常設コレクション@笠間日動美術館

先日、企画展の「佐伯祐三展」についてあれこれ書きましたが、この美術館の真の魅力はそれに続くコレクション展にあります。笠間日動美術館の常設展示です。

  

同美術館は笠間市街地より東の小高い丘に位置しますが、敷地内には佐伯展会場の企画展示館の他、竹林の覆う芝生斜面を利用した野外彫刻庭園、アメリカ現代美術と珍しいパレットのコレクションがある日本・アメリカ館、それに所蔵品の中核を占めるエコール・ド・パリの作品を紹介したフランス館と、計4つの展示スペースが並んでいます。全体の面積はそれほどでもありませんが、じっくり見て歩けば企画展を除いてもゆうに1~2時間はかかるほどです。(上の三点の写真はパンフレットより転載。左より企画展示館、フランス館、日本・アメリカ館。)

  

企画展示館より竹林の小径を経由して広がる野外彫刻庭園とは、主に国内の作家の具象彫刻、計19体の並ぶ、文字通り戸外の展示場です。鬱蒼とした木立を背景にした彫刻が、まさに森林浴をするかのような面持ちにて立ち並んでいます。もちろん本郷新、舟越保武などお馴染みの作品も健在です。彫刻を緑や花々を借景とすると、また館内で見るのとは別の味わいが感じられました。

 

彫刻庭園を降り、向かって左手に位置する5階建ての建物が日本・アメリカ館です。ここでは主に日本の近代絵画と現在の洋画界を牽引する作家が紹介されていますが、それよりも印象深いのは、この美術館の極めて個性的なコレクションとしても世に知られる、画家のパレットの一覧展示です。その数は何と約350点。時に絵あり、またデコレーションありといったパレットには、それぞれの画家の個性が反映されていて興味深いものがありました。またフランス館、企画館も同様ですが、各階を結ぶ階段の踊り場には、彫刻の小品などがさり気なく置かれています。移動にはもちろんエレベーターが便利ですが、階段を利用することで思わぬ楽しみを得ることが出来るというわけです。

 

常設でも最も充実しているのは、やはり印象派よりエコール・ド・パリと続くメインのフランス館ではないでしょうか。モネ、ドガ、ルノワール、ゴッホ、ボナール、マルケ、藤田、ピカソ、シャガールなどと、かの時代を作り上げた大家の作品が一揃え展示されていました。ここで個々の作品を挙げるとキリがありませんが、私が特に見入ったのは、まるでシャガールのような幻想性をたたえたエルンストの「夢創りの達人」と、ちょうど一階正面入口にあるポリエステル製の奇怪なオブジェ、デュビュッフェの「4つの標的」です。彼の彫刻は殆ど見たことがなかったので新鮮味があります。またデッサン室でのルドンのパステルやマグリットの水彩なども印象深い作品でした。

笠間日動美術館も先立ってご紹介した市内の県陶芸美術館同様、最寄りの笠間駅から歩くには少々距離があります。(約2キロ程度。)バス、タクシー、またはレンタサイクルがおすすめです。

   

日動と聞くとすぐさま銀座の画廊を思い浮かべますが、まさかこの笠間の地(創業者長谷川氏ゆかりの地だそうです。)にこれほど魅力のある美術館があるとは知りませんでした。企画展示抜きでも一見の価値があるコレクションです。

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
「没後80年 佐伯祐三展 鮮烈なる生涯」 笠間日動美術館
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「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日音楽祭)2008」が開幕

国際フォーラムの本公演は2日からですが、本日より周辺エリア(丸の内界隈)の関連イベントが始動しました。今年4回目を迎える都心のゴールデンウィークの風物詩、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008」です。それに先立ち、今日行われた丸ビルでのオープニングセレモニーを覗いてきました。



アートアワードを見るついでに少し立ち寄った程度なので何とも申せませんが、ミニコンサートを除けば、関係者、来賓の挨拶等、ごくごくオーソドックスなセレモニーだったと思います。ちなみに撮影は厳禁(カメラを構える観客にスタッフがわざわざ注意する熱の入れようで少々物々しかったです。とは言え、撮影する対象は多くありませんが…。)でしたが、少し雰囲気をと思い、遠景を一枚だけ撮りました。スタッフを含めると、100~200人の方々は集まっていたのではないでしょうか。



さて肝心のチケットについてですが、大まかに括れば既に全日のAホール、もしくはCホールを除いて完売状態にあります。(詳細はぴあをご参照下さい。)今日も有楽町のボックスオフィスには行列が出来ていましたが、昨年を上回る早い出足でチケットがはけているのは間違いありません。(去年は後半ならBホールに残席もありました。)とは言え、実際に音楽祭が始まると、お馴染み屋台村をはじめ、地上広場のミュージックキオスクなど、チケットを持っていなくても楽しめる企画もいくつか用意されています。また昨年同様、半券一枚あれば入場可能な地下のステージでは無料コンサートが終日行われます。(追記:5/2 15:30~にはウィーン少年合唱団が出演するそうです。)Aホールなら当日でも間に合いそうなので、買い物のついでなどにぶらり寄ってみるのも良いのではないでしょうか。



私は2、5、6日と参戦する予定です。(公演番号2日、152、163、124、135。5日、443、454、425。6日、535、546。)

*関連リンク
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン公式レポート
史上最大のクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」が開幕(ぴあ)
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「没後80年 佐伯祐三展 鮮烈なる生涯」 笠間日動美術館

笠間日動美術館茨城県笠間市笠間978-4
「没後80年 佐伯祐三展 鮮烈なる生涯」
3/6-5/6



没後80年(生誕110年)を迎えた佐伯祐三の画業を、主に生地大阪の市立近代美術館準備室のコレクションで辿ります。笠間日動美術館で開催中の佐伯祐三の回顧展へ行ってきました。

 

