかかり、最後の最後まで取り掛かっていたそうです。しかし、そもそも大山さんは、腰を据えて書くのであれば、新書は2年ほどかかると言い、結果的に、7~8回は熟読の上、校閲へのチェックがなされました。編集に際しては、内容を縮小するよりも、節を入れ替えるなどの、再構成が多かったそうです。

Takさんが、15作品にて、特に好きに書いたのが、第11章の若冲で、セザンヌも積極的に進めたものの、大山さんは面白さを伝えるのが難しいと考えておられたそうです。また、第9章の永徳も楽しく筆が進み、第13章の並河靖之は、当初、大山さんは不要と考えたものの、東京都庭園美術館での展覧会を見て、書いてもらうことが決まりました。元は224ページで構想され、最終的には250ページに達しました。



現代美術では、美人画で有名な池永康晟さんが取り上げられました。ここでTakさんは、池永さんについて、「昔の浮世絵につながる(美人画の伝統や系譜)を現代版にアレンジされている」と言い、美人画に新しい流れが生まれていると指摘されました。第11章の上村松園から、最終、第12章の池永康晟さんへの展開は、美人画の系譜を追う点でも、興味深いかもしれません。

本書の核心は鑑賞のアドバイスにありました。「美術鑑賞は妄想のラビリンス」、「モネ絵画の抜け感」、「たくさん見ることこそ面白さに繋がる」、「複眼的な視点で立体的に鑑賞する」、またあえて「好きか嫌いかで見る」や、「作品の一つの色に着目して見る」、「分からない作品はとことん付き合って見る」、などは、長年、ファンとして美術に接してきた、Takさんならでのオリジナルな視点ではないでしょうか。また、曜変天目には炊きたての白米を盛り付けたいとされるなど、作品から様々なイメージを膨らませて見る点も、面白く感じられました。



また「WEBで一目惚れ」し、実際の作品を見ることの意味を書かれるなど、美術とWEBとの関係にも踏み込まれていました。この辺りは、常日頃、ブログで、美術について書きとめられているTakさんの姿勢が現れているのかもしれません。

本編とあわせて、2つのコラム、「便利な美術鑑賞必需品」と、「美術館の年間パスポート」も、エンタメとしての美術の見かたを知る際に有用でした。クリアファイル、単眼鏡などは、私も常に持ち歩くようにしています。

たまにTakさんと展覧会をご一緒していると、初めから漫然ではなく、要点を絞って見ておられる印象があります。この「いちばんやさしい美術鑑賞」も同様で、温和な語り口ながらも、時に熱が入り、かと思えば、さり気なく脱線的なエピソードを交えるなど、実にメリハリのある内容になっていました。ブログ同様に、読み手を引き込む文章で、相当の量ながらも、最初から最後まで、一気に読むことが出来ました。

編集の大山さんは、本書を読み、やはり「アート鑑賞は作品への愛がないと駄目だということをよく学んだ。」とし、改めて作品を見る面白さを学んだと語っています。そして、新書という形態を取ることで、美術に関心が薄い人にも、気軽に読まれることを望まれました。



なお、内容は前後しますが、本の刊行に際し、「青い日記帳」のTakさんと、編集を担当された筑摩書房の大山悦子さんに、書籍の内容や、刊行へ至った経緯、さらにはTakさんの個人的な美術への関心などについてインタビューしました。

その詳細は、同じくインタビューを行った、@karub_imaliveさんの「あいむあらいぶ」に前後編へ記載されています。

ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(前編)
ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(後編)

2時間以上のロングインタビューとなりましたが、たくさんの興味深いお話をお聞きすることが出来ました。あわせてご覧下さい。(本エントリでもインタビューを反映してあります。)


なお、刊行に合わせ、Takさんのトークショーも、各種、開催されます。

【『いちばんやさしい美術鑑賞』×美術書カタログ『defrag2』ダブル刊行記念トークイベント カリスマ美術ブロガーが語る《もっと美術が好きになる!》】
日時:2018年08月17日(金) 19:30~
出演:中村剛士(アートブログ「青い日記帳」主宰)、ナカムラクニオ( 「6次元」店主・アートディレクター)
会場:ジュンク堂書店池袋本店 9Fギャラリースペース
住所:東京都豊島区南池袋2-15-5
参加費:無料
申込み:要予約。ジュンク堂書店池袋本店1階サービスコーナーもしくは電話(03-5956-6111)にて。
URL:https://honto.jp/store/news/detail_041000026934.html

