都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.5 常滑市(やきもの散歩道)
『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.4 有松地区(名古屋市)に続きます。『国際芸術祭 あいち2022』を見てきました。
有松地区から常滑市の会場へは、名鉄名古屋本線で有松駅から神宮前駅まで行き、そこから名鉄常滑線に乗り換えて常滑駅へ向かう必要があります。
神宮前から名鉄の特急に揺られること約25分、常滑駅に着くと12時をまわっていました。常滑市は知多半島の中央、西海岸に位置する街で、瀬戸、信楽、越前、丹波、備前と並んで日本六古窯の1つとして数えられる焼き物の街として知られています。
そして「あいち2022」の展示は、昭和初期の風情を残し、現在も陶芸作家や職人らが住むという、やきもの散歩道と呼ばれるエリアに集中していました。
駅から招き猫の並ぶ通りを歩き、やきもの散歩道のスタート地点である陶磁器会館にて案内図を入手したのちは、1970年代まで土管を生産していたという工場跡地の旧丸利陶管を目指しました。
やきもの散歩道の界隈は、一本道を間違えると迷子になってしまうほど、狭まく曲がりくねった道が網の目のように広がっていて、展示会場を記した案内図が極めて有用でした。
旧丸利陶管では、デルシー・モレロス、グレンダ・レオン、それに服部 文祥+石川 竜一といった計5組のアーティストが、複数の建物を用いてインスタレーションを公開していました。
そのうちコロンビアを拠点とするデルシー・モレロスは、一階のスペースをまるでクッキーや餅を思わせるような作品で埋め尽くしていて、いずれも常滑焼に用いられる粘土にシナモンなどのスパイスを混ぜて作られたものでした。
モレロスはアンデス山脈の一部の儀式に、豊穣のしるしとしてクッキーを土に埋めるという風習に着想を得て作品を制作していて、今回は日本での開催を踏まえ、餅や大福のかたちをした作品も組み入れました。
キューバに生まれ、スペインにて活動するグレンダ・レオンは、星座や月といった天体を連想させるインスタレーションを展示していて、さながら楽器のように実際に触れて音を出すことも可能でした。
これらはギターなどの弦やタンバリンのかたちをした月などから象られていて、会場では作曲家の野村誠が楽器を鳴らして演奏する様子も映像にて見ることができました。
この工場跡とは別棟である旧住宅を用いていたのが、アメリカのシアスター・ゲイツでした。
1999年より常滑に滞在して陶芸を学び、以降もこの地を訪ねてきたゲイツは、旧住宅のスペースを音楽や陶芸研究のためのプラットフォーム「ザ・リスニング・ハウス」へと作り替えました。
ゲイツは近年、日本の哲学とブラックアイデンティティを融合させた「アフロ民藝」に取り組んでいて、その考えのもとに「ザ・リスニング・ハウス」を音楽イベントやワークショップの場として機能させました。
自ら「第二の故郷」とまで呼ぶ、ゲイツの常滑への愛着を感じるようなインスタレーションともいえるかもしれません。
この旧丸利陶管より土管坂方向へ歩くと見えてくるのが、江戸から明治にかけて廻船業を営んでいた瀧田家の住宅でした。
瀧田家住宅は「あいち2022」の会場として用いられているだけでなく、航海といった海と移動に関する作品なども公開されていて、市指定文化財の建物とともに見学することができました。
ベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンは、人類の滅亡後のフィリピンを舞台に、船で旅しながら過去の文明の遺物と出会う少年少女たちの物語を映像などで表現していて、太平洋戦争やインドシナの難民などもモチーフとして取り込んでいました。
一方でニュージーランドのニーカウ・へンディンは、直線的なデザインを描いた作品を展示していて、いずれも梶の木の樹皮をうち伸ばして作られる樹皮布によって作られていました。
ヘンディンはオセアニアの島嶼国に根付く樹皮布の文化を踏まえつつ、マオリの伝統的なデザインを参照したモチーフを描いていて、和室の空間にも良く映えて見えました。
やきもの散歩道のエリアで最も南に位置するのが、製陶所跡地を利用したギャラリーカフェ常々でした。ここでは田村友一郎が愛知県の陶製人形を主題にした作品を公開していて、人形浄瑠璃仕立てとなった「プラザ合意」のドラマが映像にて展開していました。
焼酎と土管の積まれた土管坂をはじめ、日本で現存する最大級の登窯を見学しつつ、一連の展示を見ていくと、ゆうにランチタイムを過ぎてしまいました。
この日は一宮市を巡った前日と同じく、凄まじいまでの暑さで、歩いているだけでも体力が奪われることがひしひしと感じられました。