展示はごく簡単に佐伯の絵画を年代別に並べていくものでしたが、とりわけ興味深いのが各時代、特に場所に連動して見られる表現の違い、つまりは留学中パリや一時帰国後の日本、そして再渡仏後、最晩年のパリ郊外モランなどで描いた作品におけるその変遷です。師ヴラマンクやセザンヌの影響を思わせる「風景」(1924)や「パレットを持つ自画像」(1924)を経由して生まれたのは、お馴染みパリの街角を徐々に文字で埋め尽していく「自動車小屋」(1925)や「パリ雪景」(1925)でしたが、そこに頻出する石造りの建物を表した重厚なマチエールが日本に置き換えられると、例えば「下落合風景」(1926)のような軽みを帯びた、力強さの抜けた半ば日本画風の表現になっています。結局佐伯は、フランスと日本のモチーフの違いを消化出来ず、僅か1年余りで再びパリへと舞い戻りますが、『佐伯スタイル』とも言える固定化されたイメージの中に、これほど多様性を持っていたとは思いもよりませんでした。そしてまたその多様な表現は、彼の早過ぎる死のために僅か2年余りで終える2回目の渡仏期でも見ることが出来るわけです。

 

薄汚れた壁面に激しく書かれた文字にどことない異邦人の寂しさを思う「広告」(1927)や、同じく書きなぐられた仏語に画家の疎外感を見る「新聞屋」(1927)でパリの半ば暗部を抉った佐伯はやがて病魔に襲われますが、この時期の彼の心象風景を見る作品として挙げられるのが、傾く煙突にひしゃげた建物の並ぶ「工場」(1928)でした。全体は押しつぶされて崩れているように歪み、その病んだ風景は痛みに体をくねらせて耐える人のような気配をたたえています。また前方を阻むかのように隙間なく横たわる壁面には、行き場のない者の孤独感を見るようにも思えました。



モランへと移った佐伯の世界はまた別の方向へと変化します。彼は滞在中、窓から見えた教会を好んで描いたそうですが、見通しの良いモランの丘を示す「村と丘」(1928)などは、ふと力の抜けた流れるようなタッチにて、長閑な村の日常をどこか映像的に表現していました。そして最晩年の佐伯は、そのような軽妙さとは相反する、これまでには見出しにくい構図、またモチーフとも厳格な作品が登場します。それが「煉瓦焼」(1928)です。赤茶けたレンガづくりの家が真正面から描かれていますが、屋根を覆う太い輪郭線などは、かつての佐伯には少ない事物の堅牢さが感じられました。これはもはや自らの死期を悟った佐伯が、半ば焦りつつ、逆に対象を執拗に絵に取り込もうとした格闘の痕跡なのかもしれません。

最後の一枚「扉」(1928)には言葉を失いました。佐伯に開かれている冥界への扉にしか見えません。

5月6日までの開催です。またゴールデンウィーク明けの10日からは、横浜のそごう美術館へと巡回(5/10-6/22)します。

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
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「華やかな日本刀 備前一文字」 大倉集古館

大倉集古館(港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ東京本館正門前)
「華やかな日本刀 備前一文字」
4/6-5/18



チラシは華やかさとは無縁のシックなものですが、少なくともこれまでに見た刀関連の展示では一番楽しめました。国宝7点、重文18点という豪華なラインナップ(全50点)にて、鎌倉時代に頂点を極めた備前国一文字派を概観します。大倉集古館で開催中の表題の展覧会へ行ってきました。



まず刀に対する知識が全くない私にとって、「備前一文字」とは何ぞやという部分からはじめなくてはいけません。これは鎌倉時代初期、備前国にて則宗より吉房、則房、助真らと続き、後鳥羽院の御番鍛冶までもを務めたという名工で、後に承久の乱にて北条氏に権力が移った後も、その庇護に入って鎌倉武士の気風に支えられた力強い太刀を作り出したという、日本刀の中でもとりわけ華やかな作品で知られる流派だそうです。備前国一文字派は鎌倉時代の終焉とともにその活動も終えていきますが、この展示では、時代を追いながら変化していく名工の技を存分に楽しむことが出来ます。

御番鍛冶時代、院で作られた刀には菊の紋が入れられたそうですが、中でも上皇自らがその紋を焼き入れたという菊御作はさすがに見応えがあります。三点のうちとりわけ印象深いのは「太刀 菊御作(作品番号15)」です。太く、どっぷりとした刃身は重みがあり、先端部は長細く収斂してどことない緊張感をたたえています。また備前国一文字派は最盛期、月毎に決められた御番鍛冶12名のうち7名を独占していたそうですが、(毎月刀工を召して刀を作らせていた。)その中では「太刀 宗忠(作品番号10)」に魅力を感じました。全体的に細身で鋭く、輝きもダイヤモンドのように美しい光を放っています。刃身の片側につけられた凹みもまた怜悧な印象を与えていました。



北条氏に権力が移行し、名実ともに武家政権の時代が到来すると、刀はより鍛錬されることが要求され、太刀そのものの質が高められていきます。ここではまさに勇壮さの極みとも言えるような「太刀 助包(作品番号23)」が見事です。刀身の長くて堂々とした様子、または胡蝶紋の鞘の蒔絵も華やかさが感じられました。それにこの時代の作品として、後に小牧長久手の戦いで織田信雄が家老岡田助三郎を敵に内通していたとして斬ったとされる「太刀 吉房 号岡田切(作品番号24)」や、日露戦争期、東郷平八郎が指揮剣として使用したという「太刀 額銘吉房(作品画像27)」なども紹介されています。茶道具などと同様、様々な人間の手を経由して受け継がれた刀は歴史の生き証人でもあるわけです。

製造工程を写真等で解説するコーナーも刀への理解を助けてくれました。実際のところ私は、刀をどう見て感じれば良いのが途方に暮れるくらい分かりませんが、そのような苦手意識も少し払拭出来たような気がします。

今月18日までの開催です。(三島の佐野、岡山の林原の両美術館よりの巡回中の展覧会です。大倉の後は名古屋の徳川美術館で開催されます。5/24-7/6。)
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「コレクション展 近現代日本陶芸の巨匠たち」 茨城県陶芸美術館

茨城県陶芸美術館茨城県笠間市笠間2345 笠間芸術の森公園内)
「コレクション展 近現代日本陶芸の巨匠たち」
2/5-6/1



茨城は笠間芸術の森公園の中にある、県陶芸美術館の常設展示を拝見してきました。



この美術館の位置する茨城県中部の町、笠間は、江戸時代より続く焼き物の故郷としても知られていますが、今回のコレクション展では当地より目を県内全域に広げ、茨城と所縁のある陶芸作家の作品(約80点)を展示しています。そして中でも重点の置かれているのが、下館、現筑西市出身の板谷波山(1872-1963)と、生まれこそ長野であるものの、戦時中に笠間へ疎開してきた縁もある松井康成(1927-2003)の作品です。あのミルク色にお馴染みの波山、もしくは「練上」といわれる技法を駆使して、独自の抽象表現を生む松井の作をともに約20点ほど楽しむことが出来ました。



松井康成の作品をこれほど見るのは初めてでしたが、展示品中でもとりわけ惹かれるのは、モノトーンの色合いも美しい器にゆらゆらとした線が波紋上に広がる「練上線文鉢」などでした。そもそも練上とは、色の異なる土を重ね合わせることで模様のある素地をつくり、成形する陶芸技法だそうですが、その色の異なる土が巧みに混じり合い、また溶け合いながら一つの紋様が生まれる様子が何とも興味深く感じられます。私のような素人にはつい絵付けでもしたのではないかと思ってしまいますが、例えば表面にあえて傷をつけ、それを膨らませることで模様をつくるという象裂と呼ばれる技法の作品には、抽象画を見るかのような味わいすら感じられました。土の元来に持つ色や形などの奥深さを見ることが出来ます。

 

波山ではまず、ミルク色に灯る「葆光彩磁葡萄紋様花瓶」や、魚が器の空間で仲良く向き合う「葆光彩磁赤呉須模様鉢」などに魅力を感じましたが、あまり見慣れない青磁による口の長い瓶の「青磁瓢花瓶」や、アール・ヌーヴォーの影響も濃いという葉の紋様も鮮やかな「彩磁八ツ手葉文鉢」にも見入るものがありました。またかの出光興産の創業者である出光佐三が、これを見て波山のコレクションを開始したという半ば伝説的な「氷華磁仙桃文花瓶」も展示されています。吉祥の画題でもある大振りの桃が瓶いっぱいに配された花瓶です。その重みを感じました。

波山、松井の他は、富本憲吉や三輪壹雪などが紹介されていました。またこの展示より続く常設展示2室では、現代の陶芸作家による「現代茨城の陶芸展」も合わせて開催されています。陶芸の火を絶やさすことなく今も続く、焼き物の町笠間ならではの企画と言えるのかもしれません。(また企画展示室では「人間国宝 荒川豊蔵展」を6月22日まで開催中です。下はそのちらしです。)



美術館を含む「笠間芸術の森公園」そのものが、一種の工芸のテーマパークのような様相を呈しています。隣接の工芸の丘では、陶芸体験なども随時行われているようでした。

  

最寄りの笠間駅から陶芸美術館へ歩くと、最短ルートを使ってもおおよそ30分以上はかかってしまいます。本数はかなり少なめですが、笠間市内を周遊する100円バス、もしくはタクシーを利用するか、駅前のレンタサイクルを借りるのが無難です。(自転車なら大通りを使っても10~15分程度でした。)

常設展示「近現代日本陶芸の巨匠たち」展は、6月1日までの開催です。

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
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「開館20周年・美術館設立60年記念 所蔵作品選 175/3000」 茨城県立近代美術館

茨城県立近代美術館水戸市千波町666-1
「開館20周年・美術館設立60年記念 所蔵作品選 175/3000」
4/19-5/25



半年間の空調改修工事を終えてリフレッシュオープンした同美術館による、全館規模のコレクション名品展です。約3000点にも及ぶという所蔵作品より、近代日本画、洋画、版画、陶芸、または戦後美術など、選りすぐりの175点が一堂に会しています。

構成は以下の通りです。ご当地の作家、横山大観、中村彝、小川芋銭らの展示が際立っていました。

プロローグ「美術館の歩み」:五百城文哉「袋田の滝」など。3点。
第1章「明治初期の日本画」:橋本雅邦、松本楓湖など。6点。
第2章「横山大観と五浦の画家たち」:横山大観「春曙・秋夜」、下村観山「竹林七賢図」、菱田春草「落葉」など。左記の代表作を含む約10点。
第3章「明治の洋画」:浅井忠、黒田清輝、藤島武二ら。8点。
第4章「中村彝とその周辺」:水戸生まれの画家、中村彝の作品(8点)他。
第5章「西洋美術」:クールベ、モネ、シスレー、ドーミエなど約10点。
第6章「小川芋銭」:茨城県牛久の画家、「河童の芋銭」こと小川芋銭の墨画、淡彩を展示。10点。
第7章「大正から昭和戦前期の洋画」:萬、梅原、安井、岸田、須田、里見、岡など。約25点。
第8章「近代の日本画」:竹内栖鳳、小林古径、奥村土牛、速水御舟など約15点。
第9章「板谷波山と茨城の工芸」:県陶芸美術館蔵の波山作品など。約5点。
第10章「永瀬義郎と創作版画」:桜川市出身の版画家、長瀬とその周辺。恩地、浜口など。13点。
第11章「戦後美術の展開」:具象、抽象、立体を問わず、戦後の日本美術を辿る。約45点。



まず圧巻なのは誰もが知る水戸出身の巨匠、横山大観の二点の大作、「春曙・秋夜」(1905)と「朝霧」(1934)です。前者では、冷ややかな空気感と凛と佇む松林などがお馴染みの朦朧体によって描かれ、後者ではあたかも「生々流転」を見るかのような川辺の光景が、白桜や松林も細やかなタッチにて見事に表現されています。また、その二点の大観にも引けを取らない存在感を示しているのが、菱田春草の「落葉」(1909)です。こちらも春草の代表作として挙げられる充実した作品ですが、視点を低く捉えた、どこか図像的にも感じる木立の光景が、一枚一枚に異なった色遣いで示された落葉などとともに静かに表されています。また全体を包み込む淡い色彩感、例えばその場の霧などを感じる霞んだ気配も絶品です。前景にすくっと立ち上がる松の枝もまた美しいものでした。

 

先にも触れた通りこの展覧会では、茨城と縁の深い作家の展示が充実していますが、とりわけ第4章の中村彝(水戸出身。敷地内にアトリエの復元展示あり。)と、第6章の牛久の画家、小川芋銭は見応えがあります。中でも一推しなのは、牛久沼のほとりで農耕に勤しみながら絵を描き続けた「半農半画」の画家、小川芋銭(1868-1938)です。彼は終生、沼辺の生き物や魑魅魍魎の世界を描き続け、また河童のモチーフが多かったことから別名「河童の芋銭」と呼ばれていたそうですが、その素朴な表現の生む幻想の世界には強く惹かれるものを感じます。「狐隊行」(1930)や「水魅戯」(1923)における、精霊や妖怪たちのほのぼのとした様子と言ったらたまりません。「狐隊行」では、余白を利用した沼を望む墨と朱の点描の巧みな湖畔にて、松明をもった狐が列を作って駆け巡っています。たとえ絵の中とは言え、このような水魅山妖を見た芋銭にはきっと自然への素直な愛情を持っていたに相違ありません。



西洋絵画の名品では、国立新美術館でのモネ展にも出品のあったモネの「ポール=ドモワの洞窟」(1886)やシスレーの「葦の川辺」(1890)が魅力的です。モネでは、サーモンピンクに輝く岩場がエメラルドグリーンの海と鮮やかな対比を描き、シスレーでは燦々と降り注ぐ陽光の眩しい田園の風景が、力みのない軽妙なタッチにて健康的に描かれています。また、西洋より日本に目を転じると、生い茂る椿が森のように深い緑に覆われている須田国太郎の「椿」(1940)、瑞々しい木立に卓越した水墨の技を見る竹内栖鳳の「水郷」(1941)、または暗鬱な空の下で林が刺々しく立ち並ぶ速水御舟の「寒林」(1925)などにも見入るものがありました。ここで御舟を見られるとは嬉しいサプライズです。

展示品の約2割強を占める最終章「戦後美術」は、数の割に印象に残るものが多くありませんでしたが、それでも茨城の画家、例えば筑西市出身の柳田昭による、寂れた用水路の光と水の質感を高い写実力で描ききった「水温む頃」(1996)や、デュビュッフェを思わせるタッチにて能の舞いを披露する人物をエキゾチックに示した下館出身の画家、森田茂の「黒川能 春の舞」(1990)などは興味深いものを感じました。また片岡、舟越、堂本ら、他の美術館でも目にする機会の多い作家もいくつか紹介されています。



コレクションは時にその美術館の質をストレートに表しますが、開館20周年という記念年を飾るのにも相応しいラインナップであったと思います。小川芋銭という画家に出会えただけでも行った価値は大いにありました。

  

水戸駅南口より桜川沿いを千波湖方面へ歩くのも悪くありませんでしたが、約15~20分程度かかるので、バス、タクシーの方が確実かもしれません。

5月25日まで開催されています。

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
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笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4

先日、水戸芸術館の宮島達男展に合わせ、同市内の茨城県立近代美術館、それに笠間の日動美術館と茨城県陶芸美術館を電車でぐるっと巡ってきました。

  

水戸は上野からスーパーひたちで約1時間強と意外に近場ですが、今回は上に挙げた美術館をなるべく『安上がり』で廻るため、あえて旅の出発点を取手駅に設定しました。と言うのも同駅にて、この春、土日限定で発売されている「ときわ路パス」(pdf)を購入するためです。このパスは何と2000円で茨城県内、例えば常磐線なら取手から大津港までが乗り降り自由だと言うお得なきっぷで、もちろんこの行程もばっちり全ておさまる優れものです。(パスは茨城県内のJR駅のみ発売。)使わない手はありません。

  

目当ての水戸芸は最後にまわすとして(閉館も18時までと一番遅い。)、まずは手前の笠間へと向かいます。取手から普通電車で友部経由、1時間に1本の水戸線にうまく乗り継ぎ、笠間駅には着いたのは10時半頃でした。駅から少々離れている笠間の二つの美術館を歩くのは難しそうなので、駅前の観光案内所でレンタサイクルを借りてみることにします。一台、先立って取手駅でいただいたJR発行の小冊子、「小さな旅 春かほる 花とアートのときわ路へ」についていたクーポン券を使って400円です。(これがまたまた優れものです。笠間の県立陶芸美術館、または水戸の近美が団体割引料金で入れます。)この日はあいにくの曇り空でしたが、自転車を飛ばし、まずは笠間と言えばどこかで聞いたことのある稲荷神社に少し立ち寄りました。ここは意外にも観光地化されていて盛況です。大型の観光バスも駐車場に何台か停まっています。仲見世から重文の社殿、そして門前の土産物店を冷やかしながら、しばしアートと離れた観光客気分を味わいました。また陶芸の町、笠間ということで、焼き物を扱う店が多いのも特徴です。自転車でなければ一つ買ったかもしれませんが、酒屋の店頭の地酒などにも目移りしつ、狐の置物に見入りながら、後ろ髪を引かれる思いで神社を後にしました。

  

稲荷神社から少し山の方へ入った場所にあるのが笠間日動美術館です。小高い丘の両斜面を利用して並ぶアメリカ館、フランス館、そして屋外彫刻庭園と続く広い館内には、洋の東西を問わない充実したコレクションが揃っていました。今回、同美術館で開催されている企画は佐伯祐三の回顧展です。展示の詳細はまた別エントリに書くとして、その他常設の西洋近代美術、特にエルンストやカンディンスキーの良質な作品、または国内画家の使った無数のパレットなどと言う、一風変わった展示にも見入るものがありました。凛とした竹林に包まれながら、静かに近代美術を楽しむには最適な空間かもしれません。ここはおすすめ出来ます。

  

日動美術館より茨城県陶芸美術館の位置する芸術の森公園へは、かなり高低差のある山道を進まなくてはなりません。ロードサイドに点在するカフェや、陶芸品の土産物屋を横目に自転車で必至に漕ぐこと10、15分、広大な丘を利用して建てられた茨城県陶芸美術館に到着しました。ここでは時間の都合から(この後、水戸へ移動しなくてはいけません。)常設のみ観賞しましたが、県内は下館出身の波山らの陶芸品などもずらりと揃っていてなかなか見応えがあります。また併設のレストランは、料理が笠間の焼き物の器で提供されるのでしょうか。時間に余裕があれば少し試してみたいところですが、あいにく予定していた電車の時間が迫っていたので、観賞後は自転車で一気に坂を降り、再びスタート地点の笠間駅へと舞い戻りました。ここから水戸までは友部を経由して再びJRを利用します。乗り継ぎも良く30分とかかりません。

  

水戸に着いたのは14時前だったでしょうか。目的地の水戸芸と茨城県美はあいにく駅を挟んで全く正反対のところに位置していますが、まずは閉館時間の早い後者からということで、南口より桜川沿いをてくてく進み、雑多極まりない歓楽街を抜け、突如視界の広がる湖そばの美術館まで歩きました。湖畔に面する茨城県美は思いの外、重厚かつ立派な建物です。つい19日にリニューアルオープンしたばかりのどこか清潔感の漂う館内にて、事実上所蔵品の名品展である全館規模の企画展をじっくり拝見しました。この手の郷土の美術館では、先の陶芸美術館と同様、ご当地の作家の作品が充実しているのも嬉しいところです。水戸出身の大観らは言うまでもなく、その他近代日本洋画、または戦後の抽象などもじっくり楽しむことが出来ました。また別エントリでも触れたいと思いますが、田舎の『精霊』を描いたという牛久市出身の画家、小川芋銭の作品がおすすめです。

   

この日は一人旅だったせいかもしれません。近美から水戸芸までは約2キロ以上ありますが、ここは湖の彼方に望んで見える例のタワーを目印に歩いて行ってみることにしました。所要時間は約30分強。湖をわたり、水戸の目抜き通りへ進み、さらにはその裏手の水戸芸に着いた頃には早くも16時半を廻っています。ここに来てようやく最終目的地、水戸芸に到着です。喧々諤々、賛否両論(?)の宮島展を恐る恐る拝見します。これまた感想は別に書きますが、一言で申せば、量の面で物足りなさは残るものの、宮島の新境地を見る展覧会であったのは事実だと思います。(ちなみに併設の展示の納豆カップは是非商品化していただきたいものです。)

帰りは特急でと思いましたが、何やら大変に混雑しているようなので、普通車+グリーンでのんびりと戻りました。ガラガラのグリーン車二階は本当に静かです。約1時間半強で最寄り駅までらくらく帰ってくることが出来ました。

日動の佐伯展、陶芸美術館の常設、また茨城県美の企画、水戸芸の宮島展についてはまた別の記事で感想を書きたいと思います。
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「北城貴子 - holy green - 」 INAXギャラリー2

INAXギャラリー2中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階)
「北城貴子 - holy green - 」
4/1-26



コローを思わせる深緑の長閑な風景を、光を織り込んだような柔らかなタッチで描きます。VOCA展の入賞歴もある画家、北城貴子の個展へ行ってきました。

大作の油彩画3点と、水彩、パステルの小品約40点が、例えば展示室に一つの田園を生み出すかのように並べられていますが、特に惹かれるのは後者、つまりは水彩の作品です。元々、北城は風景をモチーフとした抽象を手がけていたそうですが、今作では限りなく具象に近づきながらも、それでいてかの場の光と風のイメージを色や形から暗示するような、具象と抽象のせめぎあう独特な画風を作り上げています。光の差し込む深い木立、そして同じく日を浴びてキラキラと瞬く水面などが、言わば脳裏に焼き付く残像のように断片的に示されていました。森の緑の匂い、水のせせらぎの音、そして描かれてもいない小鳥のさえずりなどが感覚的に伝わってきます。また、精緻に示された森の描写を覆うのびやかな色彩の膜が、作品に映像的な趣きを加えていました。今にも葉がざわめて動くかのような臨場感です。

今週末、26日まで開催されています。
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「ルノワール+ルノワール展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム渋谷区道玄坂2-24-1
「ルノワール+ルノワール展」
2/2-5/6



二人のルノワール、画家オーギュストとその子で映画監督のジャンとの関係を、主にオーギュストの絵画よりひも解きます。Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「ルノワール+ルノワール展」へ行ってきました。

構成は以下の通りです。国内外から集められたオーギュストの絵画約50点、またジャンの映像作品(抜粋)約15点ほどが紹介されています。

第1章「家族の肖像」
 肖像作家、オーギュスト・ルノワール。オーギュストの描く肖像画と、ジャンの絵付けした陶器など。
第2章「モデル」
 モデルに家族や知人を好んだオーギュストの絵画から、ジャンへの愛情を見る。
第3章「自然」
 オーギュストの好んだ戸外の風景や裸婦像と、関連するジャン映画作品について。
第4章「娯楽と社会生活」
 モンマルトルで生きたオーギュスト。

 

上でも触れたように、この展示の主役はあくまでもオーギュストにありますが、ジャンとの関係を探る方法として優れているのは、絵画と映像、つまりはオーギュストとジャンの創作に見られる共通点をいくつか提示していることです。実際、会場でも、父の絵画の影響を受けたとされるジャンの映像作品が隣り合わせになって紹介されています。衣服に細密な描写を施したオーギュストの「スペインのギター弾き」(1894)と、同じようにオリエンタルな衣装を登場人物に施したジャンの「黄金の馬車」(1952)、または鬱蒼とした木立の水辺にて小舟の浮かぶ「風景、ブージヴァル」(1888)と、その絵画をそっくり映像化したような「草の上の昼食」(1959)のワンシーンなどは、類似性も明らかな一例です。偉大な父を持つジャンが、絵画よりいくつかのインスピレーションを得て映画を製作していたのは確かなようです。

 

このような父子の関係を超えた、芸術家としての二者の繋がりを探るのも興味深いものがありますが、この展覧会でさらに優れている点として挙げられるのは、独立したルノワールの絵画展として見ても相当に充実したラインナップであることです。確かに量こそ50点ほどと少なめですが、特にオルセーからの作品には目を奪われるものがありました。中でもルノワールが『光の効果』を追求し、それを結実させた「ぶらんこ」(1876)は大変に魅力的です。斑点状の光の粒があたかも内側から灯るように木立や人物を照らし出し、モネを思わせるような鮮やかな色彩のブレンドがこの情景を幻想の世界へと誘っています。またもう一点優れているのが、「バナナ畑」(1881)です。これは実際にオーギュストがアルジェリアへ出向いて描いた作品だそうですが、南国の眩しい陽光とむせ返るような熱気が絵の中より発露しています。また、風車のように揺れるバナナ葉の色遣いも実に巧みです。赤茶けた大地、白の散った力強い緑の葉、そしてうっすらとピンク色を帯びた空とのコントラストも見事でした。

展示ではやや物足りなさも残るジャンの映画については、日仏学院や文化村の映画館、それに東京国立近代美術館フィルムセンターにて関連作品の上映が行われています。(現在はフォルムセンターのみ。)補完するプログラムも充実しています。

実のところルノワールはそれほど好きな画家ではありませんが、少なくともこれまでに見たルノワール関連の展示で一番楽しめました。切り口も鮮やかな好企画であることは間違いありません。

5月6日までの開催です。
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新たなる「奇想」(辻惟雄の新刊二点)

同時に二冊の新書を上梓されたとは驚きました。辻惟雄の新刊、「奇想の江戸挿絵」(集英社新書ヴィジュアル版)と「岩佐又兵衛」(文春新書)です。血みどろに大スパーク(?)した表紙も書店で目立っています。

「奇想の江戸挿絵/ 辻惟雄/集英社新書」

系譜、図譜と続いた、奇想シリーズの第3弾ということで良いのでしょうか。幽霊や生首、それに妖怪といった、薄気味悪くておどろおどろしいモチーフの登場する江戸時代の版本を、豊富な図版を引きながら丁寧に紹介しています。また当時の表現だけでなく、例えば北斎の幽霊画と現代の漫画を対比させて見るなど、今に共通する要素を挙げる辻流の解釈も鮮やかです。それに、読本のあらすじを簡単な辞書風にまとめた部分も良く出来ていました。読本初心者の私にも助かります。

「岩佐又兵衛 - 浮世絵をつくった男の謎/辻惟雄/文春新書」

謎に満ちた又兵衛の生涯を、実証的でありながら、あたかも推理小説を読むかのような展開をもってまとめあげた一冊です。冒頭の「山中常盤物語絵巻」と「舟木図屏風」の詳細なカラー図版からして圧倒されますが、少し中をのぞいたところ、特に後者の屏風をこれまでの解釈より180度転回して又兵衛作と断じる第5章が実にスリリングでした。ちなみに又兵衛の展覧会は2004年に千葉市美などでも開催されていたそうですが、これを読むと新たなる視点を加えた大・又兵衛展を望みたくなってしまいます。

なおこの夏、東京国立博物館で「対決展」がはじまりますが、その際には氏の講演会も予定されているそうです。情報を転載しておきます。

「対決 巨匠たちの日本美術展 記念講演会」
日時:2008年8月2日(土)13:30-15:00
場所:東京国立博物館 平成館大講堂
演題:「美と個性の対決」
講師:辻惟雄(『國華』名誉主幹、美術史家、MIHO MUSEUM館長)
定員:各回とも380名(事前申込制。詳細は公式HPにて。)
聴講料:各回とも無料。

以下は、2年前のバーク・コレクション展で聞いた講演会のメモです。拙いまとめ方ですが宜しければご覧下さい。

「バーク・コレクションの魅力」@バーク・コレクション展記念講演会(2006/2/5)

しばらくはこの2冊で江戸絵画にどっぷりと浸れそうです。まずは書店にてどうぞ。

*関連エントリ
「絵にしか描けない美しさ - 伊藤若冲」@ギョッとする江戸の絵画(NHK教育、2006/11/6)
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「福永大介展 - Local Emotion - 」 小山登美夫ギャラリー

小山登美夫ギャラリー江東区清澄1-3-2 6階)
「福永大介展 - Local Emotion - 」
4/5-26



身近な『うらぶれた場所』(展覧会チラシより。)を描き続けるという、福永大介(1981-)の新作個展です。表現主義的の鮮やかな色彩感にて、街角にひっそりと身を潜めたモノたちへスポットライトを当てています。

その描かれた場所は街でも放置された、例えば日も当たらないゴミ置き場や体育館の壁際などですが、中でも特に目立つ、言い換えればこの個展の一つの象徴として存在しているのが、そんなうらぶれた場を自らの生息地として選んで住んでいるようなモップの数々です。まるでカラフルなパーマをかけた髪を振り乱しているかのようなモップたちが、適切な表現ではないかもしれませんが、例えば目立たない日陰にてタバコを吸う未成年者のような面持ちでたむろしています。整理されない水道のホース、または廃タイヤ、そして穴のあいた壁などがまさに場末の気配を漂わせ、そこにモップが逆に水を得た魚のように生き生きと生息しているわけです。一見、乱雑に塗られたようなケバケバしい色彩感が、またモップたちに命を吹き込んでいます。集団で壁に落書きをする『不良モップ』。そんなイメージもわいてきました。

都会の暗部を抉り出し、そこで生きる者をモップに象徴させて表しているのかもしれません。今月26日までの開催です。

「現代アートビジネス/小山登美夫/アスキー新書」

*ギャラリストとアーティスト、それに現代アート作品と「お金」との関係などを、村上隆や奈良美智ら例を交えて平易に語ります。突っ込んだ議論はありませんが、著者自身の画廊運営の経験を引き合いに出して示される、現在の国内外のアートシーンを探るには最適な一冊です。日本の現代アート市場の未熟さを指摘しながら、アジアのアートバブルへ警鐘を鳴らしていました。
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「シュルレアリスムと写真 - 痙攣する美 - 」 東京都写真美術館

東京都写真美術館目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
「シュルレアリスムと写真 - 痙攣する美 - 」
3/15-5/6



シュルレアリスムにおける写真表現を概観します。東京都写真美術館で開催中の「シュルレアリスムと写真」へ行ってきました。

構成は以下の通りです。館蔵品を中心に、横浜美、埼玉県美、その他個人蔵の写真、約200点余りが展示されていました。

1「都市に向かう視線」:シュルレアリスムの産声をあげたパリ。街角写真にシュルレアリスムの萌芽を見る。
2「都市の中のオブジェ」:シュルレアリスムの文脈に沿って「発見」された街のオブジェ。
3「ボディー、あるいは切断された身体」:シュルレアリスムで好まれた身体、ヌードのモチーフ。コラージュによる身体表現など。
4「細部に注がれた視線」:植物、昆虫、それに建築物など、シュルレアリスムにおける細部への関心を辿る。

都市写真におけるシュルレアリスム表現を見る第1章では、アジェらに続いて紹介されているブラッサイがとりわけ魅力的です。モノクロに沈み込むパリの街の風景が、明暗のコントラストも鮮やかに、あたかも影絵のようにして写し出されていました。特にいくつもの煙突の突き出す「パリの屋根」(1932)は一推しの作品です。浜口の同名のカラーメゾチントを思い起こさせる表題でもありますが、上空に灯る月明かりの元でのびる煙突のシルエットが、あたかもロマン派絵画を見るような雰囲気で表現されています。また石畳の小径を写した「サン・ジャックの塔」(1932)にも惹かれました。実際のところ、ブラッサイをシュルの文脈で語ることにはよく分からない部分もありますが、2005年に同館で開催された回顧展を見逃した私にとってはたまらない内容でした。ここはじっくり楽しめます。

マン・レイ、ヴォルス、瑛九、植田正治と続く第2章では、これぞシュルレアリスムとも言えるような後藤敬一郎の「最後の審判図」(1938-40)の印象が鮮烈です。宙に浮く丸太の断面が山を望む地平の上に大きく写し出されていますが、これはもはやマグリットの絵画をそのまま写真にしたと言っても良いのではないでしょうか。ちなみにマグリットの手がけた写真も一点ほど展示されていました。またマン・レイの『リンゴ』や「ガラスの涙」(こちらは第3章)など、半ば王道的な作品もいくつか揃っています。

ベルメール、バイヤー、ボワファールらの身体表現(第3章)を経由し、最後に辿り着いたのは、例えばアールヌーヴォー下のパリの建築物の装飾を捉えたアジェらの作品でした。そしてここでは、植物やその種子などを標本的に写し出した、ブロスフェルの作品が心に残ります。「オオムギ」(1932)では、まさに名の指す通り、炎のように広がる麦の穂先がそのまま捉えられてますが、その姿が半ば幾何学的な紋様に、言い換えれば植物を通り越した一種の抽象的な図形としてあるかのように示されていました。あるがままのモノに独特のフィルターを通すことで、逆に新鮮な「見えなかった現実」を抉り出す、まさにシュルレアリスムの得意とするところの表現かもしれません。



写真におけるシュルレアリスムを史的に追うわけではなく、むしろ上記のような切り口にてそのエッセンスを引き出す展覧会です。またシュルレアリスムと写真の関係を見る大規模な展示としては、国内初の開催でもあるそうです。(会場内解説パネルより。)


AVANTGARDE VOL.5特別号。展覧会のカタログに準じる特集号です。一般の書店でも購入出来ます。

5月6日までの開催です。
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スクロヴァチェフスキの任期が1年延長

読売日本交響楽団の常任指揮者を務めるスタニスラフ・スクロヴァチェフスキの任期が1年延長され、2010年の3月まで在任することが決まったそうです。



指揮者スクロバチェフスキ氏の任期1年延長、読響が発表(読売新聞)
スクロヴァチェフスキ氏 任期延長のお知らせ(読響HP)

まさしく今日もサントリーホールでブル5を披露したスクロヴァチェフスキですが、この決定はファンにとって大いに歓迎されるところではないでしょうか。スクロヴァチェフスキはブルックナーはもちろん、私はむしろそれ以外のレパートリーの方に更なる面白さを見出しますが、チクルス的に進む読響とのブルックナーの他、彼の得意とする現代音楽、またはショスタコーヴィチなどでも斬新な名演が期待出来そうです。

以下、既に発表されているスクロヴァチェフスキのコンサートを抜き出してみました。

2008年9月

第474回定期(10日) 
ブラームス:交響曲第3番
シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ショスタコーヴィッチ:交響曲第1番

第506回名曲(22日)
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
ブルックナー:交響曲第0番

第153回芸劇名曲(16日)
シューマン:交響曲第2番
R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

第103回芸劇マチネー(21日)
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 
ブルックナー:交響曲第0番

みなとみらいホリデー名曲(15日)
シューマン:交響曲第2番
R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

2009年3月

第480回定期(16日)
ベートーヴェン:荘厳ミサ曲「ミサ・ソレムニス」

第512回名曲(9日)
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番
ブルックナー:交響曲第1番

第159回芸劇名曲(21日)
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ
スクロヴァチェフスキ:読売日響・ミネソタ管ほかの共同委嘱作品(日本初演)
ブラームス:交響曲第4番
 
第109回芸劇マチネー(8日)
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番
ブルックナー:交響曲第1番

みなとみらいホリデー名曲(22日)
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ
スクロヴァチェフスキ:読売日響・ミネソタ管ほかの共同委嘱作品(日本初演)
ブラームス:交響曲第4番

直近では、9月のサントリー定期が面白いのではないでしょうか。昨年に同コンビによる10番を聴きましたが、響きの純度の高い、彼らしからぬ怜悧な演奏に仕上がっていました。まだチケットも全種あるようなので、これは是非聴いてきたいです。

「ブルックナー:交響曲第5番/スクロヴァチェフスキ/BMG JAPAN」

全く年齢を感じさせない、エネルギッシュなその指揮を同時代で楽しめることは本当に幸せなことです。ますますのご活躍をお祈りしたいと思います。
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美術手帖がリニューアル

一瞬、テレビ情報誌を装った少年誌かと思ってしまいました。創刊60周年を迎えた美術手帖のリニューアル新装刊です。内容は会田誠特集でした。

「美術手帖2008年5月号/美術出版社」

これまでこの雑誌自体をあまり購入したことがないので偉そうなことは申せませんが、まず見た目から一言で示せば、以前と比べて明らかに「薄く軽く」なっています。そもそも全体のページ数が200ページほどと1割程度減った上、紙そのものも薄くなったようなので当然かもしれませんが、これによって前に感じた「小さいのに重い」という印象は殆どなくなりました。(コストカットがはかられたのかもしれません。)また美術館、画廊の展示情報が、別冊子風になって分けられています。厳密に言うと完全に切り離されるようには出来ていませんが、(ここまでするなら簡単に切り離せるようにして欲しかったです。)この部分は改良点の一つとして挙げられます。また細かいことですが、文字のサイズも総じて若干拡大されています。無精ながら、前は批評などを読もうとしても、その字の小ささに滅入ることがありましたが、今回はそうなりません。傾向としては、美術専門誌からさらに一般のアート情報誌の方へに近づいたとも言えるのではないでしょうか。広く浅くアートを楽しみたい私にとって、この雑誌に感じていた「取っ付きにくさ」が軽減したのは事実です。(ただしその分、コアなファンの方には、逆に読みものとして物足りなくなったかもしれません。)

豊富な図版と対談等も充実した会田誠特集は、思ったよりも読み応えがありました。詳細は誌面上にあたっていただきたいのですが、パラパラとめくったところ、会田誠が先輩の「芸術家」に絵を教わるという対談、「先生、僕に『絵画』を教えて下さい!」が一番楽しく読めます。



リニューアルということで、最近、どのような企画でも良く「おまけ」として付く、いわゆるエコバックが付録として入っていました。少女がニコニコしながら「偽善かな?」と宣うのが会田風かもしれません。この辺はいつもながらに好感がもてます。

何はともあれ大変久しぶりに購入したので、これからじっくりと読んでみようと思います。ちなみに定価は1800円でした。

*関連情報
「美術手帖リニューアル記念 会田誠×野口孝仁トークショー」@青山ブックセンター本店(4/20 14:00~ 入場料500円)
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「富士登山/南条嘉毅」 YUKARI ART CONTEMPORARY

YUKARI ART CONTEMPORARY目黒区鷹番2-5-2 市川ヴィラ1階)
「富士登山/南条嘉毅」
3/22-4/26



「本物の土を使った非常にユニークな方法で絵画を制作している」(公式HPより。)という、南条嘉毅(1977~)の新作個展です。作家本人が歩いて採集した土を素材に、余白の残像に切り取られた富士山の光景を描いています。

導入に富士山の全景を捉えた「富士山図」(上のDM画像です。)が掲げられていますが、その他にあるのは南条が実際に登り、そして見た、富士山の道中を記録写真の如く描いたドローイングです。そもそも、描かれた場所で採取した土を絵具と同じくキャンバス上へのせていくことからして特異ですが、結果生まれた絵画の様相も写実的でありながら、その削がれた色面の生む抽象性と同居する、実に個性豊かなものに仕上がっていました。土やアクリル絵具を、小さな紙片を切絵を貼り合わせるように連ね、さらには抜き出した余白の生む空間と対比させながら、富士山の崖や頂を大胆かつ繊細に表現しています。崩落する山の面、そして社、また広がる荒れ地などが、その場の記憶を保存した土とともに確かに伝えられていました。土に寄り添うかのようにして登場する絵具は、あくまでもそれを補完するものとして用いられているとも言えそうです。

山頂の建物群など、あたかも写真を切り取ったコラージュのように描かれているのも面白く感じました。また残された「白」が、逆にその場のイメージを大きく膨らませています。

今月26日までの開催です。
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