まずは、ジュンク堂書店池袋本店でのトークで、6次元のナカムラクニオさんを迎え、「いちばんやさしい美術鑑賞」と美術書カタログ「defrag2」について語られます。事前の予約が必要です。(無料)*本イベントは定員に達したため、受付が締め切られました。

【美術館に出かけてみよう! ~いちばんやさしい美術鑑賞~】
日時:2018年8月29日 19:00~20:30
出演:『青い日記帳』Tak氏(中村剛士氏)、株式会社筑摩書房 編集局第一編集室 大山悦子氏
会場:DNPプラザ(市ヶ谷)セミナー会場
住所:東京都新宿区市谷田町1丁目14-1 DNP市谷田町ビル
集客人数:100名(先着順)
参加費:無料
URL:https://rakukatsu.jp/maruzen-event-20180806/

申込みは下記のURLから↓↓
https://peatix.com/event/416560/view

続くのが、「いちばんやさしい美術鑑賞」の編集者である大山悦子さんを迎えてのトークで、本の内容に触れながら、西洋、日本美術を問わず、Takさんおすすめのアート鑑賞法などについて語られます。出版に際しての苦労話などがお聞き出来そうです。


インタビューに際し、Takさんから読者の皆さんへのメッセージを頂戴しました。

takさん:一つのきっかけになってくれればいいなと。これの見方は、正しいとか、正しくないとか、これをしなくちゃいけないと強制的なものではなくて、こんなふうにしたらいいんだよ的な感じで書いてあるので、真似する必要は全然ないんですけど、この本を読んで、もし面白いなと思ったら、実際に絵の前に立って見て下さいね。

まさに、美術鑑賞の見かたを楽しく学び、新たなヒントを与えてくれる「いちばんやさしい美術鑑賞」。私も改めて熟読の上、作品や絵の前に立ってみたいと思いました。

「いちばんやさしい美術鑑賞」(ちくま新書)「青い日記帳」著 
内容:「わからない」にさようなら! 1年に300以上の展覧会を見るカリスマアートブロガーが目からウロコの美術の楽しみ方を教えます。アート鑑賞の質が変わる必読の書。
新書:全256ページ
出版社:筑摩書房
価格:994円(税込)
発売日:2018年8月6日
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「棚田康司 全裸と布」 ミヅマアートギャラリー

ミヅマアートギャラリー
「棚田康司 全裸と布」
8/1〜9/1



ミヅマアートギャラリーで開催中の「棚田康司 全裸と布」を見てきました。

1968年に兵庫県で生まれ、一木にて少年少女の像を作り続けてきた棚田康司は、今回の「全裸と布」に際し、以前とは異なった大人の裸婦像を出展しました。



ぐるりと空間を一周、取り囲むように並ぶのが、一連の裸婦像で、木の豊かな質感を露わにしていました。しかし、目を凝らすと、細部に小さな金属板のような欠片で、装飾がなされていることも分かりました。



その多くは、タイトルが示すように全裸で、一部には布をまとっている像もありました。また、中にはトルソーであったり、木の表面に絵具のような液体が塗られていることも見て取れました。さらに、爪にはマニュキュアのように色がついている像もいました。



「力強く世界を立ち上げる」(*)という言葉が、心に響きました。祈りや平穏とともに、何とも言い難い生命感を感じたのは私だけでしょうか。やや誇らしげな面持ちで、上を見据える裸婦の姿からは、どこか内面の強い意思が滲み出ているようにも見えました。



棚田の展覧会で思い出すのが、2012年に練馬区立美術館で行われた「棚田康司 たちのぼる。展」でした。

「棚田康司 たちのぼる。展」 練馬区立美術館(はろるど)

旧作から新作の木彫、またスケッチを交えた、大規模な個展で、明暗のある空間を効果的に用い、各々の木彫が、どこか関係し合うかのように置かれていたのが、とても印象に残りました。青幻舎より作品集も刊行されました。



棚田は、昨年夏に伊丹市立美術館で開催されたO JUNとの二人展で、「結果的には辟易するほどに自分自身と向き合う機会になった」(*)と振り返っています。



新たな展開を示す展覧会と言えるかもしれません。あどけない少年や少女とはまた違った、美しい裸婦の姿にも魅力を感じました。


9月1日まで開催されています。おすすめします。*「」内はギャラリーサイトより

「棚田康司 全裸と布」 ミヅマアートギャラリー@MizumaGallery
会期:8月1日(水) 〜 9月1日(土)
休廊:日・月・祝。夏季休廊:8月11日(土)〜15日(水)。
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2階
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ヶ谷駅出口5より徒歩5分。JR線飯田橋駅西口より徒歩8分。
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