散歩道沿いの中腹にあったカフェMEM.にてたまごサンドとコーヒーを美味しくいただき、少し休憩したのちは、再びやきもの散歩道へと繰り出すことにしました。
次に向かったのはやきもの散歩道の駐車場から北側に位置し、ギャラリーや陶芸店なども立ち並ぶ一体にある旧青木製陶所でした。
かつての窯がそのまま残る旧青木製陶所では、黒田大スケとフロレンシア・サディールが、常滑の歴史や陶ににまつわる展示を行っていました。
アルゼンチンを拠点とするサディールがは、黒い小さなボールを建物に吊り下げたインスタレーションを見せていて、かつては陶製品が生み出された空間を美しく彩っていました。このボールは常滑の土を用い、地元の陶芸家とのコラボによって作られたもので、実に1万2千個ものボールが野焼きによって生み出されました。
5つ目の「やきもの散歩道」の会場である旧急須店舗・旧鮮魚店では、尾花賢一が、この地に生まれたとする「イチジク男」を起点に、個人や常滑の歴史を重ね合わせたインスタレーションを見せていました。
虚実入り混じるストーリーとともに、旧店舗の内部だけではなく、裏手の屋外へと続く展開も面白かったかもしれません。
『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)へと続きます。
『国際芸術祭 あいち2022』関連エントリ
Vol.1 一宮市(一宮駅エリア) / Vol.2 一宮市(尾西エリア) / Vol.3 愛知芸術文化センター / Vol.4 有松地区(名古屋市) / Vol.5 常滑市(やきもの散歩道) / Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)
国際芸術祭「あいち2022」(@Aichi2022)
開催地域:愛知芸術センター、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)
開催期間:2022年7月30日(土)~10月10日(月・祝)
開催時間:10:00~18:00(愛知芸術センター、一宮市)、10:00~17:00(常滑市、有松地区)
※愛知芸術センターは金曜日は20:00まで。一宮市役所は17:15まで
休館日:月曜日(愛知芸術センター、一宮市)、水曜日(常滑市、有松地区)
料金:一般3000円、学生(高校生以上)2000円、中学生以下無料
※フリーパス。この他に1DAYパスあり
有松地区から常滑市の会場へは、名鉄名古屋本線で有松駅から神宮前駅まで行き、そこから名鉄常滑線に乗り換えて常滑駅へ向かう必要があります。
神宮前から名鉄の特急に揺られること約25分、常滑駅に着くと12時をまわっていました。常滑市は知多半島の中央、西海岸に位置する街で、瀬戸、信楽、越前、丹波、備前と並んで日本六古窯の1つとして数えられる焼き物の街として知られています。
そして「あいち2022」の展示は、昭和初期の風情を残し、現在も陶芸作家や職人らが住むという、やきもの散歩道と呼ばれるエリアに集中していました。
駅から招き猫の並ぶ通りを歩き、やきもの散歩道のスタート地点である陶磁器会館にて案内図を入手したのちは、1970年代まで土管を生産していたという工場跡地の旧丸利陶管を目指しました。
やきもの散歩道の界隈は、一本道を間違えると迷子になってしまうほど、狭まく曲がりくねった道が網の目のように広がっていて、展示会場を記した案内図が極めて有用でした。
旧丸利陶管では、デルシー・モレロス、グレンダ・レオン、それに服部 文祥+石川 竜一といった計5組のアーティストが、複数の建物を用いてインスタレーションを公開していました。
そのうちコロンビアを拠点とするデルシー・モレロスは、一階のスペースをまるでクッキーや餅を思わせるような作品で埋め尽くしていて、いずれも常滑焼に用いられる粘土にシナモンなどのスパイスを混ぜて作られたものでした。
モレロスはアンデス山脈の一部の儀式に、豊穣のしるしとしてクッキーを土に埋めるという風習に着想を得て作品を制作していて、今回は日本での開催を踏まえ、餅や大福のかたちをした作品も組み入れました。
キューバに生まれ、スペインにて活動するグレンダ・レオンは、星座や月といった天体を連想させるインスタレーションを展示していて、さながら楽器のように実際に触れて音を出すことも可能でした。
これらはギターなどの弦やタンバリンのかたちをした月などから象られていて、会場では作曲家の野村誠が楽器を鳴らして演奏する様子も映像にて見ることができました。
この工場跡とは別棟である旧住宅を用いていたのが、アメリカのシアスター・ゲイツでした。
1999年より常滑に滞在して陶芸を学び、以降もこの地を訪ねてきたゲイツは、旧住宅のスペースを音楽や陶芸研究のためのプラットフォーム「ザ・リスニング・ハウス」へと作り替えました。
