都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
2011年 私が観た展覧会 ベスト10
ギャラリー編に引き続きます。私が今年観た展覧会の中で印象に残ったものをあげてみました。
「2011年 私が観た美術展 ベスト10」
1.「五百羅漢展 狩野一信」 江戸東京博物館
率直なところ抱一展と迷いましたが、一点一点の作品の密度、そしてスケール、はたまた展示の美しさからも一番に挙げたいのが五百羅漢です。震災で延期となり、開催の行方も懸念されましたが、実現に向けて奔走された方々のご努力にも頭が下がります。まさに一期一会というべき展覧会でした。
2.「酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館
メモリアルだからこそ実現した過去最大の抱一展、結局毎週のように通っていたかもしれません。もうあと何点かの代表作が加わっていればと思ったのも事実ですが、私にとってかけがえのない絵師である抱一の魅力を改めて堪能することが出来ました。
3.「特別展 写楽」 東京国立博物館
今年のトーハクも密教美術展など、非常に見応えのある展示が続きましたが、やはりこの写楽展は忘れることが出来ません。僅か10ヶ月の間、まさに社会を駆け抜けて一世を風靡した写楽の全てが集まっていました。
4.「名物刀剣展」 根津美術館
この展覧会で刀に目覚めたような気がします。白く銀色に妖しく刀の煌めきは未だ脳裏から離れません。その美しさには背筋がゾクゾクしました。
5.「トゥールーズ=ロートレック展」 三菱一号館美術館
ロートレックの魅力、そして真髄を初めて見知ったかもしれません。これまで見たこともないような極上の状態のリトグラフ群は画家の才能を明らかにするのに相応しいものでした。
6.「瑛九展」 埼玉県立近代美術館/うらわ美術館
初期から晩年まで網羅された作品群、そして人物像、さらには制作の背景等、一画家の回顧展のお手本とも言えるような内容だったのではないでしょうか。見終えた後の充足感は並大抵ではありませんでした。
7.「高嶺格 とおくてよくみえない」 横浜美術館
一見、奇を衒ったようにも見えますが、美術とは、そして表現とは何なのかという問題などについて、言わば戦略的に問いかけていた展示だったのではないでしょうか。決して使いやすいとは言えない浜美の空間をうまく用いていたのも好印象でした。
8.「モダン・アート,アメリカン」 国立新美術館
コンテンポラリー一辺倒ではない、印象派に始まるアメリカ人の知られざる美術家たちを丹念に紹介した好企画です。ダヴ、スローンらといった画家に出会えたのも大きな収穫でした。
9.「青木繁展」 ブリヂストン美術館
その名前と代表作こそ知れども、これまで断片的にしか追えなかった画家の全体像を知る良い機会となりました。作品はもちろんのこと、病気で衰弱した晩年、死を覚悟して母へ宛てた手紙は心を強く打ちました。
10.「包む - 日本の伝統パッケージ展」 目黒区美術館
日本人が古くから大切にしてきた美意識を再発見出来るような展示ではなかったでしょうか。一つ一つの「包み」にこめられた技、そして宿る魂のようなものにも圧倒されました。
次点.「MOTコレクション 特集展示:石田尚志」 東京都現代美術館
またベストには入れなかったものの、特に感銘を受けた展覧会は以下の通りです。
いかがでしょうか。みなさまのベストも教えていただけると嬉しいです。TBとコメントをお待ちしております。
さて今年は3月に震災がありました。あの惨状を前して日常とは何なのかということを自問しなかったことはありません。それに地震災害はもとより、原発事故や節電等、実際の生活もあの日を区切りに変化した部分も多くありました。またそうした状況下で美術を見て拙い感想を書くというブログを続けていくことに色々と迷いがあったのも事実です。更新も滞りました。
今までは当たり前だった平穏無事ということが今年ほど切に感じられたことはありません。実際に今この瞬間も、年末年始、何事もなく無事、平和に送られればと、どこか頭の片隅で思っている自分に気がつきます。月並みで恐縮ですが、今回ほどこの言葉を心から願って言うこともありません。どうか本当に良いお年をお迎え下さい。
この美術と向き合うことの出来る日常を大切にしながら、また来年も良い出会いがあることに期待して、さらに希望をもって年内の更新を終わります。本年もどうもありがとうございました。
*過去の展覧会ベスト10
2010年、2009年、2008年、2007年、2006年、2005年、2004年(その2。2003年も含む。)
*関連エントリ
2011年 私が観たギャラリー ベスト10
「2011年 私が観た美術展 ベスト10」
1.「五百羅漢展 狩野一信」 江戸東京博物館
率直なところ抱一展と迷いましたが、一点一点の作品の密度、そしてスケール、はたまた展示の美しさからも一番に挙げたいのが五百羅漢です。震災で延期となり、開催の行方も懸念されましたが、実現に向けて奔走された方々のご努力にも頭が下がります。まさに一期一会というべき展覧会でした。
2.「酒井抱一と江戸琳派の全貌」 千葉市美術館
メモリアルだからこそ実現した過去最大の抱一展、結局毎週のように通っていたかもしれません。もうあと何点かの代表作が加わっていればと思ったのも事実ですが、私にとってかけがえのない絵師である抱一の魅力を改めて堪能することが出来ました。
3.「特別展 写楽」 東京国立博物館
今年のトーハクも密教美術展など、非常に見応えのある展示が続きましたが、やはりこの写楽展は忘れることが出来ません。僅か10ヶ月の間、まさに社会を駆け抜けて一世を風靡した写楽の全てが集まっていました。
4.「名物刀剣展」 根津美術館
この展覧会で刀に目覚めたような気がします。白く銀色に妖しく刀の煌めきは未だ脳裏から離れません。その美しさには背筋がゾクゾクしました。
5.「トゥールーズ=ロートレック展」 三菱一号館美術館
ロートレックの魅力、そして真髄を初めて見知ったかもしれません。これまで見たこともないような極上の状態のリトグラフ群は画家の才能を明らかにするのに相応しいものでした。
6.「瑛九展」 埼玉県立近代美術館/うらわ美術館
初期から晩年まで網羅された作品群、そして人物像、さらには制作の背景等、一画家の回顧展のお手本とも言えるような内容だったのではないでしょうか。見終えた後の充足感は並大抵ではありませんでした。
7.「高嶺格 とおくてよくみえない」 横浜美術館
一見、奇を衒ったようにも見えますが、美術とは、そして表現とは何なのかという問題などについて、言わば戦略的に問いかけていた展示だったのではないでしょうか。決して使いやすいとは言えない浜美の空間をうまく用いていたのも好印象でした。
8.「モダン・アート,アメリカン」 国立新美術館
コンテンポラリー一辺倒ではない、印象派に始まるアメリカ人の知られざる美術家たちを丹念に紹介した好企画です。ダヴ、スローンらといった画家に出会えたのも大きな収穫でした。
9.「青木繁展」 ブリヂストン美術館
その名前と代表作こそ知れども、これまで断片的にしか追えなかった画家の全体像を知る良い機会となりました。作品はもちろんのこと、病気で衰弱した晩年、死を覚悟して母へ宛てた手紙は心を強く打ちました。
10.「包む - 日本の伝統パッケージ展」 目黒区美術館
日本人が古くから大切にしてきた美意識を再発見出来るような展示ではなかったでしょうか。一つ一つの「包み」にこめられた技、そして宿る魂のようなものにも圧倒されました。
次点.「MOTコレクション 特集展示:石田尚志」 東京都現代美術館
またベストには入れなかったものの、特に感銘を受けた展覧会は以下の通りです。
「ぬぐ絵画」 東京国立近代美術館
「畠山直哉 Natural Stories」 東京都写真美術館
「春日の風景」 根津美術館
「野見山暁治展」 ブリヂストン美術館
「日常/ワケあり」 神奈川県民ホールギャラリー
「アンリ・ル・シダネル展」 埼玉県立近代美術館
「松戸アートラインプロジェクト2011」 松戸駅西口周辺
「モダン・アート,アメリカン」 国立新美術館
「伊東深水展」 平塚市美術館
「松岡映丘展」 練馬区立美術館
「所沢ビエンナーレ引込線 2011」 所沢市生涯学習推進センター/旧所沢市立第2学校給食センター
「彫刻家エル・アナツイのアフリカ」 埼玉県立近代美術館
「空海と密教美術展」 東京国立博物館
「橋口五葉展」 千葉市美術館
「森と芸術」 東京都庭園美術館
「アンフォルメルとは何か?」 ブリヂストン美術館
「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」 サントリー美術館
「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」 そごう美術館
「江戸の人物画 姿の美、力、奇」 府中市美術館
「香り かぐわしき名宝」 東京藝術大学大学美術館
「MOTアニュアル2011」 東京都現代美術館
「グランヴィル - 19世紀フランス幻想版画展」 練馬区立美術館
「福富太郎コレクション 近代日本画にみる女性の美」 そごう美術館
「イメージの手ざわり展」 横浜市民ギャラリーあざみ野
「運慶 - 中世密教と鎌倉幕府 - 」 神奈川県立金沢文庫
「カンディンスキーと青騎士」 三菱一号館美術館
「大正イマジュリィの世界」 渋谷区立松濤美術館
「畠山直哉 Natural Stories」 東京都写真美術館
「春日の風景」 根津美術館
「野見山暁治展」 ブリヂストン美術館
「日常/ワケあり」 神奈川県民ホールギャラリー
「アンリ・ル・シダネル展」 埼玉県立近代美術館
「松戸アートラインプロジェクト2011」 松戸駅西口周辺
「モダン・アート,アメリカン」 国立新美術館
「伊東深水展」 平塚市美術館
「松岡映丘展」 練馬区立美術館
「所沢ビエンナーレ引込線 2011」 所沢市生涯学習推進センター/旧所沢市立第2学校給食センター
「彫刻家エル・アナツイのアフリカ」 埼玉県立近代美術館
「空海と密教美術展」 東京国立博物館
「橋口五葉展」 千葉市美術館
「森と芸術」 東京都庭園美術館
「アンフォルメルとは何か?」 ブリヂストン美術館
「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」 サントリー美術館
「魅惑のモダニスト 蕗谷虹児展」 そごう美術館
「江戸の人物画 姿の美、力、奇」 府中市美術館
「香り かぐわしき名宝」 東京藝術大学大学美術館
「MOTアニュアル2011」 東京都現代美術館
「グランヴィル - 19世紀フランス幻想版画展」 練馬区立美術館
「福富太郎コレクション 近代日本画にみる女性の美」 そごう美術館
「イメージの手ざわり展」 横浜市民ギャラリーあざみ野
「運慶 - 中世密教と鎌倉幕府 - 」 神奈川県立金沢文庫
「カンディンスキーと青騎士」 三菱一号館美術館
「大正イマジュリィの世界」 渋谷区立松濤美術館
いかがでしょうか。みなさまのベストも教えていただけると嬉しいです。TBとコメントをお待ちしております。
さて今年は3月に震災がありました。あの惨状を前して日常とは何なのかということを自問しなかったことはありません。それに地震災害はもとより、原発事故や節電等、実際の生活もあの日を区切りに変化した部分も多くありました。またそうした状況下で美術を見て拙い感想を書くというブログを続けていくことに色々と迷いがあったのも事実です。更新も滞りました。
今までは当たり前だった平穏無事ということが今年ほど切に感じられたことはありません。実際に今この瞬間も、年末年始、何事もなく無事、平和に送られればと、どこか頭の片隅で思っている自分に気がつきます。月並みで恐縮ですが、今回ほどこの言葉を心から願って言うこともありません。どうか本当に良いお年をお迎え下さい。
この美術と向き合うことの出来る日常を大切にしながら、また来年も良い出会いがあることに期待して、さらに希望をもって年内の更新を終わります。本年もどうもありがとうございました。
*過去の展覧会ベスト10
2010年、2009年、2008年、2007年、2006年、2005年、2004年(その2。2003年も含む。)
*関連エントリ
2011年 私が観たギャラリー ベスト10
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
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極わずかですが、
「空海と密教美術展」 東京国立博物館
「江戸の人物画 姿の美、力、奇」 府中市美術館
「仮面劇のためのプロジェクト」広島市現代美術館
「没後150年 歌川国芳展」大阪市立美術館
他に美術と離れるけど
「311 失われた 街」TOTOギャラリー
来年1月は下記を見に上京予定
「アンリ・ル・シダネル展」 埼玉県立近代美術館
「瀧口修造とマルセル・デュシャン」千葉市立美術館
「今和次郎 採集講義 展」汐留ミュージアム
あと、こちらのページで知った「ライアン・ガンダー展」も見れたら。
こんばんは。色々とかなさりましたね!しかし本当に昨年末、まさかこんな一年がやってくるとは思いもよりませんでした。
美術を楽しめること自体に感謝したいです。
@西の端っこさん
こんばんは。早速のコメントありがとうございます。
密教、江戸の人物画、そして今森美術館へ巡回中の国芳はどれも見応えありましたね。
府中の江戸シリーズはどれも外せないなと思います。
>ガンダー展
来月ご上京でしたか。シダネルもぐっと心引かれる展覧会でした。
ガンダーもうまく空間を変化させています。是非!
うれしいですね。
あの問題提起をおうけとめになる、はろるどさんの実直さが
本エントリーの末尾の言葉からもにじみだしていると
感じました。
来年も「自信をもっておすすめします」とレポートしていただける
出会いがありますように。
新年がはろるどさんにとって良い年になるといいですね。今年もよろしくお願いします。
五百羅漢展にも、無力さにうちひしがれる庶民に勇気を届けたいという思いを感じ、時代とともにある人間を意識している私がいました。
前から感じていることですが、抱一作品にもまた、今ここに自分があることや、そこに流れている時間をいとおしむ気持ちが表れているように思います。抱一の場合、それが当時の社会状況や仏教とどう関わっていたのか、興味深いところですが。
このような年に巡り会った展覧会は、格別の感慨を残してくれました。
今年も本当にたくさんお世話になりました。これからも楽しみに読ませて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。
こんばんは。
>「とおくてよくみえない」のランクイン
うれしいですね
見ている時は分からないことばかりでしたが、
あの展覧会における問題提起、またある種の居心地の悪さは、
むしろ他の企画にはない特異的な個性として評価すべきではないかと思いました。
ただ浜美の箱はやはり難しいですね。高嶺さん、もっと別の場所で見てみたいなとも思います。
@makoさん
こんばんは。
こちらこそTBとコメントをありがとうございました。
本年も宜しくお願いします!
@ARさん
こんばんは。
>五百羅漢
まさに一期一会というべき展覧会でしたが、
また次の機会もあるのではないかと。
海を渡ってのNYでの反応も気になります。
@みけさん
こんばんは。いつもご丁寧なコメントをありがとうございます。
>五百羅漢展にも、無力さにうちひしがれる庶民に勇気を届けたいという思い
同感です。
そしてあの状況だからこそより伝わってくるものがありましたね。
>抱一の場合、それが当時の社会状況や仏教とどう関わっていたのか、興味深い
そうした面に思いを馳せるのも抱一理解の大きな取っ掛かりとなるかもしれません。
また彼の場合、ある程度、生き様や境遇が分かっているだけにより興味深いです。
千葉市美の抱一展はその点へもなかなか踏み込んでいました。
本年も宜しくお願いします!