ゲイツは近年、日本の哲学とブラックアイデンティティを融合させた「アフロ民藝」に取り組んでいて、その考えのもとに「ザ・リスニング・ハウス」を音楽イベントやワークショップの場として機能させました。
自ら「第二の故郷」とまで呼ぶ、ゲイツの常滑への愛着を感じるようなインスタレーションともいえるかもしれません。
この旧丸利陶管より土管坂方向へ歩くと見えてくるのが、江戸から明治にかけて廻船業を営んでいた瀧田家の住宅でした。
瀧田家住宅は「あいち2022」の会場として用いられているだけでなく、航海といった海と移動に関する作品なども公開されていて、市指定文化財の建物とともに見学することができました。
ベトナムのトゥアン・アンドリュー・グエンは、人類の滅亡後のフィリピンを舞台に、船で旅しながら過去の文明の遺物と出会う少年少女たちの物語を映像などで表現していて、太平洋戦争やインドシナの難民などもモチーフとして取り込んでいました。
一方でニュージーランドのニーカウ・へンディンは、直線的なデザインを描いた作品を展示していて、いずれも梶の木の樹皮をうち伸ばして作られる樹皮布によって作られていました。
ヘンディンはオセアニアの島嶼国に根付く樹皮布の文化を踏まえつつ、マオリの伝統的なデザインを参照したモチーフを描いていて、和室の空間にも良く映えて見えました。
やきもの散歩道のエリアで最も南に位置するのが、製陶所跡地を利用したギャラリーカフェ常々でした。ここでは田村友一郎が愛知県の陶製人形を主題にした作品を公開していて、人形浄瑠璃仕立てとなった「プラザ合意」のドラマが映像にて展開していました。
焼酎と土管の積まれた土管坂をはじめ、日本で現存する最大級の登窯を見学しつつ、一連の展示を見ていくと、ゆうにランチタイムを過ぎてしまいました。
この日は一宮市を巡った前日と同じく、凄まじいまでの暑さで、歩いているだけでも体力が奪われることがひしひしと感じられました。
散歩道沿いの中腹にあったカフェMEM.にてたまごサンドとコーヒーを美味しくいただき、少し休憩したのちは、再びやきもの散歩道へと繰り出すことにしました。
次に向かったのはやきもの散歩道の駐車場から北側に位置し、ギャラリーや陶芸店なども立ち並ぶ一体にある旧青木製陶所でした。
かつての窯がそのまま残る旧青木製陶所では、黒田大スケとフロレンシア・サディールが、常滑の歴史や陶ににまつわる展示を行っていました。
アルゼンチンを拠点とするサディールがは、黒い小さなボールを建物に吊り下げたインスタレーションを見せていて、かつては陶製品が生み出された空間を美しく彩っていました。このボールは常滑の土を用い、地元の陶芸家とのコラボによって作られたもので、実に1万2千個ものボールが野焼きによって生み出されました。
5つ目の「やきもの散歩道」の会場である旧急須店舗・旧鮮魚店では、尾花賢一が、この地に生まれたとする「イチジク男」を起点に、個人や常滑の歴史を重ね合わせたインスタレーションを見せていました。
虚実入り混じるストーリーとともに、旧店舗の内部だけではなく、裏手の屋外へと続く展開も面白かったかもしれません。
『国際芸術祭 あいち2022』 Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)へと続きます。
『国際芸術祭 あいち2022』関連エントリ
Vol.1 一宮市(一宮駅エリア) / Vol.2 一宮市(尾西エリア) / Vol.3 愛知芸術文化センター / Vol.4 有松地区(名古屋市) / Vol.5 常滑市(やきもの散歩道) / Vol.6 常滑市(INAXライブミュージアム)
国際芸術祭「あいち2022」(@Aichi2022)
開催地域:愛知芸術センター、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)
開催期間:2022年7月30日(土)~10月10日(月・祝)
開催時間:10:00~18:00(愛知芸術センター、一宮市)、10:00~17:00(常滑市、有松地区)
※愛知芸術センターは金曜日は20:00まで。一宮市役所は17:15まで
休館日:月曜日(愛知芸術センター、一宮市)、水曜日(常滑市、有松地区)
料金:一般3000円、学生(高校生以上)2000円、中学生以下無料
※フリーパス。この他に1DAYパスあり
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 『国際芸術祭... | 『国際芸術祭... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません |